小池貞利(teto)×R-指定(Creepy Nuts)|ヒップホップとオルタナティブに忍ばせた言葉のナイフ

迷走や失敗もしながら新しい表現を続けていくことに意味がある(R-指定)

左から小池貞利(teto)、R-指定(Creepy Nuts)。

R-指定 僕はリリックを考えるのにすごく時間がかかっちゃうんですよね。「なんなんやろこの感情は」みたいなのをしっかり考えて言葉に落とし込みたくて。考えすぎんでもいいんじゃないかなと思うこともあるんですけど、それをやめたらやめたで全然手が進まなくて。

小池 言いたいことをそのときに言えば純度は高いんですけど、歌詞にしてリズムや曲調、フレーズを合わせることでより純度が高まっていく感じがするんですよね。でもそういうのは今回しっかりやったから、極端な話「おしっこびょーん」みたいな適当な歌をやってみたいとも思っていて。

R-指定 僕もそのマインドに徐々になってきてますね。緻密に作り込むからずっと眺められる工芸品みたいなラップは作れるんですけど、それだと破壊力がないんですよね。その破壊力っていうのが「おしっこびょーん」的なもので。作り込んだやり方は1stでしっかり見せたんで、次はみんなもやってる直球を投げることにチャレンジしてみたいなと思っています。まだ全然落ち着くような歳ではないし、これが完成形だとは思わないので。だからいろいろやってみたい気持ちがありますね。

小池 やってみたら向いてなかったとかあると思うんですけど、それはそれでいいんですよね。1回やってみて違うなと思ってもそこから新しいアプローチが出てくるかもしれないし。Rさんはきっともう1回「クリープ・ショー」みたいなアルバムを作れって言われたら時間はかかるかもしれないけど作れると思うんですよ。当時と今とで表現したいことが違うからテイストは変わってくるとは思いますけど。でも金太郎飴みたいにどこ切っても同じみたいなものをやり続けていてもしょうがないじゃないですか。

R-指定(Creepy Nuts)

R-指定 そうですね。昔は1つのテイストでヒットした人がそのテイストを作り続けることでブームが成り立った世界だったから、金太郎飴を作り続けられる人が息が長かったんでしょうけど、今は現象よりも人に対してファンが付いていく時代なので、その人が変化や成長……言ってしまえば迷走や失敗もしながら新しい表現を続けていくことに意味があると思うんですよね。

小池 大前提として金太郎飴を作り続けられるのがすごいっていうのはありますけど。

R-指定 ね。

脳みそに覚えさせるんじゃなくて心臓の鼓動で覚えさせる(小池)

小池 俺は今年28歳で、Rさんは今年で27歳ですけど、子供の頃は何が流行っていました? 「遊戯王」カードとか?

R-指定 流行ってましたね。でも僕そのブームに乗り遅れてしまってやらなかったんです。僕、そんなんばっかりでしたよ。「ポケモン」(「ポケットモンスター」)もめっちゃやりたかったんですけど、乗り遅れたばっかりに拗ねて「そんなん知らんし」って顔をしてました。オトンかオカンに買ってって言えばよかったのに。ラップもそうなんですよ。Dragon AshとかRIP SLYMEとかKICK THE CAN CREWとかが出てきて日本語ラップが流行り始めた頃に僕もその流行に追い付いていれば、きっと学校のやつらともその話題で盛り上がれたと思うんです。でもキックが活動休止して、流行がEXILEとかジャパレゲとかに移っていった2004年頃、僕はラップを愛してしまったんですよね。音楽の面でも同級生との乖離はあったかもしれないです。

小池 いつも乗り遅れてるんですね(笑)。でもその気持ちわかりますよ。変に意地張っちゃうんですよね。その癖ってなかなか抜けなかったりするけど、それが自分だからまあ自分らしくやっていこうと俺は思います。だって昔は俺が何を言ってもみんな聞いてくれなかったんですよ。自分自身が素っ裸になって、体当たりしていくようになってようやく俺が言いたいことを聴いてくれる人が増えてきて。たぶんずっとやりたかったのにできなかったことはこれなんですよね。だから今はすごくやりがいを感じています。

R-指定 ちなみに学生時代、同級生と音楽の話ができたタイプですか?

左から小池貞利(teto)、R-指定(Creepy Nuts)。

小池 いや、ほとんどしていなかったです。1人くらいしか話せる相手はいなかったし、話す必要もないかなと思っていました。だって音楽は世代や時代を超えて、1人ぼっちの俺にちゃんと言葉を届けてくれるんで。だから俺らが聴いてきたようなカッコいい音楽はこれからも絶対残したほうがいいと思っているし、俺自身から生まれた音楽も未来に残していきたいです。

R-指定 僕も1人、2人ぐらいしか音楽の話ができるやつがいなかったんですけど、そいつが見つかったときの喜びが大きかったです。「お前ラップ好きなんやろ?」って同級生に声をかけられて、当時流行っていたORANGE RANGEさんとかを挙げてくるんだろうなと思っていたら「お前LAMP EYE知ってる? 『証言』とか」って言うんですよ。「おいおいおい……ちょっと一緒帰ろうよ」ってなりましたね(笑)。僕は全然不良じゃなかったですけど、ヒップホップは聴いているだけで最強みたいな気分にさせてくれたので、そういう感覚は大事にしていきたいですね。

小池 お客さんの中にも俺らがクラスで見つけた1人みたいな人がたまにいるんですよ。明らかに周囲と熱量が違って俺のことを睨んでくるの。そういう人はきっと俺の言いたいことをわかってくれてる人なんですよね。全員にわかってほしいわけじゃないけど、わかってくれる人がいるのは本当にうれしいなと思います。

R-指定 僕らのライブにもそういう“わかってくれてる”人がたまにいて。純粋にサビでワーって盛り上がってくれてるのもありがたいんですけど、バースのラップの部分で「これ、めっちゃ伝えたいことやねん」っていうフレーズのときに手を挙げてくれるような人は「お前よく聴いてくれてるな」と思います。

小池貞利(teto)

小池 普段は人と会話するのが面倒だなと思っていても、ライブではコミュニケーション取るのが当たり前のようにできちゃったりするんですよね。中学高校のときに「世の中クソっしょ」みたいに思っていた自分みたいな人と、自分が書いた曲を介してわかりあえた感触があったとき、こんなに美しいことってあるんだなって思います。

R-指定 客席の中に自分みたいなやつを探しちゃうんですよね。で、伝わると「あのときの俺に届いた」って思うんです。僕が一番影響を受けたのはヒップホップなんですけど、サザンオールスターズとかエレファントカシマシも大好きで。エレカシを聴いたときに人混みをかき分けて胸ぐらをつかんでくる感じの歌詞に度肝を抜かれたんですよ。僕が不勉強なのもあるんですけど、ヒップホップ以外ではそういうパワーを感じたことがなかったので。

小池 俺も最近のロックについてあまり詳しくないんですけど、胸ぐらつかんでくる感じの歌詞のバンドってあんまりいないなと思っていて。でもやっぱ自分が好きなものはそういうものだったりするから、自分はそういう音楽をやっていきたいなと思います。

R-指定 僕はtetoのアルバムを聴いてすげえ感動しましたよ。こういう音楽こそがカウンターカルチャーって呼ばれるんだと思いました。享楽的な楽しさや気持ちよさの中で、「でも忘れんなよ」って胸ぐらをつかんでくる感じ。

小池 聴き心地のよさは大事ですよね。だって“音楽”ですから。その中でどれだけ爪痕残してやるか、脳みそに覚えさせるんじゃなくて心臓の鼓動で覚えさせるみたいな、どれだけそれができるかっていうのが作り手の醍醐味かなと思います。本当に今日は話せてよかったです。Rさんが俺が言いたいことを全部代弁してくれるからしゃべらなくてもいいのに、楽しくてついベラベラしゃべっちゃいました。

左から小池貞利(teto)、R-指定(Creepy Nuts)。
teto「手」
2018年9月26日発売 / UK.PROJECT
teto「手」

[CD]
2808円 / UKCD-1173

Amazon.co.jp

収録曲
  1. hadaka no osama
  2. 高層ビルと人工衛星
  3. トリーバーチの靴
  4. 奴隷の唄
  5. 市の商人たち
  6. 洗脳教育
  7. 種まく人
  8. 散々愛燦燦
  9. マーブルケイブの中へ
  10. Pain Pain Pain
  11. 拝啓
  12. 溶けた銃口
  13. 夢見心地で
  14. 忘れた
teto ツアー2018「結んで開いて」
  • 2018年9月30日(日) 千葉県 千葉LOOK※ワンマンライブ、開催延期
  • 2018年10月3日(水) 埼玉県 Livehouse KYARA出演者 teto / tricot
  • 2018年10月4日(木) 神奈川県 横浜BAYSIS出演者 teto / POLYSICS
  • 2018年10月10日(水) 岡山県 IMAGE出演者 teto / MONO NO AWARE
  • 2018年10月11日(木) 福岡県 LIVE SPOT WOW!出演者 teto / MONO NO AWARE
  • 2018年10月13日(土) 熊本県 Django出演者 teto / 四星球
  • 2018年10月14日(日) 長崎県 Studio Do!出演者 teto / 四星球
  • 2018年10月16日(火) 京都府 磔磔出演者 teto / ザ50回転ズ
  • 2018年10月20日(土) 福島県 Out Line出演者 teto / paionia
  • 2018年10月21日(日) 岩手県 盛岡Club Change出演者 teto / paionia
  • 2018年10月25日(木) 長野県 ALECX出演者 teto / 八十八ヶ所巡礼
  • 2018年10月27日(土) 新潟県 CLUB RIVERST出演者 teto / Helsinki Lambda Club
  • 2018年10月28日(日) 石川県 vanvanV4出演者 teto / Helsinki Lambda Club
  • 2018年11月8日(木) 群馬県 GUNMA SUNBURST※ワンマンライブ
  • 2018年11月10日(土) 大阪府 梅田CLUB QUATTRO※ワンマンライブ
  • 2018年11月11日(日) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO※ワンマンライブ
  • 2018年11月15日(木) 宮城県 enn 2nd※ワンマンライブ
  • 2018年11月17日(土) 北海道 BESSIE HALL※ワンマンライブ
  • 2018年11月29日(木) 香川県 高松TOONICE※ワンマンライブ
  • 2018年12月1日(土) 福岡県 DRUM SON※ワンマンライブ
  • 2018年12月2日(日) 広島県 HIROSHIMA 4.14※ワンマンライブ
  • 2018年12月7日(金) 東京都 LIQUIDROOM※ワンマンライブ
  • 2018年12月27日(木) 千葉県 千葉LOOK※ワンマンライブ

※記事初出時、福岡公演の会場をLIVE HOUSE CBと記載しておりましたが、DRUM SONの誤りです。訂正してお詫びいたします。

Creepy Nutsワンマンツアー
「クリープ・ショー 2018」(※追加公演)
  • 2018年10月12日(金) 石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2018年10月13日(土) 新潟県 NEXS Niigata
  • 2018年10月17日(水) 宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2018年10月19日(金) 北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2018年10月24日(水) 東京都 Zepp Tokyo
  • 2018年10月26日(金) 大阪府 ユニバース
  • 2018年10月27日(土) 香川県 高松MONSTER
  • 2018年11月7日(水) 広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2018年11月9日(金) 福岡県 DRUM LOGOS
  • 2018年11月13日(火) 愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2018年11月16日(金) 沖縄県 Output
teto(テト)
teto
2016年1月に小池貞利(Vo, G)を中心に山崎陸(G)、佐藤健一郎(B)らが結成したロックバンド。小池がつむぐ焦燥感や葛藤を詩的に昇華した歌詞とキャッチーなメロディ、熱量の高いライブパフォーマンスで話題を集め、2016年10月にリリースした自主制作盤「Pain Pain Pain」は再プレスを繰り返すも完売し、現在は廃盤となっている。同年12月に福田裕介(Dr)が正式加入し、現体制に。2017年6月にHelsinki Lambda Clubとのスプリットシングル「split」、8月に1stミニアルバム「dystopia」をリリースした。「dystopia」のレコ発ツアーのチケットは全日程完売。同年末の「COUNTDOWN JAPAN 17/18」を皮切りに大型のイベントにも出演するようになり、2018年は「VIVA LA ROCK 2018」「YON FES 2018」「RUSH BALL 2018」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018」など多数のロックフェスにも出場した。同年3月に1stシングル「忘れた」、9月に1stフルアルバム「手」をリリース。9月末より全22本のライブからなる全国ツアー「結んで開いて」を開催中。
Creepy Nuts(クリーピーナッツ)
Creepy Nuts
MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」大阪大会で5連覇、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で3連覇を成し遂げた経歴を持つ大阪出身のラッパー・R-指定と、「DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS」国内2位でTOC(Hilcrhyme)のバックDJなどでも活躍する新潟出身のDJ 松永によるユニット。観客が投げたお題でR-指定がフリースタイルを披露する“聖徳太子フリースタイル”などを織り交ぜた、オーディエンスを巻き込む形のライブパフォーマンスで人気を集めている。2016年1月に1stミニアルバム「たりないふたり」を、2017年2月に2ndミニアルバム「助演男優賞」を発表。2017年11月8日にはソニー・ミュージックエンタテインメントよりメジャーデビューシングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」をリリースした。大の深夜ラジオ好きでも知られ、2018年4月からは自身の冠番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」が毎週火曜日に放送中。同月、初のフルアルバム「クリープ・ショー」が発売された。

2018年10月10日更新