ナタリー PowerPush - 転校生

彼女はいかにして「転校生」となったか

最初の上京は半年で挫折

──それでもまず最初にバンドで東京に出てきたんですよね。それは何かきっかけがあったんでしょうか。

バンドを組んじゃ解散して、組んじゃ解散してを繰り返してたんですけど、そのうちベースとキーボードとボーカルっていう3人でやってたバンドが熊本でちょっと広まって。キーボードの人がちょっと調子に乗って「東京行こう!」って。

──特にあてもなく、熊本で名前が売れてきたから行ってみようぜ、と。

はい。でもそれから半年くらいで解散しました。みんなお金がなかったから共同生活だったんですけど、やっぱそういうことすると仲が悪くなりますね。東京ではライブを1回やったっきり。

──全員すぐ熊本に戻っちゃったんですか?

まず私が帰って。あとの残り2人はしばらく東京で音楽活動してたみたいですけど。

──熊本に帰ってからは、特に何もせず?

そこでもう心が折れてたっていうか。帰ってきてしばらくは音楽から離れてました。バンドを組む気力もなかったし。

──そもそも東京に行くとき、親は反対しなかったですか?

お母さんは反対しなかったけど、お父さんは「そんなのは才能がある人しかできないからやめとけ」って。

──それで半年で戻ってきたとなったら、お父さんからはいろいろ言われたのでは?

私が元気がないのが伝わったのか、そこまで怒られたりはしなかったですね。

──相当打ちひしがれてたんですね。

そのときが一番「もうダメだ」って思ってました。学生のときよりももっと大きい挫折です。バイトもせず家にこもって。

「私には音楽しかすがるものがありません」

──それでももう一度音楽をやろうとしたのは、なぜですか?

インタビュー写真

やっぱり今までやってきたことが忘れられなかったんですよ。歌うことも好きだし聴くことも好きだし。そのときに、お金はなかったんですけど、キーボードを初めて買ったんですよ。打ち込みができるものを。自分ひとりの力だけで曲を作って、それで初めて、歌とかライブだけじゃない、新しい表現に出会えた気がして。ちょうどその頃、私の状況を知っていたDjangoのブッキング担当の人が「ひとりでライブやってみない?」って電話をくれたんです。それまでひとりで音楽をやるなんて考えたことがなかったんですけど「ああ、これは何かのきっかけかもしれないな」って。

──その段階で「転校生」だったんですか?

いや、まだ名前は違ったんですけど、それが転校生の元というか。転校生にはそのときやってた曲もあるので。この頃にはもうMyspaceとかの存在は知っていて、せっかくだからというか、自分でここまでできたっていうものを、人に聴いてほしくなったんですね。パソコンを持ってなかったので、ネットカフェでアップロードして。それを聴いた今のレーベルから突然連絡があったんです。

レーベルA&R 当時うちで新人イベントをやってたんですよ。声をかけるアーティストを見つけるためにMyspaceを巡回したりしてて。関東はなんとなく聴いたことのある音ばっかりだったから、ちょっと違うところ見てみようと思って、関西とか九州の人たちを片っ端に。だんだん選考の基準がおかしくなって、気持ち悪い写真とか「何だこりゃ」みたいなのを重点的にブックマークしてたんですね(笑)。彼女のトップページの写真も、鼻血を流してる本人の写真だったんですよ。音楽もいいし、ライブに呼んでみようと。そのメールの返信が面白かったんですよ。「私には音楽しかすがるものがありません」みたいな。

え、ウソ? 覚えてない(笑)。

──あはははは。そこまで追い詰められた状況だったんですね(笑)。

レーベルA&R 「自信がない」みたいなことがつらつらと書いてあって、でも最終的には「音楽しかすがるものがないのでやります」って。

あはははは(笑)。

──それをきっかけに、もう一度上京して。

はい。でも最初、メールの文面が「CDを出しませんか?」みたいな内容だったから、これはよくある詐欺だなと思ったんですよ。売れないバンドマンから言葉巧みに大金をむしりとるやつだと。ちょっと信用できないので、お電話で問いただそうと思って。そしたら「東京に来て、ライブをしませんか?」「飛行機代出すんで」って言うから、あ、これは本当なんだなって。

──「高い飛行機代まで出すとなると、これは嘘じゃないな」っていう(笑)。

レーベルA&R でもライブのMCで「私は飛行機に乗りたくないし、渋谷には来たくなかった」って言ってたよね(笑)。

なんかですねえ、初めて会って……やっぱり信用はできないんですよ。それをライブにぶつけてしまった。

基本的に私の曲は全部怒ってるんです

──楽曲やアーティスト写真の印象だと、イノセントでおだやかな雰囲気がありますけど、たまに漏れ聞こえてくるエピソードや発言には、随所にパンクな部分が顔を覗かせますよね(笑)。

なんですかね。たまに言われます(笑)。最初のほうのライブは刺々しいというか荒々しいというか、怒りをぶつける場でした。

──でも曲自体には外への怒りは込められてないですよね。むしろ自分に向かってるというか。アルバム「転校生」は内省的な作品ですが、あくまで一人称は「ぼく」だし、そこの距離感が最初に気になったんですね。自分のことを書いているのか、あくまで物語として綴っているのか。

距離感はやっぱりあって、自分だけど自分じゃないというか。どっちかというと傍観者的な感じで、それを見ている側なんですね。私の実体験というよりも、私がその人のことを見てる感じ。怒りは込められてないって言われましたけど、基本的に私の曲は全部怒ってるんです。曲の中の人に対して怒ってるような。

──それでいて、サウンドは非常にソフトでポップだし、古今東西の音楽を聴き漁ってるようなマニア志向の人が食いつく作品なんじゃないかと思うんですね。でも、これまでの話を聞いていても、どうしてこのサウンドにたどり着いたのか見当がつかなくて。

私はシンプルなものが好きで、隙間というか、雰囲気を一番重視してるんですけど、その理想を求めたらこういう音楽になったというだけで……。スタッフの人たちには「おしゃれな感じにしたくない」って言ったんですけど、「おしゃれなことやるねえ」みたいに言われるんですよ。

──これは非常におしゃれなアルバムですよ。残念ながら(笑)。

あははははは(笑)。

1stアルバム「転校生」/ 2012年5月2日発売 / 2300円(税込) / Easel / EASL-0011

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CD収録曲
  1. 空中のダンス
  2. 人間関係地獄絵図
  3. 東京シティ
  4. エンド・ロール
  5. ほうかご
  6. 家賃を払って
  7. ドコカラカ
  8. パラレルワールド
  9. きみにまほうをかけました
転校生(てんこうせい)

熊本県出身、埼玉県在住の水本夏絵によるソロプロジェクト。高校生時代からいくつかのバンドでボーカルとして活動していたが、2009年にはソロとしての活動をスタートさせた。Myspace上の楽曲を耳にしたレーベルスタッフから誘いを受け、関東に拠点を移す。2012年5月2日に1stアルバム「転校生」をリリース。