Netflixシリーズ「グラスハート」劇中バンド・TENBLANKが現実世界でデビュー|佐藤健、宮﨑優、町田啓太、志尊淳が語る誕生秘話 (2/2)

朱音のプレイができあがったきっかけ

──TENBLANKの音楽の要になっているのは、宮﨑さん演じる西条朱音のドラムです。そもそも原作の朱音というキャラクターは、本能でドラムを叩いていて、ちょっと前のめりのリズムが特徴的なプレイヤーです。普通にドラムを練習するだけでは朱音にはなれない気がして……宮﨑さんは初心者にして、かなり難しいことをやってのけてるなと思ったんですが、朱音としてプレイするにあたって意識していたことはありますか?

宮﨑 意識して叩いていたというよりは、朱音の演奏スタイルを見つけるきっかけになった出来事がありました。TENBLANKが初めてライブをするシーンに向けて、私は朱音としての叩き方をすごく考えてから挑んだんです。でも、私が1人で演奏する場面でドラムを叩いていたら、佐藤さんが来て「その演技、みんな思いつくやつだから」とおっしゃって……。

宮﨑優

宮﨑優

佐藤 「その演技プラン、一番簡単なやつだから1回やめよう」って。

宮﨑 私はもう頭が真っ白なわけですよ。「けっこう準備してきたのに」って……。今思うと全然イラっとするようなことじゃないんですけど、佐藤さんの言い方がちょっとよくなかったのもあって、そのとき私はプチーンときちゃったんですよ(笑)。その感情を全部ドラムにぶつけたら、朱音のプレイができあがったんです。そこから本能で叩くようになりました。

志尊 健はそこまで計算していて、わざとイラつかせたんだね。意図してなかったら、健の心が今“グラスハート”な感じでしょ?

佐藤 ごめんね……。

宮﨑 えっ! わざとですよね?

佐藤 わざとじゃない……そんなに怒ってたとは露知らず……。

志尊 僕もそのとき優ちゃんがイラッとしてたのは気付かなかったけど「今、優ちゃん怒ってるな」と思った瞬間が一度だけあって。健が優ちゃんに「前髪のシースルー、変じゃない?」って話してたのを覚えてる?

志尊淳

志尊淳

町田 あったあった。

志尊 そのとき優ちゃんは「そうですか?」みたいな反応をしていたけど、もう目の奥がメラメラしてた(笑)。

宮﨑 そうでしたっけ(笑)。

町田 あれは確かにちょっとムッとしてたね(笑)。

佐藤 前髪のシースルーが流行った時期があったと思うんですけど、僕はそれが理解できなくて……前髪は自然な形が一番だと思うんですよ。だから優ちゃんのシースルーに対して物を言ったというよりは、世の中のシースルーに対して意見しただけなんだよね。

バンドってこんな感じなのかな

──「グラスハート」を観ていて、ここまでライブシーンに情熱を注いでいる音楽ドラマはこれまでになかったなと。数万人のエキストラの方々がオーディエンスとしてライブシーンの撮影に参加していて、正直、規格外のスケール感だと思いました。メンバーの皆さんの演奏からも爆発的なエネルギーを感じます。

佐藤 エキストラの方々が参加してくださって、リアルなライブのような環境で撮影できたことがありがたかったですね。あの場で演奏してると、芝居している感じじゃなくなってくるんですよ。メンバーのみんなもハイになっていたと思います。

──こちらもお芝居だということを忘れてしまいました。Kアリーナ横浜やZepp Haneda、日比谷公園大音楽堂など、音楽ファンにはお馴染みのライブ会場が舞台になってるのもポイントだと思います。

宮﨑 Kアリーナ横浜には8000人ぐらいのエキストラさんがいらっしゃったんですけど、こちらの気が全部お客さんに吸い取られちゃうような感覚になって。負けじと全力で演奏することを意識しました。

町田 ライブシーンの撮影のときは、毎回リハーサルをけっこうしました。「ステージはこれくらい広いし、もっと動きたいから、シールドを外してワイヤレスにしようよ」とか、みんなでアイデアを出し合って。最後のほうは何曲も演奏するから、曲のつなぎをどうするかという話をしたんですが、そのときに「バンドってこんな感じなのかな」という気持ちになりました。

町田啓太

町田啓太

野田洋次郎の力は絶対に必要

──TENBLANKが劇中で演奏している楽曲は、RADWIMPSの野田洋次郎さん、Yaffleさんが作詞作曲、[Alexandros]の川上洋平さん、清竜人さんが作詞を担当するなど、そうそうたる方々が制作しています。ドラマの中でも重要な位置付けの楽曲「Glass Heart」をはじめ、複数の楽曲を提供している野田さんは、以前から佐藤さんとご親交がありますよね。

佐藤 僕は最初に「グラスハート」の企画書を作ったときから、絶対に野田洋次郎の力は必要だと思っていました。それはすごく覚えています。Netflixに企画書を送って、原作者の若木未生先生にお会いしに行って。そのあとにすぐ洋次郎の家に行き、話をしました。

──それは原作から感じるTENBLANKの“音”が野田さんの音に近いからですか?

佐藤 それもあるんですけど、僕は野田洋次郎のことを天才だと思ってるんですよ。天才ミュージシャン藤谷の独特の哲学を、歌詞とメロディで表現できる人は誰なのかを考えたときに、最初に思い浮かんだ人が洋次郎でした。

──野田さんに会いに行ったときに、最初にどういうやりとりをされたんですか?

佐藤 企画書を見せて、「『グラスハート』という小説があって、Netflixで実写化するから力を貸してくれ」と。そんなに長い話じゃなかったですね。それで洋次郎が「わかった。じゃあ原作を読んでみるわ」と言って、その日は終わり。僕はその時点でピアノの練習を始めていたので、僕がピアノで弾き語りをしてる動画も洋次郎に送りました。それから洋次郎とはしばらく会ったり話したりはしていなかったんですけど、いつの間にか洋次郎が曲を作ってくれることが決まっていたんです。そのあとは洋次郎に「このシーンとこのシーンの曲を書いてほしい」と説明して。曲が届いたときにその場でLINEでお礼を伝えたら、「喜んでくれてうれしい。撮影がんばってね」という返事がありました。

佐藤健

佐藤健

──野田さんが作詞作曲を手がけた「Glass Heart」は、TENBLANKというバンドを象徴する、とても美しく刹那的で、スケール感のある1曲です。

佐藤 「Glass Heart」はとにかく歌い出しの「生まれてきたよりも前に 聞こえていた 歌があった」というフレーズからぶん殴られたような感覚がありましたね。洋次郎を抱き締めに行きたくなりました。

──終盤の衝動のままにツービートで突っ走っていくような展開がいいですよね。今この一瞬にすべての力を注ぎ込むような。

佐藤 「Glass Heart」はクランクインする前にできあがってた曲なんですけど、実は最初、ラストのサビの歌詞とメロディが全然違ったんですよ。

町田 そうだった!

佐藤 最後転調して終わるという構成は今と一緒で、終わり方も素晴らしくて。この「Glass Heart」という曲を持って、僕たちはクランクインしました。ただ、8カ月間の撮影がどんどん進んでいって、その映像を洋次郎が観たときに、たぶん何か思いついちゃったんでしょうね。ある日、洋次郎から「改めて自分で曲を聴くと全然グッとこなかったので、書き直してみました」というメールが突然届いたんです。まるで藤谷なんですよ。「こいつは本当にカッケえな」と。しかも、元の音源も素晴らしかったのに、「絶対新しいほう!」とメンバー全員が思うようなものがズバッときて。

志尊 あの瞬間は興奮したよね。グループLINEに届いて、開けてみたら「えっ! ヤバい!」って。僕ら的には演奏が変わるわけだから、そこに対して「うわー、どうしよう」という不安は正直あるんですよ。今まで練習してたものと全然違う。でも、それよりも曲がよすぎて、「当然やります」という気持ちになった。

町田 前の音源と全然違うけど、絶対こっちがいいじゃんと思いました。「これはやろうよ」とメンバーみんな満場一致したよね。

志尊 藤谷から届いたデモを坂本と高岡が聴いて、「やるしかないっしょ!」と思うような感じ。本当にTENBLANKそのものみたいな出来事だった。

J-ROCKカルチャーがもっと世界に広まってほしい

──「Glass Heart」など全10曲を収録したTENBLANKのアルバム「Glass Heart」がリリースされます。メンバーの皆さんにとって思い入れのある曲がたくさんあると思うのですが、特にお気に入りの曲を挙げるなら?

宮﨑 私はYaffleさん作詞作曲の「君とうたう歌(feat. 櫻井ユキノ)」が好きです。

佐藤 いいよねえ。

──TENBLANKの曲は前のめりなアッパーチューンが多いですが、「君とうたう歌(feat. 櫻井ユキノ)」は毛色が違うメロウなナンバーですね。

宮﨑 ほかの曲と全然違うテイストの、シティポップのようなおしゃれな感じがいいなって。

町田 確かに。ジャジーな感じもあるよね。僕は清竜人さんが作詞した「MATRIX」が好きです。TENBLANKを結成する前に、藤谷が最初に高岡に聴かせてくれた楽曲で。TENBLANKにとって一発目の楽曲だから特に思い入れがあります。僕自身、すごく練習しました。

志尊 僕は野田さんが作詞作曲した「永遠前夜」が好きだなあ。

佐藤 知ってた。それでしょうよ。

志尊 なんで知ってるの?

佐藤 打ち上げのときに酔って「俺、『永遠前夜』が好きー。この曲が一番好きー」って言いふらしてたじゃん。覚えてない?

町田 めっちゃかわいい。

志尊 全然覚えてない(笑)。この曲は藤谷の弾き語りの曲なので、劇中で坂本はこの曲を演奏してないし、ただ聴くだけで。当然、僕も練習していないんです。だけど、この曲に坂本としてのすべてを感じたというか……「永遠前夜」をきっかけに坂本が感情をあらわにするシーンがあって、その場面を撮るときに、この曲をずっと聴いてたんですよ。そのときに歌詞とメロディが自分の心にスッと入ってきて。めちゃくちゃ好きな曲です。

──さまざまな曲調の楽曲がそろっていますが、佐藤さんの中で、TENBLANKの音楽で一貫して大切にしているのはどういうところでしょうか? 「これがTENBLANKの音だ」というポイントを教えてください。

佐藤 まず、「グラスハート」の映像化を企画したときにTENBLANKの音楽をどういう方向性にしようかということで、スタッフの方々と壮大な議論を交わしたんですよ。それで1つ、方針として決めたのは、J-ROCKらしさを大切にしようということ。洋楽と邦楽の違いはいろいろあると思うんですけど、洋楽はやっぱりダイナミックで、音数が少ない。一方、邦楽は洋楽と比べて、決められた秒数の中に入ってくる音が多いんですよね。日本発のドラマをNetflixを通して世界に届けるときに、その邦楽らしさを武器として打ち出していくのがいいんじゃないかと思って。だから、TENBLANKの音楽は音数が多くなっていますね。「グラスハート」というドラマが世界に羽ばたいてほしいと思っているのと同時に、J-ROCKのカルチャーがもっと世界に広まってほしいなという気持ちがあるんですよ。やっぱり素晴らしいアーティストが日本にもたくさんいるから。その気持ちやリスペクトを大切にした作品になってると思っています。

上から時計回りに志尊淳、宮﨑優、佐藤健、町田啓太。

上から時計回りに志尊淳、宮﨑優、佐藤健、町田啓太。

プロフィール

佐藤健(サトウタケル)

1989年3月21日生まれ、埼玉県出身。2007年にドラマ「仮面ライダー電王」で初主演を飾る。主な出演作はドラマ「ROOKIES」「半分、青い。」「恋はつづくよどこまでも」「First Love 初恋」、映画「るろうに剣心」シリーズ、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」「バクマン。」「亜人」「いぬやしき」「護られなかった者たちへ」「四月になれば彼女は」など。2025年6月に配信されたAmazon Originalドラマ「私の夫と結婚して」で小芝風花とともにダブル主演を務める。7月にNetflixで配信されたドラマ「グラスハート」では主演および共同エグゼクティブプロデューサーを担当している。

宮﨑優(ミヤザキユウ)

2000年11月20日生まれ、三重県出身。2019年にドラマ「高嶺と花」で俳優デビュー。2024年10月から放送されたドラマ「ライオンの隠れ家」に出演して注目を浴びた。オーディションを経て、7月にNetflixで配信されたドラマ「グラスハート」でヒロインの西条朱音役を務めている。

町田啓太(マチダケイタ)

1990年7月4日生まれ、群馬県出身。2010年に第3回劇団EXILEオーディションに合格し、俳優デビュー。主な出演作に連続テレビ小説「花子とアン」、大河ドラマ「西郷どん」「青天を衝け」、ドラマ「中学聖日記」「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」「フィクサー」など。2024年に放送された大河ドラマ「光る君へ」で藤原公任を好演。2025年4月より放送されたドラマ「失踪人捜索班 消えた真実」で主演を務めた。2025年12月から配信されるNetflix映画「10DANCE」で竹内涼真とともにダブル主演を担う。

志尊淳(シソンジュン)

1995年3月5日生まれ、東京都出身。2011年に俳優デビューし、2014年にドラマ「烈車戦隊トッキュウジャー」で主演を務める。主な出演作は「きみはペット」「先輩と彼女」「帝一の國」「HiGH&LOW THE WORST」「さんかく窓の外側は夜」「52ヘルツのクジラたち」「フェルマーの料理」「日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった」など。2025年4月より放送されたドラマ「恋は闇」で岸井ゆきのとともにダブル主演を務めた。


佐藤健
ヘアメイク / 古久保英人(Otie)
スタイリスト / 中兼英朗

宮﨑優
ヘアメイク / 尾曲いずみ
スタイリスト / 道端亜未

町田啓太
ヘアメイク / Kohey(HAKU)
スタイリスト / 吉田ケイスケ

志尊淳
ヘアメイク / 礒野亜加梨
スタイリスト / 九