根底にあるのは“人間らしさ” 帝国喫茶の今を記録した「季節と君のレコード」 (2/2)

三種三様の個性際立つ、各ソングライターの特徴とは

──3人のソングライターとしての特質について、杉浦さんと疋田さんはどういうふうに捉えていますか?

杉浦 疋田はある題材を対比して描けるんですよね。例えば2ndアルバムだと「泥だらけの純粋」がわかりやすいんですけど、“純粋”を描きたいとき、あえて“泥だらけ”という要素を取り出してくるんです。純粋さだけではダメで、その周りにある純粋じゃないものも描かないといけない。それを対比するから、より純粋さが際立つというか。扱う題材を広い視野で見ているところが、僕との大きな違いですね。

──俯瞰の視点がある。

杉浦 その純粋さ自体は僕もわかっていて、ゴールも共通しているんです。ただ、その描き方が違う。僕の場合、暗い要素を描こうとするときは、自分の中からそういうものを掘り返さないといけないから、精神的にも落ち込むし、考えなくていいところまで考えてしまうんですよ。だから僕は純粋さだけ描けばいいと思っている。ド直球なんです。疋田は周りのものを描いたうえで、メインとなる光や純粋さをちゃんと描けるので頼もしいですね。僕は題材が決まったら、そこに至る道筋までは考えないので、足りない部分は疋田が補足してくれています。

──杉崎さんのソングライティングについてはどうでしょう?

杉浦 杉崎は“光と闇”みたいな抽象的なものよりも、日常を描くことが多いです。僕と疋田は重たい題材を取り上げることが多いので、それだけ聴いてるとつらい人もいるかもしれないけど。

杉崎拓斗(Dr)

杉崎拓斗(Dr)

──2ndアルバムでは「夏の夢は」や「マフラー」など、季節感のある情景が思い浮かぶ曲は杉崎さんが作っていますね。

杉浦 僕は日常の中で見つけた大事なもの、大きなものを書きたいと思うんですが、杉崎は日常そのものによくフォーカスを当てています。その中にもかけがえのないものはありますよね。

──疋田さんは、杉浦さんのソングライターとしての特徴はどこにあると思いますか?

疋田 杉浦くんは常にド直球でいられることがすごいですね。「みんなへ」の「I LOVE U BABY あなたをだきしめて」もそうだし、「恋人へ」の「くるしいよ それも愛しいよ あなたが今日もいきていてほしい」だったり、直球の歌詞や曲調をドーンと突きつけてくるんで。これができる人って少ないんですよ。いろんな技術や知識を覚えていくと、直球を投げることに躊躇してしまうので。でも杉浦くんは臆せずにまっすぐに表現できる。自分にはできないです。

──杉崎さんについてはどうでしょう?

疋田 さっき杉浦くんが言っていたように、僕と杉浦くんは重たいテーマを扱ったり、人の気持ちの奥底に訴えかけようとする曲が多くて。確かに音楽は人の気持ちに訴えかけるものであってほしいし、そうやって響いたものが共鳴して、感動すると思うんです。でも、それこそ朝起きた瞬間から「僕はなぜここにいるんだろう?」といきなり重たい悩みのことを考えるような人はあまりいないですよね。それも人間らしさで、コーヒーを飲んで「今日もがんばろう」という気持ちになったり、「今日は休みだからショッピングにでも行こうか」と肩の力を抜いたり、そういう気分を描いた音楽も素晴らしい。杉崎はその日常にちゃんと寄り添った曲を、彼なりに突き詰めて作っていますね。ちゃんと自分の世界観を保ちながら、人の日常に寄り添ってくれる。みんなに愛される曲を書いてくれます。

帝国喫茶

帝国喫茶

帝国喫茶

帝国喫茶

対比と直球、それぞれの魅力と強み

──お二人の話を聞いて、帝国喫茶というバンドの力学がわかってきたような気がします。作詞作曲のクレジットを見て、誰が作った曲かを踏まえて聴くと、いろいろ伝わってくるものがありそうですね。

杉浦 そうなんです。

──そのうえで、もう一歩踏み込んで聞かせてください。杉浦さんは疋田さんのソングライティングについて「対比を描くから際立つ」と話していましたけど、疋田さんはこの話を受けて、2ndアルバムの収録曲の中で、特にそういう部分が発揮できた曲はどれだと思いますか?

疋田 どの曲を作るときも「一辺倒にはなりたくないな」と思うんですよね。明るい曲の中に切ない歌詞を入れてみたり。例えば4曲目「blue star carnival」は牧歌的で、途中ちょっとテンポが速くなって楽しい曲ではあるんですけど、「小鳥の歌も 争いも 丘の上 空の下のこと 全部 可愛く思えてしまって 少し疲れてしまった」と歌っていて。明るい曲の中に暗い部分を入れるからこそ、より明るさが際立つというか。ほかには1曲目「季節すら追い抜いて」は全体的に疾走感があるけど、Bメロからサビに入る部分で1回ピタッと止まる。そこでギターの音だけが鳴って、サビがドーンと盛り上げるようになっています。静と動、陰と陽みたいなものを織り交ぜることで、深みや面白さにつなげられるように気を付けました。

──俯瞰で構造を捉えながら曲を作っている、ということなんですね。

疋田 裏をかくことはけっこう考えますね。俯瞰で考えるというよりはイタズラ心、楽しみながらギミックを仕掛ける感じです。バレないように人の無意識下に訴えかける、みたいな。8曲目の「ラブソング」なんて、タイトルとは裏腹に歌詞の内容は皮肉でしかないんですよね。楽しみながら裏をかくことで、深みにつながるかなって思います。

帝国喫茶

帝国喫茶

──杉浦さんの楽曲について、疋田さんは「直球の強みがある」とおっしゃっていましたが、ご自身でその要素が特に引き出せたと思う曲は?

杉浦 2ndアルバムで書いた3曲、どれもうまく作れたと思います。その中でも「君が月」は僕自身、その特徴に気付けたところがありました。僕は疋田のように俯瞰して何かを描くことができないし、幅広く音楽を聴くわけじゃないから、歌うことに徹するべきだと思っていたんです。でも1stアルバムが完成したあと、3人の作家性が理解できるようになると、「僕は大事な人に向けて曲を作っていたんだな」とわかって。その気付きを経てから作ったのが「君が月」です。

──それが転機になった。

杉浦 はい。そこで自分が考えていることを大事にしたいと思った。自分の好きなメロディ、歌って気持ちいいメロディを厳選して、誰でもわかる言葉で大事なことだけを盛り込んで作った「君が月」が、結果的にリード曲になったんです。そこで「自分のやることはこれなんだ」とわかって、「みんなへ」「恋人へ」も完成させました。この2曲はもっと突き詰めて、「自分がもし今死ぬとしたら、何を最後に伝えたいか」を考えたんです。お客さんへの思いは「みんなへ」、近しい人への思いは「恋人へ」に込めています。

──1対1のコミュニケーションとして、言葉とメロディを紡ぐことに徹したのが「みんなへ」「恋人へ」だった。

杉浦 そうです。どっちか一方じゃなく、両方あるんですよね。僕の中にもいっぱい練り込んだ部分があるから、両方必要なんです。

ギタリストでデザイナー、アクリが完璧に表現した「季節と君のレコード」

──最後にギタリストのアクリさんについてもぜひ聞かせてください。アクリさんは当初バンド周りのデザイン制作を担当していて、のちにメンバーとして加入しましたが、これはどういう経緯だったんでしょうか?

杉浦 実はもう1人のオリジナルメンバーと疋田は途中で就職して。疋田は仕事を辞めてバンドに戻ってきたけど、ギタリストはそのまま抜けちゃったので、一時期はサポートメンバーを入れて活動していました。なかなか正式メンバーが決まらなかったんですが、いつもアートワークを制作していたアクリがちょっとギターを弾けたんですよね。僕からしたら、どのぐらいギターが弾けるかよりも、人として合うかを優先したかった。ギターはある程度練習すればうまくなるし、努力でなんとかなるから、それ以外の部分が大事で。アクリは僕らが考えていることをすごく理解しているから、直感でメンバーとして加入してもらいました。

アクリ(G)

アクリ(G)

──アクリさんが手がけているアートワークも、バンドのイメージにすごく作用していると思います。結果的に3人のソングライターとデザイナーという、クリエイティブな4人体制になったことの意味合いは大きかったのでは?

杉浦 大きいですね。今回のアルバムでバンドの核となる“人間らしさ”がわかったんですけど、アクリもジャケットアートワークを制作するとき、その核となる部分をうまく落とし込んでくれました。このアートワークはアルバムに収録されている12曲だけでなく、「季節と君のレコード」というタイトルも完璧に表しているんですよ。音楽を聴いている人がいて、アナログ盤の上ではさまざまな季節が巡っている。それを踏まえて、僕らが新しい曲を作る……という循環が波で表現されていて、びっくりしましたね。うれしかったし、4人の意識がひとつに固まってきたことが実感できました。

帝国喫茶「帝国喫茶II 季節と君のレコード」ジャケット

帝国喫茶「帝国喫茶II 季節と君のレコード」ジャケット

──バンドのことを何より理解しているメンバーがアートワークを表現している。

杉浦 やっぱりそこが大事なんですよね。楽器を弾けることより、ちゃんとわかり合えるかどうか。それもバンドならではの魅力につながると思います。

ライブ情報

帝国喫茶 初ワンマンツアー「世界中の街にロマンスを」

  • 2023年11月18日(土)大阪府 BIGCAT
  • 2023年11月19日(日)香川県 DIME
  • 2023年11月23日(木・祝)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2023年11月25日(土)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2023年11月26日(日)北海道 SPiCE
  • 2023年12月2日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
  • 2023年12月3日(日)福岡県 DRUM Be-1
  • 2023年12月9日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO

プロフィール

帝国喫茶(テイコクキッサ)

2020年に関西大学の軽音楽部に所属していた杉浦祐輝(G, Vo)、疋田耀(B)、杉崎拓斗(Dr)の3人が中心となって結成したロックバンド。当初は大学の学園祭に出演することのみを目的にしていたが、手応えを感じたため活動を継続し、2021年10月に初の音源「開店」を発表した。アートワークの制作に携わっていたアクリがギタリストとして加入したあと、2022年9月に初のフルアルバム「帝国喫茶」をリリース。2023年10月には2ndフルアルバム「帝国喫茶Ⅱ 季節と君のレコード」を発表した。