音楽ナタリー Power Push - TeddyLoid×中田ヤスタカ(CAPSULE)

共鳴し合う2人のゲームチェンジャー

バーチャルボーイの映像を3Dテレビで見たんですよ

──中田さんはクラシックゲームが趣味だったんですね。以前からゲームミュージックに影響を受けているという話は耳にしていましたが。

中田 でも「ゲームをやるのが大好き」ってわけではないんですよ。そもそも音楽をやってるのも、音楽が好きだからというよりはガジェットとしてシンセサイザーが好きっていう部分が大きくて。音楽をやりたくて機材が必要になるんじゃなくて、新しい機材が使いたいから音楽を作ってる、みたいな。

TeddyLoid ははは(笑)。

中田ヤスタカ

中田 たまたまピアノを習ってたから今音楽をやってるけど、絵を習ってたらタブレットとか買い集めてたかもしれない。ゲームもそんな感覚ですね。要は「ボタンがあって、押すとなんか起こる」っていうインタラクティブなものが好きなんです。小さいときに親がPC-8801とかPC-9801とかを持ってて、キーボードを押したら文字が出てくるっていうだけのことで「かっけー! どんなカラクリで動いてるんだ!」って思ってた。

TeddyLoid それ、わかります。

中田 今はみんなデジタルをデジタルと意識してないですよね。iPhoneを持って「デジタルだぜ!」って言ってる人はいないし。でも80年代はゲームにしろシンセサイザーにしろビット数が低くて、デジタルはデジデジしてるし、機械はメカメカしてた。あの時代の“解像度の粗さ”みたいなのが僕は好きなんです。

TeddyLoid 今は洗練されちゃってますもんね。

中田 もちろん今のテクノロジーも面白いんですけど、やっぱり人それぞれグッとくるポイントは違うと思うんで。

──ゲーマーというわけではないんですね。

中田 そう、モノとして好きなんです。インベーダーゲームのテーブル筐体は脚がイームズそのものだからインテリアとしてカッコいいな、とか(笑)。ゲーム性が面白いかどうかっていうのとは違う視点で見てますね。

TeddyLoid この間、任天堂から昔発売されたバーチャルボーイの映像をヤスタカさんの家で3Dテレビに表示して遊んだんですよ。すごかった。逆に超新しかった(笑)。

中田 それこそバーチャルボーイはゲームが面白いかどうか関係なく、モノとしてカッコいいから好きなんです。僕が買ったときはもうNINTENDO64が発売されてて、任天堂の人たちのバーチャルボーイへのテンションが下がっちゃってそうな時期で、本体にソフトを10本付けて1500円くらいで売ってたんですよ。それをいまだに持ってます。

TeddyLoid 今はもうレアになってますよね。

中田 店舗で買うと5万円ぐらいするからね。ああいうゲーム機って「とりあえず出しとけ」的なタイトルがよく作られるじゃないですか。「バーチャルボーイでテトリスやる必要ある?」みたいな(笑)。そういうソフトがけっこう多かったんで、バーチャルボーイならではの魅力を生かせる前に終わっちゃった感じが残念ですよね。

TeddyLoid その時期のゲームは、世代的にはドンピシャじゃないんですけど僕も好きで集めてるんです。地元が静岡の浜松なんですけど、よく秋葉原に通ってアーケードゲームの基盤を買ったりしてました。まあ、僕の場合はゲーマーでもあるんですけど。大会に出たりもするし。

──アーケードゲームを家でやる理由ってなんですか? 手軽に買える据置機や携帯機と違って、値段とか設置場所とかいろいろハードルが高そうですが。

中田 僕も家にアーケードゲームの筐体を置いてるんですけど、部屋にピンボールの機械を置きたいって人もいるし、ビリヤード台とかジュークボックスとかを置きたいって人もいるわけで、そういうのと同じだと思いますね。あと、ちっちゃいときにお店にしかなかったものが家にあるっていう“スネ夫感”。スネ夫だったら絶対家に置いてるでしょ?(笑)

今やったら面白いのはRealAudioの音

──Teddyさんもやっぱり、ゲームミュージックから影響を受けていますか?

TeddyLoid すごく受けてます。今のDTMって、シンプルな電子音から数十人編成のオーケストラまでどんな音でも作れるんですけど、昔のゲームミュージックは出せる音色が少なかったり、すごく限られたリソースの中で音楽を作らなくちゃいけなくて。そういうのに痺れますね。

中田 ゲームっぽいフレーズを打ち込んでると、昔の人ってやっぱり大変だったんだろうなって思う。同じことをやってみるとすごく面倒くさい。「ドー」って長く鳴ってるように聞こえる音も、実際は64分音符がオクターブでずっと並んでるわけなんですよ。64分音符はすごい速さだから隙間が空いてても1個の音に聞こえるんです。だから隙間に別の音階を入れると……。

──あ、単音なのに和音っぽく聞こえるのか。

中田 そうなんです。あの時代の人が苦肉の策でやってたことが、今聴くと結果的にゲームミュージックらしい個性的な音になってる。たぶん当時の人は「それしかできないんだからしょうがない」って思いながらやってたことなのに、今のミュージシャンがめちゃくちゃ苦労してそれっぽさを再現してるって、変な感じですよね。

TeddyLoid 逆転しちゃってますよね(笑)。

中田 そういうのって面白いと思うんですよ。90年代にアナログ盤のプチプチノイズを足すのが流行ったじゃないですか。

TeddyLoid あはは(笑)。ありましたね。

中田 CDが生まれて、やっとアナログの埃を気にしなくてよくなったのに、わざと埃のノイズを入れるみたいな(笑)。ラジオボイスもそうで、ラジオ局の人は別にあの音質にしたかったわけじゃないですよね。僕はずっと前から言ってるんですけど、超初期のエンコーダを使ってわざとシャカシャカした音質にするの、今やったら面白いと思う。32KbpsのRealAudioファイルに変換したりとか(笑)。

TeddyLoid ビット落ちさせるの面白いですね。サンプリングして使えそう(笑)。

──ちなみに中田さんは1990年代末くらいにチップチューンがブームになり始めたとき、やっぱり惹かれるものがありました?

中田 僕はMacで曲を作ってたし、ちょっと違う文化だったなっていう印象です。当時チップチューンを作ってた人って、チップチューン以外のことはやらない人が多かったんですよ。あれはハードとプログラミングの世界なんで、さっき言った僕の話みたいな「音楽が好きっていうよりも、機材を使うのが楽しい」って人が多かったと思う。すでにあるDTMソフトを使うことに興味ないような人、ファミコンにMIDIコントローラーを付けたりとかを簡単にできる人しかやってなかった。「ファミコンっぽい音じゃダメなんです! ファミコンで音を出したいんです!」みたいな(笑)。

TeddyLoid ははは(笑)。

中田 僕もその楽しさはすごくわかりますけどね。今はチップをシミュレーションするソフトがいっぱい出てるし、わざわざ実機を使うのは効率悪いからやらないですけど(笑)。やっててどっちが楽しいかっていったら実機のほうが楽しいですよ。

TeddyLoid 今の話で言うと、中田さんは「チップチューンだけの人」とは違って「ゲームサウンドを自分の中に音楽として取り込む人」だなと思う。最近のヤスタカさんのお仕事だと「8ビットボーイ」(三戸なつめのシングル)はホントにカッコよかったな。「こういうチップチューンが聴きたかった」というか。

2ndアルバム「SILENT PLANET」 / 2015年12月2日発売 / EVIL LINE RECORDS
初回限定盤 [CD2枚組] / 3564円 / KICS-93324
通常盤 [CD] / 3024円 / KICS-3324
CD収録曲
  1. Game Changers with 中田ヤスタカ (CAPSULE)
  2. Searching For You feat. 柴咲コウ
  3. All You Ever Need feat. ☆Taku Takahashi (m-flo)
  4. Secret feat. 池田智子 from Shiggy Jr.
  5. Last Teddy Boy feat. HISASHI from GLAY
  6. Break'em all feat. KOHH
  7. We Are All Aliens with WRECKING CREW ORCHESTRA
  8. Lion Rebels feat. JUN 4 SHOT from FIRE BALL & N∀OKI,NOBUYA & KAZUOMI from ROTTENGRAFFTY
  9. VIBRASKOOL feat. 近田春夫 (Professor Drugstore a.k.a. President BPM) & tofubeats
  10. Above The Cloud with 小室哲哉
  11. はじらい Like A Girl feat. 志磨遼平 from the dresscodes
  12. Grenade feat. 佐々木彩夏 from ももいろクローバーZ
初回限定盤付属CD収録曲
  1. Game Changers with 中田ヤスタカ (CAPSULE) (Extended Mix)
  2. Above The Cloud with 小室哲哉 (Extended Mix)
  3. All You Ever Need feat. ☆Taku Takahashi (m-flo) (Extended Mix)
  4. Secret feat. 池田智子 from Shiggy Jr. (Dub Mix)
  5. Grenade feat. 佐々木彩夏 from ももいろクローバーZ (Ambient Mix)
  6. Searching For You feat.柴咲コウ (Ambient Mix)
TeddyLoid(テディロイド)
TeddyLoid

1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行した。2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)とともにテレビアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成し、アルバムを発表した。2013年にはももいろクローバーZの楽曲「Neo STARGATE」でアレンジを担当したほか、同年4月の「ももいろクローバーZ 春の一大事 2013 西武ドーム大会」ではDJとしてもライブに参加。さらにMEGやマドモアゼル・ユリア、TEMPURA KIDZ、Yun*chi、the GazettE、SuGなどさまざまなジャンルのアーティストの楽曲プロデュースやアレンジ、リミックスを手がけている。2013年8月からは自身のオフィシャルサイトで、「BLACK MOON RISING」と銘打たれた連作を発表。2014年7月にキングレコードの新レーベル「EVIL LINE RECORDS」とアーティスト契約し、翌8月にワンコインCD「UNDER THE BLACK MOON」、9月に初のオリジナルアルバム「BLACK MOON RISING」をリリースした。2015年9月にはももいろクローバーZの楽曲をリミックスしたアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」を発表。同年12月に中田ヤスタカ(CAPSULE)、池田智子(Shiggy Jr.)、HISASHI(GLAY)、小室哲哉、志磨遼平(ドレスコーズ)、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)ら豪華ゲストを迎えた2ndアルバム「SILENT PLANET」をリリースした。

中田ヤスタカ(ナカタヤスタカ)
中田ヤスタカ

2001年に自身のユニットであるCAPSULEにてCDデビュー。以降、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、アニメ映画「ONE PIECE FILM Z」オープニングテーマ曲や「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラック、テレビ・ラジオ番組のテーマ曲制作など多方面にてに活躍している。昨今はカイリー・ミノーグやマデオンへのリミックストラック提供をはじめ、映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲に携わるなどグローバルに活動を展開。また自身主催によるレギュラーパーティを定期的に開催しているほか、大型フェスやファッションショーなどにも出演している。