柴田聡子がテイラー・スウィフトに惹かれる理由|「The Life of a Showgirl」発売記念インタビュー (2/2)

“演じること”を演じる、でもそこにはテイラー自身もいる

──今年10月にテイラーの最新アルバム「The Life of a Showgirl」がリリースされました。この作品についても聞かせてください。

テイラー・スウィフト「The Life of a Showgirl」ジャケット

テイラー・スウィフト「The Life of a Showgirl」ジャケット

まず、「コンセプトアルバムだ!」って思ったんですよ。ここ最近は毎年アルバムを出して、しかもその間に昔のアルバムのテイラーズ・バージョンも作って、「The Eras Tour」(2023年3月から2024年12月にかけて行われたワールドツアー)で世界中を回って……いったいどうなってるんですかね?

──僕は多作なアーティストって日記のようにラフな作品を出すイメージがありましたが、テイラーは「The Life of a Showgirl」というタイトルでコンセプチュアルな作品に仕上げていたのが印象的でした。

それこそ前作(「The Tortured Poets Department」)はテイラーの日記のようで、とてつもない曲数のアルバムでしたよね。そこから「The Life of a Showgirl」に至るという。この人は“アルバム”が好きなんだなって、同じ世代のミュージシャンとしていろいろ考えましたね。

柴田聡子

──「The Life of a Showgirl」を聴いた感想を教えてください。

ドラムのサウンドがモダンで好みでした。シンプルにレコーディングされているし、ソングライティングも「Fearless」や「Red」の頃を思い出すようなものもあって、やはり人は地続きなんだと感動しました。でもパーソナルなことをアルバム全体の物語の中で語っているという点で、これまでとは異なったアルバムになっているなと。

──なるほど。

密度があるアルバムなので、1周目は「どう聴こうかな?」といった感じだったんです。サウンドを聴こうかな、それともソングライティングを聴こうかな、やっぱりまずリリックを読もうかな、みたいな。なので、ひとまず1周目はサウンドを聴いて、2周目で物語の作り方を見て、3周目ぐらいから「いいなあ」と、作品が体になじんできた感覚だったんです。3回かけて咀嚼をしました。

──特に印象に残った曲はありますか?

「Ruin the Friendship」が大好きですね。サウンドもソングライティングも歌詞も、全部好きです。あとは「Elizabeth Taylor」。これは濃かったですねえ。しかもアルバムは「The Fate of Ophelia」から始めちゃうんだっていう……。これぞテイラーって感じのオープニングですよね。実は今年、ビヨンセのライブを観に行くためにロンドンへ行ったんですよ。そのときにテート・ブリテンでミレーの絵画「オフィーリア」を観てきたんです。オフィーリアについて深く考えている人ってけっこう多いと思うんですよね。自分の好きな作家、歌人の川野芽生さんもオフィーリアを扱っている歌を詠んでいて影響を受けました。自分が「オフィーリア」について考えていたタイミングで、テイラーがアルバムの冒頭で「The Fate of Ophelia」を歌ったので、個人的にグッときました。

──アルバムのトピックとしては、ラストの表題曲でサブリナ・カーペンターが参加していますよね。

“アメリカ”を感じましたね。ビヨンセがマイリー・サイラスと曲(「II MOST WANTED」)を作っていたじゃないですか。それともつながるというか、アメリカという国を考え直したいのかな、と思ったりしました。また、エンタテインメントの世界でものすごく活躍している2人で「The Life of a Showgirl」を歌っているなんて……平伏しました。

──先ほど話していた「いい子(Good Girl)」というテイラー像から「The Life of a Showgirl」につながることを思うと、壮大なアルバムですよね。

しかも、アルバムのジャケットでテイラーがショーガールっぽい装いをしているんですよ。“演じること”を演じて、アルバムの物語を通して誰かの物語を語って、でもそこにテイラー自身もいる。そういうふうにして新しい自分の表現方法を見つけていったのかな、と感動しました。

柴田聡子

「どの時期の自分も自分なんだ」

──柴田さんの活動にフォーカスすると、「Your Favorite Things」のリリース以降はハンドマイクで気持ちよさそうに歌う場面も増えましたよね。個人的に、ギター少女からポップスターに進化していくテイラーのキャリアとも近い印象を受けたんです。

自分とテイラーを比べるのは恐れ多いです……。個人的にはバンドの中で自分がギターを弾く必要がない曲があって、そのときにハンドマイクで歌ったほうが楽だと思っただけなんです。だから決してポーズでやっているわけではないんですけど、それはテイラーにも思うことで。彼女は音楽に軸足があるからこそ、彼女自身の意志であれば、どんな変化があっても自分らしくいられるんだと感じます。そういう点で、テイラーからは勇気をもらっていると思います。自分も「スタイルが変わったね」とか「昔のほうがよかったね」とか言われる可能性がある中で、自分の思うように活動できているのはテイラーのおかげなんじゃないかと。

──もし柴田さん版の「ミス・アメリカーナ」があったら、そういった言葉に悩まされるシーンは確実に使われますね(笑)。

ハハッ。でも私はあんなに曲作れないですよ。鶴の恩返しみたいなパターンで、1人で黙々と作るだけなので……(笑)。「ミス・アメリカーナ」で「ME!」のリリックができるシーンとか、もう観るたびに毎回泣いちゃうんですよ。「テイラー、うれしいだろうな」って。一緒にいたプロデューサーが「Oh……」ってなってるところとか、音楽を作る喜びに満ちあふれていると思います。

──そうですね。

それと、どの時期にもテイラーには彼女を愛してくれている人がそばにいるじゃないですか。それに対して、彼女自身もまた愛を返そうとしているのを「The Eras Tour」の頃に感じたんです。「昔は幼かったからダメだ」と過去の自分を否定するんじゃなくて、「The Eras Tour」は「どの時期の自分も自分なんだ」という姿勢を示したツアーだと思うんですよね。どの時期のファンも置いてけぼりにしていない。そういう姿勢にも励まされますね。

──なるほど。

自分にとってのテイラーって神格化の対象ではなかったんですけど、「The Life of a Showgirl」では彼女自身がそれを振り払ってくれた感じがしたんです。私はそれをビヨンセが三部作をリリースし始めたときにも近いように感じて、テイラーの「やりたいことをやっていくからね」っていう宣言だと思ったんですよね。それが自分にとっての励みになったんです。「私も自由にやろう」って思わせてくれたというか。

──それって、いわゆる「推し」とは異なる眼差しですよね。

そうなんです。人は変化していくし、考え方も変わっていく。そのことを示唆してくれる存在が私は好きなんだと思います。

柴田聡子

プロフィール

柴田聡子(シバタサトコ)

1986年、北海道札幌市生まれのシンガーソングライター・詩人。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。大学時代の恩師の一言をきっかけに2010年より都内を中心に活動を始める。2012年6月に三沢洋紀プロデュースによる1stアルバム「しばたさとこ島」、2014年6月に自身で録音した2ndアルバム「いじわる全集」、2015年9月に山本精一プロデュースによる3rdアルバム「柴田聡子」を発売。2016年6月に初の詩集「さばーく」を発売し、「第5回エルスール財団新人賞」現代詩部門を受賞した。2017年5月に4thアルバム「愛の休日」、2019年3月に5thアルバム「がんばれ!メロディー」、2022年5月に6thアルバム「ぼちぼち銀河」を発表。2024年2月に7thアルバム「Your Favorite Things」をリリース。2025年4月にはスカートの楽曲「スペシャル」にコーラスで、SkaaiとKMのEPの収録曲「iPX feat. 柴田聡子」にフィーチャリングで参加し、10月にElle Teresaとのコラボ曲「ときめき探偵 feat. Le Makeup」をリリースするなど、他アーティストとのコラボにも精力的に参加している。同年11月3日から30日にかけて、弾き語りツアー「柴田聡子のひとりぼっち'25」を東名阪で開催する。

テイラー・スウィフト

1989年、アメリカ・ペンシルバニア州出身のシンガーソングライター。グラミー賞を14度獲得、また同賞史上初めて「年間最優秀アルバム賞」を4回受賞、さらに2025年リリースのアルバム「The Life of a Showgirl」の売上が発売初週で400万枚を突破するなど、名実ともにアメリカを代表するソロアーティストとして知られる。日本では、2010年2月に初来日し、2024年2月に行われたライブツアー「TAYLOR SWIFT | THE ERAS TOUR」では、海外女性アーティストとしては初となる、4日連続での東京ドーム公演を開催した。