田村ゆかりインタビュー with サクマリョウ×川島亮祐|イメージ覆す実験作?「Altoemion」ができるまで (2/3)

「“田村ゆかり”のイメージを壊すつもりで書いてください」

──では1曲ずつ詳しく聞かせてください。まずは「金魚」ですが、ピアノとストリングスを中心に編まれたメランコリックなワルツで、冒頭から「このEPはこれまでの田村ゆかり作品とは違うぞ」と強く印象付けるような1曲になっているかと思います。

田村 デモを聴くとき、私は歌う人なのでメロを重視しなくちゃいけないと思うんですけど、リョウさんの曲はまだメロも始まってない1音目のポロンで「はあ、好き」ってなっちゃうんですよ(笑)。この曲もそうです。先に聴いたマネージャーも「これ絶対ゆかりさんが好きな曲だと思ってた」って(笑)。歌が入る前から「好きー」ってなって、歌メロが始まってからも「やっぱ好き」で……亮祐さんの仮歌がまたうまいんですよ! めちゃくちゃうまくて、声に雰囲気があって、選んでいる言葉もすごくいい。総合的に「ハイ好きー!」ってなっちゃって。

──(笑)。やりとりはディレクターとのメールベースとおっしゃってましたけど、つまりこういった感想を直接聞くのは初めてなんですよね? どうですか、この至近距離で褒めちぎられるのは。

川島 鳥肌がすごいです。

田村 アハハハハハ!

川島 今初めて聞いてるから。3年分のそれを初めて。

サクマ (笑)。僕はミックスチェックのときに少し聞いたりはしてましたけど。

田村 1曲目をどれにするかはけっこう迷ったんですよ。6曲中3曲くらいが候補で。でも結局、私が最初にデモを聴いたときの「ハイ好きー!」の衝撃をみんなにも味わってほしくて「金魚」にしました(笑)。ただ今回、実はリリースよりも先にライブで歌うので(※11月19日に神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで開催された「17才だよ?! おとなのゆかりちゃん祭り@高円寺」にて初披露された)、先にラジオでかけちゃうんですよ。

──それも田村さんとしては異例ですね。

田村 そうなんですよ。いつもアルバムの1曲目は絶対に発売日まで一切情報を出さないんですけど。発売もされてないのにイベントで4曲歌っちゃう(笑)。

──サウンド面だけでなく、歌詞も具体的なオーダーはなく自由に?

川島 はい。僕がディレクターさんに最初に言われたのは「“田村ゆかり”というイメージを壊すつもりで歌詞を書いてください」というひと言で。だから……これは本当に例外で、普段ほかのアーティストさんに曲を書くときは、その人がどんなアーティストなのか、ファンがどんな方なのか、背景を調べたうえで書くんですけど、今回は普段ならやらない我を出す書き方をしてみようと。サクマの書く曲は、カッコよく言うと「意思を持って生まれてくる曲」とそうじゃない曲があるんです。そうじゃない場合は歌詞で意味を補完してあげる。意思を持った曲は、聴いただけでイメージが湧くんですよ。こういうシーンだなというのが浮かぶから、ただそれを書くだけ。「金魚」はそれでいうと意思を持った曲で、水の中でゆらゆらと揺れる日差しがすぐに見えたので、そこから着想を得て膨らませていきました。

田村 私、この歌詞が本当に好きで。息が詰まるような“好き”の感情が描かれていて……まさに私が求めていた世界観だったんですよ。

──金魚をモチーフにした美しい描写ですよね。長年のバンド仲間である川島さんとサクマさんは、お互いに作詞家・作曲家として「成長したな」と感じることはありますか?

川島 僕はめちゃめちゃ感じてます。こういう曲も作れるようになったのか!っていう。偉そうな言い方になっちゃうけど(笑)、バンドの頃なら考えられないような曲がどんどん上がってくるので、わかりやすく成長を感じますね。

サクマ 僕の場合、今までが歌詞についての理解度が低すぎたので、作家としての仕事を続ける中で自分も歌詞を書くようになって、ようやく「あ、こいつすげえ」って気付きました(笑)。いい歌詞書けるやつだったんだなって。

川島 ありがとよ!(笑)

田村 アッハッハッハ!

今日はちょっと寝れねえな

──2曲目の「ワームホール・バスストップ」はこのEPの中で一番ライブ盛り上がりやすそうなダンスミュージックではありますが、サウンド的にはやはり一筋縄ではいかない、複雑かつ緻密なアレンジが印象的です。

サクマ そうですね。遊び心満載という感じで(笑)。

──先ほどのお話だと、最初に浮かんだのが「スーパーノヴァ」で、その次がこの「ワームホール・バスストップ」だったとのことでしたが。

サクマ バラード的な「スーパーノヴァ」が最初に浮かんだので、一旦極端に振り幅を取りたいなと。ゆかりさんのリアクションも知りたかったし。

田村 最初にいただいたデモからけっこう変わりましたよね?

サクマ 一番変わったのがこの曲かもしれないですね。それは亮祐から上がってきた歌詞がきっかけだったんですけど。最初は歌詞がどうなるかを考えず、ボーカルに加工を加えたりとか、とにかく遊べるだけ遊ぶ曲にしようとだけ考えて作ったんです。そのあと亮祐から「ワームホール・バスストップ」というタイトルと歌詞が届いて、宇宙的なイメージとバスストップという日常的なシチュエーションが合わさった不思議な歌詞に、曲としてももうちょっとリンクできないかなと。間奏のカオティックな部分はワームホールに飛び込んでいるイメージで、ここだけ5拍子にしてみたり、片やAメロはタイトなロックで日常感を出してみたり。歌詞との相乗効果で曲が膨らんでいくのが楽しかったですね。

田村 私、この曲は最初あまり理解できなかったんですよ(笑)。でも、せっかく私に合うだろうと作ってくださったのだからと一度プリプロで試しに歌ってみたんです。そしたら「けっこう合うかもな」と思ったので正式に進めてもらうようお願いしたんですけど……次に上がってきたらまた全然違う形になってた。今リョウさんがおっしゃってたことは、私が疑問に思っていたところだったので、トラックダウンのときにお聞きしたんですよ。「歌詞とアレンジはどっちが先だったんですか?」って。相乗効果でこうなったと聞いて、面白いなあと思いました。

──これはミックスの妙かもしれませんが、アレンジはカオティックでいろんな音が鳴っているのに、田村さんのボーカルがすごく立っているのも印象的でした。

サクマ それはゆかりさんの声のパワーが大きいんだと思います。だからこそ好き勝手できるというか。アウトプットがゆかりさんだから、こちらが何をやっても「田村ゆかりの曲」になるという安心感がある。

田村 でも私は、レコーディングのときにいつも「あー、亮祐さんみたいに全然ならない!」って落ち込むんですよ。デモの仮歌があまりにもいいから。絶対に亮祐さんのボーカルで出したほうがいいっていつも言ってる(笑)。「こんな声で、こんなに上手に歌えたら楽しいだろうな」って。私だけの特典として亮祐さんバージョンのアルバムを持ってるんですよ。

川島 ……今日はちょっと寝れねえな(笑)。うれしいですけど、それはリョウの言った通りで、ゆかりさんの歌だからこそ成立しているんですよ。

ライブ終わりの余韻を感じられるバラード

──3曲目の「夢のあと」はメロトロン風のストリングスや逆再生などサクマさんらしい細かい引っかかりはたくさんありつつも、アコースティックギターを主体にしたシンプルで美しいバラードですね。

サクマ シンプルで落ち着いた曲が欲しいなと思って作った曲です。体温を感じられたらいいな、というのがこの曲のテーマで、アコギもマイクに近付けて弦の上を指が滑る音も拾ってみたり。それだけだと寂しすぎるなと思って、対照的に奥のほうで鳴っている音を足して空間を広く感じられるように仕上げていきました。これも歌詞が付いて曲のグレードが一段上がったなと思いましたね。ライブのあとのいい余韻を感じられるような。僕はそう解釈したんですけど……(川島に向かって)合ってます?

川島 その通りです(笑)。これはさっきの「意思を持っている曲 / 持っていない曲」で言うと後者だけど、リョウが言った体温というのは伝わってきて。じゃあ、ゆかりさんにこの曲でどんなことを歌ってもらうのがいいかな?と考えたときに、ライブ後の余韻……それを夜に子守唄のように聴けるといいな、というイメージが湧いて書き進めていきました。もっと言うなら、ゆかりさん自身も、ライブのあとはお客さんからいろんなものを受け取ると思うんですよ。そういう余韻に、ゆかりさんも含めて浸れるような曲になればいいなって。

田村 今、お二人の話を聞いて「そうだったんだ」と思いました。私は全然違う解釈をしてたかも(笑)。好きな人に会いに行って、その帰り道……好きな人に会うという意味ではライブも同じかもしれないけど、もっとミニマムなラブソングとして捉えてました。

──こういう穏やかなバラードは田村さんの最近の音楽的嗜好とも合っているのかなと思いました。

田村 今までみたいな元気な曲は歌いたくない、というわけじゃないんですけど、いつまでも同じことを続けるのは無理だなと最近は感じていて。それは体力的な面も精神的な面もあると思いますが、お客さんも気持ちは成長してないけど肉体は成長しているので……。

──だいぶ柔らかく言いましたね(笑)。

田村 こういう落ち着いた曲もやっていきたいなと思っていて、ちょうど舞台監督さんとも「ゆったりした曲を聴きたい人がゆったりと楽しめるライブもやってみたいね」って話していたんです。

田村ゆかり

田村ゆかり

実験だらけの尖り曲「逆蜻蛉」

──「夢のあと」で穏やかな気持ちになっていたら、次の「逆蜻蛉」ではまたぐちゃぐちゃにかき乱されるという。この曲が一番やりたい放題で、何をやってるんだろうと思いました。

田村 アハハハハ!

──なんと言えばいいのか、インダストリアルノイズミュージック……?

川島 インダストリアルノイズミュージック(笑)。いや、その通りですね。しっくりきました。

サクマ これは最後にできた曲ですね。5曲まで作り終えたところで「あと1曲、どういう感じにすればいいんだろう?」とけっこう悩んで。ディレクターさんに相談したら「尖った曲が欲しい」と言われたので「じゃあ、尖らせてみっか」と(笑)。

──なるほど。何か音楽的なリファレンスはあったんですか?

サクマ なかったです。自分の中の尖り要素を全部詰め込んでみたんですけど……自分でもよくわからない。これも歌詞ができてからイメージが固まって、どんどん歌詞に寄せていった感じですね。A→B→サビと来て2番以降をどうしようかと思っていたんだけど、「逆蜻蛉」だからサビ→B→Aにしちゃおうと。そんなのやったことないし、やるなら今しかねえ!と。「今この瞬間しかこういう曲をやれることはねえ」と思って、思いつく限りのことを全部やってみました。

──田村ゆかりを実験体に(笑)。曲も異様だし、歌詞も相当変ですよね。

田村 異様(笑)。私は最初のデモを聴いた段階で好きな感じだったので、もう何も言ってないです。「ご自由に」って。

──タイトルから不思議ですけど、「逆蜻蛉」と書いて……。

川島 「さかとんぼ」と読みます。リョウから曲作りの最中に「逆再生の音を入れたら面白そうだなと思ってる」というアイデアだけ聞いていて、だったらその“逆”をテーマに歌詞を書いてみようと。歌詞を上から読むとAという意味になるんだけど、下から読むとBという意味になる歌詞にしてみたり。

──バンドのときもそんな実験的なことはやってないですよね。すごい覚醒してるじゃないですか。実験体・田村ゆかりを媒介に。

川島 すみませんでした(笑)。