ナタリー PowerPush - たむらぱん feat. Shing02

奇跡のコラボ「でもない」対談

5thアルバム「wordwide」を10月24日にリリースするたむらぱんと、このアルバムの収録曲「でもない feat. Shing02」に参加しているShing02の対談が実現! Myspaceを通じて知り合い、交流を深めてきた2人が、ニューヨークで行われた「でもない feat. Shing02」セッション時のエピソードからお互いの音楽観まで、きわめて興味深いトークを繰り広げた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 広川智基

大切なのは声や雰囲気の魅力

──たむらぱんさんとShing02さんの交流が始まったのはいつ頃ですか?

たむらぱん 2006年くらいですね。私がMyspaceを通じてメッセージを送ったんですよ、勝手に。私もMyspaceを始めたばかりだったりで、本当に本人かどうかもさっぱりわからなかったんですけど、「私も音楽をやってます。良かったら聴いてみてください」ってメッセージを送って。そうしたら、すごく丁寧に返してくれて。

Shing02 Myspaceのサービスが始まって、人気が出始めた頃ですよね。ジャンルを問わずアーティストが自分のページを持って直接連絡を取り合えるっていうのは、ある程度斬新だったと思うんですよ。実際そこで出会いもたくさん生まれたし、たむらさんを含めていろんな人とつながることができて。テクノロジーが移り変わっていく中でそういう出会いが生まれたっていうのは、やっぱり新鮮だったと思いますね。今はコンタクトが取りやすすぎて、1つひとつのメッセージを真剣に読めないような感じですからね。ラッキーだったと思いますよ、あのタイミングでいろんな人とつながれたのは。

たむらぱん アニメーターの人とか、音楽じゃない人たちとも「一緒に何か作れたらいいね」っていう感じでつながれたし、自分にとっても画期的でした。今はちょっと違う感じですよね、確かに。もちろんきっかけは大事にしたいなとは思いますけど。

──実際に会ったのは?

たむらぱん Shing02さんが日本でライブをやったときかな?

Shing02 いや、僕のほうが先にたむらさんのライブを観に行ったんですよ。大阪かどこかの小さいクラブで。

たむらぱん あ、思い出した(笑)。

Shing02 そのとき既にデータのやりとりをしながら曲に参加してもらってたんですよ。そのお礼を含めて。

──Shing02さんのアルバム「歪曲」に収録されている「接近」にたむらぱんさんが参加されてますよね。Shing02さんは彼女の音楽に対してはどんな印象を持ってましたか?

Shing02 音楽の印象というよりも、声がいい、雰囲気がいいということですよね。普段からそうなんですよ。トラックがどうこうって細かく分析するんじゃなくて、その人の声や雰囲気に魅力を感じたら、一緒にやりたいなって思うので。

全てが良いタイミングで進んでいった

──「でもない feat. Shing02」のセッションはどのようにして始まったんですか?

たむらぱん 私から「一緒にやりたい」って言ったんですけどそれも直感ですね。もちろん「もう一度Shing02さんと音楽をやりたい」っていう気持ちはあったんですけど、この曲の原型ができたときに「あ、この曲だ!」って思って。なんていうか「こういうジャンルの音楽をやっている人」という先入観を持たないで、感じたままに対応してくれる人と一緒にやりたいんですよ。日本で活動していると、どうしてもジャンルによって分かれてるところがあるし、いくら自分が広げたいと思っても、なかなか大変だったりするんですよね。Shing02さんはいつもフラットに見てくれるし、それが一緒にやりたいと思った1つの理由です。せっかくだったら、Shing02さんのサウンドを体験させてほしいっていうのもあったし。

Shing02 環境を変えることで、新しい感性が生まれてくることもあるからね。今回の曲も、結果的にすごく面白いものになったと思います。実際に作り始めたときは「2人で何かやる」ということ以外はほぼ何も決まってない状態だったんですよ。でも全てがすごく良いタイミングで進んでいって。

──そもそも、どうしてニューヨークでレコーディングすることにしたんですか?

Shing02 自分は今ロサンゼルスに住んでるんですけど、たまたまニューヨークに行く用事があったので「どっちがいい?」ってたむらさんに訊いて。そうしたら「ニューヨークでやりたい」と。で、まずはLAで一緒に曲を作っているNightShiftというプロデューサーと土台となるものを作ったんです。そのあとニューヨークに行って「どんなミュージシャンを呼びたいですか?」という話をして。ビブラフォンとフルートを演奏してくれた山本祐介もその1人ですよね。さらにたむらさんから「チェロを入れたい」という要望があって……。

たむらぱん そうです(笑)。

Shing02 一度だけコンタクトを取ったことのあるチェリストのことを思い出して、連絡を取ってみたんです。彼は歌もすごくうまい、天才的なミュージシャンなんですけど、すぐに「いいよ」っていう答えが返ってきて。何カ月も前から綿密に計画していたわけではなく、素晴らしいミュージシャンが力を貸してくれて、むしろ勢いで決まっていったんですよね。

たむらぱん 面白かったですね。そういうやり方は初めてだったし。

Shing02 それがいいところなんですよね、ニューヨークの。ジャンルに関係なく、いろんな才能を持ってる人たちが集まっているっていう。あとはタイミングなんですよ、ホントに。

初日は切符の買い方から

──そういえばたむらぱんさんはShing02さんに「『爆笑とかするの?』って訊いてみた」って言ってましたよね。

たむらぱん そうそう(笑)。Shing02さんも大笑いとかするのかな?って素朴に思うじゃないですか。そういうこと訊いたこともあんまりなかったし。

Shing02 まあ笑いの種類にもよりますよね。ジャンルがあるじゃないですか、笑いにも。

たむらぱん お笑いとかも意外と観てたりするみたいで(笑)。あと街を歩いてみたり……。初めてだったんですよ、ニューヨーク。だからShing02さんにガイドしてもらって。

Shing02 まずはそこから(笑)。ニューヨークって街が全部碁盤の目みたいになってるから、いきなり方角がわからなくなっちゃうんです。サブウェイから出てきて「あれ? どっち?」っていう。

たむらぱん 初日はとりあえず切符の買い方から教えてもらいました。

Shing02 メトロもわかりづらいからね、最初は。

たむらぱん あ、そうだ。メトロの標識がいたずらされてたんですよ。

Shing02 MがVになってたんですよね。俺もニューヨークに住んでるわけじゃないし、しょっちゅう工事してるから、ちょっと混同しちゃって。「え、V線なんかあったっけ?」って(笑)。

たむらぱん それだけでパニックですよ。

Shing02 スタジオも3カ所くらい使ったんですよね。ブルックリンにあるスタジオが2カ所と、あとはハーレムにあるスタジオ。あとね、気候も良かったんです。最初は春にやろうって言ってたんだけど、僕が忙しくて7月にズレ込んだので。それもタイミングですよね。

ニューアルバム「wordwide」/ 2012年10月24日発売 / 日本コロムビア

CD収録曲
  1. new world
  2. おしごと
  3. でんわ
  4. ぼくの
  5. はだし
  6. ST
  7. ふれる
  8. 直球
  9. ヘニョリータ
  10. ポーズ
  11. 知らない
  12. でもない feat.Shing02
初回限定盤A DVD収録内容
  • TAMURAPAN 5th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE(※16曲約70分収録)
初回限定盤B DVD収録内容
  • TAMURAPAN Music Video Collection
たむらぱん

作詞・作曲・アレンジはもちろん、アートワークまで手がけるマルチアーティスト・田村歩美のソロプロジェクト。2007年からMyspaceにおいて自ら楽曲プロモーションを開始し、日本初の「Myspace発メジャーデビューアーティスト」として、2008年4月に1stアルバム「ブタベスト」をリリースする。また自身の活動に加えて、松平健の「マツケンカレー」や、アイドルグループのbump.y、私立恵比寿中学などへの楽曲提供、さらにロッテ「Fit's」CM曲の歌唱など、多岐にわたる活動でその才能を発揮している。2012年10月に5thアルバム「wordwide」をリリース。

Shing02(しんごつー)

1975年生まれ、東京都出身のヒップホップアーティスト。日本のほかタンザニアやイギリスで少年時代を過ごし、15歳のときに暮らし始めた米カリフォルニアでヒップホップと出会う。1996年にMCとして日本での活動をスタート。1999年にリリースしたアルバム「緑黄色人種」がロングヒットを記録し、2008年には長年の構想を経て完成したアルバム「歪曲」をリリース。国内でのライブ活動を積極的に行いつつ、グローバルかつ独立した視点を持つリリックや変幻自在のスタイルで幅広い支持を獲得している。