音楽ナタリー Power Push - 瀧川ありさ

“同じ歩幅で歩けない私”だから歌える肯定ソング

私はとにかく終わってるんですよ!

──瀧川さんは何を誰に許されたいんでしょう?

「七つの大罪」のキャラクターになぞらえてみると、「七つの大罪」に出てくる登場人物はみんな罪を背負ってますけど、端から見たら悪いことは1つもしてないんですよ。何かを守るために罪を犯し、償っていたりする。それで言うと私も何かしらの罪を抱えて生きているからこそ、「七つの大罪」のストーリーに共感するんですけど……まあ、私はとにかく終わってるんですよ(笑)。

──あはははは(笑)。終わってますか!

はい! で、自分が終わってるから、さっきおっしゃっていた弁解の余地のない人、同情の余地のない人も実は大丈夫なんじゃないかと思ってるんです。そうは言っても私よりかはマシだろう、と。だからそういう人たちが落ち込んでたりとかすると「君が落ち込んでたら、私はどうなるの?」っていう気持ちになるんです。

──いろんな人に才能を認められてメジャーデビューして、アニメのテーマソングもたくさん任せてもらいながら、なんでそんなに自己評価が低いんでしょう?

昔から肯定できないんですよ、自分を。もうホントに人間としてどうしようもないと思ってて(笑)。

──“終わってる”上に“どうしようもない”って(笑)。

だってみんなちゃんと早起きして、満員電車に乗って会社や学校に行っているのに、私はただ家に引きこもって曲書いてるだけだし……。

──それは「職業柄」ってやつなんじゃないですか? Galileo Galileiのメンバーだって、ミュージシャンはみんな、基本的には家で曲を書いて暮らしている気が……。

そういえばそうですね。……あっ、わかった! 自分と似た境遇の人が身近にいないから、自分のことをダメだと思うのかもしれない。学生時代の友達もそうだし、外で出すれ違う人も、みんなちゃんと毎日早起きして勤めをしているし。基本的にそういう人たちしか目に入ってこないから、自分が恥ずかしくなって「生きててごめんなさい……」みたいな気持ちになってくるし、その思いを消化するために音楽やってるんだと思います。だからやっぱり「色褪せない瞳」は私がこんなにダメなのに、そんなに落ち込むなよっていう曲なんです。めっちゃ簡単に言うと(笑)。

──ははははは(笑)。

瀧川ありさ

でもホントにそうなんです。やりたくないことや、思わず自分を見失いそうなくらい向いていないことにも、ちゃんとがんばって取り組んでいる人を見ると、歌詞にある通り「君には君だけの特別な色があるのに」って思いますし。例えばみんな同じスーツを着て、同じように質問を答えている就活生を見て、個性を潰されたりしないのかなあって感じたり。みんなみたいに社会と折り合いが付けられないから、私は私のことはダメだとは思ってるんですけど、でも、就活みたいな事情のためにその人がその人らしい輝き方をしていないのを見るのもけっこうなストレスなんです。だから、みんなにも周りに惑わされずに、自分の色を信じてほしいなって思って歌詞を書きました。

──歌詞の中の「君」=私ではあるものの、まったくもって個人的なことを歌った歌詞ではない、と。

そうですね。歌詞の序盤に「君のようになりたいと 同じ歩幅で歩いたけど 気づけば息は上がって 初めてわかった」って書いたのもそういうことで。私にもそういう経験があるんですけど、みんなと同じように振る舞えば、私もみんなに追い付けるだろうと思っても、結局、身体も性格も違うから追い付けないこともあるわけで。

──走るのに向いてない人や、走らないほうがうまくやれる人もいるはずですよね。

そもそも走ることが誰にとっても正しいのか?っていう話はありますよね。そういう人が何かに追い立てられて走っても、息が上がって自己嫌悪に陥るだけだと思うから「別に歩いたっていいんですよ」「歩いてもできることはたくさんあるはずだよ」って言いたいんです。

──君には君の居場所があるし、君なりの活躍の仕方がある、と。

そう。幸せの考え方もそうだし。私くらいの年齢になると、そろそろ結婚する人が出てきて。当然みんなは幸せな結婚をしてるんだけど、それだけが幸せの形ではないだろうな、幸せの形も考え方もそれぞれだよなっていう気はしてるんです……そうは言いながらも、友達と一緒にいるときは引け目を感じるんですけどね(笑)。結婚する人もいるし、大学院とか出てて、ちゃんと会社で働いてる人もいるし。一緒に遊んでいるときは「なんか私だけこんな調子でごめんなさい」っていう気持ちになっちゃって。

曲だったらホントの話ができる

──とはいえ、瀧川さんは、いわゆる一流企業に入ってバリバリのキャリアウーマン、つまり“バリキャリ”になりたいわけではないですよね?

なれるものならなりたいですよ!(笑) でも小さい頃からクラスのみんながわーっと楽しんでいても楽しめないし、テストでいい点を取ることにも興味がなかったし、きっといい会社に就職できたとしても「私ってすごい」って思えないと思うんですよ。肩書きに興味がないから。できることなら「私すごいでしょ!」って胸を張りたいし、遊園地なんかに行ったら思いっきり楽しみたいし、合コンに行きまくってハシャぎまくりたいんですけど、なぜかそれができない性格で。

──「バリキャリになりたい」のではなくて「バリキャリになりたいと思える私になりたい」と(笑)。

そうですそうです(笑)。

──じゃあ中学時代から音楽を続けているのは……。

そんな私が唯一といってもいいかもしれないくらい、心から楽しめることだったからですね。

──ちなみに「私は平均的な幸せみたいなものを求めていないのかも」って気付いたきっかけってあります?

小学生の頃かなあ。なんか当時から、みんながなあなあで済ませていることや、スルーすること、折り合いを付けていることを、そのままでは済ませられなくて。今思い返すと、ではあるんですけど、あの頃から自分は1つひとつ清算しなきゃやっていけなかったんだろうなっていう気はしています。まあ母親から「そういうところに幸せを感じられないから曲が書けるのよ」って励ましてもらってるので私はこれでいいのかな?とも思うし、がんばれるんですけど。実際、曲だったらこういう本音の話ができるっていうか、人とは面と向かって話せない部分を表現できるんですよね。

──ともすれば重たくなるかもしれないし、鼻で笑われてしまうかもしれない内面的な話も文字通り“ポップ”に聴かせられるのがポップミュージックですもんね。だから今のお話を聞いて、この歌詞がより切実でリアルに感じられるようになりました。ホントに瀧川さんにとってのリアルだから。

この曲って私以外の誰かが歌ったら全然違って聞こえるかもしれないんですよね。ヒネくれてて、人とは同じ歩幅で歩けない私がこれを歌ってるからこそ意味があると思う。歌詞をパッと見たときに「キレイごとを歌ってるよ」って思う人もいるかもしれないんだけど、自分としてはそう思われてでも歌わなきゃいけないことだったので、やっぱり作ってよかったなって思います。

私の四畳半ソング「anything」

──すごく個人的な感想なんですけど、カップリング1曲目の「anything」の、このミニマムな感じはすごく好きです。

瀧川ありさ

ありがとうございます。これはやりたいことしかやってないだけにうれしいですね(笑)。「色褪せない瞳」では大きいことを歌っているの対して、「anything」は半径1m以内のことを歌ってる、私の四畳半ソングです。

──四畳半ソングなんだけど、ループを基調にしたアレンジはすごくスタイリッシュで。

「色褪せない瞳」は歌詞もメロディもアレンジも、この1年で変化してきた自分を表現した感じだったんですけど、「anything」はすべてにおいて昔からの自分のままというか。サウンドのタイプは「色褪せない瞳」と違うんですけど、どちらもそんなに難なく作れた気がします。

──今の私に内在されているものと、昔から内在されているものを表出させたわけだから。

そういう感じですね。

──で、もう1つのカップリング曲「Goodbye,I love you」は一転、けっこう豪快なギターロックです。

この曲は未来の私を表現したものかも。6月の東名阪ツアー経て「次のツアーはこういう曲でもっと盛り上がりたいな」と思って書いた曲なので。それこそ「色褪せない瞳」で歌っていることでもあるんですけど、ライブに来てくれる皆さんは仕事で大変な思いをすることもあるし、学生生活の中で悩みをたくさん抱えたりすることもあるわけで。そういう皆さんとせめてこの一瞬だけでも盛り上がれたらいいな、と思いながら作りました。

どんな本性が出るのか実験したい

──さてこのシングルを出したあとは、いよいよ2016年も後半戦に入ります。

そうですね。2016年の前半から中盤というか、この1年は自分であえて枠を作ろうと試行錯誤してたんですよ。

──瀧川ありさの音楽を形作りたかった、ということ?

そうなんです。アニメのタイアップをいただいたりもしたので、多くの人が聴くことを意識して曲を作っている部分もあったんですけど、今年の後半はそういう意識を取っ払ってみたくて。

──実際「自分のピュアな部分が出た曲だ」と言っていた「色褪せない瞳」が「七つの大罪」スタッフの耳に留まったわけだから、たぶん大衆性を意識しなくても、ちゃんと大衆的なものを作れるはずですしね。

そうですね。だから、私の中から大衆性みたいな意識を取っ払ったときに、どんな本性が出てくるのか実験をしてみたいんです。「これが私なんだよ」というものを音で表現したいというか。こうやって自分の思いをお話しするのは大好きなんですけど、でもミュージシャンである以上、ホントは音楽以外でで相手を納得させているようじゃダメなんですよ、とも思いますし。

──「さよならのゆくえ」リリース時のインタビューでもおっしゃってましたもんね。楽曲やライブを通じて自身のスタンスを伝えられるアーティストに憧れるって。

はい。

──これだけ面白いお話のできる方だけに、我々としてはこれからも言葉を存分に駆使していただきたいんですけど(笑)、具体的には何をすれば音だけでリスナーを納得させられると思います?

やっぱりアルバム……ですかね。

──確かに。

実際に動いているところだったりもするので、楽しみにしていてください。

二ューシングル「色褪せない瞳」/ 2016年9月7日発売 / SME Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / SECL-1971~2
通常盤 [CD] / 1300円 / SECL-1970
CD収録曲
  1. 色褪せない瞳
  2. anything
  3. Goodbye,I love you
  4. 色褪せない瞳 -Instrumental-
期間生産限定盤DVD収録内容
  • 色褪せない瞳 Music Video
瀧川ありさ(タキガワアリサ)

1991年5月生まれ、東京出身のシンガーソングライター。幼少期より音楽に親しみ、中学2年生のときからバンド活動を開始した。高校卒業と前後してバンドが解散すると1年のブランクののち、ソロアーティストとして活動を再開する。2015年3月にアニメ「七つの大罪」のエンディングテーマ「Season」を収録したシングルでメジャーデビュー。7月に2ndシングル「夏の花」、11月にはアニメ「終物語」のエンディングテーマに採用された3rdシングル「さよならのゆくえ」を発表する。2016年4月に4枚目のシングル「Again」、9月にアニメ「七つの大罪 聖戦の予兆」のエンディングテーマ「色褪せない瞳」を収録したシングルをリリース。