「チーム竹達」は「いいモンキーズ」

──前回のインタビューでも言いましたが、レコーディングでは竹達さんが歌入れだけじゃなく、楽器の録音時にもスタジオを訪れていたという話が印象的で。声優アーティストの場合は声優業をこなしながらの音楽活動なので、なかなかそこまで作業に携わる方もいないんじゃないかと。

沖井　僕はそれで「このプロジェクトは要するにそのつもりなんだな」というのがよくわかったというか。竹達彩奈のソロなんだけど、要は「チーム竹達」なんですよ。みんなでコンセンサスを取って「竹達彩奈」をしっかり作っていく。分業ではなく真ん中にちゃんと「竹達彩奈」があって、竹達さん自身も我々がどういうものを作っているのかを現場で確認しながら進めていく。「ここもうちょっとスネアが強いほうがいいよね」とか「ベースは固いほうがいいよね」という会話を聞いてると「ああ、この曲はもっと骨太になるのね」という、できあがったものに歌を入れるだけだと気付かないところにまで意識が向かうわけですよ。つまりこれは「いいモンキーズ」だと思うんですよね。

──おお、なるほど。THE MONKEES。

竹達　？

小林　完全に取り残されてますよ（笑）。「いい猿たち」だと思ってるでしょう。

竹達　はい。私は猿なのかーって（笑）。

沖井　昔アメリカにTHE MONKEESというアイドルグループがいてね、それが非常にいいプロジェクトなんですよ。僕はそれをいつも理想にしてるんですけど……いいや、THE MONKEESの解説はあとでしてあげる（笑）。本人を含むプロジェクトの全員がひとつの目標を見据えて、アーティストの全体像を作り上げるという。このプロジェクトも「とてもいいモンキーズ」だなあと。

──プロジェクトが実際に動き出してから見えてきたもの、それにより変わったことなどはありますか？

小林　やろうとしていることは今も変わらないんですね。細かい部分のちょっとしたパーセンテージが変わったぐらいで。沖井さんが言ったように、みんなが同じ方向を向いて1曲ずつ山を登っていきながら、素晴らしいものができていると思います。

フェーダーでいくら下げても聴こえちゃう声

──竹達さんの歌声に着目すると、かなり特徴的な声を持っていますよね。この声について2人がどのように感じているのかすごく興味があります。

小林　やっぱり声優さんだからなのか、言葉を伝える能力が並外れているわけですよ。歌声はレコーディングのたびに「ヘンな声してんなあ」とは思うんですけど。

竹達　ちょっとー!!

沖井　ふふふふふ（笑）。

小林　いや、例えばYUKIちゃんのような、なんとも形容しがたいキュートな歌声。僕の中ではその部類に入っています。

竹達　……でもヘンな声なんですよねー？

小林　なんだろ、どっから出てるかわかんない声をしてるんですよね。

沖井　僕はボーカリストの声も「音色」として、楽器の一部として捉えるところが昔からあって。竹達さんの場合は、普通に声を出した段階でバイオリンにグロッケンを重ねたような声なんですよ。隠れようがない、フェーダーでいくら下げても聴こえちゃう声。そういう声って実はとても希有で。どんだけフェーダーで持ち上げても立たない声ってのもあるんですよ。僕のように（笑）。こういう逃げも隠れもできない声を、聴いていてキツくなく歌えるようにするにはどうすればいいかというのは最初結構考えましたね。俊太郎くんが言ったように、そこにさらに言葉が乗っかると、言葉の印象が強くなりすぎてメロディの印象が消えちゃうんです。

──なるほど。

沖井　個性が強いからこそ、音楽的にするにはコツが要る。「Sinfonia! Sinfonia!!!」のときは結構時間がかかったじゃない？ 何度も歌ってもらって。

竹達　歌いましたねー。

沖井　最初は僕らも竹達さんも混乱したんですよ。でもあるタイミングで「これかもね」っていうのが見えて。それは僕じゃなく彼女が気付いたんです。「ごめんなさい、ちょっともう1回最初から歌います」って。そこからバーッと録れていったんですよね。それまではフラットに無表情に歌ったほうがいいのか、キャラソンでやってきたように表現力豊かに歌ってもらったほうがいいのか行きつ戻りつだったんだけど、その中間あたりにある「ボーカリスト」としての自分がつかめたんでしょうね。そのあと何曲も録ってきたけど、どんどん慣れてきているのがよーくわかるんですよ。

──……という話を直接聞いたことは？

竹達　今初めて聞きました。なんかドキドキしますね（笑）。

沖井　この声質をさらに活かすためにはどうしたらいいのか、こっちも研究するわけですよ。さっきも俊太郎くんと「こんな感じがやりたいんだよね」って今後のことを話してたんだけど、可能性はどんどん大きくなってますね。素材としてとても面白い。

──レコーディングを通して、またはシングル発売後にイベントなどで人前で歌ったりすることによって、竹達さん自身の中で何か発見はありましたか？

竹達　CDを出すたびに大きな課題があって、歌っていくうちにひとつずつ「あ、私ここが苦手だな」とか「この音は出しやすいな」とか、自分の得意なところと苦手なところがだんだんわかってきました。毎回新しい発見があるのはうれしいです。