貴水博之がファンとともに育んできた30年の絆「俺たち、もう死ぬまで一緒だよね?」 (3/3)

ほら見ろ、俺が早すぎたんだ

──そして、初回生産限定盤には「The Clip Histories」として14曲のミュージックビデオを収めたBlu-rayが付属します。撮影で印象に残っているエピソードなども聞かせていただけますか?

まずはやっぱり、キューバに行ったことですよね。「目を覚ませ」と「教えて」と「Mountain」かな。当時はまだかなり閉鎖的な雰囲気の国で、ちょっとしたアクシデントなんかも日常茶飯事でしたから。ヘミングウェイの「老人と海」のモデルになったおじいさまが健在でいらして、映像にも出てもらったりしてるんですけど、そんな貴重な経験も思い出に残っていますね。

──僕が個人的に好きなのは「ride on love.」なんですが……。

ええー! ホントですか?

──「ホントですか」ってどういうことですか(笑)。ファンタジックで美しい映像じゃないですか。

よかったー。「ride on love.」は今の事務所に移籍してきて第1弾のメモリアルな曲で、春畑さんに初めて書いていただいた曲でもあるし、自分的にもすごく思い出深い1曲ですね。ソロキャリアの中ではここまでJ-POPらしいJ-POP曲をあまりやってきていなかったですし、新たな挑戦でもありました。

──「Believe,」の映像も面白いです。ちょっと刑事ドラマ風と言いますか。

あれは男性ファンを取り込みたい気持ちがあったんですよ。僕のファン層というのは98%ぐらいが女性なので、もうちょっと男性にも共感してもらえる楽曲にしたいなと。そうしたらですね、これを観てくださった映画関係の方が「『湾岸ミッドナイト』の主人公にピッタリだ!」と思ってくださったみたいで、これをきっかけに「湾岸ミッドナイト リターン」という作品で主演をやらせてもらったんですよ。いろんなつながりが生まれるもんだなあと。

──いろんな映像を撮っておくものですね。

そうですね(笑)。一応その時代時代を先取りしたファッションとかヘアスタイルとかにも挑戦してきているので、その記録としても楽しんでもらえたらなと思います。当時、一部のファンの方からは不評だったりもしたんですけど(笑)、のちに菅田将暉さんとかが似たようなパーマをかけたりしているわけですから。だから最近のライブでは「ほら見ろ、俺が早すぎたんだ」って言ったりしています(笑)。

照れくさくて言えなかったことも今だったら普通に言える

──そして9月に行われるビルボードライブツアーに合わせて、新曲「With you」がリリースされます。さっそく聴かせていただきましたが、これまた攻めた1曲と言いますか……。

そうなんです。自分的にはかなり攻めたんですよ。「I&I」から30年が経ち、初めてのビルボードライブに挑戦させていただくタイミングでの新曲ということで、これまでにもターニングポイントごとに曲を作っていただいてきた春畑さんにぜひお願いしたいと。新たな試みとしてはですね、いつもよりキーをちょっと下げてるんですよ。あえて。ファンの皆さんへの思いがストレートに伝わるよう、少し低めのキーで歌っています。

──しかもタイトルからして超ストレートど真ん中ですよね。

もはや、30年以上もファンのみんなと一緒にいると「俺たち、もう一緒だよな」っていう感じになってくるんですよ。若い頃は「ずっと一緒にいようね」とわざわざ言わなければいけなかったりするんだけど、僕らぐらいになると「俺たち、もう死ぬまで一緒だよね?」っていう(笑)、そこになんの疑念もないわけですよ。昔だったら照れくさくて言えなかったようなことも今だったら普通に言えるよね、っていうのもあるし。

──サウンド的にもかなり攻めてるなと感じました。ここまで90年代J-POPなサウンドって今なかなか聴けないので、むしろものすごく新鮮で。

アレンジはいつも一緒にやってもらっている清水武仁さんにお願いしました。今の僕にとっては90年代のサウンドがまた新鮮に感じる、みたいなところがあるので、そこをバーンとやりたいなと。コロナ禍を経た今の時代に響かせるのは、やっぱり希望に満ちた音だろうということで。

──と同時に、「I&I」の新録バージョンも録音されたそうで。

そうなんです。今回の一連の流れはすべて「I&I」30周年ということだったので、これは絶対にやりたいなと最初から思っていて。それで、今回の新録バージョンではBPMを1だけ上げさせていただいて。

──へえー! それはどういう意図で?

最初にアレンジしてもらった新録版のデモを聴いたときに、原曲と同じテンポだったんですけど「どうもノロい!」と思っちゃって(笑)。で、調整してもらって、2上げると速すぎる。1上げると今の僕にはちょうどいい……「変わんないじゃん」とは言われるんだけど、違うんですよね。この1が全然違うんです。このテンポにしたことで、今伝えたいテンション感を表現できたかなと思っています。

──それは面白いですね。普通は歳を重ねることで適正BPMって落ちていくものだと思うんですけど、逆に上がるというのは。

ああ、なるほど。でも、昔から思ってはいたんですよ。ちょっと遅いなって。そのとき言えよって話なんですけど(笑)。

──(笑)。そうか、ということは“あるべき姿”に戻ったとも言えるわけですね。

そうですね。今は思ったことを言えるようになったんで(笑)。

──では最後に、ビルボードライブツアーへの意気込みを聞かせてください。

本当にありがたい限りで、横浜、大阪、東京と合計10公演開催ということで……身が引き締まる思いです。今回はサックス奏者を含む生バンド編成で、ビルボードライブならではのアレンジを施して臨みますので、ぜひ今の僕の“丸裸の歌声”を聴いていただきたいなと思っています。

──「丸裸の歌声を聴いてくれ」と言えるようになったのも、「もう一緒だよな」のマインドがあってこそなんじゃないですか?

人って歳を重ねると、削ぎ落とされるか余計に斜に構えるかのどっちかに行くと思うんですよ。僕はどっちかというと、斜に構えるのが面倒くさくなってしまったんです。

──面倒くさくなった(笑)。

素でいたほうが、ダメな部分をさらけ出したうえで改善していけるのかな、という気が最近はすごくするんです。だからファンの皆さんには素の自分を見せていきたい気持ちはあるんですけど、とは言え“カッコいい貴水博之”でもいないといけない。カッコつけないで支持してもらうというのは、一番難しいことだと思うんですよね。

──それはつまり「飾らずともカッコいい自分でいなければいけない」という、一段上の覚悟でもあるわけですよね。

そうですね。そこはもう、日々の鍛錬なんだろうなと思っています。

貴水博之

公演情報

HIROYUKI TAKAMI With You 30th Anniversary Billboard Live

  • 2025年9月6日(土)神奈川県 ビルボードライブ横浜
    [1stステージ]OPEN 14:00 / START 15:00
    [2ndステージ]OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2025年9月7日(日)神奈川県 ビルボードライブ横浜
    [1stステージ]OPEN 14:00 / START 15:00
    [2ndステージ]OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2025年9月20日(土)大阪府 ビルボードライブ大阪
    [1stステージ]OPEN 14:00 / START 15:00
    [2ndステージ]OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2025年9月21日(日)大阪府 ビルボードライブ大阪
    [1stステージ]OPEN 14:00 / START 15:00
    [2ndステージ]OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2025年9月28日(日)東京都 ビルボードライブ東京
    [1stステージ]OPEN 14:00 / START 15:00
    [2ndステージ]OPEN 17:00 / START 18:00

プロフィール

貴水博之(タカミヒロユキ)

浅倉大介とのユニットaccessのボーカリストとして1992年にシングル「VIRGIN EMOTION」でデビュー。1995年、ソロシングル「I&I」をリリース。以降、歌手活動のほか多数のミュージカルやストレートプレイに出演し、新しい魅力を開花させる。2016年10月から2017年8月まで放送されたテレビ朝日系『仮面ライダーエグゼイド』に檀正宗 / 仮面ライダークロノス役で出演。ソロ活動30周年を記念して、2025年8月に自らの選曲によるヒストリーアルバム「HIROYUKI TAKAMI THE HISTORIES」をリリースした。また9月6日の神奈川・ビルボードライブ横浜を皮切りに、神奈川、大阪、東京にて自身初のビルボードライブ公演を行う。