貴水博之がファンとともに育んできた30年の絆「俺たち、もう死ぬまで一緒だよね?」 (2/3)

ロックかポップか、いまだに悩んでいる

──そうやって進んできた貴水さんの30年間をパッケージした「HIROYUKI TAKAMI THE HISTORIES」ですが、選曲もご自身でされたということで。

そうですね。これまでにいろんなことを吸収しながら発信してきたものを、1つの形としてまとめられるのはすごくありがたいことだなと思って。そういうお話をいただいたからには、一番いい形で皆さんにお届けできたらなと考えて、「ロックサイド」と「ポップサイド」にセパレートして2枚組という形にするのが面白いんじゃないかと提案させていただきました。

──単に時系列でリリース順にまとめるのではなく。

ええ。ディスク1の「The Rock Histories」のほうは、現時点における貴水博之というアーティストの完成形に近い楽曲をまとめたものです。僕のことを知らない方や、バラエティ番組に出ている僕しか知らない方に聴いていただいても「貴水博之とはどういうアーティストなのか」が一発で伝わる選曲にしたいなと。それに対してディスク2の「The Pop Histories」は、どちらかというと振り幅に富んだ挑戦の記録という感じです。

──個人的に興味深いなと思ったのが、どちらにもバラード曲が含まれますよね。これはつまり“ロックな気持ちで歌うバラード”と“ポップな気持ちで歌うバラード”が貴水さんの中で明確に分かれているということなんでしょうか。

その線引きが、少なくとも僕の中にはあるんですよ。そもそも「貴水博之はロックを歌うべきなのかポップを歌うべきなのか」って、いまだに悩んでるんです(笑)。まあ両方をお届けすればいいじゃないかというところに着地はしてるんだけども……歌うときの気持ちが“攻めてる”寄りなのか、“優しい”寄りなのかという違いなのかもしれないですね。

──ただ、悩んでいると言いつつも表現としてはしっかり突き抜けていますよね。ロックサイドで言えば「accessの人がロックっぽいものを歌ってみました」というレベルでは全然ない、ゴリゴリのロック曲が多い。

まあそうですね。僕はもともとLed Zeppelinやジム・モリソンなどの70年代ロックがすごく好きだったし、90年代当時もレニー・クラヴィッツがすごく好きだったりしたので、そのムードは反映されていると思います。

──特に「New Days」なんかは、いきなりファズギターで始まるブルースロックですよね。当時のオーバーグラウンドのJ-POPシーンにはまったくなかった音だと思います。

「New Days」はレニー・クラヴィッツとの共演で知られるクレイグ・ロスというギタリストが作ってくれた曲です。当時の僕のディレクターがアグレッシブなタイプの人で、クレイグ・ロスに「こういう曲を作ってほしい」と直球で連絡したら「いいよ」と言ってもらえたみたいで(笑)。それでロンドンまで行って、あの街並みを見ながら歌詞を書いて、レコーディングして。すごく楽しかったですね。

貴水博之

楽曲の振れ幅は広いけれど、まったく矛盾していない

──一方のポップサイドでは、先ほどおっしゃった通り実験精神にあふれたものが多いですね。「I&I」がそもそもそうですけど、ほかにも多彩な楽曲に挑戦していて。

挑戦できるものはなんでもしてきた結果ですね。例えば13曲目の「風」という曲は、野外にマイクを立ててレコーディングしたんですよ。今だったら面倒くさくて絶対やらないんですけど(笑)。いろいろ実験的にやっていた時期でしたね。

──「風」は特に異彩を放つ1曲、という印象もあります。

そうですね、なんだろうな……こういうことを言って気持ち悪がられちゃったら嫌なんですけど、僕は意外と神と対話するのが好きで。別にスピリチュアルキャラを押し出すつもりはないんだけど(笑)、けっこう輪廻とかを感じるタイプなんですよ。こういう宇宙的なテーマを歌うのも好きだったりしますね。

──かと思えば、ものすごく日常的な風景を歌ったりもしますよね。「目を覚ませ」であったり。

「目を覚ませ」はそうですね。この当時は本当に朝起きるのが面倒くさかったんで、自分を元気付けられるような曲を作りたいなと思って。歳を重ねた今となっては、逆に朝は早すぎるくらいの時間に起きちゃうようになったんですけどね(笑)。

──そうしたテーマの振れ幅については、ご自身の中ではまったく矛盾しないわけですよね。

そうですね。確かに楽曲の振れ幅は広いですけど、自分の中では、まったく矛盾していない。なんなら同じことを歌っているぐらいの気持ちで歌詞は書いていますね。

──あとはやはり、「サン!サン!サマー!」(テレビ東京系「しまじろう ヘソカ」挿入歌)がとにかくスペシャルに異彩を放っていますよね。これがレパートリーに含まれる、しかも自選ベストに収録されてしまうシンガーは貴水さんくらいじゃないかと思います。

「サン!サン!サマー!」は子供向け番組の挿入歌なので、裏設定として“タカミヒロユキお兄さん”というキャラクターを設けていまして。よい子の皆さんに聴いていただくうえで最大限に優しさマックスの貴水博之でお届けしました(笑)。いつも素敵な曲を作ってくれているTUBEの春畑道哉さんに書いていただいたキャッチーなメロディが素晴らしいですし、これは大ちゃんも「僕、この曲すごく好き」と言ってくれましたね。