高垣彩陽|人と人の“縁”つながったカバーミニアルバム第4弾

オリジナリティを出すために

──「Ave Maria」と「Panis Angelicus」のアレンジは、後藤望友さんが手がけていますね。

そうなんです。後藤さんは、ホントに初期の頃からクラシカルアレンジですごくお世話になっていて。オーチャードホールのコンサートでも彼女が音楽監督、指揮、ピアノ演奏、そしてすべてのオーケストラアレンジを担当してくれたんです。今回の「Ave Maria」も「Panis Angelicus」も言わば古典派音楽なんですけど、伝統を重んじつつモダンなテイストを加えてくださって。私もこれまでいろんな「Ave Maria」と「Panis Angelicus」を聴いてきたんですけど、とても新鮮なアレンジにしてくださいました。

──おっしゃる通り、普段テレビなどで耳にするものとは一味違いますね。

どちらもピアノと弦のカルテットで演奏しているんですけど、だんだんと音が重なっていって、目の前に情景が広がっていくようで。とりわけ「Ave Maria」は始まり方からしてインパクトがあって、私も最初に聴いたときに「ええっ!?」ってドキッとしました。

──そのアレンジもさることながら、2曲目の「Panis Angelicus」では、高垣さんの声を多重録音してセルフ輪唱のようになるパートがありますよね。これも面白いなと。

「Panis Angelicus」は聖歌であり合唱曲なんですけど、ソリストがいて、その後ろに合唱団がいるというのが多いみたいなんです。それと差別化すると言うか、オリジナリティを出すために1人で歌ってみたいと思って。後藤さんのアレンジもあってとても素敵な1曲になりました。今回、「Ave Maria」も「Panis Angelicus」もラテン語で歌っているんです。特に「Panis Angelicus」は小学生の頃から好きな曲で、学生時代に散々歌っていたはずなんですけど、今回改めて歌詞をチェックしたら当時は歌詞を間違えて歌っていたことが判明しました(笑)。

──なんと(笑)。

そういったことも含めて、大人になってから改めてお勉強し直した感じもありましたね。

人と人のつながりが表れたアルバム

──先ほどミュージカルとクラシックにおける声の出し方の違いについてお話しされていましたが、冒頭の2曲を経て3曲目の「Happiness」を聴くとそれがよくわかりますね。

「Happiness」は11thシングル「Futurism」(2017年8月発売)のカップリング曲なんですけど、ちょうどそのシングルの制作中に私は「きみはいい人、チャーリー・ブラウン」というミュージカルに出演していて、その縁でミュージカルからこの曲を歌わせていただきました。「Happiness」は例えばソーセージの乗ったピザだったり、靴紐を上手に結べたことだったり、何気ない小さな幸せを見つけていく歌なので、最初のホーリーな2曲から日常へと切り替わる感じもありますね。

──続く「Journey to the past~心のままに~」は、小林香さん翻訳によるオリジナル日本語詞バージョンです。これは先ほどおっしゃった本作のテーマ“クラシックと日本語”の“日本語”に関係するところですよね。

そうですね。この曲でも、いろんな縁がつながっているんですよ。今お話しした「きみはいい人、チャーリー・ブラウン」の演出と翻訳を担当してくださったのが小林香さんなんです。小林さんは2年前にオーチャードホールのコンサートを観に来てくださって、終演後にご挨拶した際に「英語の曲も素敵だけど、日本語の曲を歌ってみるのもいいんじゃない?」とアドバイスをいただいたんです。そのときに「もしまた『melodia』を作る機会があったら、ミュージカルの曲を小林さんに翻訳してもらって日本語で歌おう」と勝手に心の中で決めていたんです。

──2年前から温めていたと。

高垣彩陽

はい。「Journey to the past」はミュージカルアニメ映画「アナスタシア」の挿入歌なんですけど、翻訳の許諾手続きに思いのほか時間がかかってしまい、レコーディング前日になっても許可が下りなくて。スケジュールもないし、今回のアルバムに収録できるかわからない中録るしかなかったところ、翌日スタジオに行ったらスタッフさんが「さっき本国から返事がきました! 許諾、取れました!」と。

──よかったです。もし許可が下りないままモヤモヤした気持ちでレコーディングすることになったら……。

そうなんですよ。おっしゃる通り「歌ってもお蔵入りになっちゃうのかな。せっかく小林香さんに翻訳していただいたのに……」みたいなモヤモヤした気持ちを抱えたままスタジオに入ったんですけど、一転して「許諾、取れました!」と言われたときの開放感たるや(笑)。

──歌声もとても伸び伸びしていらっしゃいます。

ここ何年かでミュージカルのステージに立たせていただく機会が増えたので、そこで経験したこと、学んだことをこの曲に乗せたいという思いもありました。原曲の歌詞は「アナスタシア」のストーリーに沿った内容になっているんですけど、小林さんに翻訳していただいたことでより普遍的な、映画から独立した曲としても聴ける歌詞に生まれ変わっていたので、「大事に歌おう」という気持ちが湧き出してきましたね。

──ミュージカルやクラシックコンサートなど、声優業とは別のところで人のつながりができているのはすごいことですね。

ありがたいことですね。特に今回の「melodia 4」にはそれが顕著に表れていて、過去に縁のあった人たちが再び集まって新しいものを生み出しているという感覚があったんです。ホントに自分は人にも、タイミングにもとても恵まれているなと思います。

「自分の楽器とは二度と会えないと思って弾こう」

──5曲目の「Somewhere Out There」は先ほどお話に出たミュージカル「ひめゆり」で共演なさった松原剛志さんとのデュエットですね。

はい。「Somewhere Out There」も大好きな曲で、ずっと前からカバー曲の候補には入っていたんです。「アメリカ物語」というアニメーション映画の主題歌で、小さい頃にその映画をよく親が見せてくれたんです。

──いい親御さんですね。

ありがとうございます(笑)。私はディズニーやワーナー・ブラザースのアニメーションを観て育ってきたところがあって。デュエットではカバーしてこなかったんですけど、オーチャードホールのコンサートで初めて男性ボーカリストのMITSUAKIさんをお迎えして「A Whole New World」と「とびら開けて」を歌ったんです。それを経て、今回の「melodia 4」でもゲストボーカルをお呼びしようということになりました。でも、それが実現したのはホントに意外なご縁なんです。確かに松原剛志さんとは7月に「ひめゆり」でご一緒しているんですけど、そのときが初対面でしたし、まだ出会って1カ月くらいしか経っていなかった先輩に「今度デュエットしてください」といきなりお願いするのも失礼ではないかしらと。

高垣彩陽

──なるほど。そう単純な話ではなかったんですね。

はい。実は、「Somewhere Out There」のアレンジは私がスフィアでもソロでもお世話になっているキーボーディストの籠島裕昌さんが担当されているんですけど、その籠島さんと松原さんが以前から一緒にお仕事をされていたんです。

──へえ。そんなつながりが。

松原さんはミュージカルでも活躍されていて、「海賊戦隊ゴーカイジャー」をはじめとする戦隊ヒーローものの主題歌や挿入歌も歌っていらっしゃるので、そこで籠島さんとつながっていらっしゃったんです。その関係性の中で籠島さんが「この機会にせっかくの縁だから」と提案してくださって、籠島さんが間を取り持ってくださり、さらに松原さんも快諾してくださってデュエットが叶ったんです。「ひめゆり」では松原さんにお世話になりっぱなしで、ミュージカルに不慣れな私をお稽古のときから助けていただいてたんです。なので、いつかまたご一緒したいと思っていたんですけど、こんなに早いタイミングで実現できたのは籠島さんが「Somewhere Out There」のアレンジを担当されていたというご縁に恵まれたからでした。

──その籠島さんのアレンジも、弦楽四重奏が効いていますね。

素敵ですよね。その弦の音録りに立ち会ったときに、すごく印象的な出来事があったんです。カルテットをまとめてくれていたバイオリニストの地行美穂ちゃんが、レコーディング終盤に「間奏パートをもう一度トライしていいですか?」と言ってくれて。そのあと彼女がカルテットのメンバーにこう指示を出したんです。「この曲は、離れ離れになってもなお、お互いを慕い合っている2人の曲だから、私たちもこの演奏が終わったら自分の楽器とは二度と会えないと思って弾こう」と。

──熱いですね。

それを聞いてみんな口々に「えっ、やだよ……」「そんなの悲しい」とこぼしていて。ホントに皆さんにとって楽器は半身なんだなと思った瞬間でもあったんですけど、そこまで気持ちを追い込んで演奏してくれたのがOKテイクとして使われているので、ぜひそこにも耳を傾けていただきたいです。この曲に限らず「melodia 4」では制作に関わった皆さんがそれぞれのやり方で楽曲を膨らませてくださって、私もその気持ちを受け取ってレコーディングすることができました。

高垣彩陽「melodia 4」
2018年9月26日発売 / ミュージックレイン
高垣彩陽「melodia 4」

[CD]
2600円 / SMCL-560

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収録曲
  1. Ave Maria
  2. Panis Angelicus
  3. Happiness
  4. Journey to the past~心のままに~
  5. Somewhere Out There
  6. Can't Take My Eyes Off Of You
ライブ情報
LAWSON presents 高垣彩陽コンサート「Memoria×MelodiaⅡ」
  • 2018年10月7日(日)
    東京都 中野サンプラザホール
高垣彩陽(タカガキアヤヒ)
高垣彩陽
1985年10月25日生まれ、東京都出身の声優アーティスト。音楽大学の声楽科出身で、その歌唱力を生かし舞台女優としても活躍している。2005年から2006年にかけて行われた「第1回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、2006年2月に声優デビュー。2009年2月に同じミュージックレインに所属する寿美菜子、戸松遥、豊崎愛生と共に声優ユニット・スフィアを結成した。2010年7月にはシングル「君がいる場所」をリリースし、ソロデビュー。2011年11月にカバーミニアルバム「melodia」を発表し、12月に初のコンサートツアー「Memoria×Melodia」を東京・東京国際フォーラム ホールAと大阪・グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)で開催した。2013年4月に1stアルバム「relation」をリリース。その後もオリジナル楽曲はもちろん、カバーミニアルバム「melodia」をシリーズ化させ、定期的に音楽作品を発表する。2016年11月に東京・Bunkamuraオーチャードホールでソロコンサート「LAWSON presents 高垣彩陽クラシカルコンサート『Premio×Melodia』」を実施。2018年7月には「ひめゆり」でミュージカル初主演を務めた。9月にカバーミニアルバム第4弾「melodia 4」をリリースし、10月に東京・中野サンプラザホールでコンサート「LAWSON presents 高垣彩陽コンサート『Memoria×MelodiaⅡ』」を行う。