「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET 2025」特集|アジアンポップカルチャー躍進の鍵を関係者インタビューで探る (3/3)

王時思(TAICCA理事長)メールインタビュー

──先日終了した「2025 Japan × Taiwan Music Meet」ではどのような成果、手応えがありましたか?

台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(Taiwan Creative Content Agency、以下TAICCA)が日本で「Taiwan X Japan Music Meet」を開催するのは2年連続となります。台湾からは、音楽レーベル、音楽フェスのキュレーター、映像・音楽制作会社などの業界関係者、計14の社の業者が参加しました。IMCJおよびCUEWのご協力のもと、音楽レーベル、アーティストマネジメント、デジタルディストリビューター、音楽フェス主催者など、30社以上の日本企業にご参加いただき、台湾とのコラボレーションに対する日本側の高い関心と積極性を改めて感じる機会となりました。

昨年の交流会終了後には、台湾と日本の音楽人同士が互いのイベントに出演する具体的な成果も続々と生まれています。例えば、台湾のインディーズバンドMolly in Mountain(荒山茉莉)が、日本のバンド・JYOCHO主催の音楽フェス「超情緒大陸」に招待され出演した事例などがその1つです。今年の交流会をきっかけに、さらに多くのうれしいコラボ事例が生まれることを期待しています。

今回のイベントでは、台湾および日本それぞれの市場における実務経験の共有も行いました。特に日本のセッション「台日成功事例および日本市場の現況」では、chilldspot×LINION、WONK×9m88、Billyrrom×Wendy Wanderなどの台日コラボレーションを通じ、双方の市場においてアーティストの露出およびリスニング数が実質的に向上した事例が紹介されました。国際コラボレーションが音楽輸出に与える大きな効果を改めて実感するとともに、台湾の業者が世界へと歩み出すための新たなルートを模索し続ける重要性を再認識する機会となりました。

王時思(TAICCA理事長)

王時思(TAICCA理事長)

──近年、音楽に限らずポップカルチャーのグローバル化が各国で活発になっています。グローバル化の加速は、日本と台湾のエンタメ業界に具体的にどのような影響やビジネスチャンスを与えていると感じますか?

近年のポップカルチャーのグローバル化は、エンタテインメント産業に大きな変化とチャンスをもたらしています。3つの観点から捉えることができます。第一に、コンテンツの越境流通がより迅速かつ多様になったことです。ストリーミングプラットフォームの普及やSNSのグローバル化により、日本や台湾の音楽・ドラマ・IPに海外の観客が触れる機会が飛躍的に増えました。かつてはレーベルやテレビ局を通さなければ海外に届けられなかったコンテンツが、今ではプラットフォーム上で世界中のユーザーに直接届くようになっています。これは特に、中小企業やインディペンデントクリエイターにとって大きな転機であり、重要なチャンスです。

第二に、国際コラボレーションに対する需要が高まり、ビジネスモデルも進化していることです。多言語・多文化の作品を楽しむことが世界的に一般化したことで、国際共同制作、海外向け企画、アーティスト交流、多言語バージョンの制作など、さまざまな協業形態が増えています。台湾と日本にとっても大きな可能性が広がっており、共同で音楽作品を制作したり、音楽番組やライブセッションを共作したり、ドラマOSTの国際的なクリエイターコラボレーションを進めたり、ショーケースや音楽フェスの双方向交流を強化したりすることなどが挙げられます。これらは文化交流であると同時に、新しい商機でもあります。

「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」の様子。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」の様子。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

第三に、アジアコンテンツの国際的な存在感が確実に高まっていることです。K-POP、日本のアニメ、台湾ドラマなどが強固なグローバルファンコミュニティを築き、「アジアコンテンツ」という集合的なブランド価値を形成しています。これは日本と台湾双方にとって追い風となる市場動向であり、優れたコンテンツであれば世界に届きやすくなっています。アジア各国も相互補完的な強みを生かして連携を深め、世界のエンタテインメント市場における影響力をより高めようとしています。

まとめると、グローバル化は単なる挑戦ではなく、台湾と日本が共同でつかむべき大きな機会でもあります。お互いに協力し、リソースを統合し、国際的な露出を強化することで、アジアのクリエイティブな力を世界の舞台でさらに存在感のあるものにしていくことができると考えています。

──台湾の音楽を海外に送り出す、あるいは海外の音楽を自国に招き入れるという点で、重要視していることはなんですか?

双方向で長期的な協力関係の構築

音楽のプロモーションは一度きりの「輸出」ではなく、長期的な交流の積み重ねによって成果が生まれるものです。また、海外展開の成果は、単発のビジネスイベント参加だけで達成できるものではありません。そのため、海外における取り組みでは、大型ショーケースフェスティバル、国際展示会、ビジネスカンファレンスなどを通じて、双方の業界関係者やクリエイターが継続的に交流できる仕組み作りを重視しています。

これまでの事例としては、The Chairs(椅子樂團)がドイツの「Reeperbahn Festival」に出演した際、韓国のDMZ Peace Train Music Festivalのキュレーターが彼らのステージに強く印象を受け、その後バリ島の「AXEAN Festival」や台湾の「浪人祭」おいて継続的に対話を重ねた結果、最終的に2025年の「DMZ Peace Train Music Festival」への招聘につながったケースがあります。

台湾音楽の現地市場での認知向上

海外での出演や出展にあわせて、現地メディアでの広報も同時に計画し、台湾の音楽産業や作品の露出を拡大することで、より多くの海外ユーザーが台湾コンテンツに触れられるよう取り組んでいます。

現在、ストリーミングプラットフォームは音楽の越境流通における主要なチャンネルとなっていますが、世界中で膨大な作品が日々リリースされる環境では、宣伝と連動しない新譜はアルゴリズムの中に埋もれてしまいがちです。そのため、海外活動の期間には、メディア露出、プレイリスト掲載、広告出稿などを組み合わせ、現地ユーザーの台湾音楽のリスニング機会を積極的に高める施策を行っています。これにより、台湾が海外との協力に積極的である姿勢を現地業界にも示すことができ、その後のビジネス交流やコラボレーション企画をよりスムーズに進める土壌作りにもつながっています。

──台湾から見た日本のカルチャー、音楽の魅力や面白さはどのようなものですか?

悠久の文化と歴史に根ざした創作基盤

日本の音楽、演劇、舞台芸術から現代ポップカルチャーに至るまで、その背景には深い文化的脈絡と職人精神が息づいています。このように「文化を根幹にした創作スタイル」は、作品に独自の美学や語り口を与えています。

最近台湾でも上映された映画「国宝」は、まさに豊かな歴史・文化の蓄積を体現した作品です。台湾の観客にとって歌舞伎という題材は必ずしも身近ではないにもかかわらず、高い認知度と強い感動をもたらしたことは、日本文化の深さと普遍性を示す好例だと言えます。

グローバル市場で圧倒的な影響力を持ち続けるアニメとアニメ音楽

アニメはすでに「世界共通言語」と言える存在であり、日本のアニメ作品、声優文化、アニソンは長年にわたり世界的な人気を維持しています。国際市場において日本のACG(アニメ・コミック・ゲーム)コンテンツは世代を超えて愛され、関連する音楽、ライブ、IP コラボレーションなど、産業全体の拡大を牽引しています。これらは日本文化を代表する主要な輸出分野の1つとなっています。

──来年以降のTAICCA主催「Taiwan × Japan」の展望や、目指すものがあれば教えてください。

日本市場は、台湾の音楽産業にとって常に進出、開拓したい重要なマーケットの1つであり、これまでも両市場の間では継続的にコラボレーションの機会が生まれてきました。今後もこのような交流・マッチング交流会を継続的に実施し、より多くの産業連携やビジネス協力の機会を創出していきたいと考えています。また、業界のニーズを引き続き丁寧に把握し、産業の期待により適合し、実際の協業につながりやすい形で企画、運営を行っていく予定です。

LINE MUSIC Japanを訪問した参加者たち。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

LINE MUSIC Japanを訪問した参加者たち。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

──これからさらに台湾や日本を含むアジアのポップカルチャーを世界に広げていくうえで、どのような課題があると感じていますか?

1:グローバルなコンテンツ競争の中で、いかに自らの特色を際立たせるか

世界市場では、コンテンツの供給量が需要を大きく上回っており、欧米や韓国などのエンタテインメント産業も依然として莫大な資源を投入しています。「アジア文化の独自性をいかに世界に伝え、理解してもらうか」が最大の課題です。台湾と日本はそれぞれ深い文化的背景を持っていますが、国際的な視聴者に共感を呼び起こすには、より効果的なストーリーテリング、ブランド戦略、そして多言語対応の表現方法が求められます。

2:国際協業の仕組みと産業連携の強化が必要

アジア各国では、産業構造や法律制度、ライセンスプロセス、ビジネス文化が大きく異なるため、国際コラボレーションの際にコミュニケーションの遅延や実施の難しさが生じることがあります。アジアのコンテンツを本当に「ともに海外へ」進出させるためには、より整備された協力プラットフォーム、明確な協業フレームワーク、そして長期的な専門交流が不可欠であり、単発的で断片的な協力だけでは限界があります。

3:マーケティングやプロモーション資源の投入が依然として不均衡

コンテンツを海外に届けるためには、プロモーションへの投資が極めて重要です。しかし、多くのアジアのクリエイターや企業は、欧米の大手エンタメ産業のような高額のマーケティング予算を投じることが難しく、さらにアルゴリズムやプラットフォーム環境の変化も速いため、優れた作品であっても露出不足で埋もれてしまうことがあります。良質なコンテンツに十分な可視性を与える仕組み作りは、アジア全体が取り組むべき重要課題と言えます。

「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」の様子。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」の様子。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

──グローバル化が謳われてひさしいですが、実際のところ自分たちの音楽をアジアをはじめ海外にどうやって発信していくことができるのか、わからない業界関係者やアーティストも多くいるかと思います。海外進出を考える業界関係者やアーティストへ何かアドバイスをするとしたら?

1:まず明確な定位とストーリーを確立すること

アーティスト自身の音楽スタイルであれ、ブランドイメージであれ、海外市場が理解しやすい特色を持つことが重要です。観客は「物語性があり、個性のある」作品により強く共感します。そのため、海外展開に先立ち、作品のコアメッセージや文化的背景を整理しておくことが必要です。また、海外ばかりに目を向けるのではなく、まずは国内市場での基盤をしっかり固めることも大切です。

2:プラットフォームやリソースを活用し、市場を段階的にテストする

ストリーミングプラットフォーム、SNS、音楽フェス、海外ショーケースなどは、低コストで市場を試せる有効なチャネルです。近年はデータを分析できるツールや環境が充実しているため、実際の指標をもとに潜在的な海外市場を見極めることができます。まずは小規模な露出で反応をテストし、その後徐々にプロモーションや協業の規模を拡大していく方法がオススメです。また、現地のエージェント、メディア、パートナー企業と連携することで、ローカル市場の習慣を理解でき、参入障壁を下げるとにもつながります。

3:長期的な協力関係とネットワークを構築する

海外展開は一朝一夕で実現するものではなく、信頼と協力を積み重ねていく長期的なプロセスです。国際音楽フェスへの参加、コラボレーション企画、海外クリエイターとの交流などは、将来の市場開拓や海外公演の基礎となります。

たとえ初期の規模が小さくても、蓄積された経験と人脈は徐々に大きな影響力へとつながっていきます。

「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」参加者たち。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」参加者たち。(提供:TAICCA / 撮影:Hiroki Nishioka)

TAICCA(台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー)とは

「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET 2025」

2019年の設立以来、台湾文化コンテンツの産業化、国際化を促進する台湾の独立行政法人。あらゆる台湾発の文化的コンテンツを支援し、海外発信とビジネスの活性化を目的に活動している。2023年以降は、「Taiwan Beats」というブランドのもと、音楽産業の海外市場向けプロモーションと国際音楽業界とのネットワーク構築を進め、海外のショーケース型音楽フェスティバルや国際的な音楽産業団体との連携を積極的に推進している。また、海外ビジネス団の派遣や、海外バイヤーを台湾の音楽フェスに招聘し、台湾独自の音楽シーンを直接体験してもらう取り組みも展開中。

日台音楽業界のさらなる発展を目指す重要なイベントとして、2022年に「TAIWAN × JAPAN MUSIC MEET」を発足する。音楽レーベル、アーティストマネジメント、ライブ会場、音楽フェス、ディストリビューターなど幅広い領域の事業者が参加し、マッチング交流や商談促進を実施。ワークショップや企業訪問などを通して、参加者が日台市場の概要や業界動向についてより深く理解する機会を創出している。2025年は日本のインディペンデントレーベルのグローバル展開を支援する業界団体・Independent Music Coalition Japan(IMCJ)、日本やアジアの才能を世界へ発信するショーケースやカンファレンスを手がけるCUEW Showcase&Conferenceの3者による共催企画として行われた。