集団行動|気付いたら、僕ら4人の関係は“バンド”になっていた

普通のバンドはそういうことに数千年前に気付いてるんですよ

──先ほど真部さんは「“バンドマジック”みたいなものを作るためにこのバンドを始めた」と言っていましたが、今作は前作以上にバンドならではのよさを感じ取れる作品になったと思います。

真部 前回のアルバムは僕がかなりコントロールした作品だったけど、今回はもっとメンバーが主体的に関わったアルバムにしたかったんです。だから制作が始まってすぐ、僕が持っているアイデアのストックをホワイトボードに書き出して、デモをみんなに渡して「好きに進めてください」って言ったんですよ。結果、何も進まなかったんですけど(笑)。

ミッチー そっすね(笑)。

真部 それだとみんなも何から手を付けていいかわかんないので、僕も反省しまして、全員が同じ役割を行使するのではなく、それぞれの才能に合ったことを適材適所で伸び伸びやれる環境作りをしようと思ったんです。そのためにライブを強化していこうと。

──確かに以前と比べると、最近はライブを多くやってますね。

西浦謙助(Dr)

西浦 それによって明らかに“バンド感”が増しました。地方公演も増えたので、車での移動中にあーだこーだしゃべる時間が増えたのが、何気にいい結果につながったのではと思います。

真部 それは思いますね。でも普通のバンドはそういうことに数千年前に気付いてるんですよ(笑)。

西浦 まあそうですね(笑)。ツアーとかで過度に車移動をするとバンド仲が最悪になるとよく聞きますけど、僕らは今のところほどよいようで。

真部 どんどん仲良くなっていきましたね。

──というか、集団行動は今までそういうコミュニケーションがなさすぎたのかもしれないですね。

齋藤 ふふふ(笑)、そうですね。

真部 レコーディングでもこれまでは、僕ばっかりコントロールルームの中にいるから、演奏が終わったメンバーがラウンジでくつろいでたりすると、ちょっとイライラしてたんですよ(笑)。

西浦 それは知らなかったですねえ。

ミッチー 知らなかったですよねえ。それ聞いてちょっとドキドキしてますよ(笑)。

真部 なのに、そういうのを見てもニッコリできるようになったんです。本当の意味で役割分担ができるようになったんでしょうね。

齋藤里菜、再び口を開かなくなる

──2ndアルバムの制作時に、齋藤さんと連絡が取れなくなったという話がありましたが(参照:集団行動「充分未来」インタビュー)、今回は大丈夫だったんでしょうか?

真部 実はこれが恒例行事になりつつあって。今回に関しては本当に「あ、バンドがなくなるな」って思いました。

齋藤里菜(Vo)

齋藤 超えてきましたね(笑)。

真部 何を笑ってるんだよ(笑)。

齋藤 「1999」は、レコーディングしたもののボーカルテイクに納得がいかなくて一度お蔵入りにしたんです。この曲を初めて聴いたときに、この曲こそほかの誰でもなく、私が歌わなきゃいけない曲、私たちがやらなきゃいけない曲だ。と思いました。今までは心のどこかで真部さん、謙助さんの今まで作り上げてきたものに頼っていた自分がいたんです。この曲はそれがいらなくなったことを示しているような気がして。このバンドは私次第でいくらでもよくなる。だからどうしてもこの曲のボーカルは私でなきゃいけない曲にしたかったんです。だからこそ自分の中では「こうしたい」というイメージがあったんですけど、それを歌にするのにすごく苦戦して。奥野さんにアドバイスしてもらったりもして、頭の中では理解していたのに全然歌にできなかった。だから「これがバンドにとってすごく大事な曲だってよくわかっているからこそ、全然納得できない状態のものを世に出すわけにはいかないと思う」って話したんです。そのときはもし2、3カ月くらい猛特訓してから録り直したとしても、歌える自信はなかったし……。

真部 別に毎回「NHKスペシャル」みたいにしたいわけではないんですよ(笑)。「ドラマは曲の中にあるので、メンバーのドラマはいらない」という気持ちがあるから、"思わず涙するエピソード"とかはなるべく制作の場に持ち込みたくないと思ってるくらいで。

西浦 最初のボーカル録りのとき、ちょっと遅れてレコーディングスタジオに行ったら、ちょうど齋藤さんと真部くんが行き詰まってスタジオから出るところで。本当にマンガみたいに顔に縦線が入ってましたね。

真部脩一(G)

真部 そのあと齋藤さんがまったく口を開かなくなってしまって。

齋藤 期待に応えたい気持ちはあるのに、どうしていいのかわからないし、「自分にはできない」という思い込みもどんどん激しくなっちゃって。曲を完成させるには私の技術が足りなすぎたんです。

真部 それは、バンド側が提示するものに追い付けないと思ったの? それとも自分の理想に追い付けないと思ったの?

齋藤 両方ですね。本当に空回りしてました。

──歌い始めたばかりの頃と違って今は、自分で理想像を思い浮かべられるレベルに達したからこそ悩むようになった、というのもあるかもしれませんね。

齋藤 それもあると思います。1stアルバムのときは作品を作ることが私の目標で、2ndは練習したことをどうやって生かすかが目標だった。3rdは自分が今まで歌ってこなかったタイプの曲があったりして、より自分のテクニックが要求されるアルバムだったし、歌に対する気持ちも昔とは変わってたので。

──でも、できあがった音源を聴くと、悩んでいたことが意外なくらい歌がいいです。

真部 そうなんですよ。本当に上手になったんです。根性見せたな、齋藤さん。

西浦 そこからのほんの数カ月でびっくりするくらい成長した。

齋藤 ありがとうございます(笑)。

西浦 最近よく言ってるんですけど、齋藤さんにとって今は“現役生の夏休み”みたいな感じなんですよ。現役生がメキメキと伸びてきている一方で、浪人生の僕は若干ダレ気味で伸びが鈍い。だから最近僕は焦ってます。危機感がすごい。

齋藤 行き詰まっていた私がどのきっかけで立ち直ったか、自分でもわかんないんですけど、とりあえず「練習は絶対に途切れさせないぞ」と思ってたんです。めちゃくちゃ落ち込んでいたとしても、絶対に毎日何かしらのことはやろうって。それがいい結果につながったのかなという気はしてます。

──なるほど。さすが体育会系ですね。

ミッチー 本当に素晴らしいです。僕だったら落ち込んだらその瞬間からもう一切何もしないですからね。

西浦 浪人生だからね。

──今回のアルバムには2017年9月の初ワンマン(参照:ミニアルバム1枚しかない真部脩一率いる集団行動、初ワンマンで未発表13曲を初披露)の頃から演奏している曲が多く入っています。ライブで何度もやっている曲は、齋藤さんもレコーディングで歌いやすかったのでは?

齋藤 初ワンマンの頃からライブで歌ってる曲は、この中では歌いやすい曲もけっこうあったんですけど、「SUPER MUSIC」とか「セダン」みたいな新曲は新しいことに挑戦した曲だったので……。

真部 ああいうのは苦手分野?

齋藤 苦手というか、トータルで1枚のアルバムのバランスを考えたときに「歌い慣れた曲と挑戦しなきゃいけない曲を、どうやって違和感なくつなげればいいんだろう」というのにけっこう悩んだんです。

俺はミッチー以下ってこと?

──真部さんは以前のインタビューで「ボーカルのキャラクターが先行しちゃうと、それに乗せる世界観から作り始めないといけないので、それをしなくていいフラットな歌声が欲しかった」と話していましたが(参照:集団行動「集団行動」インタビュー P1)、今の齋藤さんは成長した結果、ボーカリストとしての自分だけのキャラクターを獲得したように感じます。ということは、今回は齋藤さんの声のキャラクターに世界観を合わせてアルバムの方向性を決めた部分もあるんでしょうか?

真部 やっぱり大きいですね。プレイヤーにキャラクターがない状態というのは、よくも悪くも既存のいろんなジャンルに飲み込まれやすいんですよ。齋藤さんに芯がないと、単なるサンプリングになってしまうので、はっきりしたリファレンスが使えない。そういう意味で過去2作では避けてきた曲調に、今回は挑戦できたんです。齋藤さんと組んだときはちょっと賭けに出た部分もあったんですけど、こういうボーカリストになることは出会ったときからある程度見越していたので、理想的な進化をしてくれたと感じてます。バンドが途中でなくなりかけたこともありましたが(笑)、集団行動にとって大きな意味を持つこのアルバムが無事完成してよかったです。

西浦 バンドがなくなりかけてたなんて俺知らなかったわ。

ミッチー(B)

ミッチー あー、そうすか? 僕なんとなくわかってましたよ。

西浦 えっ、ホント? 俺はミッチー以下ってこと?

ミッチー そっすね。僕以下だと思います。

──確かに今回のアルバムは、どの曲もモチーフがぼんやりと思い浮かぶし、全体的にどことなく懐かしさが刺激される作品なんですが、それらのモチーフに引っ張られすぎてはいないので、むしろ真部さんのオリジナルなカラーが強く出ているんですよね。

真部 2ndアルバムまでの僕らだったら、こんな「明らかにNo doubtでしょ」とか「これThe Brian Setzer Orchestraでしょ」とか、「P-MODELでしょ」「JUDY AND MARYでしょ」みたいな曲はやれなかったんですよ。

西浦 あ、それ言っちゃうんですね(笑)。

真部 そういうことをできるというのが、バンドの強度であり、楽曲の強度だと思うんです。