2017年6月にメジャーデビューして以来、“バンドを作る”ことを目指してメンバー募集もしていた集団行動。新メンバーの候補者はなかなか現れなかったが、サポートを務めていたベーシストのミッチー(Vampillia)が2018年8月に正式加入し、ついにバンドはギター、ドラム、ベースの基本編成がそろうことになった。
4月3日にリリースされた「SUPER MUSIC」は、彼らが4人体制になって初めてのアルバムだ。この作品は過去2作と比べると音楽性の振り幅が広がっており、結成時は音楽経験がなかった齋藤里菜(Vo)の歌声の魅力が格段にアップしている。音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューを行い、「SUPER MUSIC」の制作エピソードやバンドの近況などについて聞いた。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 星野耕作
ミッチーさんは“技術の外にいる人”
──ミッチーさんは正式加入前からサポートメンバーとして集団行動に関わっていましたよね。
西浦謙助(Dr) だから新メンバーとは言っても、人としての新鮮味はないですね。
──そもそもどういう流れで関わることになったんですか?
ミッチー(B) 集団行動の初ライブでは別の出演バンド(戸川純 with Vampillia)のメンバーだったんですけど、2回目のライブからサポートとして参加させていただいて。
真部脩一(G) その頃からずっと「入れてくれ」って言われてたんですよ。でもデビュー時からずっとメンバーを公募していたし、応募してくれた方々は皆さんセンスも技術もある人ばっかりでしたので、迷うところはあって……というか、そもそもミッチーさんがなんでウチに入りたかったのかを僕は把握してないんですけど、集団行動に入りたいと思ったきっかけはなんなの?
ミッチー 僕は音楽を聴くようになってから、凶暴で激しい曲しか聴いてこなかったんですね。だからこれまでのバンドでは激しい音楽をやってきたんですけど、真部さんが作るサウンドを聴いて「普通のJ-POPとはちょっと違うな」というのが直感的にわかったんです。ポップスなんだけど、ミステリアスな影と狂気を感じたというか。もともとポップバンドに対する憧れはあったし、この狂気を理解している僕しか集団行動のベースは務まらないだろうと思ったんですよ。
真部 実際ベースを弾いてみて苦労した?
ミッチー そうですね。自分がそれまでやってきた演奏とはアプローチが違ったんで。でも勉強になるし楽しくやらさせてもらってます。
真部 ミッチーさんはずっと大所帯のバンドにいたから、最初は普通のロックバンド編成に慣れなくて「なんかめっちゃ自分の音が聞こえるんですけど……?」って言ってたんですよ。
ミッチー 初めてのリハーサルで「音数少なくないっすか?」って(笑)。
西浦 今まで音の数でごまかせてたのに(笑)。
ミッチー どの音も歪んでないし、「僕はなんてところに来てしまったんだ」ってめっちゃ緊張してましたよ。極端な話、1人でやってるみたいでしたもん。
真部 ははは(笑)。問題だなそれ。
──真部さんと西浦さんは、プレイヤーとしてのミッチーさんをどう評価していたんですか?
真部 なんて言うか、技術の外にいる人だなと。いろいろなベーシストの方とお会いしたんですが、ミッチーさんは唯一「全然合ってないのになんとなくいい感じに聞こえる」という不思議な能力があって。僕は“バンドマジック”みたいなものを作るためにこのバンドを始めたんですけど、音が合ってなくてもそれなりに聞こえるというのは1つの魔法ですよね。だから別に彼の熱意に負けて加入してもらったわけではなく、自分なりに考えてのことだったんですよ。その決断をのちに後悔するわけなんですが。
ミッチー 後悔してるんですか!
西浦 褒めて落としますね(笑)。真部くんやサポートキーボーディストの奥野(大樹)くんは演奏において論理的な思考で、僕はよく言えば感覚的な人なんですけど、ミッチーさんは明らかにこっち側。なんなら僕よりひどい感覚派なので、すっごい楽しいんですけど、こっち側の人間が2人もいてバンドとしてどうなんだと心配になることはありますね。
真部 最近気付いたんですけど、僕は自分と遠いところにいる人、つまり変な人が好きなんです。だから一緒にものを作るのにあたって、なるべく変な人のほうがいいんじゃないかなって思ったんです。まあ、みんなからしたら僕が変な人なのかもしれないけど。
齋藤里菜(Vo) ふふふ(笑)。
ミッチー そりゃそうですよ。
西浦 筋金入りの変な人だと思ってますよ。
宮本武蔵でもそんなことしないですよ
──齋藤さんはミッチーさんの正式加入についてどう感じましたか?
齋藤 私はメンバー募集をするときに「友達になれる人がいい」とずっと言っていたんです。その点でミッチーさんは、話しやすいし、相談もできる人で。サポートメンバーだけど、そういう関係を築けたのに崩してさよならしたくないなって気持ちはありました。
西浦 なるほど、齋藤さんは人としてミッチーさんのことを下に見てるからね。
ミッチー いやいや! 僕が演奏以外の部分でも齋藤さんをサポートできてたって話じゃないですか!
真部 切りたいんだけど情があるから切れないって話でしょ?
ミッチー ちょっと待ってくださいよー!
齋藤 私めっちゃ悪者じゃないですか(笑)。そういうことじゃないですよ。
真部 まあ、そんなこんなで絆ができあがっていたというのはありますね。
西浦 ミッチーさんがいることでバンド内の雰囲気が変わったのは間違いないです。
真部 あと加入してもらった理由として大きいのは、2ndアルバム「充分未来」の制作面でミッチーさんに参加してもらったということ。
齋藤 そうですね。
真部 2ndアルバムって、かなり苦心しながらバンドのオリジナルのカラーを設計したんです。「集団行動はこういうバンドである」とプレゼンできるものにするために、自分たちのリファレンスを自分たちで作ろうとしたアルバムだったので。その制作に立ち会って、全員が納得するものを作れたという意味で、ミッチーさんの存在は大きいです。
ミッチー お、そっすか?
西浦 ミッチーさんはスタジオでも「ここ、こうしたほうがいいんじゃないですか?」とか普通に言ってくれるし、すごくいいなと思います。正式メンバー感がありますよ。
ミッチー あざす!
──ミッチーさんは前作のレコーディングにも参加していますが、正式加入によってサウンド面で変わった部分はありますか?
ミッチー 今回のほうが自由にプレイできました。「テレビジョン」の終盤のベースソロで行き詰まってたら西浦さんがディレクションをしてくれて、そのディレクションがすごく自由な発想だったんですよ。「豪雨の中で槍が降ってくる感じ」とか言ってて。最初は「何言ってんだこの人」って思ったんですけど、実際それをイメージしてプレイしたら「なるほど」って。
真部 目から鱗でしたね。僕は1回匙を投げたんですよ。何回やってもできないんで。それで「西浦さーん! たまにはディレクションしてください」ってお願いして外に出たんですけど、戻ってきたらいい感じになってて(笑)。
──やっぱり、感覚が近い者同士なので理解しやすいのかもしれませんね。
西浦 感覚が近いというのは非常に残念なんですけど、そんな気はします。
真部 うちのメンバーはみんなひたむきなんですよね。ひたむきさの種類が違うだけで。ミッチーさんは楽曲に対する考え方や、音楽をやるということに対してものすごく真面目な人なんです。ただ、全然練習をしない。なぜかその真面目さの中に“練習をする”ということが含まれてないんです。暗譜すら一切せずに丸腰でスタジオに来るんですよ。宮本武蔵でもそんなことしないですよね。
──僕の仕事で例えたら、アルバムをまったく聴かないで今日この場に来たみたいな感じですかね?(笑)
齋藤 そういうことですよね(笑)。
真部 なのに汗かきながらめちゃくちゃ真剣に弾くんですよ(笑)。だったら来る前に覚えてきたほうが楽だろと思うんですけど。
ミッチー 難しいですよね、音楽って。
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普通のバンドはそういうことに数千年前に気付いてるんですよ