音楽ナタリー PowerPush - スズム

リアル“ネットネイティブクリエイター” メジャーシーンを推して参る!

「一緒に作ってみたから聴いてみてよ」と初投稿

──当時も今もバンドの経験って……。

バンドをきちんと組んだことはないんですけど、ライブは多少経験していて。学校でも文化祭のときだけはバンド演奏が許されていたので、そこでギターを弾いていましたし、あとまだボカロPとして活動はしていなかったんですけど、高2の頃からニコニコ動画の「演奏してみた」カテゴリの人たちと交流はあったので。ネットでやり取りしていた上に、当時名古屋でアルバイトをしていたこともあって、名古屋に住んでいた「演奏してみた」カテゴリで有名な人たち、例えばまらしぃとか店長さん(タブクリア)とかdrmさんとは知り合いでしたし。

──あっ、logical emotionの3人とお知り合いなんですか(参照:logical emotion「LOGISTIC FUNCTION ~VOCALOID SONGS COMPILATION~」インタビュー)。

そうなんですよ。で、ある日mixiを見ていたら、当時僕と同じく高校生だったまらしぃが「誰か文化祭のライブを手伝ってくれないか?」って書いてたから「バイトの帰り道だしちょっと寄ってみよう」って感じで参加させてもらったことがあって。それ以来ニコニコ動画関連のライブにも参加させてもらったりもしてるんです。

──そしてニコニコ動画に音源を初めて投稿したのは……。

19歳になる年の1月あたりですね。

──それこそlogical emotionのメンバーとセッションしたり、市の仕事を受けたりもしていたのに、高校時代に自分の音源をネットで発表しなかったのはなぜなんでしょう?

本当に簡単な理由なんですけど、オリジナル曲に納得できなかったんです。DTMを始めたばかりの頃からボーカロイド曲も作ってはいたんですけど「この程度のクオリティでは公開しちゃダメだ」「ギターだって満足に弾けてないんだし」って思っていて。だから19歳のときの初投稿曲もカバーですから。まず友達何人かの間で「DECO*27さんの『愛迷エレジー』をバンドアレンジでカバーしよう」っていう話が持ち上がって。ドラム、ベース、ギターをそれぞれ自宅で録音してそれをミックスしてみようっていう話になったから、みんなが演奏するための叩き台というか、目安にするためのトラックの打ち込みを担当することになったんです。で、それぞれのレコーディングとミックスを進めながら、歌ってくれる人を探していたら、僕が今も「あすかそろまにゃーず」っていうサークルで一緒に活動している、ろんさんっていう有名な歌い手さんが、そらるさんっていう、これまた有名な歌い手さんを紹介してくれて。

──その後、あすかそろまにゃーずの一員になって、2013年のスズムさんのメジャーデビューシングル「絶望性:ヒーロー治療薬」のボーカリストにもなる人ですよね。

そうですそうです。で、そのそらるさんに歌ってもらったことで僕たちの「愛迷エレジー」は完成したんですけど、当時、僕はそれとは別にもう1曲、ある曲のリアレンジバージョンも作っていて。その音源を「ちょっと聴いてみてください」ってそらるさんに送ったら「じゃあオレ歌うわ」って、ある意味勝手になんですけど(笑)、歌をカブせた状態のデータを送り返してきてくれたんです。

──その音源がスズム名義での初投稿作品になった、と。

はい。だから何か意気込みがあってニコ動に参戦したわけではないというか(笑)。「そらるさんと一緒に作ってみたから、みんな聴いてみてよ」っていう感じで投稿してみただけといえば、それだけなんですよね。

ムチャぶりのような状態で作詞家デビュー

──ちなみにそのリアレンジバージョンの反響って?

完全にそらるさん効果なんですけど、いきなりニコニコ動画の再生数ランキングで1位になりました。僕自身はまだ「自分のやってることをネットで公開してもいいんだ」っていう自信を持ててなかったから、本当に信じられなかったですね。

──そしてその後にはご自身のオリジナルボーカロイドナンバーの投稿も始めるわけですよね。

いや、オリジナル曲の初投稿はもっとあと。150PさんっていうボカロPの方とかと一緒に「終焉ノ栞プロジェクト」を立ち上げたあとですね。その頃はまだ自分に自信が持てなかったし、あと自発的に行動するのが苦手だったので。言われなきゃ何もやらなかったんですよ(笑)。初投稿作品にしても、そらるさんが「歌っていい?」って言ってくれたから完成したわけですし、「終焉ノ栞プロジェクト」にしても、そらるさんとの曲なんかが話題になったことで2012年の「ボーマス」(ボーカロイド関連の楽曲、動画、二次創作コンテンツのみを取り扱う同人イベント「THE VOC@LOiD M@STER」)に呼んでもらって。その打ち上げの席で150Pさんが「なんか面白いことやろうよ」って誘ってくれたから参加したっていう感じですし。それが4月のことだったんですけど「3カ月もあれば何かできるんじゃね?」「夏コミでちょっとやってみようよ」っていう軽いノリで誘ってくれたから「3カ月だけなら続けられるかな?」って感じでやってみたというか。

──とはいえ、その後「終焉ノ栞プロジェクト」は150Pさん名義でメジャー盤をリリースすることになったし、スズムさん自身、そのアルバムに作詞家兼ストーリーテラーとして参加している。しかもそのアルバムのボーナスディスク用に150Pさんの楽曲をリミックスしたり、ライトノベル版の「終焉ノ栞」を執筆したりしていますよね。

それも本当にたまたまなんです。夏コミ用に作ったCDのシークレットトラックで「終焉ノ栞はこれで終わりになります」って言っちゃったりしてましたし(笑)。でもその「終焉ノ栞」が話題になったことと、あと夏コミのあとに150Pさんが発表した「猿マネ椅子盗りゲーム」っていう曲の詞を僕が書いたりしていたことなんかを面白がってくれたビクター(エンタテインメント)さんから150Pさんに「アルバムを作りませんか?」っていうお話があって、僕にはメディアファクトリーさんから「小説を書きませんか?」っていうお話があったっていう感じなんです。

──それまで小説を書いたことは?

なかったですね。というか、小説どころか本格的な作詞をしたことも「終焉ノ栞」の夏コミ用のCDを作ったときが初めてでしたから。

──そうか。それまで発表していた曲といえば市のイベントのテーマソングだったり、着うただったり、既存のボカロ曲のアレンジバージョンだったりしたわけだし。

そうなんですよ。さっきもお話した通り未発表のボカロ曲はあったんですけど、自分の書いた詞が世に出るのは「終焉ノ栞」が初めてで。しかも自分の曲じゃない。150Pさんが書いた曲の詞を書くという、ある意味ムチャぶりのような状況で作詞家デビューしてるんです(笑)。

メジャーデビューアルバム「八日目、雨が止む前に。」 / 2015年2月4日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
初回限定盤A [CD+DVD] / 3240円 / GNCL-1247
初回限定盤B [CD2枚組] / 3240円 / GNCL-1248
通常盤 [CD] / 2160円 / GNCL-1249
CD収録曲
  1. Manifesto(inst)
  2. 人類五分前仮説
  3. 灰色少年ロック
  4. 心臓コネクト
  5. Promulgation(inst)
  6. あのタイムトンネルを抜けて。
  7. イグジスタンス
  8. レトルトアイロニー
  9. Enactment(inst)
  10. 革命性:オウサマ伝染病
  11. 世界寿命と最後の一日
  12. 八日目、雨が止む前に。
  13. Execution(inst)
初回限定盤A付属DVD「あの日見た夢の箱。」収録内容
  1. 過食性:アイドル症候群
  2. 赤心性:カマトト荒療治
  3. へたくそユートピア政策
  4. 桜色タイムカプセル
  5. 嘘つきピーターパン
  6. 世界寿命と最後の一日
  7. 心臓コネクト
  8. ハロウィン遅刻パーティー
初回限定盤B付属CD「続・ケビョウニンゲン」収録曲
  1. Endless
  2. 絶望性:ヒーロー治療薬
  3. 過食性:アイドル症候群
  4. 赤心性:カマトト荒療治
  5. へたくそユートピア政策
  6. 桜色タイムカプセル
  7. 好き勝手いうな
  8. うたかた、夏の終わりに隠した
  9. 嘘つきピーターパン
  10. 独りの君と一人の僕に
  11. Valedictory
スズム

ボカロP、作詞家、作家として活動するクリエイター。2011年の初投稿以来、さまざまなオリジナル曲、カバー曲を動画共有サイトに投稿し、通算3000万再生を記録する。またその一方で2012年には音楽と物語のメディアミックス企画「終焉ノ栞プロジェクト」に作詞家兼ストーリーテラーとして参加し、2013年には、プロジェクトの首謀者・150Pによるメジャーアルバム「終焉-Re:write-」に歌詞を提供したり、プロジェクトのストーリーをノベライズした「終焉ノ栞」を刊行したりと多彩な才能を発揮する。さらに同年には、クリエイター集団・あすかそろまにゃーずの盟友にしてボーカリスト、そらるとの共作でシングル「絶望性:ヒーロー治療薬」をリリース。表題曲がアニメ「ダンガンロンパ The Animation」のエンディングテーマに採用される。そして2015年2月、完全新作のオリジナルアルバム「八日目、雨が止む前に。」をリリースした。