音楽ナタリー PowerPush - 終焉ノ栞プロジェクト
150P&スズムによる終焉ノ栞プロジェクト解説
ボーカロイドクリエイターの150P(ワンハーフピー)が、メジャー2ndアルバム「終焉-Re:mind-」をリリースした。
本作は150Pとスズムを中心に、さいね、こみね、ぎぶそんといったクリエイターからなる終焉ノ栞プロジェクトの作品の1つと位置付けられており、インストゥルメンタルナンバーを含む全19曲で構成されている。
なお、終焉ノ栞プロジェクトは同人発の学園ミステリーで、音楽だけでなく、小説、コミックなども展開されているメディアミックス作品。小説は現時点で4巻、結城あみのによるコミカライズ版は5巻まで刊行されており、熱い支持を集めている。
今回ナタリーでは「終焉-Re:mind-」のリリースにあわせてプロジェクトのトータルコーディネートをする“主犯”兼ソングライターである150Pと、作詞およびストーリーを手がけるスズムにインタビューを実施。終焉ノ栞プロジェクトの成り立ちと行く先を語ってもらった。
取材 / 成松哲 文 / 中野明子
終焉ノ栞プロジェクト=バザーセールでそろえた一張羅
──今回は150Pさん名義でリリースされた終焉ノ栞プロジェクトの新作アルバム「終焉-Re:mind-」についての特集なんですが、まずは終焉ノ栞プロジェクトってなんぞやっていうところから聞きたくて。先日スズムさんにインタビューをしたときに、スズムさんが「みんなから誘われたから」「たまたま始まった」とおっしゃってたんですよね(参照:スズム「八日目、雨が止む前に。」インタビュー)。だからまずは裏を取っていこうかなと思います。飲み屋の話レベルから始まったと聞いたんですが……。
150P ええ、本当にそうです。
──ボーマス(「THE VOC@LOiD M@STER」)の打ち上げの席がきっかけだったと話してましたよね。で、ちょっと面白いことをやってみようよってなったのが、2012年の春で。だったら夏コミに出られるんじゃないっていう話から始まったとか。
スズム そういう感じです。まさに。
──そもそもなんでメディアミックスプロジェクトを立ち上げようという話になったんですか?
150P いや、僕らはメディアミックスとか大それたことをしようとは全然思ってなくって。もともと参加メンバーって気心の知れたメンツだったんですよ。みんなニコニコ界隈で活動してるってことで仲間意識もあったし、あうんの呼吸で自然に始まったみたいなところはありますね。お互いの得意分野を生かして、音楽担当、歌詞担当を決めていった感じで……。
スズム 別に僕、作詞は得意分野じゃないよ(笑)。なかばみんなにムチャ振りされたようなもんだから。
──終焉ノ栞プロジェクトの1stアルバム「Re:放課後-終焉ゲーム」が作詞家デビューだっておっしゃってましたもんね。
150P 作れそうだなって思って頼んだんです(笑)。
スズム そうだよね。まあ、終焉ノ栞プロジェクトも夏コミで何か作ろうぜっていう話になったときに、作品として起承転結のあるものを作りたいと思ったんですよね。150Pの「夏コミまでに何かやろう」っていう提案をみんなで揉んで、「ちゃんと完結するものを作ろうぜ」っていう話になったんです。
──「プロジェクトを立ち上げるんだ!」ってライトスタッフを集めたっていうよりも、たまたまメンバーが集まったぐらいの感じ?
150P 本当にそうです。
スズム 僕、もともとさいねさんと別のサークルでも活動してて、そのつながりの中でこみねさんが動画も絵も作れるってことを知ってたんです。じゃあ、ぎぶそんちゃんギター弾いてよ、曲は150Pさん曲で。じゃあ僕は席が空いている作詞で決定じゃんっていうノリですね。バザーセールで売ってる服を組み合わせて、一張羅を作ったみたいな状態なんですよ。
やりたくなったから再開した
──終焉ノ栞プロジェクトの骨子になる「終焉ノ栞」「終焉ノ本」っていう設定や、人が死んでく学園モノミステリーという物語はどこから?
スズム 僕とこみねが中心に話をしてて。こみねが「私ホラーとかミステリーみたいなのが好きなんだ」って言ってきたから、「僕も好きだよ。でもそんなに怖いの得意じゃないんだ」って答えたんですよね。本当に僕、怖いのは嫌いなんですよ。でも、都市伝説は好きだし、学園ミステリーも好きって話したら、じゃあそういうのを僕らなりに作ろうってなったんですよね。
──そういうときに150Pさんは「いいね!」って?
150P そうですね。僕、何かテーマとかお題があってそれに沿った音楽を作るっていうほうが得意だったりするんですよ。
──で、夏コミで発表したものっていうは「Re:放課後-終焉ゲーム」というCDだけだったんですか?
150P そうですね。
スズム そのあとに、僕が小説を出して。
──ただスズムさんはその夏コミで出した「Re:放課後-終焉ゲーム」のシークレットトラックで、「これで『終焉ノ栞』はおしまいです」って言ってたらしいですね。
スズム 言ってるんです。
──1回これで終わりかなと思ったら、150Pさんから「曲書いたから歌詞を作ってよ」って話があったと。150Pさんが一旦閉じたはずの終焉ノ栞プロジェクトをもう1回やろうと思ったのってなぜですか?
150P なんでだろうな……。自分って基本的に衝動で動くんで、理由とかあんまないんですよね。やりたくなったからってだけですね。
スズム 僕から見ると、当時の楽しかった気持ちがぶり返したんだろうなっていう。さらにタイミングよくビクターさんから声がかかったって感じですね。
──きちんと評価を受けて、支持された結果ですよね。思いつきや衝動で始めたものが、こういう形で続いてる状況っていかがですか?
150P 楽しいですね。自分らが持ってる情熱も支えになってますけど、やっぱり反響があってこそで。特にニコニコ動画って、作品を公開すればすぐに反応があるし、ユーザーと距離がすごい近いじゃないですか。そういうところに助けられたのはありますね。Twitterでもリプをすぐにもらえたりだとか。
──怖い部分もないですか? 褒める人もいるけど、悪口もすぐ目に入ってくるじゃないですか。
150P まあ俺もそうだけど、スズムもめげないよね。
スズム 悪口は気にしないようにしてる。スルースキルですね。前のインタビューで言ったかもしれないですけど、自分が言われてるんじゃなくて“スズムさん”が言われてる感覚なんで。「わあ、大変やな」ぐらいですね。で、彼の場合は自分から悪口を探しにいくタイプ。
150P わりと探してるね(笑)。悪口に対する自分の距離ってあると思うんですよ。すごい身近な人に悪口言われたら、すごいヘコむと思うんです。でも普段付き合いがある人じゃない人からの悪口なら、そんなに気にすることないなって考え方をするようになったんです。ただ悪口を言う人から離れるけど、その言葉を否定するわけではない。その悪口を真摯に受け止める自分もいて。人って惰性で生きてるよりは、批判を受けて、それを直すためにどうしようって考えたほうが目標も見つかる気がするんですよね。ちゃんと気にする部分と、受け流す部分を半分ずつくらい持つのがいいのかなと思います。
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- 150P ニューアルバム「終焉-Re:mind-」 / 2015年3月25日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+グッズ] 2700円 / VIZL-672
- 通常盤 [CD] 2376円 / VICL-64162
収録曲
- 「-反攻声明-」(instrumental)
- 報復リヴァイバル
- 欠落-Re:code-
- 結末ユメロディ
- 「-拝啓、舞台裏より-」(instrumental)
- ファイティングガール
- ノスタルジージャンクフード
- ゲームアンドガールズ
- 「-微炭酸レトロ-」(instrumental)
- やさしいお化け話
- 四丁目の秘密屋さん
- ぼくたちデイズ
- 「-笑顔サミット-」(instrumental)
- テレーゼの溜息
- ハイカラコーポパーク
- リピートラジディー
- 「-十年後より-」(instrumental)
- シュレディンガーの猫
- 「-病室1713号-」(instrumental)
終焉ノ栞プロジェクト(シュウエンノシオリプロジェクト)
VOCALOIDプロデューサーの150Pとスズムを中心に、さいね、こみね、ぎぶそんらが所属するクリエイター集団の総称。150PによるVOCALOIDオリジナル曲や、楽曲を軸にしたメディアミックス作品についても指す。2012年4月にメンバーが出会ったことをきっかけに始動し、同年夏にCD「Re:放課後-終焉ゲーム」を発売する。本作が好評を博したことを機に小説やマンガなどのメディアミックスがスタート。2013年3月にはビクターエンタテインメントより150P名義でアルバム「終焉-Re:write」が発表された。2014年3月にはメジャー2ndアルバム「終焉-Re:mind-」がリリースされた。