ナタリー PowerPush - suzumoku

躍動の2013年を締めくくる変革のニューシングル

誰でも「全部なくなればいい」って思う瞬間があるはず

──そして12月4日には配信限定シングル「グライダー / 零ドライブ」がリリースされました。まさに2013年を締めくくる作品となるわけですが、どういう経緯で制作されたんですか?

バンドツアーが始まるちょっと前に、僕の地元の静岡から「静岡県の人権週間のテーマソングを作ってほしい」という依頼を受けまして。地元からの頼みだし、「もちろん!」って引き受けたんですが、テーマが「人を想う心が、人を動かす力になる。」だったんです。若い人に向けてメッセージを送るような曲にしたいという話もあったから、まず自分がもっと若かった頃を思い返してみたんですね。僕の初期の曲で「週末」という歌があって、それを書いたのが確か21歳くらいのときだったんですけど、その頃って世の中に対して何かにつけて斜めに見るクセがあったんです。

──まあ誰しもそういう時期はありますよね。

suzumoku

そうですよね。大人たちが作ったルール、考え方に対して、確固たる理由もなくイライラしてるというか。「週末」という曲もそういう心情を歌った曲なんです。ホームで電車を待ってると人身事故が起きて、「電車が遅れます」というアナウンスが聞こえてくる。そうすると近くにいた大人が「なんだよ、このクソ忙しいときに」ってグチを言って、それだけのことにイラッときてしまうっていう。「人を想う心が、人を動かす力になる。」というテーマは、そういうものとは対極のところにあると思ったんですよね。

──ただ、そういう温かいテーマを若い人たちに向けて発信するのはかなり難しいですよね?

だからものすごく突き詰めて、真剣に考えました。今の若い人たちが見ている世界って、僕が若いときに見ていた世界とは全然違うと思うんです。インターネットやメールが最初からあって、生活のスタンダードになってるわけですから。僕は1984年生まれなので、ちょうど境目というか、携帯電話が流行り始めた時期のことも覚えているんですよね。「最近若者の間でLINEの既読スルーが問題になっている」っていうニュースとかあるじゃないですか? LINEというアプリケーションの中でさえいがみ合いが生まれてきてしまっている現状を見ると、「全部なくしてしまえばいいのに」って思ったりもして。そこから生まれたのが「零ドライブ」なんです。

──人権週間のテーマソングになっている「グライダー」よりも、「零ドライブ」のほうが先にできたんですね。

はい。歌詞に「こんな毎日ゼロになれ」という言葉を使っているんですけど、誰でも「全部なくなっちゃえばいい」っていう極端な考え方になる瞬間があると思うんです。僕なんかしょっちゅうあるんですけど(笑)。それを思い切って歌ってしまうことによって、聴いてくれる人が素直な気持ちで他人と接することができるようになったり、素直に笑えるようになるかもなって。ただ「テレビCMの曲なのに『こんな毎日ゼロになれ』はマズイよね」という話になりまして(笑)。

「グライダー / 零ドライブ」は2曲とも僕なりのラブソング

──それでもう1曲書くことになった?

そうですね(笑)。「零ドライブ」が完成したのはバンドツアーの公演初日の朝5時だったんです。初日のライブで新曲(「零ドライブ」)をCD-Rで無料配布するって告知していたし、「もちろんライブでも歌います」って言っていたんですけど……。

──ギリギリまで時間がかかってしまった、と。

しかも会場が東京ではなく大阪だったんです。朝5時からできる限り睡眠をとって、大阪に移動して……とにかくバタバタしてたんですよね。ライブでも舞い上がってしまって全然うまく歌えなかったし、「零ドライブ」の歌詞も間違えてしまって。「どうしてこんなにギリギリまで書けなかったんだろう?」って情けない気持ちになったし、恥ずかしいし……。そしたら「モンタージュ」っていう曲を歌っているときにボロボロ泣いてしまったんです。

──うわ……。いろんな思いがあふれてしまったんですね。

suzumoku

ステージ上で泣きそうになることはよくあるんですけど、涙があそこまでブワッと出てしまったのは初めてで。そのときは「やってしまった」って思ったんですけど、泣いたことによって自分が持っている神経質なところとか、よくない部分が涙と一緒に出てきたと思うんですよ。たぶん「零ドライブ」の歌詞の言葉が自分自身の中にも入ってきて、ある意味“ゼロ”になれたんじゃないかな、と。その後はライブに対する自信も生まれたし、人権週間の曲についても「よし、もう1曲作ろう」っていう気持ちになれたんですよね。

──確かに「グライダー」には前向きな気分が反映されてますよね。

「1からやり直す」という歌詞があるんですけど、「1」という数字を入れたかったんです。あとは「落ち込んでいる人だったり、気難しそうな人に声を掛けるとしたら、どんな言葉がいいかな?」ということも考えました。だから1番の歌い出しが「下を向くなよレイディー」、2番は「ややこしいんだよミスター」なんです。

──他人を気にかけるこのフレーズは、まさに人権週間のテーマと合致しますね。

誰かに対して言葉を投げかけたり、人と人のつながりを表わす曲にしたかったんですよね。今まではどうしても、独りよがりな曲を作りがちだったんです。先ほど話に出た「週末」もそうだけど、誰ともコミュニケーションを取っていなかったり、歌の中に登場するのは自分だけっていう作品も多くて。その点「零ドライブ」と「グライダー」は違うと思います。聴いている人が行動を起こせるような曲というか、「こんなふうにやってみようぜ」っていう感じで書けたので。あと両方とも「愛」という言葉で締めているんです。今まではなんとなく胡散臭く感じて敬遠してきた言葉なんですけど、今回は愛という言葉を入れるのがすごく自然に思えて。そういうことも初めてでしたね。なので2曲とも僕なりのラブソングです(笑)。

──人権週間のテーマソングを作ったことで、suzumokuさん自身にもかなり大きい変化が生まれた、と。

そうですね。地元には本当に感謝です(笑)。

配信限定シングル「グライダー / 零ドライブ」 / 2013年12月4日発売 / apart.RECORDS
配信限定シングル「グライダー / 零ドライブ」
収録曲
  1. グライダー
  2. 零ドライブ
下記サイトにて配信中!
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suzumoku(すずもく)
suzumoku

1984年生まれ、静岡出身のシンガーソングライター。名古屋の楽器制作の専門学校で、ギターやベースの製作を行いつつ、自身もロックやカントリーに影響を受けた音楽を制作するようになる。駅前のストリートやライブハウスでの活動を始めるものの、就職と同時に音楽活動を休止する。その後再び音楽の道を志し、2007年1月に上京。同年10月にアルバム「コンセント」でデビューを果たす。その後、弾き語りやバンドスタイルでのライブを展開しながら2011年7月にエレキギターによる弾き語りアルバム「Ni」を、2012年7月にアコースティックギターによる弾き語りアルバム「80/20 -Bronze-」を発表。2013年3月にはオリジナル曲のみで構成された作品としては初となるフルアルバム「キュビスム」を発売し、3月から6月にかけて47都道府県ツアーを開催した。7月にライブアルバム「たどり着いた景色はどうだい?」、9月にクラシックギターの弾き語りによるコンセプトアルバム「Rusty Nylon」を発表した後、12月に配信限定シングル「グライダー / 零ドライブ」をリリース。