ナタリー PowerPush - suzumoku

己の多面性を突き詰めた新作「キュビスム」

デビューから約5年半。シンガーソングライターのsuzumokuが、セルフカバーなどを含まずオリジナル曲のみで構成された作品としては初となるフルアルバム「キュビスム」をリリースする。

ツアー先の仙台で東日本大震災に遭遇した自らの体験をもとにつづった「僕らは人間だ」、社会の風潮を鋭くユーモラスに歌った「どうした日本」や「平々-ヘイヘイ-」、自身の繊細な内面に向き合う「蛹-サナギ-」や「モンタージュ」など、新作はさまざまな角度から歌い手としてのsuzumokuを切り取った1枚。

3月からは昨年に続き、音響機器を一切使わず生声の弾き語りで47都道府県のカフェやバーを回るアンプラグドツアーも行われる。新作について、そして自分自身と今の日本社会について、彼に語ってもらった。

取材・文 / 柴那典 インタビュー撮影 / 上山陽介

自分の身体も楽器なんだ

──このアルバムは、suzumokuさんのここ2年ほどの活動がまとまったものになるわけですが、完成してみてどうでしょう?

suzumoku

今回のアルバムって、エレキギターを持って、かなりロックなテイストを打ち出したシングル「真面目な人」以降の曲が入ってるんですよね。そういう意味では、アコギ時代のsuzumokuからステップアップした部分が入ってるんじゃないかなと思います。去年は47都道府県の弾き語りツアーもやって、あれもすごく大きな経験になりましたし。

──去年は生声の弾き語りライブで全都道府県を回って、年末にバンドでライブをやるという1年だったんですよね。ライブ本数としては過去最高だったという。

そうですね。92、3本ぐらいやったらしいです、どうやら(笑)。

──suzumokuさんは、エレキギターを抱えてバンドセットでやるステージと、スピーカーも使わず生声でお客さんの近くで歌う弾き語りという2つのライブのスタイルを持ってるわけですよね。それがアルバムにも反映されている。

バンドでの歌い方、弾き語りの歌い方っていうのが、自分の中でもスタイルとして固まってきてる感じはします。これだけ両極端なライブをやってるので、自分でもそれぞれの特性をつかんできたのかも。自分の身体も楽器なんだっていうことがわかってきたというか。歌とギターがだんだんひとつになってきてる感覚もあります。

ギターを弾いて歌い始めたときに何かが変わった

──アルバムの曲のテーマも、大きく分けて2つのタイプがあると思うんです。まず1つは「どうした日本」のような、ざらついた曲調で、社会に対してもの申すタイプの曲。言いたいことを言っている、という。

ただ今の世の中、言いたいことを言ったら「ひねくれてる」とか言われますからね(笑)。何が正しいのかわかんない、という。でも、自分なりに言いたいことを連ねていくと、曲調としてはすごく強いものになっていくんですよね。

──なるほど。で、もう1つは「蛹-サナギ-」や「真夜中の駐車場」みたいなパーソナルなタイプの曲。しかも歌の主人公がいるタイプの曲で。どうでしょう? この2曲にはつながっているようなところもありますけれども。

suzumoku

まさにそうで、「蛹-サナギ-」という曲の中では、その主人公は結局殻を破ることなく曲が終わってしまうんです。だったら、どういう感情や衝動があったら殻を破って外に出たくなるのか、その続きを描いてあげたのが「真夜中の駐車場」で。僕としては続編を意識したような形で作った曲ですね。

──「蛹-サナギ-」と「真夜中の駐車場」の主人公っていうのはどういう人間?

これを言うと「真面目な人」という曲にもつながってくるんですけど、まあ……僕自身みたいな人です(笑)。

──ははは(笑)、うん。

なんというか……いろいろ考えすぎるんですよね。だからといって「そんなに考えるなよ、もっと気楽にいけよ」って言われても、やっぱりそんなふうにはなかなかなれない。周りからの評価とか、街を歩いてる人の視線とか、いろんなものが気になる。そういう人っていると思うんですよね。常に見られてるっていうことを意識してしまう。そんな中で恥ずかしくないように生きるにはどうしたらいいのかなとか考えたり、右往左往してしまう。で、「蛹-サナギ-」っていう曲では、そういうふさぎ込んでるような状態を見られて、「もっとがんばれよ」とか「もういい加減なんとかしろよ」とか言われて、こっちはこっちで考えてるのに、ああだこうだ言われて「うるせえよ!」と(笑)。

──心がどんどん刺々しくなっていく。

はい。で、結局、もう知らない、みたいな感じで終わってしまう。僕も実際そういう時期があったりしたんで。でも、逆にそこから外に出ていく時期もあったので、それは何がきっかけだったのか考えたら、それはコミュニケーションへの欲求だったんですよね。「真夜中の駐車場」っていう曲はそういうことを歌っていて。僕の場合は、ギターを弾いて自分で歌い始めたときに、何かが変わったんですよね。そこのコミュニティの中で仲間ができていった。その場所に行って、同じような感覚を持つ人との出会いを自分の力で見つけ出したという。

配信シングル「モンタージュ」 / 2013年2月27日発売 / 200円 apart.RECORDS
配信シングル「モンタージュ」
収録曲
  1. モンタージュ

iTunes Storeにて配信中!

ニューアルバム「キュビスム」 / 2013年3月27日発売 / apart.RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] / 3000円 / APPR-3007/8
初回限定盤 [CD+DVD] / 3000円 / APPR-3007/8
通常盤 [CD] / 2800円 / APPR-3007 ※通常盤は初回限定盤がなくなり次第販売。
CD収録曲
  1. モンタージュ
  2. 蛹-サナギ-
  3. ノイズ
  4. 鴉が鳴くから
  5. メンドクセーナ
  6. 平々-ヘイヘイ-
  7. ブルーブルー
  8. どうした日本
  9. 真面目な人
  10. 真夜中の駐車場
  11. 僕らは人間だ
  12. リエラ
初回限定盤DVD収録内容
  • モンタージュ
  • リエラ
  • 真夜中の駐車場
  • 蛹-サナギ-
  • 真面目な人
suzumoku(すずもく)

1984年生まれ、静岡出身のシンガーソングライター。名古屋の楽器制作の専門学校で、ギターやベースの製作を行いつつ、自身もロックやカントリーに影響を受けた音楽を制作するようになる。駅前のストリートやライブハウスでの活動を始めるものの、就職と同時に音楽活動を休止する。その後再び音楽の道を志し、2007年1月に上京。同年10月にアルバム「コンセント」でデビューを果たす。その後、精力的なリリースとともに、弾き語りやバンドスタイルでのライブを展開する。2011年7月にエレキギターによる弾き語りアルバム「Ni」を発表。「真面目な人」「蛹-サナギ-」というメッセージ性の強い2作のシングルを経て、2012年7月にアコースティックギターによる弾き語りアルバム「80/20-Bronze-」をリリースした。2013年3月にフルアルバム「キュビスム」を発表。