ナタリー PowerPush - 鈴木祥子

5年ぶりのシングルCD「my Sweet Surrender」でポジティブに「愛の復権」を歌う

自由を手なずけられるかという不安

──アナログからCDになって、でもどんな形態になっても鈴木祥子のサウンドには湿度みたいなものがあって、それはなんなんだろうといつも思うんです。単なるポエムとしての言葉ではないし、音の後ろにある怨念だけでもない。やっぱりそれはプロデューサーとしてもご自分をよくわかっているということなのかな?

湿度というものを極力入れない、もっとドライなところから始めている音楽というものに、本質的にあまり惹かれないんです。かといってウエットすぎるものはあまり好きじゃないし、情のないものもあまり好きじゃなくて。その中間を行こうという気持ちはいつもあるんです。湿度の問題は難しいですね。

「無言歌~romances sans paroles~」場面写真

──「無言歌~romances sans paroles~」のオープニングがすごく衝撃的で、ここで祥子さんは「女性が女性らしく自分らしく自由に生きていくことはとても難しいことで、それは下手をすると女を殺します」と言っています。そこで私にとっては、女性というものが目の前にバーンとやってきたんです。想像なんですけれど、女性が100人いたら99人以上は、自分の女性性というものと常に戦っている、女性であることを喜びながら憎んでいるんじゃないかと。それは湿度の問題とすごく似ているかもしれない。

100%女であるということに祝福感を持って肯定したい。そういう気持ちはあるんですけれど、現代社会というものがそうはできていないことは感じていて。やっぱり20代のときガールポップだとちやほやしてくれた人も、30代になったらもう取材してくれない(笑)。そういう風に即物的に、女というものは年齢で計られるところがある。

──若さだけに価値を求めるんじゃなくて、90歳なら90歳の女の色気とか知恵とかいろんな魅力の角度があるはずなのに。

やっぱり世の中が男性原理を中心に作られているから。女の根底には潜在的な不安があって、いろいろ行動するんだけれど、根本的な不安がある以上は、そこから逃れられない、自分を解放しても自分らしくなれないっていうジレンマがあります。

──逆にその不安定を自由と捉えて、どんなポジションでもそこにいられるんだというポジティブな受け取り方ができれば、強いのかもしれない。

この「my Sweet Surrender」の歌詞って、女としての幸せと、仕事によって自己実現することの幸せってまったく相反すること。そういうテーマだったんです。惚れてしまったら、ひれ伏してしまう、それは女にとって全然悪いことじゃない、それを肯定的に捉えたくて書いたんです。人を好きになって仕事が手につかないとか、感情がアップダウンするとか、そういう女の危うさを自由として捉えて、バランスを取って生きていきたいという強い気持ちと、でも自由を手なずけられるだろうかという不安と、いろんなものをかいくぐって生きている感じがあります。自由というのはつまり、個人の責任というヘビーなことでもあるんですけれど。

──他人の満足を通してしか満足を計れないというのは悲しいですね。それは社会の仕組みが原因になっているのでしょうか。

でも女である限り他人に“自分のことのように共感する”ことはあって、それは母性にもつながるのかもしれないです。中村うさぎさんが、人の痛みを自分の痛みのように感じる、その共感能力が女のいちばんの美点だということをよく書かれていて、本当にそうだと思う。

──皮肉にもアーティストという職業を持っていると、自分自身を表現するということは、必然的に女を表現することと背中合わせですよね。でも趣味で歌っているわけではなくて、あくまでビジネスである以上、女であることをそぎ落とさなければならなかったり、強調して出さなきゃいけないところもあって、バランスを保つことが難しい。祥子さんは自分が女だということをいやだと思った時期もありました?

30代は特にありましたね。男性との関係がうまくいかなかったときは、女であることを恨んで、すごく面倒くさいと思いました。

──私はパティ・スミスが好きで、思春期のときに自分の胸がだんだん大きくなってくるのにびっくりして自殺したいくらい嫌で、一日中胸を押しつけて泣いたというエピソードを読んで、彼女の女性性の否定というものに衝撃を受けたことがあるんです。当時はそれがなぜなのかわからなかったんですけれど、あるときクラスメイトに「まゆこ女っぽいからね」って言われたときに、ものすごい腹が立った。女性であることで何かに押しこめられるような、決めつけないで! という気持ちがあった。年齢とか国籍とか顔かたち以上に、女というものが貼られやすいレッテルとしていやだったんだと思うんです。

女の部分を歌に出すと、「痛い」「重い」「暗い」という言葉が返ってくることが多い。私は素直に自分のどうしようもない女の部分を表現しているだけなのに。表現するということは、客観的に観ているつもりもあるし、自分からある程度それを切り離しているから、形にできるんじゃないかと思うんです。けれど聴く人は歌そのままが私だと思うから、そうは感じない。パティ・スミスのカバー「Frederick」が入っているアルバム「鈴木祥子」(2006年)は、セクシュアリティに触れることを強く表現したかったときに作った作品でした。それに対して「共感する」という意見もあったんですけれど、「下品」という反応も同時にありました。そこでセクシャリティを封印しようと思ってしまう自分と、関係ないからどんどんやろうという自分がいて、その分裂こそがまさに女だと思いました。

ニューシングル「my Sweet Surrender」 / 2010年4月8日発売 / 1500円(税込) / UPLINK RECORDS / ULR-021

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CD収録曲
  1. my Sweet Surrender
  2. 名前を呼んで~When you call my name
  3. 恋人たちの月
  4. 黒い夜 [Live ver.]
  5. あたらしい愛の詩 [Live ver.]
  6. my Sweet Surrender [karaoke]
  7. 名前を呼んで~When you call my name [karaoke]

DVD「無言歌」 / 2010年4月8日発売 / 5040円(税込) / UPLINK / ULD-532

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Disc1

『無言歌~romances sans paroles~』本編

Disc2

『名前を呼んで~When you call my name』

  1. 5years,/AND THEN...
  2. シュガーダディーベイビー
  3. BLONDE
  4. 恋人たちの月
  5. Father Figure
  6. 名前を呼んで~When you call my name
鈴木祥子(すずきしょうこ)

鈴木祥子

1988年、エピックソニーよりシングル「夏はどこへ行った」でデビュー以来、14枚のオリジナルアルバムを発表。日本を代表するシンガーソングライターとして活動を続ける。中学の頃からピアノを習い始め、高校時代になり一風堂の藤井章司に師事しドラムを学ぶ。卒業後、原田真二やビートニクス(高橋幸宏・鈴木慶一)、小泉今日子のバッキングメンバーを経て、デビュー後は国内では数少ない女性のマルチプレイヤーとしても地位を確立する。またソングライターやサウンドプロデューサーとして小泉今日子、松田聖子、PUFFY、金子マリ、渡辺満里奈、坂本真綾、川村カオリなど、数多くのアーティストを手がけ、高い評価を得ている。2008年、デビュー20周年を記念して渋谷C.C.Lomonホールでライブを開催。2009年には出演・撮影・主題歌を手がけたドキュメンタリー映画「無言歌」が公開された。そして2010年、約5年ぶりとなるニューシングル「my Sweet Surrender」をUPLINK RECORDSより4月8日にリリース。