鈴木実貴子ズ インタビュー「就職しなきゃ? 30後半で夢を追いかけるのはイタい? 結婚すべき? ……もう全部嫌だ」 (2/2)

手羽先を食べているときに降ってきたアルバムタイトル

──鑪ら場で音楽に触れる以外でインプットはしてますか? アウトプットをし続けると枯渇しそうですが。

鈴木 インプットは全然しないんですよね。うちがギターを始めたのは兄が聴いてたSum41がきっかけで、普段も鑪ら場以外ではそこまで音楽を聴くほうではないし……。曲のアイデアはふつふつ湧いてくることが多いです。うちは、日々生きてるだけで「窮屈だな」「これは嫌だ」と思うことばかりで、それを歌詞に落とし込みます。鑪ら場を辞めてから別のところでバイトもしてるんですけど、いろいろ感じては曲にしています。

──自分の内面を楽曲でさらけ出している。

鈴木 そうですね。メジャーデビューアルバムの「あばら」っていう名前も「見せたくない内面」みたいな意味で付けました。うちの曲は、自分自身で「ダサい」と思う部分を吐き出しているので「皮の下のあばら骨みたいな部分を見せている」ってことなのかもしれない……と、手羽先を食べているときに気が付きました(笑)。テレビを観ながら肉片を食べてたら、汚い骨が出てきて「これや」って。

鈴木実貴子ズ
鈴木実貴子ズ

──名古屋グルメの定番。

 名古屋の人はそんなしょっちゅう食べないですけどね、手羽先(笑)。

──鈴木さんが自分の生活で芽生えた違和感を楽曲にしているとなると、ズさんとしては「これ、自分のことを歌にしてる?」と感じることがあるんじゃないですか?

 全然あります。メジャーデビュー曲の「違和感と窮屈」を聴いたときは、すぐにわかりました。スタジオで「これって俺のこと?」と聴いちゃいましたけれど、誤魔化されましたね(笑)。

鈴木 ちょうど時期が時期だったので……(笑)。認めちゃうと気まずいですから。でも、そういう個人的な感情に対しても、ズは楽曲として成立しているのかを見てくれますし、たとえ自分のことだと思ったとしてもさっぱり対応してくれます。

──「ファッキンミュージック」という楽曲には劣等感があふれてますよね。「しょーもないライブのあのバンドが売れそう 裏で関係者が頑張ってるって聞いた」という歌詞で始まっていて、苛立ちがダイレクトに伝わってきました。

鈴木 コミュニティに馴染めない人生を送っているので、それに対する明確な「嫌だ!」です。

 本当は、集団に入れてもらえたらうれしいんだと思いますよ。だから「うらやましい」が混ざってる。

──「ファッキンミュージック」はラジオ番組でオンエアできなかったとも聞きました。

鈴木 1回だけそういうことがあったんですよ。確かに「ファッキンミュージック」の曲名と、リード曲の「かかってこいよバッドエンド」の歌詞「右手でスパナでいったろか」は、何か言われるかもしれないとは思っていました。

 そもそも曲を作ったときに、レーベルから修正要望が上がってくるかと思ったのですが、来なかったので大丈夫かなと考えてました。歌詞が過激で放送禁止に……みたいな話って噂に聞くじゃないですか。

鈴木 「本当にそんなことあるんだ!」と2人で笑いましたね。変えろと言われても変える気はありませんでした。

──リード曲「かかってこいよバッドエンド」は、サポートギタリストとしてヒトリエのシノダさんが入られていますね。どういった縁があったのですか?(サポートベーシストは五味岳久[LOSTAGE]が参加)

 シノダさんは、名古屋でバンド活動をずっとされていたので、僕が昔からファンだったんです。地元で活躍する先輩のような存在。「いつかご一緒できたら」と思っていたので声をかけさせていただきました。

鈴木 シノダさんのギターが曲調にぴったりで、うれしかったね。はじけるようなギターがカッコよかった。

 僕たちは名古屋のバンドシーンで濃い人間関係を築いているタイプではなかったので、オファーを受けてもらえてうれしかったです。

──ほかにはゲストギタリストとして、NUMBER GIRLなどで知られる田渕ひさ子さんが「暁」で参加されています。(サポートベーシストは五味岳久[LOSTAGE]が参加)

 前に対バンさせていただいたことがあったので「暁」でサポートをお願いしたのですが、僕は学生の頃からNUMBER GIRLを聴いて育ってきたので、感無量でした。うわあ、本物だ……みたいな。

鈴木 田渕さんの情感たっぷりなギターが最高で……本当は「壊してしまいたい」でもお願いしたかったので、すごく迷いました。感情があふれ出す音色ってなかなか出せない。「壊してしまいたい」は、自分が本当に情緒不安定になっているときに「きみは大丈夫だよ」と誰かに言ってもらいたくて、お守り的に作った曲なんですよね。

──“きみ”は、自分?

 「“きみ”は実貴子さんだな」って、僕はすぐにわかりましたよ(笑)。

鈴木 誰かのために作った曲だったら美しいんですけどね。全曲自分のために作っているので。

 「誰かに活力を与えたい」と思って作ることはないものの、聴いてくれた人から「元気が出た」とか「曲がきっかけで仕事を変えました」と言ってもらえると、すごくうれしいでしょう?

鈴木 うれしい。

 確か、「壊してしまいたい」もそうですけど、「暁」「かかってこいよバッドエンド」「違和感と窮屈」は同時期にできた記憶があります。

鈴木 1年ぐらい前かな? 自分の生活がグチャグチャになっている中で「もう本当に嫌ー!」という気持ちで、ほぼ壊れながら作りました。しんどかった。

──「あばら」はここ1、2年の思いが詰まったアルバムになっている……?

 基本は最近作った楽曲です。でも「チャイム」は10年前ぐらいのものかも?

──冒頭の「鉛筆の芯の匂い 教室の机」というノスタルジックな描写から「スーツ 飲み会 年金 結婚 介護 扶養家族 税金 手当 借金 家賃……」の落差に、苦い現実がにじみ出てますね。

鈴木 「チャイム」は一人暮らしを始めたときの寂しさからできた曲です。夜、真っ暗な家に帰ってきて、お風呂洗わなきゃ、ごはん用意しなきゃ……って思っているときに実家の温かさを思い出して「今はあそこに帰りたい」っていう気持ちで作りました。現実のつらさを投げ出して、あの頃に戻りたいって思うことは今でもあるので、今回アルバムに入れることにしました。

鈴木実貴子ズ
鈴木実貴子ズ

「就職しなきゃ」「結婚したほうがいい?」いろいろあるけれど…

──「あばら」には入っていない楽曲の話になるのですが、「ロックンロールが鳴らない」で、「鏡に映るのは中途半端な自分」「それを壊すほどドラマチックな歳じゃない」と歌われていたのが印象的でした。お二人は自分の年齢を意識しますか?

鈴木 します。女35歳のメジャーデビューって……ほとんど聞いたことない。親が保守的な価値観を大事にしていたので、自分の中にも「就職しなきゃ」「結婚して子育てしていたほうがいいのかな」という考えが、なくはないんです。体力も落ちてくるし、若くてかわいい子のほうが応援したくなる現実も痛いほどわかる。それに対する自信のなさは常にあります。

鈴木実貴子ズ

 男でも30代後半でメジャーデビューってあまり聞かないですからね。ライブに「ルーキー枠」で呼んでもらうと、周りは10代、20代の子たちばかりで浮くんです。

鈴木 ルーキーと呼んでもらえる年齢ではない。

 でも、今こうしてメジャーデビューさせてもらえたことで、小さな希望を見い出せた。すぐ「自分たちなんか」と思ってしまう2人ですが、一歩ずつ進んでいきたいですね。あと、僕たちが30後半でデビューしているという事実は、年齢に関係なく「ルーキー」になれるという証左でもあるような気がします。

鈴木 辞めたら可能性がゼロになるからね。うちらは小さな場所でライブをする時間が長かったし、「認められないな」「うらやましいな」と思うことも多かった。でも、泣きわめきながら曲を作って怖がりながらステージに立つと、楽しそうにしてくれる人がいる。その光景を見られるだけで、辞めなくてよかったなと思えます。これからも長くバンドを続けていきたい。

 いつか「FUJI ROCK FESTIVAL」や「RISING SUN ROCK FESTIVAL」のステージに、もう1回立ちたいです。僕たちはベースもギターもいないし、歳もそれなりに重ねているし、いろんなことがちゃんとしていないのですが、音楽は自由で懐が広いことを日々実感しています。

鈴木実貴子ズ

公演情報

鈴木実貴子ズ「あばら」ツアー

  • 2025年3月8日(土)愛知県 芸術創造センター
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / オズワルド
  • 2025年3月12日(水)東京都 下北沢SHELTER
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年3月20日(木・祝)大阪府 雲州堂
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年3月28日(金)宮城県 enn 2nd
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年3月31日(月)京都府 Live House nano
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年5月9日(金)福島県 clubSONICiwaki
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年5月10日(土)宮城県 FLYING SON
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年5月16日(金)京都府 磔磔
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年6月13日(金)愛知県 HUCK FINN
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年6月21日(土)北海道 KLUB COUNTER ACTION
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more
  • 2025年6月28日(土)東京都 下北沢SHELTER
    <出演者>
    鈴木実貴子ズ / and more

プロフィール

鈴木実貴子ズ(スズキミキコズ)

2012年結成、愛知県名古屋市を拠点に活動する鈴木実貴子(Vo, G)、ズ(Dr)によるツーピースロックバンド。鈴木の心を揺さぶるような歌声、ズが繰り出すエモーショナルなドラムが合わさり、リスナーの心に刺さる楽曲を多数発表している。インディーズでアルバム3枚、EP2枚をリリース。2024年10月にシングル「違和感と窮屈」を日本クラウンのPANAMレーベルから配信リリースし、メジャーデビュー。2025年1月にメジャー1stアルバム「あばら」をリリースした。3月からアルバムのリリースツアーを開催。3月1日には東京・両国国技館で行われるライブイベント「J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 2025 supported by 奥村組」に出演する。