鈴木雅之インタビュー|還暦ソウルから古稀ソウルへ、とびきり「Snazzy」なステップを (3/3)

「ラヴソングの王様」が考える、コンプライアンスと禁断の恋の歌

──鈴木さんが作詞作曲された「Hey you?, Hey sup?」「Psychedelic City」「Dreams Come True」の3曲も、70年代初頭のニューソウル、サイケデリックソウルのマナーに則った素晴らしい楽曲です。収録順に朝、昼、夜のイメージも浮かびました。

マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドのサウンドは意識したね。その3曲は“3本の柱”としてアルバムを作る際、最初に書き始めたものなんだ。自分がまず先陣を切っておくとアルバムをどんなものにしたいか、コラボするミュージシャンたちに伝えるときにテーマがわかりやすい。「SOUL NAVIGATION」のときにそのやり方で心地よくできたから、今回もまず自分の作品からと思って。それまではコラボ相手をまず先に決めて、足りないものを埋めていく作業が多かったんだけど。

──9曲という曲数、44分という収録時間も、何度もリピートしたくなる絶妙なボリュームです。昔で言う、46分テープにA面B面が入る感覚。

以前は13、14曲とかザラだったでしょ? CD収録時間いっぱいまで入れてやれ、みたいな。今考えると長かったよね。今は聴きたい曲だけ聴くし、イントロを聴いて長いと感じたら飛ばすこともできる。だからあえて楽曲を少なめにしてみたら、もう1回リピートしたい気持ちになる長さだなと思えた。目からウロコだったね。

──最後にスペシャルトラックで「Me and Mrs. Jones(2024 Ver.)」が収録されています。2001年のアルバム「Soul Legend」以来、23年ぶりにボーカルを新録されたそうですね。

鈴木雅之流の“ラヴ&ブルース”をやりたいと思ったときに、2001年にニューヨークで録ったトラックを使って今の鈴木雅之が歌うことで、またひとつ過去と今がリンクするかもと思ってね。あとはこの曲のオリジナルアーティストのビリー・ポールへのトリビュートの意味もあるんです。我々が高校時代、ダンスフロアで踊ってるとチークタイムというスローな曲がかかる時間があって、必ず流れたのが「Me and Mrs. Jones」と、つのひろさんの「メリー・ジェーン」。だから、ものすごくお世話になった曲なんだよね。踊りに行って、かわいい子がいるなと思っても、なかなか声をかけられなかったりする。でもチークタイムでイントロが鳴った瞬間、勇気を持って「踊ってくれる?」って。それで踊ってくれたら「やった!」っていう思いと「ビリー・ポールありがとう! つのひろさんありがとう!」みたいな(笑)。そういう高校時代のちょっと背伸びした大人の気分感覚が自分の中に残ってた。新録したのはただ単にいい曲だからってことだけじゃない。「この曲がボーナストラックで入っていたら“Snazzy”かな」と思ったわけです。

「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」2023年7月21日 大宮ソニックシティ公演の様子。(撮影:岸田哲平)

「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」2023年7月21日 大宮ソニックシティ公演の様子。(撮影:岸田哲平)

──絶品です。ちなみに「Me and Mrs. Jones」は「We both know that it's wrong. But it's much too strong(僕たちはそれがいけないことだとわかってる。だけど思いは募るばかり)」と歌詞にあるように、禁断の恋の歌でもあります。

R&Bにはそういう曲が多いからね。我々はそういう疑似恋愛的な世界を歌った楽曲を聴いて育った世代だから、耳年増だったりするんです。いかに背伸びして大人ぶるかがステータスな時代だから、我々の若い頃の写真を見ると老けてますよ、みんな(笑)。今の子はいかに若く見せるかがステータスでしょう? 真逆なんです。

──自分も子供の頃は大人の世界を歌で垣間見ることが多かったですが、最近そういう歌が減ってきたなと感じていて。

禁断の恋なんてコンプライアンス違反の最たるものだよね。だけどラブソングの定義は1つじゃない。出会いがあれば、別れもある。不条理なものがあれば、ピュアなものもある。それを僕はソロになった当初から体験してるんです。達郎さんと一緒に作り上げた「Guilty」なんて完璧にコンプライアンスNGな世界だから。当時そういう歌は演歌の世界ではあってもポップスの世界ではあまりなかったから、それを達郎さんは「あえて不条理をテーマに歌う」と作り上げたのが「Guilty」だったんだよね。その翌年、小田和正さんと一緒に曲を作るとき「今度は鈴木雅之のピュアな部分を歌にしてみるのはどう?」って。そこから「別れの街」や「FIRST LOVE」という楽曲が生まれて。アーティストの哲学を取り入れながら、ボーカリストがメッセンジャーとなって疑似恋愛を歌い上げることで、いろんな人に思いを届けられるんだということを早いうちに知ったのは大きかった。それでボーカリストとしての方向性を見出してもらえて、ずっとやって来た中で、ちょっとマンネリ化しそうだなと思っていたときに「DISCOVER JAPAN」シリーズで服部一族の御曹司である服部隆之と組むことになって。「ボーカリストとして中途半端なことはできない」と思うじゃない? オーケストラやビッグバンドのよさを教えてもらったのは隆之のお父さんの服部克久先生からだった。「マーチン、オーケストラで歌うって気持ちいいだろ?」「ビッグバンドで歌うとウキウキするだろ?」って。さらにその後ろには服部良一先生がいるわけで。ちょっとやそっとじゃ見透かされると思うから。僕は常に想定外でありたいし、そういうものをぶつけなければコラボレーションなんてとてもできないという思いでやったから、ボーカリストとしてまたひとつ自分を成長させてくれたプロジェクトだったね。

──オーケストラアレンジで再発見される「日本のうた」。「DISCOVER JAPAN」は素晴らしい企画でした。

素晴らしい企画が実現できたり、そういうのって音楽の神様からのギフトだと僕は思ってる。それをキャッチできるかできないか──いいものを持ってるのにどうしてこの人は売れないんだろうという人は悲しいかな、そのギフトをキャッチできない瞬間がある。運命的なものもあるだろうけど、自分はいつもギフトをキャッチできるようアンテナを巡らせているんです。ボーカリストという立ち位置の心地よさを感じながらやってるから、いろんなコラボ相手を探せるんだと思う。グループ時代はすべて自分たちでセルフプロデュースしていたから、セッションミュージシャンを通さなくても音は作れていた。だからソロになったとき、あまりにも音楽的ブレーンの少なさに愕然として。「もっと自分から前に出て、いろんな人と会って、思いを伝えていかないと。待ってるだけじゃダメだな」という思いにさせてもらえたんだ。そういう感覚に導かれていく。それが大事なんじゃないかな。

──何事もそういうふうに向き合っていれば、目標がなくなることもないですね。

そう。前向きになるし、次は何やろう、何をしたいかなという気持ちが湧いてくるよ。

おはぎはソウルフード

──4月27日からは全国ツアー「masayuki suzuki taste of martini tour 2024 ~Step123 season2 "Snazzy"~」がスタートします。

ステージの構想もほぼできてます。例えば、ニューオリンズのバーボンストリートにありそうなジュークジョイント(ミュージックバー)がそれぞれの町に出現する、みたいな想定です。

──コーラスの高尾直樹さん、露崎春女さんとステージで繰り広げるやりとりも見逃せません。

あれはミネアポリスの流儀だね。僕はプリンスとThe Timeのようなやりとりが大好きだから、ステージパフォーマンスは大事にしてる。露崎は一昨年から参加してくれてるけど、実は彼女がソロデビューしてまだ間もない1997年に「CARNIVAL」というアルバムで1曲歌ってもらってるんです。僕が書いたタイトル曲に女性ボーカリストを呼びたいと思ったとき、露崎がものすごく気になるソウルディーヴァだったから。近年ステージで一緒にやれるのも、自分がずっと活動を続けてきたからこそのご褒美だなって思うよ。

──ご褒美といえば、ツアー名物「御当地おはぎ」も鈴木さんの楽しみのひとつですね。

ライブ前は何も食べないから、ステージが終わるとエネルギー補給も含めておはぎを食べるのが恒例なんだよね。おはぎってソウルフードなんだよ。全部満たしてくれる。全国のイベンターが「この町で一番おいしいおはぎを用意しました!」って楽屋に置いてくれるから、それを舞台監督とその日のステージのダメ出しをしながら食べるんだけど、そのときにほうじ茶を淹れるのは僕の役目。そこまで全部支度してステージに送り出してくれるのがスタッフだから、終わったあとは労いの気持ちを込めて「おつかれさま」ってね。いいステージを終えて、おいしいものを食べるとみんな笑顔になる。それが僕にとっての最高な“Snazzy”だね。

鈴木雅之

鈴木雅之

公演情報

masayuki suzuki taste of martini tour 2024 ~Step123 season2 "Snazzy"~

  • 2024年4月27日(土)千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2024年5月12日(日)神奈川県 神奈川県⺠ホール
  • 2024年5月18日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年5月19日(日)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2024年5月25日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2024年5月26日(日)静岡県 静岡市民文化会館 大ホール
  • 2024年5月31日(金)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年6月2日(日)⻘森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
  • 2024年6月6日(木)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
  • 2024年6月8日(土)福岡県 福岡サンパレス
  • 2024年6月9日(日)⻑崎県 長崎ブリックホール
  • 2024年6月14日(金)神奈川県 カルッツかわさき
  • 2024年6月15日(土)東京都 江戸川区総合文化センター
  • 2024年6月20日(木)北海道 函館市民会館
  • 2024年6月22日(土)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2024年6月23日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2024年6月29日(土)岡山県 倉敷市民会館
  • 2024年6月30日(日)広島県 上野学園ホール
  • 2024年7月4日(木)大阪府 フェスティバルホール
  • 2024年7月5日(金)大阪府 フェスティバルホール
  • 2024年7月7日(日)群馬県 高崎芸術劇場 大劇場
  • 2024年7月14日(日)東京都 NHKホール
  • 2024年7月19日(金)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2024年7月21日(日)茨城県 水戸市民会館 グロービスホール
  • 2024年7月27日(土)長野県 ホクト文化ホール
  • 2024年7月28日(日)富山県 オーバード・ホール
  • 2024年8月3日(土)香川県 サンポートホール高松

プロフィール

鈴木雅之(スズキマサユキ)

1956年東京生まれ。1975年にシャネルズ(のちのラッツ&スター)を結成し、1980年にシングル「ランナウェイ」でデビュー。1986年にシングル「ガラス越しに消えた夏」でソロデビューを果たす。現在までに「もう涙はいらない」「恋人」「違う、そうじゃない」「渋谷で5時」など数々の名曲を発表。2011年にカバーアルバム「DISCOVER JAPAN」で「日本レコード大賞」優秀アルバム賞、2016年に最優秀歌唱賞を受賞した。2019年より放送されているテレビアニメ「かぐや様は告らせたい」シリーズのテーマソングを担当し、伊原六花、鈴木愛理、すぅ(SILENT SIREN)、高城れに(ももいろクローバーZ)とコラボを展開。2022年に野外フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」、2023年に音楽フェス「SUMMER SONIC」に初出演を果たす。2020~2023年に4年連続で「NHK紅白歌合戦」に出場。2024年3月にアルバム「Snazzy」とライブ映像作品「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」をリリースし、4月より全国ツアーを行う。