鈴木雅之インタビュー|還暦ソウルから古稀ソウルへ、とびきり「Snazzy」なステップを (2/3)

運命的な「Magic Hour feat. Billyrrom」、直談判された「Beautiful」

──先ほど話題に上がったBillyrromは2020年に結成された東京都町田市出身の6人組です。このアルバムに収録された「Magic Hour feat. Billyrrom」で彼らを初めて知った方も多いと思います。

Billyrromはうちの制作スタッフの推薦で作品を聴いた瞬間「いいじゃん!」って感じだった。僕はMaroon 5が好きなんだけど、Billyrromの聴き心地の中にアダム・レヴィーンのボーカルやギターのリフに近いものを感じたんです。それで鈴木雅之というフィルターを通してデモ音源を作ってもらおうってトントン拍子に話が進んで。結局「Magic Hour feat. Billyrrom」は、デモアレンジをそのまま採用したんだよね。

──それはすごい!

歌詞も前作「SOUL NAVIGATION」のときに自分が作りたかった世界だったんだよね。「Magic Hour」は夕日が沈みかけた空の一瞬の美しさのことなんだけど、それを去年の段階で表現したくて、前作の裏ジャケットの色合いはそのイメージなんだ。それで僕は「Blue Magic」という曲を書いたんだけど、ほかにもいっぱい曲を作ったからあえてお蔵入りにしたのね。そしたら、それに近いテーマでBillyrromのRinが作詞してきたから、運命的なものを感じて。こんなこと、なかなかないから、自分の思いをそのまま若い彼らが届けてくれたみたいな気持ちになって「すごいな、これは音楽のUber Eatsだな」と。そんなことはないか(笑)。

──水野良樹さんとはこれまでアニメ「かぐや様は告らせたい」シリーズのオープニングテーマ4曲でご一緒されています。これまではダンサブルなタイプの曲でしたが、今回の「Beautiful」は満を持してのバラードですね。

水野は去年のツアーの大宮公演(ライブ映像作品「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」収録公演)を観に来てくれて、何か感じるものがあったんだろうね。楽屋に挨拶に来てくれて「今度よかったらバラード書かせてください」と直談判されたから、アルバムの制作に入ったときに声をかけたんです。最初は「かぐや様は告らせたい」の主人公・四宮かぐやと白銀御行はその後どうなっていくのかというテーマでやりとりしていたんだけど、その最中に能登で大きな地震が起きた。その大変な状況を目の当たりにしたことで、被災地の人々に寄り添う思いを詞に込めることになったんだ。

──水野さんはある意味J-POPを背負って、とにかくいいメロディを残していこうと挑戦されていますよね。

正直、今はビートのある楽曲がもてはやされて、バラードというものの人気がちょっと薄れているところがあるんですよね。だからこそ、僕がバラードを届けなきゃいけないという思いがあって。ボーカリスト鈴木雅之にとってもバラードは欠かせないものだし、届けたいメッセージもあるから。ちょうどそこがリンクしたよね。

「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」2023年7月21日 大宮ソニックシティ公演の様子。(撮影:岸田哲平)

「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」2023年7月21日 大宮ソニックシティ公演の様子。(撮影:岸田哲平)

「人生は1つのドラマだ」って意味でのブルース

──石崎ひゅーいさん作詞作曲の「ベイビー・レイニー・ブルース」もまた“ブルース”を冠した曲です。

ひゅーいは新人ではないけど、同じレーベルの後輩アーティストと最古参の鈴木雅之がスクラムを組むのも、美しいものがあるなって。彼が菅田将暉くんに楽曲提供しているのは知ってたし、菅田くんの映像作品も好きで観てたんです。そんな中で中島みゆきさんの「糸」を菅田くんとひゅーいが一緒にカバーしたのを聴いてグッとくるものがあったんだ。シンガーソングライターって、だいたい自分のやりやすい形に寄っていくものだから、ほかの人の曲をカバーすると意外にテクニカルな部分がバレるもんなんです。そういう意味でも、ちゃんと自分の感覚で歌ってることがすごく感じられたから「ひゅーい、がんばってんな」と思って誘ったわけです。最初はバラードでいこうかという気もあったんだけど、ひゅーいには「ビートのあるもので。いい意味で裏切ってくれない?」と提示して。時にはリズミカル、時にはブルージー。それが鈴木雅之のリズム&ブルースなんだという解釈を伝えたら、ちょうど彼がニューヨークに行く前だったから「じゃあ向こうでその匂いを感じながら作ってきます!」と言ってくれて。いろんなものを感じて作り上げたようなところがあったから余計にうれしかったね。

──確かにタイトルから思い浮かぶ曲調とは違う、アップテンポなものになりました。

これはジャンルとしてのブルースじゃなく、人生を感じるブルース。人生は1つのドラマだって意味でのブルースを、みんなに投げかけることが「ベイビー・レイニー・ブルース」の目標なんです。これまでブルースを冠した鈴木雅之の曲で最たるものは1992年にリリースした「さよならいとしのBaby Blues」だね。安藤秀樹の作品の中で特に好きだった曲のカバーで、コアな鈴木雅之ファンにはあの曲が一番のブルース曲というイメージはあると思う。もちろんそれも正しいんだけど、“Snazzy的”なものとなったときに、バラードだけじゃなくビートのあるものでもブルースをちゃんと提示できる余裕と懐の深さを感じてもらえればうれしいね。

──柳ジョージさんの「コイン・ランドリー・ブルース」も「DISCOVER JAPAN II」(2014年発表のカバーアルバム)でカバーされていましたね。

ジョージさんは1960年代後半から活躍し続けてきた人だから、本物を意識しながらやってきた世代の人はやっぱりカッコよかったし、そういう人たちと接点を持てる世代に生まれてきたのはラッキーでした。カバーだけじゃなくオリジナルの作曲もしてもらったし(「ジョアンナ」)、「SOUL POWER SUMMIT」で共演できたし。若い子たちに手を差し伸べるだけじゃなく、いわゆるレジェンドと呼ばれる上の世代たちをみんなに紹介できる場所を作るのも鈴木雅之の役目みたいな思いで「SOUL POWER SUMMIT」をやってるところもあったから、点と点がすべてつながる、みたいなことはかなりやれてると思います。

鈴木雅之(撮影:岸田哲平)

鈴木雅之(撮影:岸田哲平)

Uriah Heep武道館公演で“つのひろ”と邂逅

──同じく60年代後半から活躍されている、つのだ☆ひろさんも「Snazzy」に楽曲提供で参加されています。

つのひろさんは自分にとって学生時代からとにかくアイドルだった。彼に憧れてアマチュアバンドでドラム&ボーカルを担当したのが、自分の音楽の歴史の始まりです。彼にはラッツ&スターの1stアルバム「SOUL VACATION」(1983年発表)を大瀧詠一さんプロデュースで作ったときにボーカルで参加してもらいました。「サム&デイヴがやってるメンフィスソウル的なリズム&ブルースをつのひろさんと歌いたい」と大瀧さんに伝えて、自分で「女って…」という曲を書いて一緒に歌ってもらった。そのときから去年で40年、その意味も大事にしたかったんです。「Snazzy」はつのひろさんがいることで20代から70代まで網羅するミュージシャンと一緒に作った作品になって、その幅の広さも大事な要素の1つと思えたんだよね。

──つのださん作詞作曲の「君は魔法使い」はフィラデルフィアソウル好きにたまらないナンバーです。ちなみに鈴木さんも“魔法”というワードはお好きで、よく使われますよね。

そうだね。僕は「Love Song Magic」ってよく言うんだけど、能登で大きな地震があったり、世界では戦争が起きたり、日々つらい思いをする人はたくさんいて。そんな人たちに音楽を届けることで明日に向かう気持ちをキャッチしてほしいという意味で、「音楽は魔法なんだ」と常々思っているんです。つのひろさんはそういうところもちゃんとケアする人だから、今回“魔法使い”という言葉を使ったんだろうね。ただね……これはもう勝手な想像なんだけど、僕はUriah Heepっていうイギリスのバンドが大好きでさ。その存在を知ったのは、つのひろさんと成毛滋さんがやってたストロベリー・パスというユニットのおかげなんです。彼らがライブでよくカバーしてたからね。そのUriah Heepに「悪魔と魔法使い(Demons And Wizards)」っていうアルバムがあって大好きなの。で、僕はその「悪魔と魔法使い」からもタイトルを取ってきてるんじゃないかなと思うんだ。なぜかというと、高校生のときにUriah Heepを武道館へ観に行ったとき、隣を歩いてたのがつのひろさんで「俺はつのださんに憧れてドラム&ボーカルをやってます!」と言ってサインしてもらったの。「へー、ドラムやってんだ? がんばってな」「ありがとうございます!」って。そのときの思い出が自分の中にすごく大切なものとしてあるんだよね。