鈴木雅之 feat. すぅ「GIRI GIRI」特集|すぅ(SILENT SIREN)が語り尽くす、鈴木雅之の計り知れない魅力

鈴木雅之がニューシングル「GIRI GIRI」をリリースした。

「GIRI GIRI」は、テレビアニメ「かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-」のオープニング主題歌。鈴木が同シリーズのオープニング曲を担当するのはこれで3作連続となる。なおアニメ「かぐや様」のオープニング曲では一貫して男女デュエットのスタイルが取られており、第1期では伊原六花、第2期では鈴木愛理が鈴木のパートナーを務めた。

そして今回の「GIRI GIRI」でデュエットパートナーに選ばれたのは、SILENT SIRENのすぅ(Vo, G)。昨年12月をもってバンドの活動休止を発表した彼女の意外な形での露出に、驚いたリスナーも少なくないはずだ。過去2作と同様に作詞・作曲を水野良樹(いきものがかり、HIROBA)、編曲を本間昭光が手がけたゴージャスかつポップなディスコナンバーは、鈴木とすぅの2人が軽快に踊るミュージックビデオでも話題を集めている。

音楽ナタリーでは、そんなすぅに単独インタビューを実施。いったいどのような思いからこのオファーを受け、鈴木雅之という“ソウルジャイアント”にどう立ち向かい、何を得たのか。その一部始終をたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 須田卓馬

鈴木雅之さんって、あの鈴木雅之さんですか?

──すぅさんはSILENT SIRENとしてアニメのタイアップ曲を数曲手がけてきましたが、もともとアニメがお好きだったりするんですか?

めちゃめちゃ好きです! 歌詞を書くときに行き詰まったらアニメを観たりマンガを読んだりして、その世界観の中で感じた気持ちを曲にすることもよくありますし……マンガを読みながら、その作品がアニメ化される想定で仮想の主題歌として曲を書いたりすることも多くて(笑)。だからこそ「気軽にアニソンに携わることはできない」という気持ちが強いので、毎回恐れ多いんです。

──好きすぎるが故に、という。

そうです。こういう声だから、「アニソン方面に進めば?」とか「声優さんとかには興味ないの?」と言っていただくこともあるんですけど、「そんな簡単なものじゃないんだよ!」という(笑)。好きなだけに、そんなに甘い世界ではないことも理解していますし。

──なるほど。そんなすぅさんのところへ「鈴木雅之さんが歌う『かぐや様』のオープニングテーマに、フィーチャリングボーカルとして参加してほしい」という話が来たとき、まずどんなことを思いました?

「本当に?」というのが第一印象でした。「鈴木雅之さんって、あの鈴木雅之さんですか?」「『かぐや様』って、あの『かぐや様』ですか?」みたいな(笑)。

すぅ(SILENT SIREN)

──確かに、「同姓同名のスズキマサユキさんではなく?」と思っちゃいそうな話ではありますね。

すごいチャンスだと思ったし、こんなにいいお話はそうそうないから「即答するべきだ」と思ったんですけど……マーチン(鈴木)さんにも「かぐや様」にもめちゃくちゃリスペクトがあったから、すぐには決断できなくて。一旦持ち帰って、本当に悩みましたね。毎日そのことで頭がいっぱいになってしまって。

──それを「やろう」と思えたきっかけは何かあったんですか?

バンドが活動休止に入るタイミングだったし、「私がそういう形で表に出ることをメンバーやファンのみんなはどう思うだろう?」という心配もあったんです。なので、メンバーに「こういう話が来てるんだけど、どう思う?」と相談したんですよ。そしたら、「どう思われるかじゃなくて、すぅがやりたいと思うか思わないかでしょ。直感で決めたら?」「どっちを選択しても、私たちは応援するから」と言ってくれて。

──すごくいいお話ですね。

あと、社長から「マジですぐに答えを出さないと、この話は無理だよ」と急かされてもいたので(笑)。それで、きっと自分たちの会社にもいい影響があるだろうし、今後の自分自身の音楽人生においてもいい経験になるんじゃないかと考えて決断しました。

──なんとなくイメージとして、すぅさんは今回のようなプレッシャーの大きいミッションにこそ燃えるタイプという印象があったので、二つ返事くらいで「やる」と答えたものと勝手に思っていました。

実はけっこう慎重なタイプで(笑)。だからこそバンドという形を選んできたんですよ。これまでも私が「うーん、どうしよう」と迷っているようなときに「行け行け! うちらが支えるから大丈夫、好きなようにやっちゃえ」とメンバーが背中を押してくれていて。だから、いざ1人になったときに「どうしよう」から抜け出せなかったんですよね。でも、これはきっと自分の人生にずっと付いて回ることだと思ったから、それを打破するきっかけにもしたかったし、「とりあえず、やってみてからだな」と。

すぅ(SILENT SIREN)

──ファンの皆さんの反応はどうでした?

ファンの方からは「バンドじゃないんかい!」みたいに言われることを一番懸念していたんですけど、それは意外になかったですね。もちろん驚かれはしたんですが、それと同じくらい喜んでくれました。バンドの活動休止が決まって、「ソロ活動をしてほしい」という声もめちゃめちゃいただきましたけど、私は「音楽をやりたい」よりも「SILENT SIRENをやりたい」という思いで動いてきた人間なんです。だから今回も、ソロというよりはあくまで“SILENT SIRENのすぅ”として、「バンドを背負って参戦してきます!」という気持ちで参加させていただきました。

──つまり「すぅ(SILENT SIREN)」という表記のカッコ書き部分がかなり重要なんですね。

そうですね。そこに誇りを持ってやっていけたらなって。……あと、これは本当にいいのか悪いのかわからないですけど、「このお話を受けたら、ものすごく親孝行になるな」とも思いまして(笑)。

──なるほど。「あのマーチンさんと共演するんだよ!」みたいな。

特にお父さんはずっとマーチンさんが大好きで、見た目もあんな感じで(笑)。スタイルから何から寄せているくらいのファンなんです。それに、両親は今でこそ私のことをすごく応援してくれていますけど、最初はバンドをやることに反対していて。それを押し切って、高校を途中で転校して上京してきちゃったことにずっと負い目を感じてきたから、「どこかで恩返しをしなきゃ」と思い続けていたんです。でも活動の中でなかなかその機会が見つからなかったのが、今回ようやく1つできたんじゃないかなと思っています。

──これまたいいお話ですね……。

先日マーチンさんのライブを観に行かせていただいたとき、両親も一緒に来ていたんですけど、途中で横を見たら2人が手をつないで泣いていたんです。「本当にありがとう、親孝行だよ」みたいに言ってくれて……それがすごくうれしかったですね。

すぅ(SILENT SIREN)

マーチンさんは単なる大御所シンガーじゃない

──マーチンさんについては、これまでどんなイメージを持っていました?

幼い頃、家族でどこかへ行くときは必ずマーチンさんやラッツ&スターの曲が車の中で流れていたので、その頃はドライブソングのように思っていましたね。生活の中に当たり前にある音楽、という感覚。だから正直に言うと、そのときに流れていた音楽と“鈴木雅之”という存在が自分の中ではあまりリンクしていなかったんですよ。それを理解するにはあまりにも小さかったので。私の中でマーチンさんはずっと“黒いサングラスをした、いかつめの人”くらいの認識で(笑)。

──そういう意味では、すぅさんはもともと“マーチンチルドレン”でもあったわけですね。

そうですね、マーチンさんの歌で育ったような部分はあると思います。だから、まさか20数年の時を経て一緒に仕事をすることになるとは思ってもみませんでした。

──幼少期から触れてきている音楽って、思春期くらいになって自分の意思で音楽を選んで聴くようになると、一旦自分の中で卒業する時期があると思うんですよ。「自分で選んだものではないから」という理由で。

ああ、なるほど。

──それがさらに大人になって、音楽の聴き方がわかってきた段階で改めて聴き直したときに「あれ、こんなにレベルの高い音楽だったんだ?」と認識を新たにするという流れがけっこう“音楽好きあるある”だと思うんですけど、マーチンさんに関してそういう“再会の瞬間”はありました?

そういう意味でいうと、なかったかもしれないです。私にとっては、ずっとカッコいい音楽であり続けていたように思いますね。思春期になってバンドを始めたりしてロックを好きになってからも「両親がこういうのを聴いていて、私もそれで育ちました」というのはずっと変わらず誇りに感じていたし、言ってもきたし。

──なるほど。

いつ聴いても古さを感じないですし……今考えると、そのような音楽を当時からやっていたのはとんでもないことだなと。だから、「鈴木雅之さんと一緒に『かぐや様』の主題歌を歌う」というのはそれだけで十分すごいことではあるんですけど、自分の中ではけっこう特別な思いもあるんですよ。

──世間一般の尺度で言うビッグプロジェクト感とは別のところで、個人的な特別感もあると。

そうですね。こういう言い方はよくないかもしれないですけど、マーチンさんは私にとって“単なる大御所シンガーの方”というだけではない、特別な存在なんです。

すぅ(SILENT SIREN)

この座組を考えた人がすごい

──そんなマーチンさんですが、アニメ「かぐや様は告らせたい」シリーズのオープニングテーマを3期連続で担っており、ご自身で「アニソン界の永遠の大型新人」とおっしゃっていますよね(笑)。アニソンシンガーとして見た場合、マーチンさんの魅力はどういうところにあると思いますか?

まずこの座組を考えた人がすごいと思いました(笑)。このアニメの主題歌にマーチンさんを起用しようという発想がまずすごいです。

──確かに(笑)。しかも作詞・作曲は水野良樹(いきものがかり、HIROBA)さんですし……。

編曲は、あの本間昭光さんですしね。もちろん、そこにバチッとハメてくるマーチンさんも相当すごい。これまでに確立してきた“マーチン節”と「かぐや様」の世界観をマッチさせるのって、普通に考えてものすごく難しいことじゃないですか。でも全然ナチュラルに聴けるし、違和感がまったくない。かといってマーチンさんがアニメの世界観に寄せるために自分の色を消しているのかというと、全然そんなことはなくて。どんな場面でもご自分のスタイルをしっかり表現できて、対応力もすごいけど、“合わせすぎない”ところが魅力なんだと思います。

──ちなみに、すぅさんはアニソン全般に“こういうものであるべき”みたいな理想像を何かお持ちだったりはしますか?

それはあまりなくて、むしろ“なんでもあり”なところがアニソンの魅力だと思いますね。いろんなアニメがあるからこそいろんなアニソンがあるし、声優さんが歌うものもあればアニソンシンガーの方が歌うものもあり、ロックバンドが歌うものもあり。私は「けいおん!」世代なので「けいおん!」の一連の楽曲がすごく好きなんですけど、そういうものだけでなく、「美少女戦士セーラームーン」から「ONE PIECE」まで、どんな作品の曲でもリスナーに受け入れさせてしまう懐の深さがアニソンにはあると思います。

すぅ(SILENT SIREN)

──そういう意味では、今回の「GIRI GIRI」は“まさに”ですね。

本当に、これがアニソンだということがマジですごいなと。“アニソンっぽい・ぽくない”を超越して、作り手側の「かぐや様」という作品への愛が込められまくっているのが伝わってきます。そこがいいんですよね。