うわ、もう、マジ好きじゃん
──カップリングについても聞かせてください。2曲目「PLAYERS」の作曲は海外作家で、鈴木さんは作詞に携わっていますね。
もともと英語詞があって、一部をそのまま生かしつつ作詞をしました。最初は「kIng」みたいに、人を勇気づける曲のイメージだったんです。アップテンポで、元気が出る曲なので歌詞もそういう方向性に持っていきたいと思っていたんですけど、いろいろと練って、遠回りもして、最終的に英語詞をベースにした片思いの歌詞になりました。「あなたのことが好きすぎて止められないの」っていう。好きすぎて気持ちを制御できなくなる過程を描きました。
──ご自身の中にもある感情ですか?
最初は想像で作ったので、「私はこんなんじゃない」と思ったんですけど、この前、「あれ? 私、この要素持ってるな」と気付いて(笑)。自分から出てきてる気持ちでした。恋すると盲目になってましたね、前までは。今はわかりません! 恋をしてないので。あははは。
──(笑)。恋をするとどうなります?
ホントに周りが見えなくなりますし、好きな相手とのやりとりで一喜一憂してますね。この曲では、1番までは自分が恋をしていることに気付いていないというか、気付きたくないという気持ちがあって、ちょっと抵抗しているんだけど、2番から「うわ、もう、マジ好きじゃん」って気持ちが前面に出てる(笑)。
──また「ジェイミー」のべックスが出てきましたね(笑)。
ヤバいヤバい(笑)。好きな気持ちを認めつつ、ほかの子に取られたくないから、あなたを私のものにしたい、あなたが欲しいという気持ちをたくさん入れて。サビではとにかく好きすぎて爆発しそうな気持ちを表現しました。
──「爆ける I love You」と歌ってますね。“弾ける”じゃなく、“爆ける”になっています。
ぴょんぴょんと弾む感じじゃなくて。苦しくて苦しくて、好きすぎて出したいけど出せない、いや、出しちゃえ!と感情を爆発させる……それを“爆ける”という言葉で表現したいなと思って。歌だけを聴いてもわかりにくいところなんですけど、歌詞を見たときに一発で伝わる言葉だなと気に入っています。
アップテンポを克服
──生き方や信念をテーマにした曲だけでなく、ラブソングも書くというのが意外でした。
恋愛ソングをリリースするのは初めてですね。この2年くらいでたくさん曲を書いてきて。「PLAYERS」はこのシングルのために作詞したんですけど、片思いは初めて挑戦したテーマでもあるので、これが私の実体験だと思われるとめちゃめちゃ恥ずかしいんですよね(笑)。基本的に別の人のことだと思って聴いてほしいですけど、私の一部として受け取ってもらえるのも、ちょっとうれしいですね。1stシングル「FLY MY WAY / Soul Full of Music」のときとまったく違う歌詞の雰囲気とか、新しい曲調を聴いてもらえるのがすごくうれしいです。
──ちなみに前作のインタビューでは「アップテンポが苦手」と言ってましたね(参照:鈴木瑛美子「After All」インタビュー)。
今は自分に合ってると思っています。アップテンポの曲こそ、自分の性格が出せるなって。バラードでは力強さ、切なさ、優しさを出せるけど、また違った自分を表現できるなと思って。克服しましたね。ふふふ。
──アップテンポのラブソングをどんな気持ちで歌ったのでしょうか。
ちょっとかわいくもあるけど、ガツガツした感じというか。好きな人を誰にも取られたくない、取らないで、というわがままな気持ちも出しながら歌ってますね。
──タイトルは歌詞には出てこないですよね。
2番に「独り占めのラブゲームを」という歌詞があって。テニスで相手に圧勝していることをラブゲームというんですけど、好きな相手をトロフィーに見立てて、それを勝ち獲るためのゲームに参加したプレイヤーという意味で「PLAYERS」にしました。恋をしてる人たちが1人の相手を取り合うという点では、ゲーム感覚、勝負みたいなところがあるなと思いますね。
ダラッダラで歌った
──3曲目にはご自身が作詞作曲した「Dalalife」が収録されています。
このシングルに私の全部を詰めましたね。「Dalalife」は自分で作った曲の中でも最近作った曲なんですよ。自然にできました。
──リラックスして楽しんでいるようなオーガニックな楽曲になっています。
常に全力投球でいる必要はないし、怠けものの自分も受け入れていいんじゃないかなって。初っ端から「何も考えないでごらんよ / たまにはいいじゃんこんな日があったって」と歌ってますけど、ホントに思ったこと、見えたものをそのまま書いて、そのままできた感じなんですね。音も4つの音をずっと繰り返してるだけ。ダラダラした休日にこの曲をずっとループして聴いてほしいなという思いをアレンジャーさんに伝えて。歌詞を書いたときはイスに座って、そこから見えた景色や当時の自分の状況をひたすらメモしました。目覚めて、もう夕方の4時じゃん。閉まってるカーテンから夕日の光が差し込んでて。愛犬のルークに「おそよう」って挨拶して。ホントにこのまんまです。これこそ私の休日ですね。
──自身の作詞作曲で、歌い上げずに、肩の力が抜けたような自然体の曲を出してきたのも意外だったんですよね。
今、コロナ禍でいっぱい悩みが増えてるじゃないですか。フラストレーションが溜まったりとか。だから1回、ちょっと考えることをやめて、一瞬でもいいからリフレッシュしてもらえればと思ったんですよね。「kIng」で強く強く背中を押すんですけど、「Dalalife」はそっと寄り添って、歌声で包み込んであげるイメージですね。
──レコーディングも「kIng」とは違うアプローチで臨みましたか?
そうですね。曲を作ったときの状況や自分の雰囲気を再現したかったので、背もたれのある椅子を用意してもらって。レコーディングもダラッダラで歌ってました(笑)。緑のラインの入ったスウェットを履いて、上もオーバーサイズのTシャツを着て。髪の毛はお団子でまとめて。ここは家ですか?というくらいユルめの格好で、姿勢を崩して歌ってましたね。
──ラップもしてますよね。
うわ、恥ずかしい! 曲調がチルな雰囲気なので、ラップとは別ジャンルとして聴いてほしいです。あと、1曲を通して、私はずっとベッドの上でまだ起き上がってないんですよ! だから皆さんにも同じようなシチュエーションで、思う存分ダラダラしながら聴いていただきたいですね。「気付いたら夜でした」くらいの感覚で。
──家の外から聞こえる生活音や、口笛の音も入ってますね。
子供たちの声は実際に私が聴いたものと近い声を探して、ベランダから聞こえる車の音も絶対に入れたいと思っていました。口笛は、幼い頃にタクシーの運転手さんに「すごい上手だね」と褒められたことがあるくらい自信があって。この曲ができる直前に、インスタライブで「絶対に次の曲に口笛を入れる」と宣言したんですよ。だからどうしても入れたかったんです。ゆったりした歌声と口笛と、全体の雰囲気。制作過程もオリジナリティがあふれていて、大満足の曲になったなって思います。
ミュージカルの役柄が憑依
──繰り返しになりますが、ボーカルに徹した「kIng」、作詞も担当した「PLAYERS」、そして作詞作曲した「Dalalife」と、異なるスタイルの3曲がそろって、ご自身にとってはどんな1枚になりましたか?
1枚目のシングルのときに、「今、持ってる自分の技術を全部詰め込みました!」とお話したんですけど、今回も、今の鈴木瑛美子を3曲に詰め込めた気がします。「kIng」では澤野さんの曲と私の声の融合、化学反応に注目してほしい。歌詞を書いた「PLAYERS」では恋する女の子のかわいらしい一面を感じてほしいし、「Dalalife」での、人前に立つキリッとした姿じゃない素の自分も楽しんでほしい。この3曲を通して、今の鈴木瑛美子を表現できている気がします。
──今の鈴木瑛美子を語るうえでは、8月から始まるミュージカル「ジェイミー」にも触れないわけにはいかないですよね。
はい。私、今、ベックスです。マジ、ヤバい! あはははは。私、そのとき演じてる役によって話し方も変わってしまうんですよね。「RENT」というミュージカルでわりと無頓着なキャラクターのモーリーンを演じていた時期は、電車の風でスカートがめくれたときもそのまま歩いてたんですよ。今は「ジェイミー」のベックスが憑依していて、普段もギャルっぽくなってしまって困ってます。ベックスは、かわいいものはかわいい、ダサいものはダサいとはっきり言える子で。そういう素直な部分は私の性格に近いのかなと思います。
──今後もアーティスト活動とミュージカルへの出演は並行してやっていくんですよね。
そうですね。どちらもずっとやっていきたいです。ミュージカルに出演するときは、役柄によって普段の振る舞いも変わってくるから、周りの人を驚かせちゃうんですけどね。もともとアーティスト活動では、いかにうまく歌うかではなくて、歌で何を伝えるかを意識していて。そこはミュージカルでも変わりはないんですけど、表現方法という意味では違いもあるんです。舞台のほうがオーバーアクションを求められる。ステージの上で体を大きく動かして、どの席のお客さんにも見えやすくするという点は舞台ならではで……今日はベックスが乗り移ってしまいすみませんでした(笑)。