鈴木瑛美子がフィジカルとしては通算2枚目となるニューシングル「kIng」をリリースした。

表題曲はテレビアニメ「キングダム」第2クールのエンディングテーマで、「進撃の巨人」や「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」など数々のアニメの劇伴音楽を手がける澤野弘之がプロデュースを担当。鈴木にとって初のアニメタイアップソングとなった。また本作には、デビューシングル以来となる自作曲「Dalalife」も収録。壮大なバラードソングである表題曲のムードから一変、鈴木はリラックスしながら口笛やラップも披露している。

昨年10月に配信された「After All」では、亀田誠治やトオミヨウ、渡辺善太郎、多保孝一といったプロデューサー陣を迎え、シンガーに徹することで歌の表現に力を入れていた鈴木。ゴスペルをルーツに持つボーカリストでありながら、作詞作曲を行うシンガーソングライターでもある彼女は近年ミュージカルにも活動の場を広げている。音楽ナタリーではそんな鈴木の多面的な魅力を探る。

取材・文 / 永堀アツオ　撮影 / 堀内彩香

毎日のように聴いてる「kIng」

──まず、アニメ「キングダム」のエンディングテーマを歌うことが決まったときの心境から聞かせてください。

「え、マジ？」って思いました。びっくりして、驚いて、困惑して……。「あ、マジ？」って（笑）。

──あははは。“マジ？”以外も聞かせてもらえますか。

現実味がなかったんですよね。すごく有名で人気の作品だということはわかっていたんですけど、当時はまだアニメを頻繁には観ていなくて。アニメの世界が急に自分に近付いてきた気がして、すごく不思議な感覚がありました。でも、正式に決まって、気持ちが落ち着いてからは、とにかくうれしかったですし、自分の声が合っていたから選んでもらえたという誇りも感じました。「キングダム」は力強いアニメですし、主人公も熱い男ということで、自分の歌声が持つパワーを出していけたらいいなと思っていましたね。

──では、澤野さんによる楽曲を受け取ったときはどう感じましたか？

めっちゃカッコいい！と思いました。ここに自分の声が乗るのが超楽しみ!!って。楽曲の壮大さや英語の歌詞が多い部分も自分に合ってるなと感じました。得意な部分も出せそうだし、期待してください！という気持ちで、デモを聴いた瞬間から早く歌いたくて仕方なかったです。

──今日はいつにも増して“マジ”や“超”が多いですね……。

そうですよね！ 実はミュージカル「ジェイミー」の稽古が始まって。イギリスのティーネイジャーの学生、べックス役をやってるんです。ちょっとそのキャラクターに寄ってますよね。すみません！

──あははは。新曲の話題に戻りますが、歌詞はどう捉えましたか？

すごく力強いし、背中を押してくれる曲だなと思いましたね。負けないでがんばろう！と思える曲だなって。私自身、この曲を歌ったことで勇気づけられたり、自信が出たりして。「キングダム」のエンディングということもあるんですけど、これからどんなことでもやっていけると前向きな気持ちになれるんですよね。ホントに毎日ひたすら聴いてます。

明るくない自分は好きじゃない

──レコーディングではどんなことを意識しましたか？

私には、地声で高いところを思いきり張ってるイメージがあると思うんですけど、その地声の強さをきれいに出すことを意識しました。思いきり“がなる”のではなく、透き通った地声を意識して歌っています。あと、エンディングテーマなので、その話のクライマックスで流れ始めることもありますよね。物語の佳境で自分の歌が流れることもイメージしました。

──背中を押す、勇気づけるという気持ちの部分では何か想像してました？

自分のことを考えてましたね。挫けたり、気分が落ちてるときの自分を想像して。私の歌声で私自身を奮い立たせるような感覚で歌いました。

──日常生活の中で挫けたり、落ち込んだときはどうやってリカバーしていますか？

1回とことん落ち込みますね。その落ち込んでる自分が嫌なんです。明るくない自分が好きじゃなくて。例えば疲れたときとか、ホントに信頼している人の前でガタンとなるときがあるんですけど、そんな自分が嫌だから、立て直そうという気持ちになるんですね。1回自分を嫌いになって、その嫌いになった自分を受け入れて変えていくっていう。落ち込んでるときも全部、一旦、受け入れますね。

──現実逃避したり、リフレッシュしたりするのではなく、自分を徹底的に見つめるんですね。

そうですね。常に客観的に見るようにしています。落ち込んでいて、悪い態度を出しちゃってるときとか、申し訳ない気持ちでいっぱいになるんです。不貞腐れたりしながらも、心の中では「ごめんなさい」と言ってます。疲れていたり、眠そうな自分を出すのも嫌なんですけど、どうしても出しちゃう。だから、心の中で謝ってるんですけど、スタッフさんたちにはそれすらも見透かされていて。結局は素直なんですよね。

──（笑）。裏表がないってことですよね。澤野さんからのディレクションはありましたか？

特に具体的なことはなく任せていただいてました。「一旦歌ってみてください」と言われて歌ってみたら、「うん、いい感じ、OK！」と言葉をいただいて。コーラスも録って、あとは家族の話をして……あっという間に終わったと思います。ただ、レコーディングしたのが1年以上前なので、記憶が曖昧になっていて……あ！ 赤い口紅を塗ってましたね。

──赤い口紅？

私、レコーディングのときは曲によって服装やメイクを変えるんですよ。この曲では、強くて芯のある女性でいたいと思っていたので、自然に赤い口紅をしてて。黒いパンツに、高いヒールのブーツを履いて、グレーのジャケットを着てました。そういうことだけはすごく覚えてますね。

──ローから始まって次第にスケール感を広げていく壮大なバラードですが、特に苦労したという記憶もなく？

低いところは得意なので、苦労はしていないですね。伝わり方のニュアンスというか、優しく歌うところと力強く歌うところのバランスに関して、自分で納得できるように歌いましたね。私的には、サビの駆け上がりがめっちゃ好きなんですよ。しかも、その前に、“ぷーんぷーん”って1回、吸い込んでから、一気に爆発する感じ。サビ前からサビの頭にかけての駆け上がりが特に好きですね。

──最後はフェイクでのロングトーンも入っています。

ライブは毎回、アプローチを変えて歌ってもいいんですけど、何度も聴かれる録音物は、ある程度決めてから歌いたいんです。飽きずに何回も聴いてもらえるような、カッコよくて聴き応えのある声で歌いたいなと思って、最後の節回しはすごく練りましたね。

守護神に変身

──タイトルはどう感じました？

澤野さんが付けられたんですけど、きっと、“私”が地に足を付けて、凛と立ってるというイメージなのかなと思ってるんです。“I”だけ大文字だといろいろな捉え方ができるし、この曲がとても好きなので、シングルのタイトルとしてもそのまま使用させていただきました。

──アニメのエンディグテーマを歌うのは初、澤野さんとのタッグも初めてでしたが、楽曲が完成してどう感じましたか？

1年間温めてきた曲なので、早く世に出したい、みんなに早く聴いてもらいたいという気持ちでいっぱいでしたね。カッコよくて、きれいで、壮大で、人の心に刺さると思うし、「キングダム」の世界観にもめちゃめちゃ合ってる。「いい曲だから聴いてください！」と自信を持って言える曲になりましたし、「澤野さん、ありがとうございます！」と伝えたいです。

──ミュージックビデオも制作してるんですよね。

そうですね。テーマが「守護神」で。私は繭のような空間に入って、少林寺拳法やダンスをがんばってる子たちを見守り、支えてる存在のようになってますね。歌で背中を押してるイメージです。私＝守護神ということがわかるように神々しく撮ってもらって。私の歌を通して、みんなに勇気を与えられたらいいなと思っていました。私のすべてのパワーが発揮されています。