Superflyのパブリックイメージを守り続けてきた先に
──「Charade」は具体的にどうやって作っていったんですか?
思いっ切り迷って、自分の中から出てくるものに翻弄されながら、抽象的でモヤッとした世界観を追い求めていきました。部分転調みたいな箇所もあるんですけど、もっと変な方向に行きたいという気持ちが出てきて、でも複雑になりすぎるのも嫌だから最後は元のキーに戻るぞとか、せめぎ合う気持ちがあって。誰と誰がせめぎ合ってるのかわからないんですけど(笑)。
──となると最初にサビがあってよかったのかもしれないですね。道しるべとしても。
そうなんですよ、おかげであっちこっち回り道して迷い込むことができた。ホント、こんなに翻弄されたのは初めてです。気付いたらサビでテンポまで変わっちゃって、自分でも「え、そうなるの?」と驚きました。ちょっと複雑な構造の曲なのでよさが伝わるかなと不安だったんですけど、曲を送ったら木﨑さんやディレクターから「めっちゃいい!」とリアクションをもらってホッとしました。宮田さんには「こんな引き出しがあったんだ」と言っていただいて。
──まさに新しい扉が開いた感じですね。
こういう曲調はもちろん嫌いじゃないんですけど、これまでSuperflyがやるにはちょっと世界観が離れすぎかなと思って、あんまり出しようがなかった部分だったんです。それが今回OKをもらって、私の中から喜んでそういう世界観が出てきたんでしょうね。「出番きた、私ここにいます!」って(笑)。
──なるほど(笑)。今回ドラマ制作チームが「今までにないものを」とリクエストしたのも、木﨑さんが「全部1人で」と提案されたのも、予感があったのかもしれないですね。
今思えば、たぶん私がその体勢に入っていたんだと思います。Superflyってパブリックイメージとしてパワフルな印象があると思うので、別の方面に冒険したくてもなかなかできず、これまで無意識で止めていたものもあったと思います。でも最近は自分の中から勝手に出てきたものに逆らわないようにしたいなと思っているので、それを皆さんが客観的に見てくださって「今なら行けるんじゃないか」と後押ししてくださったことがうれしいですね。
レッテルを剥がしていったらラクになれた
──歌詞はドラマの世界観を踏まえつつ、Superflyらしさも感じます。
歌詞には去年の年末くらいから身の周りで起こったことが反映されています。年末に身近な人を亡くして、自分の価値観が変わったんです。その人はすごく怒りっぽい人だったんですけど、亡くなったときにその怒りっぽいイメージがサーッと消えて、それからはずっと優しくてポジティブな気配だけが私の周りにあるんです。考えてみたらその人は病による痛みと闘っていて、体の反射によって怒りが出ていただけで、本来はとてもポジティブな人だった。それがわかった瞬間、すごく腑に落ちたんです。人にとっては体もその人の本質を覆う1つの“ガワ”なんだと。
──確かに体に刺激を感じたら、気持ちとは関係なく反応しちゃいます。
それは外部からの刺激に対する反応であって、人の本質はもっと内側にあるんじゃないかと思うんです。闘病していた方のことを、私たちも本人も怒りっぽい人と思い込んでいたけど、本質はそうじゃなかったように。私自身も自分のことを繊細で弱いと思いがちなんですけど、本当は明るいし、好奇心がいっぱいだし、なのに自分で違うレッテルを貼って傷付いていることがあって。
──レッテルを貼りたくなるときもあるんですよね。自分が何者かわからないのが一番不安ですから。でもレッテルを貼りすぎてなんだかわかんなくなっちゃうことはあるかもしれない。
私もSuperflyの名前を背負い始めてからどんどん複雑になった感じがあって、自ら傷付いてるのか、レッテルによって傷付けられているのかわからない時期もありました。だから意識的にレッテルを剥がしていったら、どんどん生きることがシンプルになって、すごくラクになれた。もしみんなも自分にレッテルを貼ってるとしたら、剥がしていいんですよって伝えたい。
──大人になると社会的な役割も増えて、レッテルだらけになりがちです。
例えば親になったら親らしくならなきゃいけないとか、世の中にはそんな風潮がけっこうありますよね。何になろうとその人らしくいたらいいと思うんですけど、世間が許してくれないというか。
──それはありますね。けど、よく考えたら不思議で、人はどうして「◯◯らしくない」ことがこんなに怖いんでしょう。「あの人、◯◯っぽくないよね」と言われることが怖いのかな。志帆さんもそういうことあります?
あります、全然あります。育った環境や、家族間にもあるなと思います。私は3人姉妹の2番目なんですけど、たぶんずっと“2番目の子”を演じてきただろうし、姉は姉を演じているところがあった。でもそういう役割を取っ払って、お互いがお互いのその人らしさを見れたらいいのになって感じることが多々あるんです。
──役割は時間とともに変わるので、もう必要ないレッテルを貼り続けていることもあるかも。
確かに。もしかしたらそのレッテル、1回剥がしてみたらいいことあるかもよ?って言いたい。外からの刺激に影響されて迷ってしまうことは誰でもあると思うんですけど、自分がどうやって本質に戻ればいいのか、何かヒントがあるといいなと思います。
大好きな映画のタイトルでもある
──「Charade」というタイトルについても聞かせてください。この言葉は歌詞には出てこないですね。
タイトルを付けるのがすごく苦手なので、ここはぜひ誰かに頼りたいと思ったんですけど、今回は全部自分で生み出すと決めて。どうしようと悩みながら、ふと“偽物”という言葉をインターネットで検索していたら、「シャレード」というフランス語が出てきた。私はこの単語の意味を知らず、「シャレード」と言えば大好きな映画のタイトルだから、あれ?と思って。
──ケーリー・グラントとオードリー・ヘプバーンが共演した作品ですね。
よく考えたらあの作品もミステリーで、めちゃくちゃおしゃれだし、「マル秘の密子さん」の世界観とすごく近いと思って、ひらめきました。
──「マル秘の密子さん」はかなり謎めいた物語ですが、「Charade」も謎めいていますよね。「まるでheaven 魂のぬか喜び」という歌詞は、いい意味にも悪い意味にも取れますし。
私も「マル秘の密子さん」のストーリーがどうなるのか知らないので、この先を楽しみにしているんです。展開がわからないだけに主題歌を作らせていただくのも想像力が働きまくりで、やりがいがありました。
──またこんなテイストの曲を作ってほしいなと思います。
いいんですか?(笑) でもホント、こういう優雅な曲は大好きなので、作っていてすごく気持ちよかったです。
プロフィール
Superfly(スーパーフライ)
越智志帆によるソロプロジェクト。2007年にシングル「ハロー・ハロー」でデビュー。2008年、大ヒット曲「愛をこめて花束を」を含む1stアルバム「Superfly」がオリコン週間アルバムランキングで1位を記録し、以降6作連続で1位を獲得している。2023年4月、越智にとって初の著作となるエッセイ集「ドキュメンタリー」を刊行。5月にコロナ禍で制作した楽曲を収録したアルバム「Heat Wave」を発表し、11月に日曜劇場「下剋上球児」の主題歌「Ashes」を配信リリースした。年内に開催予定であった全国アリーナツアーは喉の不調により中止を余儀なくされるも、2024年2月から3月にかけて「Superfly Arena Tour 2024 "Heat Wave"」として改めて行った。最新シングルは2024年8月リリースの「Charade」。
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