Superfly「Ashes」インタビュー|情熱とは?本当の逆境からはい上がる、新曲に詰まったドラマ (2/2)

「絶対に無理」からはい上がる過程が全部入ってる

──メロディは鬱屈とした力が渦巻くような低音パートで始まって、サビで高音に移調します。これはどのように生まれたんですか?

最近の私は曲を“作る”というより、“聴く”という感じなんです。今回で言うとネガティブな情熱のパワーを感じて、ハラハラドキドキする感覚に自分を持っていくと、メロディが聴こえてくる。最初は夢の中のように、つじつまが合わない感じでぶつ切りに聴こえてくるんですけど、何度も思い出しながら口ずさんでいると、スラーッと全部歌えるようになる。そのときに録音します。

──2度目のサビのあと、グッとテンションを落とすブリッジも印象的です。

作曲と編曲に参加してくださった宮田(‘レフティ’リョウ)さんに、展開部分ではイントロのギターリフをどんどん変化させたいとリクエストしました。そこに私がメロディを乗せる予定だったんですけど、そのタイミングでまた高熱を出してしまって……。そこで宮田さんが素晴らしいメロディを作ってくださいました。

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──本当に大変なときに制作されていたんですね。

ボロボロでした(笑)。歌入れも、1カ月ほど歌うことを止められていた時期だったので、もう間に合わないかもしれないという感じで。1カ月も歌わずにいると低音が出にくくなるんですけど、途中で声帯を刺激して悪化させるのもダメなので、ギリギリまで待って、歌入れの前日だけ低音を意識したトレーニングをしました。

──低音が要となる歌ですもんね。

そうなんですよ。低音パートを作ってるときは喉の調子がよかったので、ノリノリで「いい低音鳴らすぞー」と思ってたんですけど。当日はどう響くかもわからないという状況でしたが、なんとか前日のプッシュが効いて、深い声が出ました。

──まさに「思い通りなど起こるはずもない」という歌詞のままの状況だったんですね。

ホント、この曲自体がドラマです。絶対に無理だと思うところからはい上がっていく過程が全部入ってる。なかなか簡単には作らせてもらえないものだなとも思うけど、この状況だからこそ気持ちが入った曲になりました。歌入れもベストな体調でできたわけではないけれど、「ここで乗り越える!」という強い思いを込められた。その結果、この歌はもう自分でも超えられないなと思えるくらい、納得できるところまで自分を持っていくことができました。

──ベストな状況で勝負できたらいいけど、人生そううまくもいかなくて。でもどんな環境であれベストを尽くすことはできる。そういう勇気がもらえる曲だと思います。

よかった! 私もまだボロボロだけど(笑)、負けないよ、がんばりましょうねっていう曲です。私と同じようにネガティブな情熱を持っている人を肯定できたらいいなと思います。

──みんなそれぞれに大変な状況があると思うので、きっと伝わると思います。

でもみんながんばり屋さんだから、あんまり大変そうなところを見せないですよね。そういうときはもっと言っていいんじゃないかなと思って。

──ホントそうですね。

だから私もこれから大変なときは言います。「これは大変だぞ」って(笑)。

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その日の100点満点を目指す

──さて、年明けには改めてツアーが始まりますね。

今は体が相当デリケートだということがわかったので、自分の声を聴きながら準備していこうと思います。「Heat Wave」を作って1年近く経つので、自分でも曲の感じ方が全然違うと思うんです。相変わらず先のことはわからないという不安もあるんですけど……。

──それは私たちみんな同じで、楽しみにしていたライブの日に体調がいいとは限らない。でもだからこそ、多くの人が集まって同じときを過ごせるライブは、心を動かすほどのパワーが生まれるんだろうと思います。

確かに。これまでの私は常にハイクオリティなステージをイメージして、ある種ロボットみたいに多くのルーティンをこなして備えていたから、少しでもコンディションが悪いとヘコんだり、焦っちゃったりしていたんです。でもこれからの心構えとして、ただ完璧なものを目指すのではなく、その日の100点満点、その日のベストを目指そうと思います。何があってもどっしりいくぞ、という気持ちは今までよりずっと強く持てています。

──また新しい表現が生まれるんだろうなと楽しみにしています。

ありがとうございます。ツアー中に1つ歳も重ねて、より深い歌声になるんじゃないかなって、自分でも期待をしています。

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ツアー情報

Superfly Arena Tour 2024 "Heat Wave"

  • 2024年2月17日(土)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
  • 2024年3月8日(金)大阪府 Asueアリーナ大阪
  • 2024年3月10日(日)大阪府 Asueアリーナ大阪
  • 2024年3月20日(水・祝)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2024年3月21日(木)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

プロフィール

Superfly(スーパーフライ)

越智志帆によるソロプロジェクト。2007年にシングル「ハロー・ハロー」でデビュー。2008年、大ヒット曲「愛をこめて花束を」を含む1stアルバム「Superfly」がオリコン週間アルバムランキングで1位を記録し、以降6作連続で1位を獲得している。2023年4月、越智にとって初の著作となるエッセイ集「ドキュメンタリー」を刊行。5月にコロナ禍で制作した楽曲を収録したアルバム「Heat Wave」を発表し、11月に日曜劇場「下剋上球児」の主題歌「Ashes」を配信リリースした。年内に開催予定であった全国アリーナツアーは喉の不調により中止を余儀なくされるも、2024年に「Superfly Arena Tour 2024 "Heat Wave"」として改めて開催する。