Superflyが10月10日にニューシングル「Gifts」をリリースした。
「Gifts」は「第85回NHK全国学校音楽コンクール」(通称:Nコン)中学校の部の課題曲として書き下ろされた、聴く人の胸を打つバラード。劣等感の強かった中学時代を過ごしたという越智志帆が自らの経験を投影することで、聴き手が自分自身を肯定して生きるためのヒントを与えてくれる仕上がりとなっている。またカップリングには、石原さとみが出演する「花王 フレア フレグランス」のCMソング「ハッピーデイ」も収録。気ままな女性の感情をアグレッシブなサウンドに乗せた作風は、表題曲とは違ったSuperflyの多彩な魅力を伝えてくれる。自身が作詞、作曲を手がけた2曲を収録する本作。そこに込めた思いを越智本人にじっくりと聞いた。
取材・文 / もりひでゆき
初めての合唱曲の制作で発見したこと
──新曲「Gifts」は「Nコン」中学校の部の課題曲として書き下ろされたそうですね。
はい。去年の秋くらいにお話をいただいて。もちろんSuperflyの曲だから自分でも歌うんですけど、中学生がシンガーになるということが前提としてあったので、そこを意識して作っていきました。「自分が中学生の頃にこんな曲があったらもっと人生楽しく過ごせたかもな」「考え方がポジティブになってたかもな」……そう思える曲にしようと。
──ほかの誰かが歌うことを想定したソングライティングは初めての経験だったとか。
そうなんですよ。普段の制作とは全然違いましたね。少し視野が広がる感じがあったと言うか。いつもは自分の気持ちと目の前で向き合うからすごく距離が近い感覚なんです。でも誰かが歌うことを意識すると被写体が少し遠くなって、その周りにある景色や感情なんかも見えてくる。だから、そこで言っていることはいつもとそんなに変わらなかったとしても、ちょっとした言葉のチョイスが変わっていくんですよ。「あ、こんなにも違うんだな!」という発見があって面白かったです。
──ご自身の思いを俯瞰で眺め、客観視できるところがあったのかもしれないですね。
確かにそうかもしれません。メロディに関してもこの曲はシンプルなものがいいなと思っていたんです。普段の私は割とメロディに対して言葉を詰め込んでリズムを作るタイプなんですけど、そういう企みは極力減らそうと(笑)。とにかく言葉を歌いやすいメロディにすることを意識したのも客観視の1つだったかもしれないですね。そのほうがみんなで合唱したときにきっと気持ちよくなるはずだと思ったので。
隙間で生まれる歌で時間を操作している感覚
──1人では歌えない構成になっているところも合唱曲の醍醐味ですね。
“追っかけ”ですよね。そういうパートは絶対作りたかったんですよ。メインのフレーズを歌ってる子だけがフィーチャーされるのではなく、ハモったり、“追っかけ”のフレーズを歌っている子たちにも主役になってほしかったから。参加する全員が重要な部分を担って歌える曲にはしたかったんですよね。
──中学生たちが楽しそうに歌っている姿が想像できますよね。ただ、一方でこの曲は確実にSuperflyの描くポップスとしても成立しています。そのバランスが見事だなと思ったんですよね。
うれしいです。ありがとうございます。そのバランスは難しかったですね。例えばBメロの部分なんかでは、自分が歌うときはちょっとルーズな雰囲気にしてもいいかなとか、少しずつ自分のニュアンスを入れられるようにバランスを取っていったところがあったと思います。
──作曲に関してはサウンドプロデューサーの蔦谷好位置さんのお名前もクレジットされています。
基本的なメロディはほぼ私が作ったんですけど、蔦谷さんには大サビ部分のアイデアをいただいたんですよ。大サビに入るとちょっと景色が変わるので、さすがだなと思いましたね。
──アレンジも蔦谷さんが手がけられていますが、志帆さんの中には曲が生まれた段階から具体的なイメージはあったのでしょうか?
そうですね。この曲に限らず、最近の私は音を面として埋め尽くしたくないんですよ。隙間がすごく欲しいんです。きっちり時を刻んでいくようなサウンドよりは、ちょっとルーズなリズムのほうがしっくりくるし。なので、そういった余白のあるシンプルなアレンジになればいいなとは思っていましたね。
──うん、まさに音の隙間に感情がにじむアレンジだと思います。
もちろん、イントロの雰囲気とか途中で出てくるギターの駆け上がりとか、そういった部分で表情を付けてはもらいましたけど、基本的にはすごく地味なアンサンブルですからね(笑)。素朴すぎるかもしれないけど、行間にある思いをみんなにも感じてもらえるんじゃないかなって。メロディがすっと入ってくるためには、カッコつけない感じのほうが絶対にいいなと思っていたので。
──今の志帆さんが、そうやって隙間のあるサウンド、ルーズなリズムを求めているのはどうしてなんでしょうね?
歌に関しては極力、動物的でありたい、肉体的でありたいと今の私は思っていて。それはパワフルとかそういうことではなく、なんて言うのかな……もっと躍動感を出したいと思っているんですよ。サウンドやリズムだけじゃなくてメロディも、シンガーはベターっと埋め尽くすように歌いたくなりがちなんだけど、そこをあえて短く切ってみたり、長く切ってみたりっていう作り方をしたい。ある種、時間を左右してるような感覚、時空を歪めるような感覚を味わいたいって言うのかな。実際、時空の歪む感覚とか知らないですけど(笑)。
──現実的に時間には抗えないものだけど、それすらも自分の意志で操れているような歌を歌いたい、ということですか。
そうそう。自分の歌で時間を操作している感覚が味わえると、それはすごく面白いものなんですよ。それこそ、決まったメロディを決まったように歌うのではなく、その日の気分に左右されてもいいわけだし。それってすごく動物的だし、躍動感もあるし、ハッとするじゃないですか。そういう瞬間を味わうためには、カッチリ隙間なく作り上げられたサウンドではなく、その時々で歌い方を変化させられるような、自由に時間を行き来できるような余白のあるサウンドが必要ってことなんだと思いますね。
歌は他者とコミュニケーションを取るための大きな要素
──志帆さんも中学時代に合唱曲を歌いましたか?
私が通っていた中学はすごく小さな学校だったんですが、合唱のイベントがすごく多くて。やたらめったら歌わされた記憶がありますね(笑)。楽しいから好きでしたけど。
──合唱のメインを張るメンバーとして駆り出されていたんでしょうね。
いや、全然駆り出されはしなかったですよ。私は小さい頃から姉に「音痴だ」ってずっと言われて育っていたので、「人前で歌うなんて……」みたいな感覚でしたから。ただ、合唱だとみんなの中に紛れれば目立たないし、楽しいから気持ちが乗ってきちゃったところはあって。どんどん声量が付いちゃったっていう(笑)。
──結果、目立つことになって(笑)。
そうそう。「志帆ちゃんの声すごかったよー!」とか友達に言われるようになり、「あ、自分の声は大きいんだな」って気付きました(笑)。音痴だとは思ってましたけどね、ずっと。幼少期に言われたことって根強く残りますから(笑)。まあでも楽しいからいいかなと思って。
──本作のタイトルに絡めるなら、志帆さんにとっての“Gift”は確実にその歌声にあるような気はしますけどね。
そうですね。私にとって他者とコミュニケーションを取るためのかなり大きな要素の1つだと思うので。歌っていなかったら私の人生は本当にどうなっていたんでしょうかっていう(笑)。それくらい大事なものですね、うん。
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ネガティブだった自分を肯定したかった