ナタリー PowerPush - supercell

ryoが語るsupercellの進化と新ボーカル“こゑだ”の魅力

TAKUYAのギターのすさまじさ

──supercellは、そうやって自分のカラーを強く出す、こゑださんのようなプレイヤーを求めていたのでしょうか?

自分個人としてはそういうタイプは苦手なはずなんですけど(笑)。でもsupercellではそういう人が組んでくれるとすごく面白いことになりますね。全員がしっかり管理されている組織サッカーじゃなくて、なんかバルサのサッカーみたいにちょっと変わった感じのフォーメーションを組めるなっていう。今回のシングルも、3曲目の「大貧民」のギターで元JUDY AND MARYのTAKUYAさんに弾いていただいてるんです。まさにそういう自分のカラーを出してくださる人なので、すごく良かったですね。「大貧民」は、最初はもっとパワーコードでガーッと押してく感じの、FOO FIGHTERSみたいな曲だったんですよね。それがTAKUYAさんに弾いてもらったら全然違う曲になって、「すげー! ギター1つでこんなに変わるんだ」みたいな(笑)。

──イントロとかもすごいですよね。

ものすごいですよね。しかもTAKUYAさんは、ああいうフレーズをすぐ思いつくんですよ。ちょっと曲を聴いてああいうのをサッと弾いて「どう? これ?」って言われて「あ……いいと思います!」みたいな。もう、僕は横にいただけですね(笑)。すごいです。そういやこゑだちゃんもそんな感じで、「いいね、それ」しか言ってない気分かも。そんなレコーディングでした。

──なるほど。今後もいろんな才能ある人と曲を作るためにオーディションをやるかもしれないですか?

まだわからないですけど、今回が2000人じゃないですか。これで次やったら5000人とかになったら、もう曲作ってる時間なくなっちゃうっていう(笑)。やっぱりこゑだちゃんみたいなすごいボーカリストが見つかるってなると、次もどんどん見つけていこうって発想に上の人とかはなるかもしれないんですけど、そしたら自分が発掘マシーンみたいになるじゃないですか。そんな生活、自分は嫌です(笑)。

才能がぶつかり合うsupercellという“現象”

──今回のオーディションを通じても、1つのことにとらわれない姿勢は強く感じました。「My Dearest」は、前アルバムから引き続いて生楽器を使っているイメージもありますが、一方で打ち込みのドラムに存在感が出ていますね。

supercellをやる前は、元々エレクトロニカみたいな音楽をずっと聴いていたんです。だからこそsupercellではスタンダードな歌ものの音楽をやろうという気持ちがあった。でも最近になってちょっとずつ、スタンダードな歌ものと自分が元々聴いていたようなものを混ぜ合わせようという気持ちも出てきているのかなと思います。

──後半に向かってドラマチックに展開していく構成になっているのも、インパクトがありますね。

だんだん展開していく曲のほうが面白いなと思ったんですよね。作ってる途中で「あれ? サビ盛り上がんないな」みたいに思ったんですけど(笑)、途中からダーン!といく感じにしてみたら、しっくりきた。「こういう曲ってほかにないよな」と思って、それで決まったんですね。

──ジャケットにキャラクターの絵がはっきりとは描かれていないのも、過去の作品と大きく異なりますよね?

今回はアルバムに向けてちょっとずつ世界観を作っていこうと思っているんです。だからジャケットを描かれたredjuiceさんにも、あまりキャラクターを前に出さない感じでお願いしました。そうやって世界観を広げていって、アルバムにつなげたいと思っているんですよね。以前はあくまで曲の主人公を等身大に描く感じだったんですよね。女の子の恋愛とかをかわいい感じに描いていたし、自分自身そういうのを作るのが好きなんですけど、(「My Dearest」が主題歌になっているアニメの)「ギルティクラウン」がちょっとダークな感じのせいもあって、今回はああいう世界観を出していくのがいいかなと思って作っています。あとはやっぱり、こゑだちゃんがボーカリストになったことも影響しているとは思いますよ。

──ボーカリストなり、「ギルティクラウン」という作品なりと出会うことで、新しいsupercellが作られていくんですね。

今回のシングル2曲目の「罪人」っていう曲もそうですね。「My Dearest」を録ってるときに、こゑだちゃんの声がかなり低いところまで出るのに気がついて、どこまで下がるんだろうと思って歌ってもらったんです。そしたら海外の女性シンガーと同じくらいまで下のほうが出るのがわかって作ったのが「罪人」なんです。多分普通の人はカラオケで歌えないぐらいのキーなんですよ。「大貧民」にしても、こゑだちゃんが「ラップに興味ある」みたいなことを言ってたから「ほんとに?」と思って(笑)、ちょっと韻踏んじゃう感じで歌詞を書いたんです。

──そういう意味でもやっぱりsupercellは、何かと何かがぶつかりあう現象みたいなユニットなんですね。

そうかもしれないですね。最初から狙っていたわけじゃないんですよ。そうやっていろんな波紋がぶつかり合って、最終的な形になっていくんです。

ニューシングル「My Dearest」 / 2011年11月23日発売 / Sony Music Records

  • 初回限定盤[CD+DVD] / 1575円(税込)/ SRCL7793~4 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 1223円(税込) / SRCL-7795 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. My Dearest
  2. 罪人
  3. 大貧民
  4. My Dearest(TV Edit)
  5. My Dearest -Instrumental-
  6. 罪人 -Instrumental-
  7. 大貧民 -Instrumental-
  8. My Dearest(TV Edit)-Instrumental-
supercell(すーぱーせる)

コンポーザーのryoと複数のイラストレーター、デザイナーによって構成されたユニット。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。その人気はインターネットを通じて爆発的に広がり、2009年3月に待望のメジャーデビューを果たす。1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、翌年の「第24回日本ゴールドディスク大賞」にて「ザ・ベスト5ニュー・アーティスト」を受賞した。続く1stシングル「君の知らない物語」からはゲストボーカルにnagiを迎える。「君の知らない物語」はアニメ「化物語」の主題歌に起用され、こちらも大ヒットした。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリースし、オリコンウィークリーチャートで3位を獲得。その後、新ボーカリストを募集するオーディションを敢行し、2000人を超える応募者の中から福岡県出身の15歳、こゑだを選出。彼女がボーカルを務めたニューシングル「My Dearest」を、11月23日に発売する。