“バラード界の皇帝”として韓国で広く知られるシンガーソングライター、ソン・シギョンのニューアルバム「こんなに君を」が11月22日にリリースされた。
アルバムには大ヒット曲「江南スタイル」でおなじみの韓国アーティスト・PSYが作曲を、安全地帯やCHAGE and ASKAなどの作品を手がけている松井五郎が作詞を担当した表題曲など全6曲が収録されている。音楽ナタリーではシギョンの来日に合わせてインタビューを行い、アルバムの制作エピソードや自身の音楽ルーツ、そして現在のK-POPシーンについて語ってもらった。
取材・文 / 宮崎敬太撮影 / YOSHIHITO KOBA
PSY作「こんなに君を」は日本だから歌える曲に
──シギョンさんの日本デビューは2017年なんですね。
そうでしたっけ?(笑)
──資料にはそう書いてありますが……。
2006年に韓国で出した曲を日本用に編集した「季節が戻ってくるように ~ザ・ベスト・オブ・ソン・シギョン」というベストアルバムをその年に出したんですよ。日本でオリジナルアルバムをリリースした、という意味では2017年ですね。
──シギョンさんが2000年に韓国でデビューされてからの功績を考えると2017年まで日本でオリジナル作品を出してないのが意外で。
韓国での活動が忙しかったですからね。でも実は2000年代半ばから毎年日本には来ていました。当時は日本語を話せなかったし、日本では活動らしい活動をしていませんでしたが。それでも気付けば日本のファンの方も僕を支えてくれていて、年に1回は日本でファンミーティングを開催していました。最初は数百人規模の会場だったけど、年々大きな会場になりました。NHKホールで開催した次の年は日本武道館も狙えそうだったけど、そのタイミングで僕は軍隊に行くことになって。兵役期間が終わってから2016年に個人事務所を作って、2017年にようやく日本でも本格的に活動できるようになりました。
──それにしても日本語が本当にお上手ですね。
NHKの「テレビでハングル講座」にレギュラー出演していたとき、視聴者の方と日本語検定1級を取ると軽い気持ちで約束してしまったので……。40歳から勉強を始めたので、できることはすべてやりました。外国語を学ぶのは好きなので、大変ではあったけど苦にはなりませんでしたね。
──日本語を使うとき、歌うのと会話とでは難しさは違いますか?
そうですね。こうして話すより、歌うほうが簡単です。話しているときはイントネーションが大事だけど、歌うときはメロディがあるのでそこまで気にしなくていい。感情を込めて歌うときの難しさは若干ありますが。
──そうなんですね。続いてニューアルバム「こんなに君を」の話を聞かせてください。表題曲はPSYさんが作曲を担当していますね。
僕とPSYさんは同じ年にデビューしたこともあり昔から仲がよくて。PSYさんは本当に優れたミュージシャンです。多くの方は「江南スタイル」に代表されるアップテンポなダンスナンバーのイメージが強いと思いますが、バラードでもすごくいい曲を書かれるんです。
──シギョンさんは去年PSYさんのアルバム「PSY 9th」の収録曲「You Move Me (feat. Sung Si Kyung)」にゲストボーカリストとして参加されてましたね。
「こんなに君を」の作曲はまさに「You Move Me」を制作しているときにお願いしました。PSYさんはダイナミックかつ覚えやすいメロディを書いてくれます。実はこういうテイストの楽曲は今まで歌ったことなかったんですよ。僕は韓国だと“バラードの皇帝”と言われていて、そのイメージが定着しているんですよね。「こんなに君を」は男たちが酔っ払ってカラオケで歌う感じというか、ちょっとカッコつけて歌わないといけないんです。たぶん韓国でこの曲を出したら「あれ?」っと思われる。でも日本での僕は新人だからどんな曲でも歌えるんです。
──なるほど。それは面白いお話です。
この間、坂上忍先輩のYouTubeチャンネルに出させてもらったんですよ。先輩は韓国に来ると自由になれると言ってました。僕もそれと同じ感覚。韓国だとみんなが僕を知ってる。歩いているだけで写真撮られるし。ある意味、気を抜けないんですよね。もちろんうれしさもあります。有名になるために一生懸命働いてきたわけだし。ただやっぱりプレッシャーなんです。
──韓国と日本での知名度の違いに戸惑いませんか?
日本では新人ですからね。いつだったか忘れちゃったけど、前にアルバムを出したときに日本全国のイオンモールで握手会とミニコンサートをやったんですよ。そしたらマネージャーが「兄貴、このままじゃ(日本で売れるのに)20年かかっちゃうよ」って(笑)。日本の深夜ラジオに出るために、韓国で年末にやっている音楽祭の司会の仕事を断ったりしましたからね。今回の作品が日本でウケるかどうかはまだわからないけど、こういう経験も楽しいです。
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日本らしい歌詞とは