sumikaのもう1つの顔であるアコースティック形態・sumika[camp session]のミニアルバム「Sugar Salt Pepper Green」が、アナログと配信の2形態で3月15日にリリースされた。
sumika[camp session]にとって初の音源となるミニアルバムには、10年前からライブで披露され今回初音源化となる「知らない誰か」、sumika「春風」のセルフカバー、そして3曲の新曲の計5曲を収録。さまざまな楽器を用いて、楽曲の方向性や細部の音作りにまで趣向を凝らした、温かくて親しみやすい作品に仕上がっている。
音楽ナタリーではメンバーにインタビューを行い、アコースティック編成の魅力、作詞作曲においてこだわったポイント、普段のバンドスタイルとの違いなどを聞いた。2月上旬に語ってもらった4人の言葉を届ける。
取材・文 / 宮本英夫撮影 / 梁瀬玉実
キャンプファイヤーを囲んで音楽をやっているぐらいの距離感
──今日はsumika[camp session]に初めてお話を伺います。
黒田隼之介(G, Cho) はじめまして(笑)。
片岡健太(Vo, G) 別に人格は分けてないですけどね(笑)。同じ人です。
──「ゆるキャン△」やソロキャンが流行る時代にsumika[camp session]の初音源がリリースされるのは、最高のタイミングだなと思います。そもそも10年前、sumikaのアコースティック形態をsumika[camp session]と名付けた理由は?
片岡 sumika[camp session]って言い出したのは……俺かな? たぶん俺です。
──その心は?
片岡 sumikaが2013年5月に結成されたときに、音響制限のあるライブハウスや、アコースティックのアーティストがメインのイベントに呼んでもらう機会があって、並行して僕もソロの弾き語りとか、いろんな形態でやっていたんですね。かといってsumikaの劣化版をアコースティック編成でやるわけではなく、sumikaはsumikaとして100%やらせていただいて、アコースティック編成のときは、sumika[camp session]という名前で100%やろうと。「どちらも100%でやっていますよ」ということを誤解なく伝えるためには、屋号を分けたほうがいいよねというところで。キャンプファイヤーを囲んで音楽をやっている、ぐらいの距離感で音楽を届けられたらいいなという願いを込めて、この名前を付けました。
──もともとキャンプが好きだったんですか?
片岡 というわけではないですけど、“sumika”という家に対して、電気がないところでもやれたらいいよね、アコースティック楽器ならそれが可能かもしれないと思ったんです。建てた家と移動式の家、そういうイメージの違いはありました。あと、グッズが作りやすそうだなと(笑)。
──確かに(笑)。キャンプというと、いろいろ浮かびますもんね。
片岡 これ、大事なんですよ。グッズを作るということは、これからバンドを始める方には絶対考えてほしいです。
荒井智之(Dr, Cho) 大事だね(笑)。
──金言です。というわけで、当時はsumikaだけでなく、sumika[camp session]としての活動も活発にやっていたと。
片岡 やってましたね。結成から2、3カ月はsumika[camp session]のほうが多かったかもしれない。
荒井 やっぱり、フットワークが軽かったのかもしれないね。
片岡 ライブに誘ってもらったら出ていたんですけど、いつのまにかsumikaとして誘ってもらう機会のほうが多くなって、ここ数年は「sumika[camp session]でお願いします」というお話をいただく機会もなかったんです。そもそも認知があまり進んでいなかったんですけど(笑)。僕たちとしてもちゃんと大事にしていきたいプロジェクトなので、改めてこのタイミングで自己紹介をすれば、またsumika[camp session]としてイベントに誘ってもらったり、主催ライブをやったり、活動しやすくなるのかなというのもあって、このタイミングで音源を作りました。
──時代に合ってると思います。10年前は今ほどキャンプが流行っていなかったですし。
黒田 「ゆるキャン△」よりこっちのほうが先ですから(笑)。
片岡 「2013年結成」と、赤字で大きく書いておいてください(笑)。
「キャンプだからいいよね」と言える
──初期のsumika[camp session]のライブは、今振り返ると、どんな感じだったんでしょう?
荒井 言い方は変かもしれないけど、便利だった気がするんですね。sumika[camp session]の編成や定義をあんまり決めてなかったので、ルールもなく、ライブ中にお酒も飲むし、「キャンプだからいいよね」と言える。そういう空気が僕自身も好きだし、本当にラフに音楽と向き合って、そこにいてくれる人と音楽を楽しむことができたので、いい活動の仕方だなと思ってました。
──もともとsumikaの中にある要素を、より強調できるというか。
荒井 まさにそうですね。
黒田 お酒を飲んでライブをすることは、sumikaのときはまずないので。いい意味で肩の力を抜いて、いつもより多くしゃべったり、よく笑ったり、すごく楽しかったイメージがあります。
──小川さんは当時、正式メンバーではなかったですよね。
小川貴之(Key, Cho) でも、もともとサポートとして参加していたり、それこそ僕がsumikaに加入しますと発表したのが、sumika[camp session]のアコースティック企画のときだったんですね。なので、スタートはsumika[camp session]だったんです。
片岡 2015年の「camp fire vol.1」だったね。
小川 その後、「vol.2」はなかったんですけど(笑)。そのときもお客さんと距離感がすごく近くて、来てくださった方と交流しながら進めていく形でした。なので、sumika[camp session]にはすごく思い入れがあります。やっていて心地いいんですよね。
──当時はsumikaの楽曲をアコースティックアレンジすることが多かったんですか? それともsumika[camp session]としての楽曲も用意していた?
片岡 今回のミニアルバムに入っている「知らない誰か」は演奏していました。あと、sumikaの楽曲をアレンジしたり、カバー曲をやったりもしていましたね。
──いつかは音源を、という気持ちは当時からありましたか?
片岡 音源化しないと認知が進まないだろうな、とは思っていました。ただsumikaという活動も、10年やってなんですけど、まだまだ認知されていないバンドだと僕らは思っているので。sumikaという軸を1つ確立させないと、両方とも中途半端なものになってしまうし、sumikaという家の土台をしっかりさせなくては、sumika[camp session]も並走することはできないだろうなとは思っていましたね。なので、ここ数年間でまずはsumikaとして家の土台を作って、それをやり切ることができたから、今このタイミングでsumika[camp session]の音源を出せるのは、sumikaを一緒に作ってきてくれたメンバー、スタッフ、ファンの皆さんのおかげだという認識でいます。
その場でしか生まれない空気感を大事にしよう
──「Sugar Salt Pepper Green」は楽しくて、にぎやかで、親しみやすい空気感のミニアルバムだと思います。選曲とコンセプトについてはどのように?
片岡 「知らない誰か」はもともとsumika[camp session]のライブでよくやっていた曲で、「春風」はsumikaの楽曲のリアレンジバージョン(sumikaの「春風」は2017年5月発売のシングル「Dress Farm #3」に収録)、あとの3曲は書き下ろしです。選曲会議は普段のsumikaと同じ工程で、みんなでデモを聴いて選んでいきました。
──黒田さん作曲の「春風」は、アコースティックに衣替えして、さわやかで心地よい空気感が漂う楽曲になっています。
黒田 sumikaのライブで4人だけで「春風」をやったことがあるんですけど、そのときに「これはこれですごくいいよね」という反応がメンバーの中であって。それをもとにちゃんとアレンジしたという感じです。
──新曲に関して言うと、「浮世パスポート」の作曲は小川さんです。sumika[camp session]の楽曲だと、作り方が最初の段階から違うものですか?
小川 だいぶ違いますね。メロディの作り方も、楽器の構成もよりシンプルです。普段のsumikaの作曲では、黄金のメロディを作ろうとしているというか。いろんなものをふるいにかけて精査して、最後に残った自分が認める素晴らしいメロディだけをつなげている感覚なんですけど、sumika[camp session]ではその場の高揚した気持ちでパッと出たメロディ、その場でしか生まれなかったであろう空気感を大事にしようと思っていました。
──片岡さんもsumika[camp session]として作品を作るにあたって、やっぱり作曲段階から気持ちが違いましたか?
片岡 sumika[camp session]にチャンネルを合わせて作曲することが初めてだったので、楽しかったですね。sumikaでは見せてこなかった面をどんどん見せることが、sumika[camp session]としてはプラスにつながっていくんじゃないかと思っていて。オセロの駒を全部ひっくり返して考えるみたいに、「こういうアプローチができるかな?」とか「普段はやらないけれど、sumika[camp session]ならありかな?」というものを試してみて、すごく楽しくて刺激的でしたね。脳みそがパチパチしてました。
──片岡さん作曲の「IN THE FLIGHT」はレゲエ調のリズムがとても新鮮でした。
片岡 ラヴァーズロックをイメージしたんですけど、sumikaのチャンネルでは出そうとは思わなかったタイプの曲ですね。
──アコギを弾いているのは誰ですか? すごくいいグルーヴですね。
片岡 僕です。歌は弾き語りでやってるぐらいの気持ちで録って、それに対してリズムに入ってきてもらいました。波長が合ってる部分と、いい具合のアンバランスさが出ている部分があって、お互い付かず離れずを繰り返していくところで浮遊感が生まれていると思うし、“決め切らない”ところがsumika[camp session]らしいなと思います。
──この曲はお客さんと一緒に掛け合いができるようなコーラスパートがありますよね。ライブで声を出せるようになれば。
片岡 そういうイメージですね。
──歌詞についてはどんなイメージがありましたか?
片岡 「IN THE FLIGHT」は、2016年から僕たちのスタイリストをやってくれている人がいて、その人の会社の名前です。もちろん仕事としてやってくれてるんですけど、仕事以上の愛情を感じるんですよね。仕事じゃないタイミングでごはんを一緒に食べに行ったときにも、メンバーが普段着るものに関して「こういう服が似合うと思うんだよね」とか「ライブで今度こういう服を提案したいんだ」とか、ずっと考えてくれて。そういう、仕事の枠を飛び越えた愛情に対して、僕たちももっと返したいと思うし、返しきれてないなと思う部分があったので、曲を通してそれを伝えたということです。
──歌詞に「兄貴」という言葉が出てくるのは、そういうことなんですね。いい兄貴。
片岡 いい兄貴ですね。歌詞に書いてあるそのままの人です。
──それこそ、sumika[camp session]だからこそ書ける歌詞だと思います。プライベートな親近感を言葉にするという。
片岡 そうですね。sumikaのときは、一番は自分自身のことを書いて、それが一対一で向き合ったときに、聴いてくれる“あなた”に伝わるという想像を常にしているので。身近なスタッフのことだけをイメージして書き切るのは、もしかしたら初めてかもしれないですね。それはsumika[camp session]だから許される感じがするというか。sumikaのときとは変えたほうが面白いかなと思います。
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ライブみたいな感じでレコーディングしてました