映画「すくってごらん」特集 真壁幸紀監督インタビュー+尾上松也、百田夏菜子、柿澤勇人、石田ニコル、音楽制作陣コメント|“歌えるキャスト”が織りなす新感覚の音楽表現

キャスト&制作陣コメント

尾上松也

尾上松也

「すくってごらん」では作品の中に音楽や歌が唐突に出てくるんです。音楽を使うことによって登場人物の感情をより増幅させていて、そのシーンを引き立てていると思います。普通のミュージカル映画と違うのは、一瞬、映画を観ている人のリズムを崩したり、感覚をずらしたりするような音楽の使い方をしているところ。そういう意味ではルール無用というか、今までの常識にとらわれないような映画ですね。「音楽ってこういうときに使うべきだ」「こういう流れで歌がくるだろうな」という常識が通用しなくて、まったくわけわからないところで歌が入ってくるんです。果たしてそれが必要かどうかすらわからないくらいで(笑)、そういった音楽の使い方で生まれる楽しさがあると思いますし、日常生活をポップに描くという意味ではすごく効果的になっていると感じました。

百田夏菜子

百田夏菜子

私はこの映画のためにピアノを練習したんですが、本当に濃い毎日で。ピアノを弾きながら100回くらいやさぐれたと思います(笑)。でも、弾けるようになりたいという気持ちや、出したい音に近付けているという手応えも感じることができて、「音楽って楽しい」と改めて思う瞬間もありました。そういう瞬間を迎えたと思ったら「ああ、やっぱり難しい!」とまた壁にぶつかって、その繰り返しでした。やればやるほど難しかったんですけど、「すくってごらん」に出会えたことは私の人生にとって大切な宝物です。この映画ではピアノのレコーディングもさせていただいて、たくさんの思いを込めて弾いたので、その思いが皆さんに届くといいですね。

「この世界をうまく泳ぐなら」は去年の年末の「ももいろ歌合戦」で松也さんとデュエットさせていただいたんですけど、あれは映画とはまったく違うアレンジで、あそこでしか観れない、聴けないものだったんですよ。あれも私にとって忘れられない思い出です。演奏が私のピアノ1本で、それに合わせて松也さんが歌うという初めての経験でした。松也さんだったからこそ頼ることができたし、支えていただいたというか、すごく心強かったです。

柿澤勇人

柿澤勇人

映画「すくってごらん」は音楽全部がとてもキャッチーで、一度聴いたら口ずさめるほど、心に響く曲と詞でした。
一方で僕はピアノとダンスもこなす役だったので……とにかく練習しました。
絶対に吹き替えはしたくないと決めていたのでピアノは鈴木音楽プロデューサーのご自宅までお邪魔し、ダンスは事務所の会議室でひたすら練習したのを覚えています。
同じくピアノを弾く百田さん、ギターを弾くニコルさんも相当に練習をしたと聞いて、互いによき刺激を受けながら撮影に臨めたと思います。

音楽の力は本当に大きく、撮影は2年ほど前でしたが、今でも心と脳に焼き付いています。
この素敵な音楽が奈良の絶景、そして金魚を取り巻く素晴らしい美術と合わさる画は本当に美しいです。
乞うご期待。

石田ニコル

石田ニコル

今回ギターを演奏しながら歌う楽曲があるのですが、それがとても印象に残っています。
今までギターを弾いたことがなく、初挑戦でした。まずはコードを覚えて、少しずつ音を出せるようになって、そして歌いながら弾けるようになり、毎日たくさんの課題を乗り越えながら ギターと過ごしたのを覚えています。
撮影のときは緊張して音が完璧に出なかったりと苦労しましたが、初めてコードの音をちゃんと出せたとき、歌いながら演奏できたとき、心がすごくすっきりしたような、初めて感じる心地よさがありました。

鈴木大輔(音楽)

この映画の楽曲たちは、J-POPでありながら、キャラクターの心情を同時に表現する、ときにはセリフの役割も担い、物語を展開させる、という独特なものです。
BGMではなく音楽それ自体が映画の中で重要なポジションにある、ということで普段の音楽制作以上にきめ細やかなディスカッションを行い、制作しました。
実際に制作を始めたのは、撮影開始より前で、シナリオもまだ途中稿の段階。具体的な映像がまだない中で、監督の頭にある映像イメージと僕の持つイメージをいかにアジャストするかがポイントでしたが、監督にスタジオ作業もすべてお付き合いいただいたことで、よりイメージを近付けることができたかと思います。
さらに、映画にフィットするだけでなく楽曲単体としても楽しめる音楽を作りたい、と僕の中では心がけました。皆さんに楽しんでいただければうれしいです。

石坂紘行(サウンドデザイン)

まず、本作は何よりも音楽と歌が素晴らしいので、「音楽パート」が映画館の音響環境で気持ちよく聴けるようにMIX・デザインすることを第一とし、「音楽パート」が各シーケンスにおいてピークになるように、全体のエンベロープを逆算的に構築しています。音楽や歌がストーリーの流れの中で違和感なくスッと耳に入っていく馴染み感がやはり最も大切にしたことでした。

サウンドデザインについては、監督から「小さな金魚鉢の中にいるような、浮世離れした不思議な異世界感」というオーダーをいただきました。それを受け、「音楽パート」やいくつかのシーンでは、音楽に合わせてかなり振り切ったデザインにしている箇所があります。
逆に「ドラマパート」は、若干の違和感は出しつつも、普遍的な日常感を一定量残すデザインにしてあります。「ドラマパート」は振りすぎずに日常感を保つことで、よりデザイン性の高い「音楽パート」とのコントラストを明確にして、ストーリー全体図での起伏を意識しつつ、音楽の役割が明確なアクセントになる方向性で監督と作業させていただきました。

「劇伴」も、音色やサラウンドミックスの手法を「劇中歌」と区別することで差別化したり、また逆に寄せたりもすることで楽曲間の感情をシームレスにつなげることを意識しております。劇伴も含め、非常に音楽的バリエーションの広い作品ですので、ミックスアプローチもそれに合わせて変化させることでメリハリを出すように心掛けました。

また、「劇中歌」と「現実音・物理音」をどのように混在させていくか、という点もとても楽しくデザインさせていただきました。歌っている最中でも歩いている足音や環境音が聞こえることで、映像と歌っている演者さんに立体感を持たせることができ、音楽への導入感・没入感が変わりますので、そういう構図で映像を撮影されてきた監督や撮影部さんの試みに非常に感化されています。

「音楽映画」ということで、準備稿のかなり早い段階から参加させていただいたのですが、今回は「劇中歌」という新しい「ブロック」も積み上げていかないといけない中で、非常に密度の高い意見交換やアイデア共有が1年以上かけて行われてきました。結果として、ファイナルミックスに入る段階では、音の演出に関してはとてもスムーズだったと思います。そのような体制を組んでいただいたことも、制作陣・監督の1つの大きな「こだわり」だったと思います。


2021年3月4日更新