スターになって終わる話だと思っていたら、怒涛の展開に
──映画ではアリーの意に反して、派手でセクシーな衣装を着せられたりするシーンもありましたね。
敏腕マネージャーのディレクションに違和感を覚えてましたね。でも私は人生において、「自分に似合うこと」「自分ができること」「自分のやりたいこと」の3つは合致しないものだと思ってるんです。大事なのはどこにゴールを置くかということ。それによって人生の進み方が変わってくる。例えば、単純にお金儲けをしたいなら「できること」を邁進すればいい。承認欲求を満たしたいなら「似合うこと」をすればいい。「やりたいこと」を優先したいならお金儲けも承認欲求もあきらめなくてはいけない。だけどアリーは急激に状況が変化して、そんなことを考える間もない感じでしたね。
──この映画は「人生をどう生きるか」ということも大きなテーマだったと思います。
そうでしたね。アリーもジャックも、主要な登場人物たちはゴールの場所を見つけるために自分の人生と向き合っていたと思います。私自身もその「似合うこと」「できること」「やりたいこと」がうまくリンクしないと言うか、折り合いが付かないので、観ていていろいろ感じることはありましたね。「アリー / スター誕生」というタイトルだから、最初はアリーがスターになって終わる話だと思ってたので、怒涛の展開に驚きました(笑)。
──映画を観て、具体的にどんなことを感じていたんですか?
さっき話した問題に関して、私自身も折り合う場所を模索している最中なんですよ。どちらかと言うと、私は「やりたいこと」を曲げられないタイプ。しかも私がやりたいことは道幅が狭すぎる(笑)。自己満足したいだけならそれでもいいけど、多くの場合、そこに他人が関わってくるんです。だから今はいろんな人に助言をいただいて、道幅を膨よかにする努力をしている最中です。たぶん葛藤がない人なんて世の中にいないと思いますよ。
──シシドさんには凛としたイメージを持っていたので、ちょっと意外です。
けっこう私は悩み始めると止まらないタイプなんですよ。しかも深く悩むと、思考があれこれ違うことに連結して、最初の論点から離れてしまう。違う沼にハマっちゃうんです。そうすると自分が何を考えなきゃいけないかわからなくなってしまうという。だから私は底に落ちないよう、できるだけフラットな状態を保つようにしているんです。
──「底に落ちないようにする」というのは、ちょっと映画の主題歌「Shallow」の歌詞にも通じるところがありますね。
私も今話してて「自分の考えと、うろ覚えの歌詞の内容がシンクロしてるな……」と思ってました(笑)。でも自分を取りつくろってまで強さを演出しても仕方ないじゃないですか? だからありのままの平坦な状態で、目の前に現れたものを「これは嫌だけどやるべきことだな」「こういうのが好きだけど私はできないんだ」って判断しようと思ってるんです。素直でありたいと言うか。まあ、それが案外難しいことなんですけど。
クリスマスに観るにはピッタリでしょうね
──一方、ジャックは健康状態が悪化して難しい状況に追い込まれてしまいます。
ジャックはすごく純粋な人なんだと思いました。「音楽は魂でやるものだ」って話してたし。だけど彼は何万人もの前でライブをするようなロックスターだから、純粋なだけでは生きられなかったんでしょうね。映画の最初のシーンで、薬を強そうなお酒で飲み込んでステージに上がってましたからね。彼はいい曲を書くために、いいライブを見せるために、お酒や薬を飲んで何かを麻痺させてるんだと思いました。彼も1人で音楽をやってるわけじゃなくて、人と一緒に仕事をしているわけですから。
──そんなジャックと向き合うアリーもすばらしかったですね。
はい。夢と愛のはざまで何を守るべきかっていう女性像はかなり胸に迫るものがありましたね。アリーはすごいですよ。ジャックと向き合うことをやめなかった。本当に強い女性です。私はアリーみたいにしっかりと話し合うことができないと思います(笑)。
──この映画は異なる価値観の人間同士がしっかりと対話することの重要性も描かれていましたね。多様性に対して非常に寛容なレディー・ガガの人物像と、アリーのキャラクターが一体となることで、この映画はさまざまなメッセージを発信していると思いました。
そうですね。もちろん日本とアメリカで文化が違う部分もあるけど、自分の気持ちをしっかりと相手に伝えることはすごく大切だなって改めて感じましたね。
──「自分の気持ちをしっかりと相手に伝える」と言えば、この映画はクリスマス目前の12月21日公開なんですよ。
あら(笑)。私はこの映画を、すごく素直な男の人と女の人のラブストーリーだと感じたので、クリスマスに観るにはピッタリでしょうね。しかも人間同士が向き合う姿をしっかり描いている映画なので、性別は問わず楽しめると思います。仕事、恋愛、いろんなことに真剣に向き合ってる人が観たら、きっと何かを感じることができるはずです。
──恋人同士はもちろん、友達や家族と行ってもいいですし。
もちろん、1人で観てもいいですからね(笑)。
- 「アリー / スター誕生」
- 2018年12月21日(金)全国ロードショー
- ストーリー
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歌手になることを夢見ながら、なかなか芽が出ずあきらめかけていたアリーと、世界的なロックスターであるジャクソンの姿を描いた映画作品。ジャクソンに才能を見出されたアリーは、スターへの階段を駆け上がっていく。アリー役は映画初主演のレディー・ガガ。ジャクソン役を演じたのは「アメリカン・スナイパー」で主演・製作を務めたブラッドリー・クーパーで、彼が初監督を務めている。
- スタッフ / キャスト
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監督・脚本・製作:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガ / ブラッドリー・クーパー / アンドリュー・ダイス・クレイ / デイブ・シャペル / サム・エリオットほか
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
- シシド・カフカ
- メキシコで生まれ、アルゼンチンに滞在していた中学生の頃にドラムを叩き始める。数々のバンドに在籍したのち、ドラム&ボーカルのスタイルで2012年にソロデビュー。2013年9月には1stフルアルバム「カフカナイズ」をリリースした。一方でモデルや女優としても活躍し、フジテレビ系「ファーストクラス」やNHK連続テレビ小説 「ひよっこ」などに出演。2015年6月には甲本ヒロト、斉藤和義、KenKen、常磐道ズ(渡辺俊美、Guest:TOSHI-LOW)、YO-KINGをゲストに迎えたアルバム「K⁵(Kの累乗)」を発売し、2016年4月にはさまざまなプロデューサーとのタッグで作り上げたアルバム「トリドリ」をリリースした。2018年7月には真島昌利、横山剣、東京スカパラダイスオーケストラ、金子ノブアキ、m-floらとのコラボ曲を収めたアルバム「DOUBLE TONE」を発表している。同年12月29日には千葉・幕張メッセで開催される音楽フェス「COUNTDOWN JAPAN 18/19」に出演する。