SPYAIR|節目の年のチャレンジが生みだした、「ハイキュー!!」の世界彩る新曲

今年結成15周年、メジャーデビュー10周年を迎えたSPYAIRがニューシングル「One Day」をリリースする。現在放送中のテレビアニメ「ハイキュー!! TO THE TOP」の第2クールエンディングテーマとして制作されたこの曲は、SPYAIRでこれまで作詞を手がけてきたMOMIKEN(B)が初めて作曲した楽曲。疾走感のあるバンドサウンドと「どこまでだって行ける 僕らは」という前向きな歌詞が印象的なロックチューンだ。

このシングル発売にあたり、音楽ナタリーではIKE(Vo)とMOMIKENにインタビュー。「One Day」の制作にまつわる話、そしてバンドの現状について語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 後藤壮太郎

デビュー10年目の初作曲で「SPYAIRらしい曲」に

──新曲「One Day」はテレビアニメ「ハイキュー!! TO THE TOP」第2クールのエンディングテーマで、作詞はもちろん、なんと作曲もMOMIKENさんですね。

MOMIKEN(B)

MOMIKEN(B) ありがとうございます! 10年目にしてようやく作曲を始めたんです。作曲は今までUZ(G)に任せていたから、まったくやったことがなかったんですけどね。

──作曲はUZさん、作詞はMOMIKENさんと完全に分業制でしたからね、SPYAIRは。

MOMIKEN そうなんですよ。

IKE(Vo) ここ1年くらいでMOMIKENやKENTA(Dr)が曲を作り始めたんですよ。「One Day」の原型のデモ曲が上がってきたのは2人が作曲を始めた初期段階だったんですけど、「え、作曲できるの? お前、すごいな!」って(笑)。

──作曲を始めたきっかけはなんだったんですか?

MOMIKEN いくつかあるんですけど、まず、以前からSPYAIRのツアーに紐付ける形で、KENTAと2人でファンと一緒に楽器に触れるというコンセプトの「バンド講座」(MOMIKEN & KENTA BAND TRIAL)をやってたんですよ。その中のコーナーを増やしたいと思って、ベースとドラムだけの曲を作り始めたのがきっかけですね。ちょっとずつDTMを触りながら曲を作っていた頃に、UZがアメリカに留学することになって。

IKE 去年の「JUST LIKE THIS」(2019年7月27日に山梨・富士急ハイランドコニファーフォレストで行われたワンマンライブ「JUST LIKE THIS 2019」)のあとだよね。

MOMIKEN うん。そのタイミングでUZから「みんなも作曲やってみない?」という話があって。ちょうど「MOMIKEN & KENTA BAND TRIAL」用の曲を作り始めた時期だったし、だったらバンドとしての曲も作ってみようかなと。その中の1曲が「One Day」だったんです。最初のデモはギターのパートもベースで弾いてたんですけどね(笑)。ベースにギターと同じゲージの弦を張って、チューニングを高くして。弾いてて指がめちゃくちゃ痛かったです(笑)。

IKE 最初に聴いたとき「このギター、誰が弾いてるの?」って思いました(笑)。よく聴くとギターよりちょっと太いんですよね、音が。

MOMIKEN パワーコードを弾くと、グワーン!っていう音が鳴って(笑)。「ギターはいらないんじゃないかな」って思ってたんだけど、結局あとで買ったんですよ。弾いてみたら全然違う音でした。

IKE 当たり前だよ(笑)。

──そういう試行錯誤を繰り返しつつ制作したと。

MOMIKEN そうですね(笑)。

IKE UZがアメリカに行ってる間、みんなで曲作りをがんばってましたからね。KENTAも作ってたし、僕が関わらせてもらった曲もあるし。少しずつ曲を貯めて、プリプロもして。さっきMOMIKENが言ったように、作曲はずっとUZに任せていたし、10年間踏ん張ってくれたと思うんですよ。この機会にほかのメンバーが曲を作るのはいいことだなと。ただ、UZが作曲することで作り上げられたSPYAIR像がガッチリ存在するので、新しさが加わることでリスナーが嫌がるかもしれないという不安もあったんです。

──「One Day」に関しては?

IKE(Vo)

IKE もちろん「いい曲になりそうだな」という予感はしていたんですけど、確信に変わったのは仮歌を録ったときですね。プリプロの現場で実際に歌ったときに「SPYAIRの曲になった」と感じて。“らしさ”がしっかりあるというか。

MOMIKEN 僕もIKEが歌ったタイミングでそう思いました。「よかった、SPYAIRらしい曲になった」って。今まではUZが作った鍵盤のメロディに歌詞を付けてたんですけど、その時点でもう完成形が想像できてたんですよ。でも自分のメロディに対してはそれができなくて、「これ、IKEが歌ったらどうなるんだろう?」と思って。歌が入ることでちゃんとSPYAIRの曲になったと感じられたのはうれしかったですね。

俺らの年齢だからこそ言える言葉を歌う

IKE ここで聞くのもおかしいけど(笑)、鍵盤でメロを作ってたときに、歌詞も頭の中にあったの? 同時に生まれたワードとかはあった?

MOMIKEN 今はそういう作り方もしてるし「詞先で作ってみよう」みたいなこともあるんだけど、「One Day」のときは、まずオケを作ったんだよね。作曲を始めたばかりで、自分にオケが作れるかどうかわからなかったから。そのあとでメロディを付けて、歌詞を書くっていう順番。歌詞は書けるから、初めてのことを先にやろうと思って。

IKE なるほどね。曲を聴いたときに「サビの頭くらいは思い付いてたのかな」と思った。

MOMIKEN いや、全然(笑)。全部初めてだったからね、ホントに。ドラムのデモを打ち込んだときも、KENTAから「リズムチェンジだけで曲を展開させようとしないで」って言われて(笑)。

IKE ハハハ(笑)。まったく違和感なくスッと歌えたのは、そういうやり取りがあったからなんだね。ギターのリフから始まって、サビでドカーン!と広がる。すごくベーシックなバンドの曲だなという印象。たぶん聴いている人も、わからないところがないと思うんですよ。歌詞カードを見なくても歌詞を全部聴き取れると思うし。

──確かにオーソドックスなロックチューンですよね。それにしても最初に作った曲が「ハイキュー!!」のタイアップってすごくないですか?

IKE こんなデビューの仕方、誰でもできないですよ。すごい座組の上にMOMIKENがドーンと立ってます(笑)。

MOMIKEN (笑)。みんなにすごく協力してもらったからね。UZにも相談したんですけど、「最初にコレを作れるのはすごいよ」と褒めてくれつつ「でも、最初のギターリフがメジャーコードなのは青臭すぎない?」って。いろいろアドバイスをもらって、マイナーコードに変えたんです。

IKE あ、そうだったのか。

MOMIKEN うん。KENTAにも意見をもらったし、作曲家のUZ、ドラマーのKENTAという10年選手がサポートに回ってくれて、俺を作曲家として立たせてくれた。ありがたいですね。

IKE レコーディング自体もひさしぶりだったんですけど、なじみのクルーと一緒にガシッとした音源が録れて、最高でしたね。

左からIKE(Vo)、MOMIKEN(B)。

──歌詞はやはり「ハイキュー!!」を意識して書いたんですか?

MOMIKEN めちゃくちゃ意識しましたね。SPYAIRが「ハイキュー!!」の曲を担当させてもらうのは「イマジネーション」「アイム・ア・ビリーバー」に続いて3回目で。僕らも30代半ばになりましたけど、いきなり歌詞が大人っぽいメッセージに変化するのも違うなと。この年齢だからこそ逆にシンプルな言葉がいいなと。“がんばって夢を追えば、いつか必ず叶うよ”というメッセージは、今の自分たちだからこそ言えるところがあるし、聴いてる人の背中をグッと押せると思ったんですよね。誰かに「何を夢みたいなこと歌ってるんだよ」と言われたとしても、「いや、俺らは10年やってきて、30代半ばでここに立ってるから」って言える。この曲を通して、今の自分たちから「大丈夫。君が進んでる道は間違いじゃない」と言いたかったんですよね。

IKE 僕はこの曲に限らず、自分の中にある熱量を歌わないとリアルじゃないし、どちらかというと自分の心情と重ねることを念頭に置いてましたね。MOMIKENは「ハイキュー!!」の世界観も表現してくれてると思うけど、これは僕の人生の音でもあるというか。まさに俺らの年齢だからこそ言える言葉がたくさんあるし、夢を追っている人たちの背中を押すには、SPYAIRらしいサウンドにシンプルな言葉がドン!と乗ってる曲が一番響くだろうなと。とにかく気持ちのいいレコーディングで、歌ってて迷うことがなかったし。ストレートに、しっかり歌詞を伝えようって。

MOMIKEN IKEは声に特徴があるから、シンプルなフレーズでもちゃんと説得力のある歌になるんですよ。逆に歌詞を小難しくしちゃうと情報が多くなり過ぎるから。

IKE ここまで一語一句、しっかりわかる曲も珍しいかも(笑)。ちなみに「One Day」って、ジャンルでいうと何になるの? パンクロック?

MOMIKEN 洋楽のメロディックパンクみたいな感じは目指してたかな。しかもオフスプ(The Offspring)ではなくて、Good Charlotteのイメージ。結果としては“SPYAIRらしい曲”になったけどね。