音楽ナタリー Power Push - SPECIAL OTHERS
ゲスト10人とがっぷり四つに組んだ10周年記念コラボ集
「始まりはQ(9)CUE」ゲスト:RIP SLYME
クラブ育ちの経験を生かしたミディアムチューン
──2曲目はRIP SLYMEとコラボした「始まりはQ(9)CUE」。RYO-Zさん、ILMARIさん、PESさん、SUさんのラップとDJ FUMIYAさんのスクラッチが絶妙に絡み合う、軽やかな仕上がりですね。
宮原 この曲もやっぱり、「もしもRIPのメンバーが僕らのステージにゲストで出てくれたら……」と、架空のシーンを妄想しながら作りました。あの5人がわざわざ来てくれたのに、客席が盛り上がらなかったら超ヤベーじゃないですか。そういうプレッシャーを自分に対して勝手にかけまして。
──なるほど(笑)。
宮原 RIP SLYMEが俺らのステージに登場したまさにその瞬間、最初にどの音を鳴らせばいいか考えたんですね。自分の中でその音を探していくと、不思議とイメージができてきた。少しアッパーでテンポの速い曲も用意してたんですが、メンバーの方々に両方聴いてもらったところ、こっちのミディアムナンバーになりました。
──バックトラックの上に4人のラップが乗るという、RIP SLYME楽曲の基本的な構造は意識しましたか?
柳下 ラップが乗ることは意識しました。ただSPECIAL OTHERSの演奏って、インプロビゼーションのイメージが強いかもしれないけど、実際はヒップヒップとの共通点も少なくないと思うんです。リズムやベースラインにしても基本的にループで構成されたものが多いし。ギターのフレーズにしても、1つのフレーズを少しずつ発展させていくパターンがほとんどなので。無理にヒップホップっぽくしなくても、もともとのサウンドがヒップホップのトラックっぽい。その意味で、RIPとの親和性は高かったんじゃないかなと。
芹澤 スペアザって、わりとクラブ育ちというか。結成当初はDJイベントでもさんざん演奏してたんですよね。なので皮膚感覚でわかるんですけど、うまいラッパーは基本、自由度が高い。そこで鳴ってるのがどんなフレーズであっても、使えるものはなんでもネタにしちゃうんです。だから変にリフレインとかループっぽいデモ音源を作らなくても、RIPのメンバーだったら僕らの演奏に乗っかって遊んでくれるだろうと思ってました。この楽曲には、僕らがかつてクラブシーンから学んだ経験もいい感じで反映できたと思います。
──レコーディングで印象に残っていることは?
宮原 メディアを通してはわからないグループ内での役割分担っぽいものが垣間見えたのは面白かったですね。「この人、意外にイジられキャラなんだ」とか(笑)。あと、細かいリズムの話でいうと、ハイハットの音をちょっと変わった位置に入れてるんです。三連符で変なうねりが生まれるような、僕的にはクリス・デイヴ(ロバート・グラスパー、ディアンジェロ、アデルなどと共演し、現代ジャズとブラックミュージックやポップスをつなぐアメリカ人ドラマー)を意識してみたんですけど。それをSUさんに「なんでここにハット入れたの?」と指摘されまして。僕が「いやあ、ちょっとニューヨークを意識してみました」って説明したら、急に真顔で「それ、ちょっとわかんないっす」って言われちゃった。個人的にはそのときのやりとりがめっちゃツボでしたね(笑)。
柳下 僕は1曲目とは対照的に、この曲ではラップに合わせてけっこう激しくギターソロを弾いてます。あえて音のカブリも意識せずに、ライムを聴いて感じたまま弾きまくってみたんですけど。完パケを聴いてみたらそれがうまくなじんでくれていて。それはうれしかったですね。
又吉 今回はPESさん、RYO-Zさん、ILMARIさん、SUさんの順番でラップしてるんですね。もちろん4人それぞれ個性がまるで違うし、各人のラップが乗っかると、スペアザの演奏のトーンまで違って聞こえてくるのが面白かった。4人共トラックを自分の色に染める力があるんだなって、改めて。
──ちなみにスペアザにとってRIP SLYMEの5人はどういう存在ですか?
宮原 そりゃもう、「なりたい大人ナンバーワン」ですよ! 都会育ちのキラキラ感っていうんですか? やっぱモテてるイメージがハンパないですもん。俺たちスペアザは、どこか野暮ったいイメージがあるでしょう。
又吉 そうだねえ。いつまでたっても“鶴見感”が抜けない(笑)。
柳下 どっかイモいんだよねえ。
芹澤 ほら、RIP SLYMEの人たちってさ、友人関係も原宿あたりのアパレル関係者とか多そうじゃん。まあ、あくまで勝手なイメージだけど。俺らの地元のツレなんてさ、だいたいガテン系だもんね(笑)。
「マイルストーン」feat. 山田将司(THE BACK HORN)&菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)
「ギリギリを攻める」美学を追求したツインボーカル曲
──3曲目はTHE BACK HORNの山田将司さんと9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎さんがツインボーカルをとった「マイルストーン」です。この曲は本作中でもとりわけエモーショナルなロック調のナンバーですね。
芹澤 9mmは昔、自分たちの対バンツアーにスペアザを呼んでくれたこともあって。実は友達歴が長いんです。なので今回、ぜひ参加してほしかった。
宮原 そういえば昔、卓郎と互いのバンドの共通点について語り合ったことがあるんですよ。で、出てきた結論が「ダサいかダサくないか、ギリギリの線を攻めるフレーズ」だったと(笑)。9mmの曲って、ときに思いっ切り振り切った旋律が出てくるじゃないですか。
柳下 ヘタすれば「これ、ダサくて笑っちゃうよね」って言われちゃうベタなフレーズを、ギリギリのところでカッコよく成立させる美学だよね。
芹澤 僕はTHE BACK HORNにも似たところがある気がするんです。例えば歌メロにしても、ギターリフやドラムのキメにしても、やっぱり振り切った表現をあえて追求してる。ベタな表現だけど、そこに生き様が見える!
宮原 そういうのを恐れずやってるバンドが、結局、俺らは好きなんですよね。今回、コラボ相手を考えるにあたって、山田くんと卓郎のツインボーカルを想像したら「この迫力はハンパない!」と。しかも、スタイル的には共通点もありつつ、意外なことにまだ2人の共演経験がなかった。これはもう俺たちがしゃしゃり出て、いわば“いっちょかみ”して結び付けるチャンスだと思って。それでオファーさせてもらいました。
又吉 この曲は、デモ音源ができるの早かったよね。
宮原 うん。なにしろイメージが強烈だったから。2人のツインボーカルを想像しながら作ったら、ホントに一瞬でできた感じでした。
又吉 ここまでストレートにロックっぽい曲調は、スペアザでは初めての気がするよね。ベースもより重低音の迫力が出やすいドロップチューニングにして。あと、普段のフィンガーピッキングじゃなく、あえてピックを使って弾いてみました。それもあって全体的に音色がオルタナっぽいというか、ゴツゴツした感じになってるんじゃないかなと。
宮原 イントロもこだわりました。ド頭で、バスドラの四つ打ちと2人のボーカルが一気に始まる感じ。それこそロックの“音の塊感”というのかな。で、そのまま怒濤のようなリズムで最後まで突っ切りたかった。
──その意味でこの曲は、かなりTHE BACK HORNや9mm的なサウンドに寄せて作った部分もあるわけですね。完パケを聴いた感想はいかがでした?
柳下 2人の声が団子にならず、1つの楽曲の中でちゃんと個性が出てたのはうれしかったですね。色合いは似てるんだけど、よく見ると微妙な違いが浮かんでるところを音でしっかり出せたかなと。
芹澤 わかる! 変な例えだけど山田くんと卓郎の声ってさ、お化け屋敷はお化け屋敷でも、日本の幽霊屋敷と西洋のドラキュラ館っていうか(笑)。パッと聴くと似てるんだけど、実は絶対に混ざらない感じがあるんだよね。ただ今回、詞に関しては2人してスタジオに入って共作してくれたみたいで……それぞれ独特の言葉使いは残しつつ、作品としてちゃんと1つの世界観になっていて、すごいなと思いました。
柳下 あと、実はこの曲のギターは、ボーカルの主旋律とぶつかるスレスレの音域でわざと弾いてるんですよ。
宮原 そうそう。2人共、けっこう苦労してたもんね。
柳下 うん。でも、お互い「ギリギリを攻める」が美学だから(笑)。この曲に関しては、あえてせめぎあってみようと。そこもうまくいったと思います。
- コラボ作品集「SPECIAL OTHERS II」2017年3月1日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 「SPECIAL OTHERS II」
- 初回限定盤 [3CD] / 3888円 / VIZL-1114
- 通常盤 [CD] / 1944円 / VICL-64715
CD収録曲(共通仕様)
- ザッチュノーザ / SPECIAL OTHERS & 斉藤和義
- 始まりはQ(9)CUE / SPECIAL OTHERS & RIP SLYME
- マイルストーン / SPECIAL OTHERS & 山田将司(from THE BACK HORN), 菅原卓郎(from 9mm Parabellum Bullet)
- loop / SPECIAL OTHERS & GEN(from 04 Limited Sazabys)
- かませ犬 / SPECIAL OTHERS & 浜野謙太(from 在日ファンク)
初回限定盤付属CD「SPECIAL OTHERS BEST」収録曲
DISC 1
- BEN [Retake]
- Uncle John [Retake]
- IDOL
- AIMS
- Good morning
- Surdo
- STAR
- Laurentech
- Hankachi
DISC 2
- PB
- Stay
- Wait for The Sun
- beautiful world
- ROOT
- ORION
- neon
- Good Luck
- I'LL BE BACK
- LIGHT
SPECIAL OTHERS「10th Anniversary BEST盤TOUR QUTIMA Ver.22」
- 2017年3月11日(土)神奈川県 Yokohama Bay Hall
- 2017年3月12日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年3月17日(金)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年3月18日(土)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2017年3月20日(月・祝)新潟県 新潟LOTS
- 2017年3月25日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年3月26日(日)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2017年4月1日(土)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年4月2日(日)熊本県 熊本B.9 V1
- 2017年4月8日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2017年4月9日(日)宮城県 Rensa
- 2017年4月13日(木)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2017年4月15日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年4月20日(木)群馬県 高崎club FLEEZ
- 2017年4月22日(土)香川県 高松MONSTER
- 2017年4月23日(日)高知県 CARAVAN SARY
- 2017年4月28日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
- 2017年6月2日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年6月3日(土)大阪府 なんばHatch
- 2017年6月9日(金)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年6月17日(土)沖縄県 桜坂セントラル
SPECIAL OTHERS(スペシャルアザース)
1995年、高校の同級生だった宮原“TOYIN”良太(Dr)、又吉“SEGUN”優也(B)、柳下“DAYO”武史(G)、芹澤“REMI”優真(Key)の4人で結成。2000年から本格的に活動を始め、2004年8月に1stミニアルバム「BEN」をリリース。2005年6月の2ndミニアルバム「UNCLE JOHN」発表後には「FUJI ROCK FESTIVAL '05」に出演し、大きな注目を集める。2006年6月にミニアルバム「IDOL」でメジャーデビューを果たす。2011年11月にさまざまなアーティストと共演したコラボ作品集「SPECIAL OTHERS」を発表し、2013年6月には初の東京・日本武道館公演を成功させた。2014年10月に、メンバー4人がアコースティック楽器で演奏する新プロジェクト「SPECIAL OTHERS ACOUSTIC」名義での“デビュー”アルバム「LIGHT」をリリース。2017年3月にデビュー10周年を飾るコラボアルバム第2弾「SPECIAL OTHERS II」を発表した。