「とんでもねえこと聞いちゃったな……」
──今作にはハイスタ結成当初からのレア映像がふんだんに盛り込まれていますが、素材選びはかなり大変だったのではないでしょうか。
はい。一番大変だったのは素材の取捨選択でした。使いたい素材なんていっぱいあるわけで、できれば全部観てもらいたいけど物理的に難しい。ライブ素材に関しても同じ曲は2度使いたくなかったし、彼らが置かれた状況に応じた歌詞の曲をハメていきたかったので、映画の流れ上どうしてもハマらない曲は泣く泣く切りました。だから、素材を見るのも大変だったけど、セレクトするのもかなり大変でしたね。本当にひたすら素材を見ました。
──時間にするとどれぐらいですか?
多分、300時間分ぐらいは見たんじゃないですかね。最近の素材が重いからってのもありますけど、データにすると80TBを超えてます(笑)。でも、楽しかったですよ。ファンの人に申し訳ないなって。作業しながらふと思ったんですよ、「この状況、すげえ幸せだなあ!」って。
──インタビューはどれぐらい時間をかけたんですか?
1人5時間。それを2回やりました。
──そこの取捨選択も大変ですよね。メンバーの話をうまくつなげないといけないという。
そう、パズルでしたね。作品を観てもらえればわかるんですけど、バラバラに行ったインタビューだけどあたかも会話が成立してるかのような編集になってて。
──編集をしながら気付いたことはありますか?
思っていたよりハイスタについて知らないことが多かったってことですね。当時一般のファンよりは近い場所に自分はいたとは思うんですけど、ハイスタのスタッフではなかったし、そのときに何が起こったのか目の前で見ていたわけではないので。でも、突然出てくる衝撃的なシーンとか、たまたま映ってた会話の雰囲気から、その時々のメンバーの関係性やテンションは伝わってきましたね。とにかく発見しかなかったです。
──梅田監督にとって今作の中で印象深かったシーンは?
一番好きなシーンは、「GROWING UP」のリリース後に行った北米ツアーの移動中の車内で、健さんと難波さんがぞうさんギター(フェルナンデスZO-3)を弾きながら「CLOSE TO ME」のアレンジをしてるところですね。バンドでアメリカツアーに行って、パンクスが運転するバンの中で曲作りしてるって「なんだ、この青春!?」みたいな。この素材を見た瞬間、泣きそうになったぐらい好きなシーンです。単純にカッコいいと思ったし、うらやましいなと。
──あれは本当にまぶしいシーンですよね。
特にバンドをやってる人ならわかると思うんですけど、海外でツアーするなんて夢のまた夢で、たいていはできないじゃないですか。もちろん、今の時代は珍しくないけど、1990年代にそんなことをやってる人は本当に限られてて。
──本当にそうですね。
そういう選ばれた人たちのライフスタイルを垣間見えたのがうれしくて。本当に短いシーンなんですけど、撮っててくれてありがとうって感じです(笑)。
──メンバーのインタビューで印象的だったことは?
彼らの活動がどうやって止まって、再び動き出したかというのは、もちろんなんとなくは知っていたんだけど、活動休止中のおそらく話したくないであろうこともすごく真剣に話してくれたんです。僕らが全然知らなかったような事実があったり、今までなんとなく知ってた話でも、実際に本人の口から聞くと衝撃が大きいですよね。インタビューの日はけっこう食らいました。「とんでもねえこと聞いちゃったな……これ、どうしたらいいんだろう……」って。
──映画云々の前に、自分の感情を処理しなきゃいけないという。
そうそう。そんなことが3人分ありました(笑)。それぐらいみんなさらけ出してくれましたね。
──確かに、言葉を濁したりごまかそうとする様子はまったくなかったですよね。
なんでこの映画がインタビューメインで成立したかと言うと、メンバーの「表情」がすべてです。3人それぞれすごく悩みながらしゃべったり、本当は言いたくないんだけど言葉を絞り出したり、楽しかった話は楽しそうな表情で話したり、とにかくそれぞれ表情が正直なんです。そういう思いが表情や仕草にも出てるから観ていて飽きないんですよね。映画が完成した今でも観ちゃいますから。
──もう嫌っていうぐらい繰り返し観ているはずなのに。
はい(笑)。もちろん、Hi-STANDARDに対して真剣だからああやって話してくれたんだと思いますけどね。
3人共生きることをあきらめなかった
──インタビューの後ろで流れている音楽もいいですよね。ツネ(恒岡章)さんと、ベーシスト村田シゲさんによるユニットsummertimeが担当してます。
BGMに関してはけっこうギリギリまで悩んでたんですよ。シリアスな話をしているバックにハイスタの明るい楽曲は流せないし、どうしようかなって。そんなときに、ツネさんがsummertimeを始めるという話を聞いてライブを観に行ってみたら、ちょっとブリストルっぽいドラムとベースのインストユニットだったんですけど、1曲目を聴いた瞬間に「ピキーン!」ときて。それで、ライブが終わってすぐに楽屋へ行って、ツネさんに「映画のBGMやってくれないですか?」ってお願いしたら、「おお、いいねー」って乗り気になってくれたのでそのままお願いすることになりました。そうしたらあんなに素敵な楽曲が上がってきて。映画の出演者でもあって、しかも状況を誰よりもわかっている人が音楽を作ってくれたのは大きいですね。そのおかげで作品に深みが出たと思います。
──映画の内容について3人から感想はありましたか?
3人共「すごいね」って言ってくれました。もちろん、いい意味で。
──自分が出演している映画に対して「すごいね」っていう感想はあまり言わないですよね(笑)。
そう。自分が出てる映画だけどそう思ったんでしょうね。自分も完成したときに同じことを思いましたけと、本人がすごいって思うんだから本当にすごいんでしょうね(笑)。健さんは「自分のバンドのことなんだけど、壮絶だなあ」って言ってました。
──では、この映画を観た人に何を感じてほしいですか?
さっきも言いましたけど、全部ひっくるめて「人生ってすげえな」っていうことしかないですね。明日、何が起きるかなんて誰にもわからないからこそ、今この瞬間を一生懸命生きて楽しんでいけば、この先にもしかしたら何かいいことが起きるかもよって。もちろん、そうじゃないことのほうが多いだろうけど、だからってそこであきらめたら彼らのようなストーリーはなかったわけで。3人共生きることをあきらめなかったんですよね。難波さんは「信じることをあきらめない」って言ってましたね。
──いい言葉ですね。
それぞれの人生においてあきらめそうになったことはたくさんあるだろうけど、最終的には誰もあきらめなかったんですよ。だから、それをこうやって近くで見せられちゃうと、もう泣き言なんて言えないですよね(笑)。本当にすごい先輩だと思います。
- 映画「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」
- 2018年11月10日 全国公開
- 映画「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」公式サイト
- 「SOUNDS LIKE SHIT -the story of Hi-STANDARD-」作品情報
- Hi-STANDARD(ハイスタンダード)
- 恒岡章(Dr)、横山健(G, Vo)、難波章浩(Vo, B)らなるパンクロックバンド。1991年から活動を開始し、都内を中心にライブ活動を展開。1994年にミニアルバム「LAST OF SUNNY DAY」をリリースし知名度を高める。1995年に「GROWING UP」、1997年には「ANGRY FIST」という2枚のフルアルバムをメジャーレーベルから発表。これらの作品は海外でもリリースされ、好セールスを記録した。また、この時期には海外でのライブ活動も開始。1997年には主催フェス「AIR JAM」をスタートさせ、日本のパンクロックシーンに大きな影響を与えた。1999年に自主レーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」がメジャーから独立し、第1弾作品としてアルバム「MAKING THE ROAD」をリリース。同作はインディーズとしては当時異例のミリオンヒットを達成した。その後も国内外で精力的なライブ活動を続けたが、2000年の「AIR JAM 2000」を最後に活動休止。メンバーはそれぞれソロやバンドで音楽活動を続けた。
- 約11年におよぶ空白の時間を経て、2011年9月18日に横浜スタジアムで東日本大震災の復興支援を目的とした「AIR JAM 2011」を開催。同フェスでハイスタはヘッドライナーとして11年ぶりにライブを実施した。2012年9月には宮城・国営みちのく杜の湖畔公園みちのく公園北地区風の草原で「AIR JAM 2012」を2日間にわたり行った。2016年10月に事前告知なしで突如16年半ぶりの新作「ANOTHER STARTING LINE」をリリース。同年12月にカバーシングル「Vintage & New, Gift Shits」を発表し、福岡 ヤフオク!ドームにて「AIR JAM 2016」を行った。2017年10月には18年ぶりとなるアルバム「THE GIFT」を発表。2018年9月にZOZOマリンスタジアムで「AIR JAM 2018」を開催した。
- 梅田航(ウメダワタル)
- 1974年生まれ、千葉県出身。日本大学芸術学部写真学科卒業後にWRENCHのマネージャーを務め、その後カメラマンに。2016年にスペースシャワーTVで放送されたHi-STANDARDの特別番組のディレクターを務め、映像作家としても活動し始める。2018年11月公開の「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」が映画監督デビュー作となる。