空音|KMとコラボした新作で描く自身の内面、理想の未来

自分が生まれてから死ぬまでの色

──最後に収録された「crayon」は、空音さんの死生観が如実に表れている曲だなと思いました。

このトラックが上がってきたときにKMさんから「きっとこの曲は、空音くんのクラシックになると思う」と言ってもらって、確かにそうだなと思ったんです。まずは「Alcoholic club」の「酒」というコンセプトとは関係なくリリックを考えていたんですけど、自分自身の子供の頃に立ち返るような内容になりました。「クレヨン」と聞いたときに、ネガティブで暗いイメージが浮かぶ人ってそんなにいないと思うんですよ(笑)。僕にとっては子供の頃に日常的に使っていたものだし、楽しく絵を描いている少年時代の僕を、お母さんが温かい目で見ているみたいなイメージも湧いてくるし。この曲は、音楽を始めるかどうかくらいの頃の自分を、今の自分が見ているような内容にしたくて。

──クレヨンは、子供の頃の空音さんの「幸せの象徴」として描かれているわけですね。「クレヨンを使って、自分だけの色を塗っていく」みたいなイメージもありましたか?

空音

それはずっとありました。「嘘をついた夜 塗るCrayonはBlack 伝うCrystalよりBlueな涙」とか「死ぬ時 緑と家族に囲まれたい」という部分が一番クレヨンっぽい表現だなと。自分が生まれてから死ぬまでの色は、自分でしか塗ることができないと思うし、常にその第一人者であるということを忘れたくないなということを思って書いた曲でもありますね。以前の曲だと「space shuttle」に近いリリックかなと思います。

──ちなみに「無色透明のAngels」は、何のメタファーですか?

ここはチャンス・ザ・ラッパーの「Angels (feat. Saba)」という曲にインスパイアされました。彼はシカゴに住んでいるんですけど、この曲はこれから生まれる子供たちが、シカゴのストリートで怖い思いをせず遊べるようにしたいというメッセージソングなんです。それを知ったときに僕はめちゃめちゃ泣いてしまったんです。伝えたい言葉をダイレクトに発信するのがヒップホップであるとするなら、彼みたいなポジティブでピースフルなメッセージであってもいいんだなということを再認識させてもらったというか。そこから「無色透明のAngels」というフレーズが思いついたんですけど……特に深い意味はなくて(笑)。

──でも、今の話を聞いていると、まだクレヨンで色のついていない無垢な子供たちのメタファーとも思えます。

ああ、確かに。それはあるかもしれない。今こうやって読み返してみたら「子供」のメタファーでもあるかもしれないですね。自分に子供ができたときには、やっぱり彼と同じように生きやすい世の中になってほしいと思うし、自分の親のことを誇りに思えるような子供になってほしいという気持ちがあって。それを自分の子供時代とオーバーラップさせているところはありますね。自分自身の根底にある“未来への思い”みたいなものが詰め込まれた曲になったかなと思います。

──“誇れる存在”でありたいという気持ちが強いんですね。

強いですね。親や友達やチームに誇れる存在と思ってもらえたらすごくうれしい。「自分には、こういう友達がいるんだ」と誇れることってあまりないと思うんですよ。でも親からはいつもそれを感じていて。「空音という息子を産んだことを、誇ってくれてるんだな」と常に思っていたからこそ、自分の息子にもそういう気持ちで接したい。そして、そのときに自分自身が恥ずかしくない親であるために作品を作ったり、ポジティブなメッセージを発信したりしていきたいという気持ちなんですよね。

トラックメイカーありきでラップはできている

──この曲は「Alcoholic club」の「酒」というコンセプトとは関係なくリリックを考えていたとおっしゃいましたが、きっとトラックによって導かれるリリックというか、自分では思いもしなかった言葉や考え方がふと出てくる瞬間などもあるんでしょうね。

たくさんありますね。特にこの「crayon」は、最初の時点では「この言葉を引っ張ってこよう」みたいなストックが1つもなくて、「今の自分のストーリーを描くとしたらどんな言葉があるかな」と思いながらゼロから作っていったんです。

──韻を踏むために並べただけの言葉が、実は無意識の思いを象徴しているというか。「あ、今自分はこんなことが言いたかったんだな」と気付くようなこともあると。

そういう瞬間がなかったら、別にラップじゃなくてもいいと思うんですよね。トラックに言葉がうまくハマったうえで、ちゃんと意味があったり本質を突いていたりする曲が、いわゆる「クラシック」と呼ばれる名曲になるんだと思います。「このライムが完璧だったな」って。例えばEVISBEATSさんと田我流さんの「ゆれる」とか、そういう意味ではまさにクラシックですね。NujabesさんとShing02さんの「Luv(Sic) Hexalogy」とかもそう。言葉もハマっていて、意味もあって、メロディも完璧という曲をつくるのって大変なんですけど(笑)、僕の中で「crayon」はそれがうまくいったと思います。リアルでもあるし、弱さも見せつつ「強くならなきゃな」と歌っていて。これまで作った曲の中で一番気に入っていますね。

──まさに、KMさんが最初に予言していたように空音さんの「クラシック」となったわけですね。それに、自分以外の人が作ったトラックだからこそ、こういう化学変化が起きるときもあるのでしょうね。

ホントにそう思うし、逆に言うとそういう言葉を引き出してくれるトラックメイカーって本当にすごいなと思っています。こちらの頭の中に、なんのストックもない状態でも1音聴いた瞬間に言葉が出てきたり、思ってもいなかったテーマが浮かんできたりすることがある。そこから多くの人にめちゃめちゃ聴かれる楽曲になっていくのって、ものすごく楽曲制作の醍醐味を感じるし、トラックメイカーの偉大さを改めて思い知らされますね。トラックメイカーって、まだまだほんのひと握りの人しか注目されていないような気がするので、トラックメイカーありきでラップはできているんだということを、もっと多くの人に知ってもらいたいです。

──もちろん、空音さんの中にそれだけ多くの言葉や思考が詰まっているからこそ生まれた曲であることは間違いないのですが。

そうですね。こんな素敵なトラックをもったいないものにせず、よりいいものとして仕上げることができたので、そこは自分の才能にも感謝したいです(笑)。

──ちなみに、最近刺激を受けた作品はありますか?

レックス・オレンジ・カウンティ(イギリスのシンガーソングライター)は曲名のタトゥーを腕に入れるくらいハマっていて、今はレックスで生活が回っている感じですね。

──そんなにですか(笑)。

ミュージックビデオもそうですが、ちゃんと音楽の中にユーモアがあって、日常を歌いながらそれをアートにも昇華しているところがすごいなって。自分がやりたいことの、1つのゴールでもあるんですよね。ああいうカントリーなサウンドもいつかやってみたいし、楽しそうだなって。日本だとMomくんとかはいるけど、ラッパーでああいうサウンドを取り入れている人ってまだまだ少ないなと思うし、そういう分野にもチャレンジしたいですね。

空音

ライブ情報

空音 -TREASURE BOX TOUR- 振替公演
  • 2021年7月3日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2021年7月1日(日)東京都 LIQUIDROOM
  • 2021年7月17日(土)宮城県 LIVE STUDIO RIPPLE
  • 2021年7月21日(水)大阪府 なんばHatch
  • 2021年7月31日(土)福岡県 BEAT STATION
  • 2021年8月9日(月・祝)北海道 cube garden