somei「デキ猫」OPテーマでメジャーデビュー、MV主演の富田望生と初対面で意気投合 (2/3)

somei×富田望生 対談

“人と会っている”気持ちになれる

富田望生 最初に「憂う門には福来たる」を聴かせていただいた時点では、まさかsomeiさんがこんなに小柄な方だとは思わなくて。

somei そうでしたか。

左から富田望生、somei。

左から富田望生、somei。

富田 とてもかわいらしい声ではあるんですけど、強い思いのようなものがダイレクトに伝わってくる楽曲だったから。もっとこう……なんだろう、強くてカッコいい系の女性をイメージしていて。

somei (笑)。

富田 だから今日お会いしてびっくりしました。でも、たぶんこのかわいらしい小柄な姿形の中に、いろんな思いが渦巻いているんだろうなって。変な言い方ですけど、“人と会っている”気持ちになれる。それってすごく大事なことだと思うんです。会って話していても、本当の意味で“人”として接することのできる相手ってなかなか……数えてみたらそんなに多くはないなと思って。

somei 私も、富田さんとはお互いの心を通わせながらお話できているように感じていて。すごく温かい人だなと感じますし、お話ししていると心がほどけていくような思いです。

富田 うれしい……。

somei 本当に今日、さっき初めてお会いしたばかりなんですけど(笑)。

富田 まだ数時間程度しか経ってないんですけどね(笑)。

somei 今の時代を生きていると、どうしても息苦しさを感じることが多くて。人とお会いしたときに……言い方は悪いですけど、インスタントな言葉でうわべのお付き合いになってしまうことが多くて。そんな中できちんと心と心で向き合ってお話しできるというのは本当に幸せなことだなと思います。

富田 そう。取り繕ったような表面的なやり取りじゃなくて、何かその人なりの訴えるもの、芯にあるものが見えないと“人”じゃないというか……「人じゃない」は言いすぎですけど(笑)。それがこんなに小柄でかわいらしいsomeiさんからビシビシ伝わることがうれしいし、いい時間だなって。

最初はすごく暗い曲だった

富田 「憂う門には福来たる」を聴いたとき、なんかこう……何かを訴えかけるタイプの曲って、私はしみじみと「はあ……」って噛み締めるように聴き入ることが多いんですけど、この曲の場合はいい意味で心をコロコロ転がしてくれる感じがしたんですよね。自分に何か抱えている悩みがあったとして、この曲は「そんなに悩まないで」と押し付けるのではなく、「悩まなくたっていいんだよー」と言ってくれている感じがするというか。その感覚が自分の中では新鮮だったんです。私がつらいときとか、もう一歩踏み出したいときの、自分との新たな向き合い方を発見させてくれたみたいな。

somei “多様性”という言葉が最近よく使われているように、本当に人の考え方って1人ひとり違うと思うんですよ。だから自分の考えを押し付けることはあんまりしたくないなと思ってて。その中でも前向きになれる、明るい気持ちになれる曲を作りたいなと思ったときに、「うまくいかないことがあっても、そういうこともあるよね」というふうに落ち着いて受け入れて、最終的にストンと肩の力が抜けるようなものを作れたらいいな、っていうのは意識しています。

somei

somei

富田 重いテーマを歌っていても、重く響きすぎないというか……。

somei あ、そうです。今回の楽曲はそれをすごく意識しました。

富田 やっぱりその、歌詞のダイレクトさと、音楽としてのかわいらしさ? その対比がすごく面白かったんですよ。

somei 「面白かった」(笑)。

富田 そう。私の中では初めての組み合わせだったから。アニメ(「デキる猫は今日も憂鬱」)の主題歌だからということもあると思うんですけど、最初にイントロが流れたときは「アップテンポで楽しい曲なのかな」と思うじゃないですか。でも聴いていくと、「そんな時代です こんな世の中です」とか「空っぽな心を振り回しながら 生きる意味はあるかい」みたいなドキッとする言葉が出てきて……。

somei ああ。

富田 しかもそれがsomeiさんのコロコロとした声で歌われるという、そのギャップがすごい。一見かわいらしいものの中に秘められた、人間としての本当の言葉みたいなものが急に突き刺さってくるから、「ウッ!」ってなりましたね。

somei すごい、この曲で表現したかったことが全部伝わってる……伝わりすぎて、胸がギュってなりました。今。

富田 え、ホント?(笑) でも、「ウッ!」ってなる人いっぱいいると思いますよ。今後いろんな方にぶっ刺さっていくと思います。

somei あははは。

富田 今の時代だからこそ響くものがあるというか……たぶん、違う時代に聴いてもその時代なりの「そんな時代です」の響き方をすると思いますし。

富田望生

富田望生

somei 「デキる猫は今日も憂鬱」のオープニングテーマのコンペにエントリーすることが決まって、原作を読ませていただいてから書き始めたんですけど……実は最初、メロディとかコード進行とかをすごく暗めの感じで作っていて。

富田 へえー。

somei でも途中から……本当に暗すぎて(笑)、「こんなに明るいアニメなのに、これはいけない」と思って。

富田 「そんな時代です」が……。

somei 重くなりすぎてしまって(笑)。「そういうことじゃないよな」と考え直して、明るい曲調になっていったんです。それができあがって、今こうして富田さんにも感じたことを伝えていただけて……自分の言いたかったことが一応は表現できてたんだな、ってようやく実感しているところです(笑)。

富田 その点ではお芝居と一緒ですね。私たちも作品が世に出て人に届いて感想をいただけないことには、どう伝わるかは読めないので。「こう見せたい」「こういう反応をもらいたい」が先行ではないから……まず「感動させよう」と思ってやってないっていう。

somei (うんうんとうなずく)。

富田 演者と違って、もしかしたら制作のスタッフは「届いた先に何が生じるのか」までを考えないといけないのかもしれないですけど。たまに要求されることもあるんですよ。「こう思わせたいからこう見せたい、だからこういう芝居をしてくれ」とか。説明のされ方にもよるんですけど、正直やっぱりしらける部分はありますよね。

somei 私も、曲を作るときに「これを伝えよう」とかはあまり考えていない気がします。逆に、何が正解なのかを探りながら「こういうことなのかな?」って進めていく感じですね。曲が完成しても、まだそれが正解なのか全然わかってない状態(笑)。

富田 そういうものだと思うんですよね。「そのときに自分が感じたことがなんなのか」を表現するのが一番大事なことなので。