ナタリー PowerPush - 島谷ひとみ
野崎良太(Jazztronik)プロデュース 童謡カバーアルバム「Sign Music」
予想外なことばかりで、そのギャップがいちいち面白かった
──そもそも、野崎さんは童謡をアレンジすることについてどう考えていたんでしょう。
お願いする段階では断られてもしょうがないと思ってたんですけど、野崎さんもいつかは童謡のアルバムを作りたかったそうなんです。野崎さんはあらゆる音楽に精通している方だし、童謡は学校とかCMとかで耳にすることも多くて日本人みんなになじんでいる音楽だから、そういう「ある程度フォーマットが決まっている曲を自由にアレンジするのは楽しいかも」って考えてたみたいです。その思いが私と一致したからタッグを組めたんでしょうね。
──でも、なじんでいる童謡だからこそ難しいこともあったんじゃないですか?
そうですね。「こんなの違うよ」って思われるかもしれないし。でもそれぞれに思い入れがあるだろうから、曲を聴いて浮かぶシーンや場所が違うのはしょうがないかなと割り切ってました。その意味ではチャレンジした曲もあるんです。お年寄りの方が聴いたらびっくりしちゃうかもしれない。
──チャレンジした曲というと?
1曲目の「故郷」はかなり軽快なテンポですよね。私のイメージでは、オリジナルは涙がにじむような、目を閉じて歌う曲だと思ってたんですけど、今回のアレンジはすごく軽快で爽やかで、明るく故郷を思い出す世界観になっていて。「シャボン玉」も民族音楽の雰囲気で「なんじゃこりゃ!」って驚きました。
──でもその意外性が楽しかったんですね。
予想外なことばかりで、そのギャップがいちいち面白かったです。おしゃれだなーって(笑)。
──では難しかった曲は?
「この道」かな。今回真剣に歌ってみて初めて気付いたんですけど、4分の4拍子から途中で4分の3拍子になったり、ブレイクみたいな間が突然入ってきたりするから、すごく歌うのが難しかった。クラシックの流れなんですかね? 不思議な曲なんですよ。
童謡に歌唱力はあまり関係ない
──島谷さんは今まで演歌、ポップス、クラシックとさまざまなジャンルの曲を歌ってこられましたが、それらと童謡の違いはありますか?
確かにたくさんのジャンルを経験させてもらいましたけど、どっぷりその世界を勉強したわけではなくて、あくまでもそれっぽいアレンジにしてもらっただけなんです。私は小さな頃から歌謡曲を聴いてきたから、歌い方はやっぱりJ-POPになっちゃう。だから、パスタに納豆を入れるようなものというか。私はただの素材で、それをどう味付けするかの違いでしかない。だからクラシックでもラテンでも、気持ちはあまり変わらないんです。ただ童謡に限っては、歌唱力はあまり関係ないかなとは思います。テクニックよりも素朴な感じや気持ちが重要であって、きれいすぎると響かないかなと。
──昨年、野崎さんにインタビューした際「過去を知ることで初めて新しいものが作れる」と言っていたのが印象に残っているんです。今回のアルバムもその感覚に近いんでしょうか?
そうだと思います。人の心を動かす曲は時代が移っても変わらないエネルギーがありますよね。だから新しさも大事だけど、昔からあるものも大事にしたい。私自身の好みとしても、時代の匂いが付いているものが好きなんですよ。
島谷ひとみ(しまたにひとみ)
1980年生まれ、広島県出身の女性シンガー。1999年にシングル「大阪の女」で歌手デビュー。2001年にリリースしたシングル「papillon」や、2002年に発表したシングル「亜麻色の髪の乙女」などのヒットで幅広い支持を獲得する。2009年にはデビュー10周年を迎え、7月にベストアルバム「BEST & COVERS」をリリース。さらに故郷である広島・嚴島神社にてデビュー10周年を記念した世界遺産ライブを敢行した。また、2009年公開の映画「パラレル」の主演を務め、2011年にはロックミュージカル「ROCK OF AGES」のヒロイン役に抜擢されるなど、歌手活動のみならず舞台やミュージカルにも活躍の場を広げている。2012年2月、野崎良太(Jazztronik)と全面的にタッグを組んで、童謡カバーアルバム「Sign Music」を発表した。