ナタリー PowerPush - 渋沢葉

「やっと会えました」注目シンガーが伝えたい思い

聖飢魔IIメイクをすると朝から作曲できた

──今年は2枚のミニアルバムを発表してますが、1枚目と2枚目でこうしたいっていうビジョンはありましたか?

1枚目は……自分が人間として信じてるものがあるから、それをタイトルどおり赤裸々にさらけ出したかった。

──「せきららら」が生まれて初めてのレコーディングだったんですよね。

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うん。土屋昌巳さんとチバユウスケさんがプロデュースしてくださって、本当にすごい体験だったんですよね。中でも土屋さんとやった「ピアニッシモ」っていう曲は、まずイントロを私がグランドピアノで弾いて、それを1回テープに落として。で、その音をラジカセのテープにまた落として、そのあとにグランドピアノの蓋を開けたところにラジカセを置いて音を流すと、音が共鳴するんですよね。さらにそれを録音したらピアノが泣いてるような、鯨の声みたいな音がちっちゃい音で入ってて。それ以外にも、レコーディングのときはいろんなことがありましたね。CDには不思議なピアノの音や、一緒にレコーディングしてくれた人の温度が詰まってて。音をただ録音してるだけじゃなくて、人の気が集まって作ってるものだから……とにかく素晴らしい経験でした。土屋さんにもチバさんにもいろんなことをたくさん教わって。これから恩返ししたいって気持ちです。

──今回リリースされる「花はここに咲いています」はアタマから「破壊BOSSジャム聖飢魔IIメイク」「ARE YOU PANPI?」と、かなり攻撃的でソリッドな曲でスタートします。この2曲を冒頭に持ってきた理由は?

今の自分の年齢と、2枚目の作品を出せる環境、聴いてくれる人がいる状況を考えて。こういう激しい曲を今後いつ歌うか?っていったら今しかないと思ったから。

──「破壊BOSSジャム聖飢魔IIメイク」はどんな状況からできた曲なんですか?

2年前ぐらい。毎日毎日なんとか生きてて、なんとか作曲してて。けど朝起きたときに泣きそうになる日があって。落ち込んじゃうっていうか。で、それがイヤだから寝る前に歌舞伎役者みたいな、自分では「聖飢魔IIメイク」って呼んでるすっごい濃いメイクをして、イヴ・サンローランの赤い口紅を塗って寝て。それで朝起きると気分を落とさずに作曲できたんです。だからしばらくそういう生活をしてて。

──夜は作曲できない?

うん。夜は苦しい。夜、曲を作っちゃうと大変なことになっちゃうんですよ。内容は濃いんだけど、あまりに濃すぎるものができる(笑)。だから私は朝のほうがいいんだなって。

──自分に殴りかかるような歌詞と歌ですよね。これを書いて救われた部分ってありますか。

この曲を作ったから、今日まで生きてこれた(笑)。

今はものすごい楽しい

──2曲目の「ARE YOU PANPI?」は他者に対して怒ってますね。

これ作ったときはまだデビュー前で、こういうことはイヤだっていう経験をいっぱいして。その結果生まれた曲(笑)。

──歌詞からも想像することができますが、具体的にはどんな経験ですか?

いっぱいミュージシャンを抱えてるところで。自分たちはお金を持ってて、ミュージシャンたちはお金はないんだけど……才能をいいように操って。「こういうのはいけない」「ああいうのはいけない」って言われて、すごくつまらなかった。

──渋沢さんもカテゴライズされそうになった?

女の子っぽい、恋愛の歌を「こういうふうに歌ってください」って指示されるんだけど、言われたとおりに歌いたくないから。そこでケンカしちゃって。

──ハハハハ(笑)。

悔しいから自分で曲書くじゃないですか。ドラムの男の子とデュオ組んで「逆THE WHITE STRIPESに見せようじゃないか」って言ってたんだけど、自分のイメージする音は出せないからすごくストレスで。でも今は素晴らしいバンドマンの皆さんが自分の想像以上の音を出してくれるから、ものすごい楽しい(笑)。そういう時期があったから、よけいに。

いいことと悪いことって共存してる

──冒頭の2曲とは打って変わって、ラストの2曲は織原洋子さんのピアノをフィーチャーした静かだけど強い曲で。

織原さんに初めて弾いてもらった瞬間に、もうとんでもなくて。「祈り」はデモにはエレピとか入ってたんだけど、それを聴いた直後に楽器はグランドピアノとウッドベースとギターとドラムにしちゃって。デモに比べてすごく良くなった。

──「祈り」の歌詞はどんなきっかけで生まれたんですか?

去年の七夕の頃、すごい自分が固まっちゃってて、「もうダメだ」って思ってたんですよね。でも七夕って、自分じゃない誰かのことを祈ったり、他の人の幸せ願ったり、温かい気持ちになるでしょ。その雰囲気に救われて。曲の最初で歌ってる「something so Sad when you feel」っていう言葉は、悲しいことがあったときに悲しいと思えばそう感じるってこと。例えば花が枯れているときに「花は枯れてます、しおれてます」って悲観的に思うんじゃなくて、「花はちゃんと咲いてる」って思うと気持ちも違うし。

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──ラストを飾る曲は、タイトルだけ見たら(「悪魔再生」)どんな怖い曲かと思いますけど、すごくきれいな曲で。

「再び生かす」っていう気持ちで作ったんです。いいことと悪いことって共存してて、はっきり分かれてるものじゃないと思うんですよね。人の悪いところって「ダメ!」ってされがちだし、悪魔は悪いものの代表って言われるけど、生かしてみると中身は天使だったりもするし。その天使がハミングしてる状況を音にしたくて。それをイメージしながら作った曲です。

LIVE INFORMATION
「花はここに咲いています」
リリース記念ワンマンライブ

2012年12月11日(火)東京都 代官山UNIT
OPEN 18:00 / START 19:00

渋沢葉(しぶさわよう)

1988年生まれ、千葉県出身の女性シンガーソングライター。LED ZEPPELIN、ジミ・ヘンドリックス、THE BEATLESなど60~70年代のロックを聴いて育ち、同時にリトミックやピアノを習う。18歳からオリジナル曲の作詞作曲を始め、TOKYO FM「SCHOOL OF LOCK!」が主催する10代限定の夏フェス「閃光ライオット」に参加。最終先行まで残り、審査員とオーディエンスに鮮烈なインパクトを残す。2012年6月にビクターエンタテインメントよりデビューミニアルバム「せきららら」を発表。土屋昌巳やチバユウスケをプロデューサーに迎えた本作は、ロックファンを中心に大きな注目を集めた。2012年11月に2ndミニアルバム「花はここに咲いています」を発表。12月11日に東京・代官山UNITで初のワンマンライブを開催する。