ナタリー PowerPush - ソウル・フラワー・ユニオン

ラテンアプローチで新機軸 「キャンプ・パンゲア」堂々完成

ソウル・フラワーは「何かになりたい」という思いがない

──制作期間は去年の2月から今年の10月までとかなり長い感じ。

これはもう前々作の「ロロサエ・モナムール」(2005年発表のアルバム)から定着してきたやり方で、4~5曲新曲ができればスタジオに入る。それを4回くらいに分けて、曲がたまってきたらアルバムにする。途中経過はマキシシングルで見せる、と。ただ、やっぱり毎回違うことやりたいというのもある。前作の「カンテ・ディアスポラ」では、ベーシック(基礎パートの録音)からリクオに入ってもらったから、今回はベーシックからパーカッションを入れたいな、と。4回のセッション中、前半は熱帯JAZZ楽団でも知られる美座(良彦)君(=ミザリート)、後半はヤヒロ君。それが今回のわかりやすいところでの特色かな。

──ヤヒロさんは昔からの流れがあるけど、ミザリートはどういうところから?

エンジニアの笹原君が初期のTHE BOOMをずっと手がけてて。それでラテン周りの人脈もあって、彼に「サルサで遊びたいねんけど、そっち方面でソウル・フラワーと人間的にも音楽的にも合いそうなパーカッショニスト、誰か知らない?」って訊いたら、ポンと名前が出てきた。世代も一緒で。

──彼の出す音色もビートも強力だよね。

おいしいもんいただいた、という感じやね。美座君、ありがとう(笑)。やっぱりレコーディングって、常に何か学びたい場でもあるからね。バンドって、“木を見て森を見ず”みたいになる瞬間もあるから、外部からやってくる新しい風って大事やな、と。

──ラテンを追求するといっても、ソウル・フラワーのやり方は、お勉強という感じじゃなくて人懐っこい雰囲気で。

俺を始め、ソウル・フラワー・ユニオンは自信ありすぎるというか(笑)。(自分以外の)何かになりたい、というのがない。(何をやっても)ソウル・フラワー・ユニオンになるっていう確信があるし。現に、ウチにしかないものになってると思うしね。それは広義の意味でのロックミュージック。ジャンルに「取り込まれる」ということは最早ないんよね。

「死んだあのコ」の後には絶対「再生の鐘が鳴る」が必要やった

──アルバムを最初から聴いていくと、「死ぬまで生きろ!」でスティール・パンが入ってくるところは、「オッ? 今までになかった音色だぞ」というインパクトがある。

これは奥野が作り出した音。「やるなぁ」という感じやね。

──この曲の「死亡率100%」って歌詞の出だしは強烈!

これはリクオのMCからいただいた。ちゃんと言うとかないと、「盗った」って言われる(笑)。でもライブでは「脂肪率100%ってどういう太り方なんや!?」っていう反応があった(笑)。

──「死ぬまで生きろ!」からは、「死んだあのコ」「再生の鐘が鳴る」「アクア・ヴィテ」って、命に関する歌詞が続いてる。

そうやね。流れが良くて、物語になったね。

──「死んだあのコ」ってタイトルには、ぎょっとさせられたけどね。

これは、ソウル・フラワーのファンの30歳の女の子が最近ガンで亡くなって……。あるジャーナリストが間に入って、「見舞いに一緒に行きませんか?」って連絡してきてくれて。ちょうど東京でのミックス作業が終わった次の日で、関西に帰る前に立ち寄れる日がたまたまあって。それで行こうかっていうことになった。30歳、若過ぎる。でもお父さんお母さんは、メチャクチャ明るく気丈にもてなしてくれるわけよ。彼女はもう意識不明の状態でね。それから1カ月後くらいに亡くなったって連絡が来て。それでも彼女のお父さんは「ファンになりました」とか言って、ソウル・フラワーのライブに来てくれたり……。俺も人の親になってから、以前とは捉え方が変わってきた。子供が自分より先に死ぬなんていうのは、想像を絶すること。この曲はその体験がもとになってるんやけど、そこにもうひとつの要素が入り込んできた。同じ時期に、沖縄戦や米軍占領下の沖縄のことを調べてて。ちょうど、子供を亡くした親の証言とかを読んでた時期で。“基地の町”であったり、“シャッター街”であったりとか、複数のシチュエーションが混ざり込んだ曲になった。だからこの曲の後には絶対「再生の鐘が鳴る」が必要やったんよね。ここは曲順を考えるときのポイントになった。

──やはり自分の子供がいると、命のことを考えると。

もちろん。あと友人であったり、知り合いであったり、影響を与えてくれた先人であったりが連続して亡くなったり。Twitterとかやってると、毎日のように訃報に出くわすよね。だから考えざるを得ないというか……。でも、別に負の要素だけじゃないよ。生物っていつか死ぬんやなってこと、命の重さを教えてくれる瞬間でもある。

ニューアルバム「キャンプ・パンゲア」 / 2010年12月15日発売 / 3150円(税込) / BM tunes / XBCD-1034

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CD収録曲
  1. パンサラッサ
  2. ホップ・ステップ・肉離れ
  3. ダンスは機会均等
  4. 死ぬまで生きろ ! [2010 ALBUM MIX]
  5. 死んだあのコ
  6. 再生の鐘が鳴る
  7. アクア・ヴィテ [2010 ALBUM MIX]
  8. 道々の者
  9. 太陽がいっぱい
  10. パンゲア
  11. 千の名前を持つ女
  12. スモッグの底
  13. ルーシーの子どもたち [2010 ALBUM MIX]
  14. 続・死ぬまで生きろ!
  15. 移動遊園地の夜
パンゲア [Trailer]
ニューアルバム「キャンプ・パンゲア」発売記念ツアー
  • 2010年12月4日(土)
    愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
    OPEN 18:00 / START 19:00
    問い合わせ:JAILHOUSE
  • 2010年12月5日(日)
    大阪府 BIGCAT
    OPEN 18:00 / START 19:00
    問い合わせ:GREENS
  • 2010年12月7日(火)
    福岡県 福岡 DRUM Be-1
    OPEN 18:00 / START 19:00
    問い合わせ:BEA
  • 2010年12月11日(土)
    東京都 赤坂BLITZ
    OPEN 18:00 / START 19:00
    問い合わせ:SOGO TOKYO
ニューアルバム「キャンプ・パンゲア」発売記念地方巡業 ~アコースティック編~

出演:ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザン(中川敬・リクオ・高木克)

  • 2011年1月12日(水)
    滋賀県 酒遊館
  • 2011年1月14日(金)
    愛媛県 松山ブエナビスタ
  • 2011年1月16日(日)
    兵庫県 加古川ギャラリー&サロン日本堂
  • 2011年1月19日(水)
    神奈川県 藤沢虎丸座
  • 2011年1月20日(木)
    東京都 吉祥寺弁天湯
ソウル・フラワー・ユニオン

1980年代から活躍する中川敬(Vo,G)率いるニューエスト・モデルと、伊丹英子(G,Vo)率いるメスカリン・ドライヴが1993年に同時解散。2つのバンドのメンバーによって結成されたミクスチャーロックバンド。トラッド、ソウル、ジャズ、パンク、レゲエ、ラテン、民謡、チンドン、ロックンロールなど、さまざまなジャンルを取り込んだ雑食性の強いサウンドが特徴。1995年、阪神・淡路大震災の被災地でソウル・フラワー・モノノケ・サミット名義での慰問ライブを実施し、以降ソウル・フラワー・ユニオンとソウル・フラワー・モノノケ・サミットは並行して活動中。現在のメンバーは中川敬(Vo,G)、奥野真哉(Key)、伊藤孝喜(Dr)、ジゲン(B)、高木克(G)、ミホ(Cho)、ヒデ坊(Cho,他)。