関取花が“主人公にならない人”に寄り添う新作リリース、TBSラジオがつないだパンサー向井慧との不思議な縁 (3/3)

TBSラジオの平日帯番組で一番低いBPM

──では曲を書くにあたって、向井さんがしゃべる番組のテーマソングという大前提はあったんですね。

関取 それはめちゃくちゃありましたね。ちょっと気持ち悪い話をしていいですか?

向井 聞きたい(笑)。

関取 向井さんが朝の番組をやるとなったら、ほかの時間帯とは違うトーンでしゃべるだろうなって思ったんです。もっとゆっくり話すんじゃないかなって。で、「#むかいの喋り方」とかを聞きながら朝の質感やトーンに合いそうなトークを録音して、それをアコギで作った「ラジオはTBS」のデモに乗せてみて一番いいテンポを探ったんです。

向井 はー! そんなことを!

関取 自分がラジオで話しているときも、BGMに持っていかれるような感覚があったんで、あんまりテンポが速すぎたり音数が多すぎたりしてもよくないなあと。BGMとして一番機能するように、あまり主張がない、朝の光のようなイメージで作ったのが「やさしい予感」。「ラジオはTBS」は向井さんがしゃべるイメージに沿って作りました。

関取花

関取花

──TBSラジオの中で平日帯番組のオープニング曲のBPMを調べてきたんです。「ラジオはTBS」はBPMが101で、一番低いんですね。

関取 そうなんですよ!

向井 へー!

──「生島ヒロシのおはよう定食|一直線」が110、「森本毅郎 スタンバイ!」が118、「#ふらっと」のあとの「ジェーン・スー 生活は踊る」が130で一番高かったです。

関取 そうそう、スーさんのオープニングは意外とテンポが速いんですよ。

──森本毅郎さんもスーさんもトークに勢いがあるイメージがありますし、番組のカラーとしてもこれくらいのテンポがハマるんですね。一方、向井さんはかなりゆったりしているという。ちなみに、「たまむすび」が120、「荻上チキ・Session」が125、「アフター6ジャンクション」が119です。

向井 なるほど。もちろん僕は音楽的なことはわからないですけど、BGMに土台で支えてもらってるんですね。芸人のしゃべりは速ければ速いほどいいみたいなところもあるんで、テンポを抑えて話すのは難しいんですよね。自分なりに苦戦しながらですけど、周りの方に「聞きやすいテンポでしゃべってるね」と言ってもらえてるのは音楽の力もあるんだなと、今知りました。

関取 いやいや、もちろん向井さんの力ですよ? 私の音楽の力ではないですよ?

向井 でも指揮者的に「このテンポですよー」って導いてくれてるんだと思う。

左から関取花、向井慧。

左から関取花、向井慧。

──関取さんの「この時間にこのテンポで向井さんにしゃべってほしい」という理想が曲になっているというか。

関取 もっと気持ち悪いこと言っていいですか? やっぱり、どんなテンポにしても慣れるまではメインのリズムに引っ張られちゃうと思うので、今「#ふらっと」で流れてるバージョンはスネアの音量を下げてるミックスなんですよ。

──なるほど、リズムが主張しすぎないようにしているんですね。向井さんがワッとしゃべりたいときに邪魔しないように。

向井 そこまで考えられてるんだ……!

関取 アルバムに入っているのはリズムも強いミックスなんで、もう少し慣れてきたらラジオもこっちに差し替えます(笑)。

このチームで作れたことに胸を張りたい

向井 先日「#ふらっと」のゲストに、映画「ハケンアニメ!」原作者の辻村深月さんがいらしたんです。「ハケンアニメ!」ではチームでものを作る大事さみたいなものが描かれていて。僕は、この番組をやるまでは誰かの番組に出ることのほうが圧倒的に多かったから、チームの意味をあまりわかってなかったんですけど、一緒に仕事をしてくれる方にプラスαしてもらうには、「この人のためにがんばろう」と思ってもらえるかどうかなんですよね。辻村さんとお話したらいろいろと刺さりすぎて泣きそうになってしまったんです。そしたら、その放送を聴いた関取さんからDMが(笑)。

関取 「失礼します」から始まる長文を(笑)。「向井さんだからできている番組なんだと思いました」と。普段だったらこんな出すぎたことしないんですけど、ちょうど山口つばささんの「ブルーピリオド」(空虚な日々を過ごしていた主人公・矢口八虎が絵に魅了され、美大を目指す青春マンガ)を読んでたんで。

向井 熱くなってたんだ(笑)。

関取 今までだったら「私なんて」と自分の気持ちに蓋をしてたんですけどね。このアルバム自体が「私がやりたい」と言ったからできたものなんで。好きなバンドメンバーに集まってもらえて、「TBSラジオが好きだ」と言い続けてたらテーマソングを作れて。やっぱり好きなものとか人にはちゃんと伝えないとなって。

向井 そうそう、だから「ハケンアニメ!」で描かれたチームの話が、関取さんにも刺さったんだなと。

関取 もう号泣です。1人ヨギボーの上で(笑)。

左から関取花、向井慧。

左から関取花、向井慧。

向井 「関取さんのためだったらここまでやれる」というメンバーが集まったから完成したっていう実感もあるだろうし。「一緒に小説を作ってくれた編集者さんとか、本のデザイナーさんとか、もの作りに関わってくれる人すべてに胸を張りたい」と辻村さんも言っていて。

関取 あー! それですよー!

向井 たとえ数字がついてこないとしても、このチームでこれだけ素晴らしいものを作れたということを誇りたいと。それは僕がこの番組に対して思っていることだし、関取さんもこのアルバムに感じてるんだろうなって。

関取 まさにアルバム最後の曲「スポットライト」には「あなたの自慢にきっとなるから」「ここで生きて行く」っていう歌詞があるんです。見てくれる人の自慢になりたいですよね……あー、向井さんの自慢にならなくちゃ!

向井 いや、もうなってますよ(笑)。

関取 向井さんのプロフィールに「好きなミュージシャンは関取花」って書かれたいです。

向井 そう書かれても、「私が言ったから書いてもらっちゃったな……」って思うでしょ? 気にするでしょ?(笑)

関取 あー、そうですね……言わなきゃよかった……。向井さんがほかのミュージシャンの曲をラジオでかけてると、嫉妬してますから。

向井 関取さんの曲しかかけなかったら変でしょ! そんなラジオないよ(笑)。

左から関取花、向井慧。

左から関取花、向井慧。

主人公にならない人に寄り添うアルバム

関取 このアルバムは、向井さんみたいな人に聴いてほしいんです。例えば、ずば抜けた経験を持っているとか、逆に過去にものすごいトラウマがあるとか、そういう“わかりやすい”境遇じゃない人に聴いてほしい。

向井 うんうん。

関取 意外に思われることもあるんですけど、私自身ずっと人生が楽しかったタイプで。学生時代も友達がいたし、たまに好きな人ができて、別れたりしながらまた誰かと仲よくなったり。すごく恵まれてると思うんですけど、でも何もないわけじゃなくてモヤモヤと悩んでもいるんですよね。こういう部分って、あんまり音楽でフォーカスされることがないじゃないですか。

──幸せの絶頂か不幸のどん底がドラマになりやすいですよね。

関取 主人公にならない人たちに聴いてほしいんです。嗜好品でいいから、そういう人たちに寄り添えるようなアルバムになってると思います。

向井 今思い出したんですけど、僕が関取さんの音楽を初めて聴いたのも、TBSラジオの「爆笑問題カーボーイ」で流れたときだったなあ。僕が帯番組をやって、関取さんの曲をかけさせてもらってるのは、不思議な縁ですよね。

関取 「また会いましたね」ですね。

向井 ははー、うまく持っていきますね(笑)。

関取 向井さんとはお会いするたびにすっごく楽しくお話させていただいてるんですけど、ここで甘えちゃいけないと思ってるんですよ。楽しいなって思っていても、これ以上踏み込んだら「それは違うんで」ってなっちゃう気がして。

向井 それは自分がそうだからでしょ(笑)。関取さんとは、友達っていうと気恥ずかしいけどだいぶ仲よくなったと思いますけどね。

関取 向井さんとはお友達になりたいって思ったんですよ! 友達だったらオススメのマンガとか聞けるじゃないですか。

向井 いや、全然友達になりますよ。関取さんがよければ。

関取 え!いいんですか!? 友達ですか! Twitterのプロフィールに書きます!

向井 それは止めてください(笑)。

左から関取花、向井慧。

左から関取花、向井慧。

関取花ツアー情報

関取花2022ツアー “また会いましたね”

  • 2022年9月2日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2022年9月11日(日)福岡県 DRUM SON
  • 2022年9月17日(土)石川県 Kanazawa AZ
  • 2022年9月19日(月・祝)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2022年9月24日(土)宮城県 Rensa
  • 2022年10月2日(日)広島県 Live space Reed
  • 2022年10月8日(土)北海道 cube garden
  • 2022年10月22日(土)京都府 磔磔
  • 2022年10月23日(日)大阪府 Music Club JANUS
  • 2022年11月10日(木)東京都 EX THEATER ROPPONGI

プロフィール

関取花(セキトリハナ)

1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2019年5月にミニアルバム「逆上がりの向こうがわ」でユニバーサルシグマからメジャーデビュー。2020年3月に2ndミニアルバム「きっと私を待っている」、11月に初のエッセイ集「どすこいな日々」を発表した。2021年3月にメジャー1stフルアルバム「新しい花」をリリース。2022年7月にメジャー2ndフルアルバム「また会いましたね」を発表し、9月から11月にかけて全国ツアー「関取花2022ツアー “また会いましたね”」を行う。

向井慧(ムカイサトシ)

1985年12月16日生まれ、愛知県出身。2008年に尾形貴弘、菅良太郎とともにお笑いトリオ・パンサーを結成した。コントを主軸としたネタ作りを重ね、各メディアに出演。お茶の間の人気を集める。2015年には「よしもと男前ランキング」で1位を獲得。その後もNHK「うたことば」やTBS「王様のブランチ」、テレビ東京系「おはスタ」など数多くの番組で活躍し、CBCラジオ「むかいの喋り方」、TBSラジオ「パンサー向井の#ふらっと」にも出演している。