音楽ナタリー Power Push - さユり

「僕街」監督と語る新曲の世界

優しさとその裏にある恐ろしさや弱さ

──さユりさんは、「それは小さな光のような」という曲に対してどんな印象を持ちましたか?

さユり デモを聴いた瞬間にすごく素敵な曲だなって思いました。アニメの舞台である北海道の、雪が降る静かな雰囲気が曲に出ているし、その一方でちょっと不穏な空気も感じられる。優しさとその裏にある恐ろしさや弱さといった、作品で描かれているいろんな要素がギュッと音で表現されているところがすごく好きです。

伊藤 アニメで使われてる90秒バージョンもいいんですけど、フルで聴くとね、これがまたよりいいんですよ。90秒しか使えない悔しさがあったりもして。

さユり わ、ありがとうございます。

さユり

──シンガーソングライターであるさユりさんにとって、提供楽曲を歌うことに戸惑いはありませんでしたか?

さユり 私は原作の主人公・藤沼悟の気持ちにすごく共感していて、その作品の曲として梶浦さんが書かれた楽曲だったので、歌詞やメロディにはスッと入り込むことができました。自分の中にあるものと重ねて歌えました。

──歌の表現に関してはどんなところを意識しましたか?

さユり 自分の気持ちを素直に乗せて歌いました。ただ、この曲には後悔だけではなくちょっと外を向いている感情、自分よりも強い感情が描かれてもいて。それはサビに出てくる“守りたい”っていうフレーズなんですけど、その言葉は本当に強くて優しくないと言えないなって思ったんです。だから歌うのにはすごくエネルギーが要りました。

──それは提供曲だからこそ表現できた部分なのかもしれないですね。

さユり そうだと思います。口に出すことで実際に自分がその通りになっていくことってあると思うんですよ。だから、この曲で“守りたい”としっかり歌うことで、自分も強くなれるんじゃないかなって。そういうチャレンジができたところもあったので、楽しみながら歌わせていただきました。

聴くたびに「うわっ!」ってドキドキしてしまう

──伊藤監督は楽曲の中で特に印象的なポイントってありましたか?

さユり

伊藤 さっき「子供が歌っているような声」という話をしましたけど、歌詞に関しても子供たちからの視点をすごく感じたんですよね。大人になるとどこか子供を見下ろす感じがあったりするけど、この歌詞にはそういった目線が一切ないというか。「僕だけがいない街」には“大人パート”と“子供パート”があるんですけど、僕はどっちかと言うと子供パートが好きでやってるんですよ(笑)。なので、そういう曲になったのはすごくうれしかった。

さユり あー、なるほど。確かに「僕だけがいない街」には子供目線の部分はありますよね。ただ、私は同時にそれらを俯瞰して眺めてる部分も感じたんですよ。子供の悟を大人の悟が見ている感じというか。だからそれこそ時空をたゆたってる感じというか、歌っていても不思議な感覚がありましたね。

伊藤 あとは2番の歌詞に出てくる“優しい指がねじれてゆく”っていうフレーズ。思わずデヴィッド・リンチ的な映像が頭をよぎるというか(笑)。希望的なことを歌っている曲ではあるけど、要所要所でそういう不安に襲われるところがあって、聴くたびに「うわっ!」ってドキドキしてしまう。それはもちろんいい意味での引っかかりってことなんですけど。

さユり 私もそのフレーズでは、作品中のあるシーンが鮮明に思い浮かんで。気持ち的に「ねじれてゆく~!」ってなっちゃいましたね(笑)。

──楽曲の中にそういう引っかかりがあることは、アニメのテーマソングとして重要なことでもありますよね。90秒という短い尺で視聴者に爪痕を残すという意味では。

伊藤智彦

伊藤 そうだと思いますね。だからこそ今回のように、アニメの内容にちゃんと寄り添った楽曲が来ると超テンションが上がるんですよ。アニメのテーマソングに対しては、「こんなにすごい曲があるんだ!」って思わせてくれるほうがアーティストさんの知名度に関係なく幸せだったりするというか。そういう意味で今回は本当に理想的な形になったんじゃないですかね。

──さユりさんはデビューから2作連続でノイタミナのエンディングテーマを担当することになったわけですけど、アニメとの関わりをどう感じていますか?

さユり プレッシャー……というよりは、面白さとかうれしさが勝っている感じですね。曲単体でリリースするよりも、アニメとの関わりがあることで解釈が広がる気がするんですよね。歌詞で伝えたいことが、アニメを通してより伝わりやすくなっている気もしますし。本当に、ただただうれしいです。

ニューシングル「それは小さな光のような」 / 2016年2月24日発売 / アリオラジャパン
初回限定盤A [CD+DVD] 1599円 / BVCL-696~7
初回限定盤B [CD+DVD] 1599円 / BVCL-698~9
期間生産限定盤 [CD+DVD] 1599円 / BVCL-701~2
通常盤 [CD] 1000円 / BVCL-700
初回限定盤A CD収録曲
  1. それは小さな光のような
  2. 来世で会おう
  3. 光と闇-弾き語りver.-
初回限定盤A DVD収録内容
  • それは小さな光のようなMV(フルレングスver.)
初回限定盤B CD収録曲
  1. それは小さな光のような
  2. 来世で会おう
  3. スーサイドさかな-弾き語りver.-
初回限定盤B DVD収録内容
  • 来世で会おうMV(フルレングスver.)
期間生産限定盤 CD収録曲
  1. それは小さな光のような
  2. 来世で会おう
  3. ふうせん-弾き語りver.-
期間生産限定盤 DVD収録内容
  • それは小さな光のような-「僕だけがいない街」ノンクレジットED映像
通常版 CD収録曲
  1. それは小さな光のような
  2. 来世で会おう

Blu-ray /DVD「僕だけがいない街」 / アニプレックス / フジテレビジョン

上巻:第1話~第6話 2016年3月23日発売
Blu-ray完全生産限定版 19440円 / ANZX-12041~4
DVD完全生産限定版 16200円 / ANZB-12041~4
下巻:第7話~第12話 2016年6月22日発売
Blu-ray完全生産限定版 19440円 / ANZX-12045~8
DVD完全生産限定版 16200円 / ANZB-12045~8

※上下巻ともに本編DISC2枚+特典DISC2枚

さユり
さユり

福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にフジテレビ系「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」でメジャーデビュー。2016年2月24日に2ndシングル「それは小さな光のような」をリリースした。4月23日には東京・WWWにて、ワンマンライブ「ミカヅキの航海」を実施する。

さユりワンマンライブ「ミカヅキの航海」

2016年4月23日(土)東京都 WWW

伊藤智彦(イトウトモヒコ)

アニメーション監督・演出家。2001年、アニメーション制作会社マッドハウスに入社。2004年放送の「MONSTER」や2005年放送の「闘牌伝説アカギ~闇に舞い下りた天才~」といった同社を代表するテレビアニメ作品の絵コンテ、演出を手がける。2006年の「DEATH NOTE」、2007年の「魔人探偵脳神ネウロ」で助監督を務めた。劇場作品では2006年公開の「時をかける少女」、2009年公開の「サマーウォーズ」で助監督として活躍。その後、フリーとなり2010年に初監督作品「世紀末オカルト学院」を手がける。現在、監督を務めるアニメ「僕だけがいない街」がフジテレビ「ノイタミナ」枠にて放送中。