さよならポエジー3年ぶりアルバムは“歌われた遺産”、サブスク解禁への思いも語る (2/2)

暗い楽曲を作るのが嫌になって

──そうしてライブを重ねるうちに、4thアルバム「SUNG LEGACY」まで、アルバムのリリースは3年空いてしまったわけですが……。

いや、全然ですよ。3年なんて早い早い(笑)。ただ、「SUNG LEGACY」は本当は去年出てるはずだったんですよね。予定していたレコーディングが期間内に終わらなくて、延長戦として新しい日程を押さえたんですけど、それでも終わらなくて。じゃあ曲が全部できてからレコーディングスタジオを押さえるか、となってからも半年くらい何もできなくて、最終的に去年までレコーディングをやってました。あんまり器用じゃないので、日常の中では曲を書けないんですよね。友達にライブ誘われると出ちゃうし(笑)。だから、僕らを愛してくれているバンドマンたちのせいでアルバムの発売が遅れたということにしておいてください(笑)。

──長い時間をかけてできあがったアルバムなんですね。

そうです。まず、最初のクールで録ったのが、前半の1~4曲目と最後の「きずかないまま」ですね。

──けっこうアッパーな曲たちが先に生まれてきたんですね。

元気いっぱいですよね。暗い楽曲を作るのが嫌になっちゃったんですよ。メロディにしても、速さにしても、今はそういうターンじゃなくて。俺らなりの元気いっぱいな曲をやりたいな、速めのビートでエレキギターをガチャガチャやりたいな、と思ったんです。だから、アルバム全体でも、10曲で30分ないくらい短いんですよね。無理に引き伸ばしていない。

──そこは、今のご自身の素直なモードが反映されたんですか。

そうですね。もともとルーツとしてあるのが、SHANKやfamといった、どちらかというとメロディックな系譜の音楽で。10代の頃はそういう音楽を聴いてバンドをやっていたので、あの頃の感覚を思い出して、「やっぱりコレやな」って。SHANKはずっと好きで、明るいだけじゃないギターの感じやコードが、どストライクなんですよ。だから、リフがちゃんとあって、コンパクトな曲で……という感じが軸になりました。後半に作った「絶滅の途中で」あたりになると、ちょっと元気が落ちてますけど(笑)。ミディアムナンバーも入って、結果的にいいバランスになったかなと思います。

──ちなみに、ほかにルーツとなっているバンドはありますか?

多種多様なんですけど、日本で一番好きなバンドがLOSTAGEで。歌詞を書いてみたいと思うきっかけになったのはハヌマーン。ほかはさっきも挙げたSHANK、fam、あとはbacho、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとかですね。

さよならポエジー(Photo by toya)

さよならポエジー(Photo by toya)

どの曲も言っていることはほぼ一緒

──歌詞は、曲ができてから書くんですか?

曲のオケが頭から最後まで全部できてから、歌詞を乗せていきます。でも、まずはレコーディングできる曲を増やさないといけないので、歌詞を書くより先にとにかく曲ダネを多くしないといけなくて。必然的に時間がなくなって、歌詞はだいたいレコーディング当日や前日に徹夜して書いたりします。レコーディングの2クール目のタイミングではどうしても歌詞が浮かんでこなくて、車の中に2日間閉じこもって書いていました。詞は難産ですね。

──1曲目「ボーイング」の「まだ息はあるかと伺ってみせた」という歌い出しが象徴的ですが、今作は自分に問いかけたり、自分の過去に向き合ったり、自問自答している歌詞が多い印象です。

うーん……でも、自問自答は1stアルバムの頃からずっとやってきたので、やっていることは変わらないです。ただ、言葉の使い方や表現はよりナチュラルに変わってきたかな。ニューアルバムを含めても、さよならポエジーの曲はまだ30曲くらいしかないですけど、言っていることはほぼ一緒で。主に表現したいものは1つか2つなんです。言い方が違ったり、タイトルが違ったりするだけで、結局似たようなことを言ってるんです、どんな曲も。言うなれば、自分の核ですね。

──インパクトがあったのが「抜殻」の「実を言うと 俺じゃもうないね?」というフレーズで。自分と向き合い尽くさないと出てこない言葉ですよね。

これは、レコーディング中に本当に歌詞が書けない期間があって。言ってしまえば「THREE」から約3年間、ずっと歌詞を書くことがなかった。いざ新作の作詞タイムに入ったときに、本当に書き方がわからなくて、昔より不器用になっていることに気付いて、それがすごくつらかったという歌ですね。自分を「自分のようなもの」に感じたというか……。3年前に自分の才能や器用さを全部置いてきちゃって、今歌詞を書いてる俺は抜け殻なんじゃないかなって。

──新作の制作中としてはかなりどん底な精神状態じゃないですか。

どん底ですよね(笑)。でも、いつもこんなんです。書けないなら、「書けない」ということを詞に書く。「俺って、俺の抜け殻みてえやな」という気持ちをそのまま書きました。

──でも、楽曲は力強いし、メロディもサウンドも熱いですよね。曲調と歌詞の内容はリンクしないんですか?

そうですね。やっぱり、オケだけ先に作ってあとから歌詞を乗せるので。作るタイミングが違うし、使う脳味噌が違うんだと思います。元気なメロディとテンポの曲だから前向きな歌詞を書こうとは考えないです。逆に、暗い曲だから暗い歌詞を書こうというわけでもない。まあ、どうがんばっても明るい歌詞なんて書けないですけども(笑)。

人の想像力をくすぐれないものはつまらない

──先ほど「元気が落ちてる」とおっしゃっていた曲「絶滅の途中で」の歌詞はいかがですか。

「絶滅の途中で」は……サビの「見つけて また僕らを」からの4行が、たぶん「SUNG LEGACY」の曲の中で自分が一番好きな歌詞ですね。今すぐ見つけてほしいわけじゃないけど、見つけるんだったら、僕らが死ぬ前、直前くらいでもいいから見つけてよ、という歌詞です。

──「見つけて」と外に向けて書いている歌詞という意味では、アルバムの中でも珍しいのかなと。

そうですね。まあ、あんまり深いことは考えず、いい歌詞だなと思って書いただけですけど。でも、こういうことを思っているし、書くのも別に恥ずかしくないという気持ちではあります。「がんばってもっと売れるから見つけてね」じゃなくて、「いつでもいいよ。でも生きてるうちに見つけてもらえたらな」くらいの気持ちなんです。

さよならポエジー(Photo by toya)

さよならポエジー(Photo by toya)

──そして、ラストの「きずかないまま」は、「きづく(気付く)」ではないんですね。

「築く」のほうです。何も築きあげてない、何も成し遂げてない人の歌なので。元気な曲で、いい終わり方ですよね。アルバムって、ボリューミーになっていけばいくほど、後ろに重い曲があってしっとり終わることが多いと思うんですよ。だから、逆に一番元気な曲で終わってやろうと思ったんです。

──「いや俺はこれからだったはず」という、少しだけ希望を感じる言葉で締めくくられますし。

自分を鼓舞する意味でもね。とはいえ、「これからだ」と言い切らずに「はず」ですからね(笑)。しかも、「これからのはず」でもなく過去形なので、ちょっと振り返ってるんですよね。僕は、こうやってうやむやにするのが得意というか、癖なんです。

──確かに、前向きなだけではない、少しモヤっとした余韻が残ります。

解釈がいろいろあるといいのかなと。ちゃんと描き切るつもりではあるんですけど、憶測を呼ばないもの、人の想像力をくすぐれないものはつまらないと思っているので。ニュースでも、どんな作品でも、勘違いでもなんでもいいから「この人はこんな意図があるんじゃないか」と思えるかどうかは大事だと思う。「朝8時に起きた、今日もがんばろう」という歌詞を書いたって仕方ないじゃないですか(笑)。

誰かが残したものを、誰かが歌っている

──長い時間をかけて完成させてみて、ご自身ではどういうアルバムになったと捉えていますか?

過去3作とはひと区切り付けて、気持ちが切り変わった作品かなと思います。「THREE」と続きにはしたくなかった。あと、ずっと1stアルバムの「前線に告ぐ」を多くの人が手に取ってくれているのを実感していたんですよ。物販でも、よく買われるのは「前線に告ぐ」で。それだと俺が今バンドをやってる意味がないなって思っていたんです。最初の音源が一番売れていくのって、やってる側からしたらすごくつまらないことなんですよね。だから、どうしても新しいフルアルバムが作りたくて、延長に延長を重ねて完成させることができました。僕からしたら、2枚目の1stアルバムという気持ちで作った作品です。ジャケットも今までと同じようなデザインにする案もあったんですけど、そうではなくて、自分たち3人だけの写真にしました。本当に、めっちゃいいアルバムができたと思っています。

さよならポエジー「SUNG LEGACY」ジャケット

さよならポエジー「SUNG LEGACY」ジャケット

──そういう新しい気持ちを込めたものに「LEGACY(遺産)」というタイトルがついているわけですが、このタイトルの意味は?

語感で選んだところもあるんですけど……結局、誰かが残したものを、誰かが歌っていると思うんですよね。誰かの名言だったり、誰かが昔こんな経験をしたという歌を今聴いて、誰かがそれを歌っている。自分たちの音楽も、自分たちが残したものなんだけど、また誰かが歌ってくれたりして、そういう流れの一環なんだろうな、と思ったんです。ぼんやりとしたタイトルですけど、歌われた遺産、財産という感じで捉えています。

──この作品もそうなっていくだろうと。

誰かがコピーしてくれて、僕らが残した音楽をやってくれたらそうなりますね。そういう繰り返しの中で、自分も生きているので。

──リリース後、ひさしぶりのワンマンもありますね。

まだセットリストは考えていないですけど、もちろん新曲はやりますよ。でも、アルバム全曲をやっても30分なので、新曲と昔の曲が仲よくしてくれたらいいですね。もしかしたら、あの頃の俺と今の俺の相性が悪いかもしれないけど(笑)。それもまたライブを重ねつつ、いろいろ感じつつ、がんばっていきたいと思います。

──マイペースに活動されている印象がありますが、今後どういうふうにやっていきたいか、理想像はありますか。

レコーディングが間に合わなかったりでマイペースな印象もあると思いますけど(笑)、僕としては、すごく着実に、力強く一歩一歩確かめながら歩んでいる気がしているんですよ。だから、これからも一歩一歩踏み間違えないように、道を外れずに歩いていくだけです。

さよならポエジー(Photo by toya)

さよならポエジー(Photo by toya)

ライブ情報

さよならポエジー「SUNG LEGACY」Release Tour「NO」

  • 2024年4月7日(日)大阪府 BIGCAT ※ワンマン
  • 2024年4月12日(金) 東京都 CLUB PHASE ※ワンマン
  • 2024年5月4日(土・祝)静岡県 Shizuoka UMBER
  • 2024年5月6日(月・振休)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2024年5月21 日(火)長崎県 studio Do!
  • 2024年5月23日(木)福岡県 LIVEHOUSE OP's
  • 2024年5月24日(金)大分県 club SPOT
  • 2024年5月26日(日)広島県 HIROSHIMA 4.14

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プロフィール

さよならポエジー

兵庫県神戸発のスリーピースバンド。オサキアユ(Vo, G)、岩城弘明(B)、ナカシマタクヤ(Dr)からなる。2016年7月に1stアルバム「前線に告ぐ」、2018年5月に2ndアルバム「遅くなる帰還」、2021年2月に3rdアルバム「THREE」をCDで発売。2024年2月にこの3作を配信リリースした。同年3月に4thアルバム「SUNG LEGACY」を発表。同年4月からライブツアー「『SUNG LEGACY』Release Tour『NO』」を行う。