Saucy Dogインタビュー|スリーピースバンドの魅力を追求し続け、たどり着いた「バットリアリー」 (2/2)

スリーピースバンドの限界に挑んだ

──2曲目の「現在を生きるのだ。」は「第101回全国高校サッカー選手権大会」応援歌で、エモーショナルな曲調ですね。

石原 俺は吹奏楽部だったから、学生時代にスポーツに打ち込んだことがなかったんです。運動部の人の気持ちがまったくわからなかったから、まずサッカーボールを買って、「ボールと友達になるところか始めよう」と思って。でも「そうじゃないな。これ違うわ」と思ってやめました。曲の中に自分の経験を入れないと意味がないと思って、高校の吹奏楽部の思い出を歌詞にしたんです。高校3年の最後の大会で考えていたのは、「この人たちと一緒にもっと演奏したい」「最後まで笑っていたい」ということだったので、そのときの思いを入れて。

──なるほど。ミニアルバムには映画「君を愛したひとりの僕へ」挿入歌の「サマーデイドリーム」も収められています。

せと さっきも話に出てましたけど、「サマーデイドリーム」は録り直したんですよ。音作りをイチからやり直して、自分たちらしいフレーズを入れて。録り直す過程でいろいろと勉強できたし、聴くだけで夏の風景や駆け巡ってる感じを想像できる曲になったなと。すごく好きな曲ですね。

Saucy Dog

Saucy Dog

秋澤 「紫苑」は初めて編曲を外部の方にお願いした曲で(agehaspringの永澤和真が編曲を担当)。ピアノやオーケストラの音が入ってすごく壮大になりましたね。コード進行も普段はやらない構成になっていたり、自分たちの可能性を広げてくれた曲なのかなと。このあと作った曲にもいい影響があったし、バンドの表現の幅が広がったと思います。

──5曲目の「魔法が解けたら」は、梶原岳人さんに書き下ろした楽曲のセルフカバーです。

石原 岳人くんと話し合いながら作ったんですけど、「めっちゃいい曲できた」と思いました。

せと 提供するのがもったいないって(笑)。

石原 本当にそれくらい「いい曲だ」と思えないと提供できないというか、俺のプライドが許さないので。岳人くんの歌声って、僕にちょっと似てるんですよ。なのでセルフカバーをするにあたって、どうやって差を付けようかなと悩みました。ゆいかにも「慎ちゃん、レコ—ディングで悩みそう」と言われたしね。

──梶原さんのバージョンと差別化するのが難しそう、と。こういうミディアムバラード、Saucy Dogらしいですけどね。

せと そうなんですよね。

石原 差別化するために、セルフカバーはアレンジや音作りにもこだわりました。全体としては80~90年代の歌謡曲テイストなんですけど、Dメロの部分だけバチッとロックなサウンドにして。ギターのフレーズ、歌い方の抑揚、コーラスワークもそうですけど、スリーピースバンドでやれる限界に挑みました。難しかったけど、結果としていい感じになってよかったです。

石原慎也(Vo, G)

石原慎也(Vo, G)

──映画「スクロール」の主題歌「怪物たちよ」は歌詞、サウンドともにアグレッシブなロックチューンで、カッコいい曲ですね。

石原 うれしいです。ありがとうございます。

せと 私もすごく好きな曲ですね。今のご時世にメンバーそれぞれが思っていたことを、慎ちゃんがしっかり歌詞にしてくれて。こういうロックバラードはもともと大好きなんですけど、強くて突き刺さる歌詞が曲にすごくハマってると思います。

石原 自分たちのことだけではないんですけど、この曲を書いていた頃、SNSを見ているとギスギスした雰囲気をよく感じるというか、ちょっとしたことで叩かれているな、みたいなことが多くて。それに対して思うこともあったし、みんなが思っていても言えないこと、見て見ないフリをしていることを歌にしたかったんですよね。

難しいことを平気な顔でやれるようになりたい

──そして7曲目の「そんだけ」はギターのリフを軸にしたロックナンバーで、洋楽的なテイストです。

秋澤 そうですね。「怪物たちよ」みたいにアルペジオで始まる曲はあったけど、こういうギターリフが中心になっている曲は今までなかったんです。

石原 フレーズを思い付いて、コードを合わせてみたらいい感じになりました。

秋澤 UKロック的なところもあるし、フェイザー(空間系のエフェクター)の使い方や後半のサイケな感じもすごくいいなと思ってます。歌詞ではけっこうエゲつないこと言ってるよね。

──「口先だけの一生よりも」「ウンザリするくらいこの一瞬だけを」もそうですけど、いろいろ想像させられる歌詞だなと。

石原 確かにドギツい感じもあるかも。人間誰しも心の中で思っているけど口にしないことがあると思っていて、それを歌詞にしました。ちょっとキツめな言葉であっても、曲の中では言っていいのかなと思っています。

──ミニアルバムのCD盤にはせとさんがボーカルを務める楽曲がボーナストラックとして収められるのが恒例で、今回は「星になっても」が収録されています。せとさんのボーカル曲も増えてきましたが、歌うことに対する意識は変わってきました?

せと どうですかね? もともとカラオケとかで歌うのは好きだったんですけど、慎ちゃんの歌を近くで聴いてきて、それを参考にしながら、ちょっとずつニュアンスが付けられるようになってきたのかなと。

せとゆいか(Dr)

せとゆいか(Dr)

石原 いいボーカリストが近くにいて、めっちゃ幸せじゃん。

せと そうね(笑)。ライブもそうなんですけど、歌う機会があることで、少しずつうまくなっている実感があって。コーラスにも生かせるし、サウシーの曲がさらによくなることにもつながればいいなと思ってます。

──今回のミニアルバムの中だと、「夢みるスーパーマン」「そんだけ」が、特にライブで成長しそうだなと感じました。

石原 そうですね。最近、個人練習をけっこうやってるんですけど、「夢みるスーパーマン」は1人で歌っていてもすごく楽しくて。ライブでモッシュとか起きそう。

せと 起きないでしょ(笑)。「夢みるスーパーマン」、ドラムはちょっと忙しいんですよ。シンコペーションも多いし、7拍子になってるところもあって。

石原 難しくてもスマートにやりたいよね。「がんばって、ちょっと難しいことやってます」という感じだとダサいじゃないですか。アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)みたいに、めちゃくちゃ難しいことを平気な顔でやれるようになりたい。

秋澤 そうね。今回のミニアルバムは全体的に演奏の難度が高い気がしますね。「魔法が解けたら」もそうですけど、ニュアンスが大事になってくる曲が多いので。テンション感とか表情の付け方も意識しながらやらないと……がんばります。

秋澤和貴(B)

秋澤和貴(B)

──11月には9カ所14公演のアリーナツアーがスタートします。ツアーのたびに“キャリア最大規模”を更新してますね。

石原 そうですね。アリーナツアー、すごく楽しみです。でも、会場の大きさは関係ないと思ってます。

秋澤 演出は変化すると思いますけど、基本的に3人の演奏に関しては毎回変わらないので。キャパシティが大きくなればたくさんのお客さんに観てもらえるし、「いろんな人の人生に入り込んでるんだな」という実感もあって。不安もあるし、ステージに立ってみないとわからないけど、とにかく全力でがんばります。

せと 「1本1本、いいライブをしたい」ということですね。キャパシティが大きくなるにつれてプレッシャーも増えていきますけど、すごくありがたいことだし、自分たちが築き上げてきたこと、やってきたことが間違ってなかったと思えます。

──ライブハウス、ホール、アリーナと少しずつ階段を上がってきたバンドですからね。

せと そうですね。このまま登り続けられるといいんですけど……。まずは来てくれた人に満足して帰ってもらうことが一番かな。

石原 うん。ホントにそうだね。

石原慎也(Vo, G)

石原慎也(Vo, G)

秋澤和貴(B)

秋澤和貴(B)

せとゆいか(Dr)

せとゆいか(Dr)

ツアー情報

Saucy Dog ARENA TOUR 2023-2024

  • 2023年11月18日(土)長野県 ビッグハット
  • 2023年12月5日(火)大阪府 大阪城ホール
  • 2023年12月6日(水)大阪府 大阪城ホール
  • 2023年12月8日(金)広島県 広島グリーンアリーナ
  • 2024年1月13日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2024年1月30日(火)愛知県 日本ガイシホール
  • 2024年1月31日(水)愛知県 日本ガイシホール
  • 2024年2月23日(金・祝)福岡県 福岡マリンメッセA館
  • 2024年2月24日(土)福岡県 福岡マリンメッセA館
  • 2024年3月2日(土)徳島県 アスティとくしま
  • 2024年3月3日(日)徳島県 アスティとくしま
  • 2024年3月9日(土)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
  • 2024年3月30日(土)神奈川県 Kアリーナ横浜
  • 2024年3月31日(日)神奈川県 Kアリーナ横浜

プロフィール

Saucy Dog(サウシードッグ)

石原慎也(Vo, G)、秋澤和貴(B)、せとゆいか(Dr, Cho)からなるスリーピースバンド。2013年11月に結成され、2016年8月に現在の体制での活動をスタートさせる。「MASH FIGHT!vol.5」でグランプリを受賞。2017年5月に初の全国流通作品となる1stミニアルバム「カントリーロード」をリリース。2019年4月に大阪・大阪城音楽堂、東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブ、2021年2月に初の東京・日本武道館単独公演を開催。同年8月にライブBlu-ray / DVD「『send for you』2021.2.5日本武道館」と5thミニアルバム「レイジーサンデー」を同時リリースした。2022年6月には初のアリーナツアーを実施し、成功を収めた。同年7月に6thミニアルバム「サニーボトル」を発表。2023年7月に7thミニアルバム「バットリアリー」をリリースし、同年11月から2024年3月にかけてキャリア最大規模となるアリーナツアーを開催する。