今までにはない、強めのさとう。も
──各曲のアレンジについてはいかがでしょう。1stアルバム「産声みたいで、」はギター1本で表現し、前作「とあるアイを綴って、」ではバンドサウンドを取り入れましたが、今作では曲ごとにどんな味付けが合っているのか、いろいろ考えたかと思います。
以前はシンプルなギター弾き語りか、激しいバンドアレンジかの2択だったんですけど、今作での弾き語り曲にはギター以外の音もいろいろと入っていて。例えば、「風の便り」に風の音を表したようなサンポーニャという笛の音が入っていたり、「ドーナツホール」では電子ピアノのかわいげのある音が聞こえたりと、既存の演奏スタイルに別のエッセンスが加わることで、さとう。の中で新しい扉が開けたように感じます。その一方で、ライブになったらそういう曲はギター1本で表現することになるはずなので、音源とはまた違った印象を味わってもらえるんじゃないかなと思います。
──個人的には、アルバム中盤に配置された「胸ぐら」「ライア」の流れが気に入っていまして。
今までにはない、強めのさとう。ですよね(笑)。「胸ぐら」は6カ月連続配信のラストを飾った曲で、それまでにたくさんの人と出会ってきて、思いがけないチャンスもたくさんいただいたけど、それでも調子に乗ることなく「周りは騙せてもわかってんだぞ 現状維持にあぐらをかいたお前なんぞ」と自分自身に問いかけながら、「自分の胸ぐらはちゃんと自分でつかむぞ」と意識していて。この曲をアルバムのちょうど真ん中ぐらいに置くと引き締まるんじゃないかと思い、このポジションになりました。なので、その次に「この歌に嘘はないか?」と自問自答する「ライア」を並べるのは、必然だったのかもしれません。
──そういった歌詞に関しても、本作では1曲1曲でいろんな物語がつづられていて興味深かったです。作詞においては6カ月連続配信からアルバム制作へと続いていく中で、新たに見つけられたものや得られたことはありましたか?
このアルバムの中で特に歌詞について向き合ったのが「ライア」で。自分はなるべく言葉が少なく、シンプルでもちゃんと伝わる歌詞を常に目指しているんですけど、「ライア」に関しては頭に浮かんだことをつらつら書き連ねてみたんです。そう考えると、自分の理想とはちょっと違うのかもしれないけど、いざできあがったときに……こんなに勢いに任せて書いても、しっかりと自分の伝えたいことや思いが込められているんだと気付いて。全体的に言葉数が多いし、かつ強い印象の言葉が並んではいるんですけど、言葉遊びとして韻を踏んでいる部分が多いので、ギターをジャカジャカかき鳴らしながら歌うのも楽しいですし、その楽しさが聴いている人にもちゃんと伝わっていたらいいなと。そういう新しい挑戦の1曲となっております。
──さとう。さんの歌詞は言葉の選び方やメロディへの乗せ方もそうですが、全体的に余白が感じられます。歌詞を生かすためのアレンジも、弾き語りはもちろんですが、バンドアレンジにしても音数を詰め込むことなく隙間を大切にしたアンサンブルが考えられている。
おっしゃる通り、余白を一番大切にしたいと思いながら歌詞を書いているので、それが伝わっていてうれしいです。アレンジに関しても、昨年「朗朗」やミニアルバム「とあるアイを綴って、」を携えたツアーに3ピースバンド編成で臨んだんですけど、そのときの感じがすごく気に入っていて。もちろん、オルガンやエレキギターを入れたりと、いろいろ音を重ねるアレンジもいいですが、チームの皆さん的にもさとう。がちゃんと歌っているイメージを尊重して、今の形がベストだと思ってくださっている。今回のアルバムでもシンプルなアレンジの魅力を端的に表すことができていると思うので、そういった部分を含めて楽しんでいただけたらうれしいです。
「すごくいいよ」と言われても、疑問があれば立ち止まる
──1枚のCDに14曲も収録すると、1曲ごとにどんなバリエーションを付けるかを考えると思いますが、本作においてはアレンジの妙はもちろんあるものの、一番はさとう。さんの歌の力によるものが大きいと思うんです。ボーカルレコーディングにおいて、新たな気付きなどはありましたか?
今日は褒めていただいてばかりで、ご褒美みたいな1日ですね(笑)。そうですね、歌に関しても……実は「ドーナツホール」は1回録り直しをさせていただいていまして。ちょっと言い訳がましいですけど、ツアーの合間にレコーディングをしていたので、若干声が疲れてしまっていたんです。なので、少し声が掠れた状態でレコーディングに臨んだんですが、その状態でのテイクも味があっていいと言っていただいたものの、自分の中では納得できない部分もあって。「できることなら、声の状態が万全なときにもう1回録り直させてほしい」とお願いしたものが、アルバムに収録されているテイクなんです。なので、自分がどんな状態であっても絶対に妥協しちゃいけない、周りの人がどんなに「この曲すごくいいよ」と言ってくれたとしても、自分が少しでも疑問を感じたら立ち止まって考えてみるということを、今回のレコーディングで改めて学びました。
──歌うこと自体に対してはいかがですか?
ここ数年はツアーを何本も重ねたことで、さとう。の歌を聴いてくれる人の顔がよりイメージできるようになってきましたし、それによって「ちゃんと歌を届けたい、ちゃんと聴いてくれた人の心になじんでほしい」という思いが初期の頃よりも強くなりました。例えば、本作に収録されている「ダイアログ」はけっこう前からライブで歌っているんですけど、昔ボイスメモで録ったデモと比べて今は歌い方が全然違っていて。今はちゃんと口を開いて歌っている感じが歌から伝わってきますが、それは大きな声を出して歌を届けようとした結果、無意識のうちにそう変わっていったのかもしれません。そういう変化は、アルバムに収録された楽曲の要所要所から見つけることができました。
──「ダイアログ」「決別」「通過する故郷」と続く3曲からは、エモーショナルな歌声が強く伝わります。
お別れの曲が続く切ないゾーンですね。「決別」は6カ月連続配信の中の1曲で、個人的にすごく大事にしてきた曲なので、そのあとに最新のリード曲を収録することで、お別れの曲だけどネガティブな気持ちだけじゃないこともしっかり伝えたくて。そういう心の動きにも注目しながら聴いてもらえると、また面白いんじゃないかなと思います。
──曲順について「曲と曲のつながりを見つけながら並べた」とおっしゃっていましたが、歌詞において近いテーマの曲をつなげていくことで主人公の心の揺れ動きを追体験することができると。アルバムは配信版だと13曲目の「風の便り」で終了しますが、CDには14曲目にボーナストラック「ぺちゃんこ」が追加されています。「風の便り」で余韻を残す終わり方も素敵ですが、「ぺちゃんこ」で空気が和らぐエンディングもまたいいですね。
そうですね。「ぺちゃんこ」はすごく軽快な曲調と歌詞なので、メッセージ性が強いアルバムを1時間近く聴いたあと、最後にこれでほっこり終わるのもアリかなと。1stアルバムのときも「見かけなくなった猫」という軽快でほっこりした曲をCDだけに収録していたので、今回もちょっと自分の日常が垣間見えるような曲をボーナストラックとして選びました。配信はもちろんですが、ぜひ「ぺちゃんこ」で終わるCDも聴いてほしいです。
──「ぺちゃんこ」はピアノの弾き語りというのも、また新鮮でした。
ピアノをフィーチャーした曲は「春一番」とか「胸ぐら」がありますが、どちらもバンドアレンジですし、ピアノの弾き語り音源も今までなかったですから、これも新たな試みですよね。実は、アルバムを聴いた方からの「ぺちゃんこ」への反響が、思いのほか大きくて。
──僕もお気に入りの1曲です。
うれしい。ボーナストラックも抜かりなくという気持ちで制作したので、強い印象を残せてよかったです。
こっ恥ずかしいけどファンクラブを開設
──「窓越し、その目に触れて」というアルバムタイトルについても聞かせてください。
このタイトルはリード曲の「通過する故郷」に引っ張ってもらったところが大きいです。そもそも私は移動中に窓から外の景色を見ることが好きで。窓の向こうでどんな生活があって、誰が住んでいてどんな人と暮らして、どんな人と出会って別れて……ということをよく想像するんですけど、その世界にさとう。が飛び込んでいけることはないじゃないですか。介入したいのにできない、そのもどかしさや悔しさが自分の中にずっとありましたが、もしそういった方々の生活の中にこのアルバムが1枚あったら、さとう。の音楽とその人たちの暮らしが結び付くかもしれない、この1枚が窓の役割をしてつながってくれるのかなと思ったんです。加えて、閉じたり開いたり、濡れたり拭ったり、そういうところも含めて目って窓と似ているなと思っていて。さらに、昨年の秋冬のツアータイトルが「この芽の色を知る人へ」だったんですけど、芽と目をかけているところもあって、ツアーで芽を受け取ってくれた人がその芽 / 目を見つめてくれる、さとう。もその芽 / 目を見つめ返せるような1枚になったらいいなという祈りを込めて、このタイトルを付けさせていただきました。
──アルバム発売翌週の3月10日には、初のファンクラブ限定ライブが開催されます。
そうなんです! このタイミングにファンクラブがスタートするんです。ファンクラブってさとう。の中ではもっとメジャーなアーティストが作るものというイメージがあって、こっ恥ずかしいなとも思ったんですけど(笑)、昨年の3度にわたるツアーを経てさとう。と同じぐらいさとう。の音楽を愛してくれる人がこんなにたくさんいるんだと知って。そういう人たちともっと交流ができる場所を作りたいなと思い、ファンクラブ開設に至りました。それを記念して、“さとう。の日”(=3月10日)に特別な弾き語りライブをしようと思っています。
──そして、6月28日には「その目を心の窓と呼ぶ」と題したツアーが始まります。このツアータイトルもアルバムタイトルとのつながりが、しっかり感じられます。
まさに先ほどお話しした、“窓と目がすごく似ている”ということが反映されたタイトルです。バンド編成では東名阪しか回ったことがなかったけど、今回は弾き語りで行ったことのある仙台や福岡、広島も含まれているので、また新しいさとう。を見てもらえるんじゃないかと思います。
──これだけの作品を完成させられたことは、さとう。さんにとって相当自信につながったと思いますし、だからこそこの作品を携えたライブが今から楽しみです。
2025年の経験をしっかり形に残すことができたので、今回はアルバムが完成してすぐに「早くライブがしたい! この曲たちを生で届けたい!」という気持ちになりました。特に今年は、ワンマンライブが多い1年になりそうな気がしていて。お客さんがさとう。やさとう。の音楽に向き合ってくれた時間や労力を超えるぐらい、「来てよかった」と思ってもらえるライブをお届けしたいと思っていますし、そうした経験が未来にちゃんとつながるように、1つひとつの活動に丁寧に向き合っていきたいです。
公演情報
さとう。FANCLUB だらり湯 LIVE ~源泉かけ流し~(※弾き語りワンマンライブ)
2026年3月10日(火)東京都 浅草花劇場
LIVE TOUR「その目を心の窓と呼ぶ」(※バンド編成ワンマンツアー)
- 2026年6月28日(日)宮城県 enn 2nd
- 2026年7月4日(土)愛知県 CLUB UPSET
- 2026年7月5日(日)福岡県 Queblick
- 2026年7月11日(土)広島県 CAVE-BE
- 2026年7月12日(日)大阪府 Music Club JANUS
- 2026年7月18日(土)東京都 WWW
プロフィール
さとう。
2000年生まれ、静岡県伊豆出身のシンガーソングライター。2018年、高校3年生で本格的に音楽活動を開始する。2024年1月に配信リリースした「3%」がSNSを中心に広まり、Spotifyのバイラルチャートで最高3位を記録し、4月に日本テレビ「ZIP!」のコーナー「ハックツ!」に出演して歌唱。8月に1stアルバム「産声みたいで、」をリリースした。最新作は2026年3月リリースのアルバム「窓越し、その目に触れて」。2026年6月から7月にかけて「窓越し、その目に触れて」を携えたライブツアーを行う。
さとう。OFFICIAL SITE – シンガーソングライター さとう。のオフィシャルサイト。
さとう。SSW (@stst_msc) | Instagram





