ナタリー PowerPush - 指田郁也
山下達郎が認めた大型新人 ピアノと歌で世界を揺らす
「bird」は自分が変わるぞっていう決意の曲
──内向的だったという性格からすると、ライブってかなりハードル高いですよね。
そうですね。紹介していただいてたのに、実際出ようって思うまではけっこう時間がかかって。で、最初は前座で3曲歌うみたいなことをやってみたんです。
──そこではオリジナル曲を?
はい。初めてのステージはほんとにめちゃめちゃ緊張しました。キャパシティ50人くらいのライブハウスだったんですけど、ボイトレの先生以外の人には初めて聴いてもらうわけですからね。ただ、そのときに自分の歌を聴いて泣いてる人がいたり、ライブハウスの店長さんにすごく評価していただけたりしたんですよ。その瞬間に、自分が音楽に救われたときと同じ感覚を逆に提供することができたのかなって、少し自信になったんです。同時に、そうやって認めてもらえるんだったら、これはもっと曲も書けるっていう自信もついたので、どんどん曲作りをするようにもなって。
──いい流れですね。
それがですねえ、そのころ作っていたのは暗い曲ばっかだったんですよ(笑)。今思えば自己満足なんですけど、自分の中の思いを吐き出しているだけだったんで、ポップスというよりは語り口調みたいな曲が出てきちゃうっていうか。もちろん自分でも暗いなって思いはあったんですけど、元々暗い曲が好きだったりもするし、暗いから何が悪いんだみたいな感じもあって(笑)。
──アハハ。確かに悪くはない(笑)。でも今はそういう曲ばかりではないですよね。
その一番のきっかけになった曲が今回のシングルの「bird」って曲なんですけど。初めて書いた自分の中でのポップソングというか。広い視野で聴ける歌っていうことで、自分の中の変わるぞっていう決意や意志表示を曲の中でしたんです。そこで初めて聴いてくれる人の目線に立った曲が書けるようになったんだなって感じました。そういうこともあって、だんだん性格も変わっていったんだと思うんですけど。
電車や車で移動してるときの景色がすごく好き
──ちなみに曲はどうやって作っているんですか?
僕の場合、情景がしっかりしてる場所じゃないといいメロディが出てこないんですよ。なので「bird」を作ったときも自分の家の近くの川の土手だったりとかしたんですけど。で、そういう場所で鼻歌でメロディを作ってきて、家に帰ってきてからピアノでコードをつけていく感じですね。
──じゃあ心を閉ざして家にこもっている場合じゃないですよね。
そうですよね、ほんとに(笑)。元々、歩いたりすることがすごく好きで、旅行が趣味だったりするので、けっこう1人でいろんなところに行きますね。音楽聴きながら。友達とワーワー出かけるのも楽しいんですけど、そういうときでもソロで行動する時間を設けさせてもらったりもして。「1~2時間ちょっと消えるわ」みたいな(笑)。1人のほうがいろいろと考えることもできるので。
──車や電車もお好きなんですよね。その辺も曲につながっていきそうですね。
今回のシングルのもう1曲、「夕焼け高速道路」なんかはまさにそうで。自分の車で旅した帰り道に書きました。電車でできた曲もけっこうありますよ。
──指田さんは車や電車のどこに魅力を感じているんですかね?
僕の場合、「移動」っていうのが一番大きいと思うんですよ。古い電車なんかはフォルムも確かにいいんですけど、何よりも移動してるっていう時間や空間が好きなんですよね。電車や車って移動してるときは景色がずっと動いてるじゃないですか。それを眺めてるのがすごく好きなんで。
──そういうお話を聴くと、指田さんにとっては「動いている」ということが重要なんじゃないかなっていう気もしてきます。中学生の頃にいろいろなことを考えてしまっていたっていうのも、きっと前に進むために必要なことだったんでしょうし。
ああ、そうかもしれないですね。何かアクションがあったらそれについてものすごく考えないと気がすまないタイプなんで。考えて考えて答えが出れば、少しずつでも前に進みますからね。
指田郁也(さしだふみや)
1986年東京生まれ。ワーナーミュージック・ジャパンが主催する「VOICE POWER AUDITION」で約1万人の応募者の中からグランプリを受賞。2010年10月に日本武道館で開催された「WARNER MUSIC JAPAN 100年MUSIC FESTIVAL」にオープニングアクトとして出演し、新人とは思えない堂々としたパフォーマンスを披露した。2011年10月にシングル「bird / 夕焼け高速道路」でデビュー。