音楽ナタリー PowerPush - サザンオールスターズ
「葡萄」を読み解く全曲レビュー&3つの考察
さまざまなサウンドを“ねじ伏せて”
サザンの音にしていく
文 / 高木“JET”晋一郎
筆者が以前いとうせいこう氏にお話を伺ったとき、ラップのスタンスについての「日本語表現の伝統の尻尾、先端に(氏の考える)日本語ラップがあるということですか?」という問いに対して、せいこう氏は「そうありたい」と話されていた。サザンオールスターズのニューアルバムである「葡萄」を聴いたときに、その会話が思い出された。なぜ浮かんだのかを考えた結果、このアルバムから感じる“サンプリング”の感覚なのかもしれないと思い至った。
すでにそういった偏見はかなり少なくなったが、サンプリングは剽窃 / パクリの類では決してないし、その意味で使っていることは決してないことは念のため。先ほどの話の流れで言えば、せいこう氏は日本語によるラップを始め、その後に長唄や義太夫節を習い、「伝統のスキル」を“サンプリング”し、□□□などで発表している“進化した”ラップスタイルとして提示した。そこには、伝統芸能の技をラップに援用する際の要不要の選択といった意識的な抽出と取捨選択、そして、それが内面化されたうえでの無意識的な表出という2つの段階があると思われるが、それを広義の意味での“サンプリング”と、この稿では表現したい。単に“援用”としなかったのは、そこに「進化した表現への貪欲な欲求」という意味も込めているためである。
僕のように1978年発表のデビューアルバム「熱い胸騒ぎ」が胎教で、リアルタイムに知っているとは言い難い人間が書くのもおこがましいが、サザンオールスターズの流行や最先端音楽に対するサンプリング性には常に驚かされる。初期 / 中期の頃から当時世界的に流行していたサウンドに接近していたし、近作だけみても「マリワナ伯爵」ではブレイクビーツ、「DOLL」ではGファンク風の展開など、新奇的なサウンドをサンプリングしている。そうすることで世間的に想像されるサザンサウンドとはおおよそ異なった、ある種イビツとも言える音像を提示する場合が少なくない。そして、そのアプローチは、常にトップランナー、先端でありたいという純粋な“貪欲さ”によるものだろう。その感覚は「葡萄」の1曲目を飾る「アロエ」の四つ打ちビートにもつながっていく。4小節で循環するサビのモチーフや、シンコペートするピアノのリフなど、この曲の構造はほぼハウスだ。そういったハウス的なアプローチをサンプリングしながら、それをサザンのサウンドに吸収……という生易しい表現よりは“ねじ伏せた”と思えるほどに、サザンの音にしていく。本当にスリリングなアルバムの始まりだ。
またアルバム資料に「大衆芸能」という惹句があるが、「天国オン・ザ・ビーチ」に関しては、小林旭チックなオープニングもそうだが、「パイのパイのパイ」という歌詞も重要なサンプリングなのではないだろうか。社会を切り取った壮士演歌である「東京節」と、「Missing Persons」や「ピースとハイライト」、「平和の鐘が鳴る」の社会性は、確かにつながっている。もちろん、中国残留孤児をテーマにした「かしの樹の下で」のようにこれまでも社会的なアプローチは少なくないが、今作の中でもさまざまな場面で現在の“状況”に対しての認識を改めて表出させて、それをポップスを通じて、映し出している。
そして「東京節」での「ラメチャンタラ」という歌詞も、桑田佳祐氏が楽曲を作る際に「スキャットやウソ英語で歌ってみる」という、言葉の“鳴り”に基づいた作曲・制作法にも通じるだろう。そこから広がり、言葉の鳴りとメロディを分離させずに「日本語で物語を描く」ことに成功している。文語的な表現でありながらもポップな「イヤな事だらけの世の中で」や、一聴すると不明瞭でウソ英語的にも聞こえるが、その実は非常にポリティカルな内容である「Missing Persons」など、改めてその構築力に驚かされる。日本語を解体するような歌い方は逆に日本語を強く意識させることと接近するだろうし、その意味でも、サザンの影響を受けたラッパーが多い理由もうなづける。
「これまでの / 今の」の「状況 / 流行 / サウンド / 日本(それはナショナルではなくパトリに近い)」といった、さまざまな過去と現在をサンプリングしながら、“その最先端”、つまり“これから”を表現した「葡萄」。“今”や“現状”を捉えるリアルタイムなドキュメント性と、普遍的なポップ性と王道のサザンサウンドとも言えるメロディ感というタイムレスな魅力を、リリックにおいてもサウンドにおいても同時に表現した本作。その拮抗が、今作を名作たらしめるゆえんであり、時代を投影するものとしてのポップスの力、そしてそれを作り上げるサザンの魅力が改めて感じられ、このアルバムを聴くことができた喜びに感動せざるをえない。
高木“JET”晋一郎(タカギジェットシンイチロウ)
1978年生まれ。スポーツ新聞記者、編プロなど経てフリーの音楽ライターに。主にヒップホップ / アイドル / クラブミュージックを中心に執筆。共著に「ラップのことば」など。構成を担当している雑誌「BUBKA」誌面でのサイプレス上野とロベルト吉野の連載「アイドル・ライヴ・オン・ダイレクト」が6月に単行本化予定。杉作J太郎率いる「男の墓場プロダクション」にも所属している。
サザンオールスターズ
LIVE TOUR 2015「おいしい葡萄の旅」
- 2015年4月11日(土)愛媛県 愛媛県武道館
- 2015年4月12日(日)愛媛県 愛媛県武道館
- 2015年4月18日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2015年4月19日(日)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2015年4月25日(土)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2015年4月26日(日)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2015年5月2日(土)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
- 2015年5月3日(日・祝)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
- 2015年5月16日(土)大阪府 京セラドーム大阪
- 2015年5月17日(日)大阪府 京セラドーム大阪
- 2015年5月23日(土)東京都 東京ドーム
- 2015年5月24日(日)東京都 東京ドーム
- 2015年5月26日(火)東京都 東京ドーム
- 2015年6月6日(土)北海道 札幌ドーム
- 2015年6月7日(日)北海道 札幌ドーム
- 2015年6月13日(土)愛知県 ナゴヤドーム
- 2015年6月14日(日)愛知県 ナゴヤドーム
- 2015年7月4日(土)福岡県 ヤフオク!ドーム
- 2015年7月5日(日)福岡県 ヤフオク!ドーム
- 2015年7月19日(日)沖縄県 沖縄コンベンションセンター
- 2015年7月20日(月・祝)沖縄県 沖縄コンベンションセンター
- 2015年8月17日(月)東京都 日本武道館
- 2015年8月18日(火)東京都 日本武道館
- ニューアルバム「葡萄」2015年3月31日発売 / タイシタレーベル
- 完全生産限定盤A [CD+グッズ+DVD] / 7020円 / VIZL-1000(CD+オフィシャルブック「葡萄白書」+“おいしい葡萄の旅”Tシャツ+ボーナスDVD / 特製BOX入り)
- 完全生産限定盤B [CD+グッズ+DVD] / 4860円 / VIZL-1010(CD+オフィシャルブック「葡萄白書」+ボーナスDVD / 特製BOX入り)
CD / アナログ収録曲
- アロエ
- 青春番外地
- はっぴいえんど
- Missing Persons
- ピースとハイライト
- イヤな事だらけの世の中で
- 天井棧敷の怪人
- 彼氏になりたくて
- 東京VICTORY
- ワイングラスに消えた恋
- 栄光の男
- 平和の鐘が鳴る
- 天国オン・ザ・ビーチ
- 道
- バラ色の人生
- 蛍
サザンオールスターズ
1975年に青山学院大学の音楽サークルで結成。現在のメンバーは桑田佳祐(Vo, G)、関口和之(B)、松田弘(Dr)、原由子(Key)、野沢秀行(Per)の5名。1978年6月にシングル「勝手にシンドバッド」でデビューし、独自の音楽性が当時のシーンに衝撃を与える。1979年3月に3rdシングル「いとしのエリー」の大ヒットにより幅広い層に受け入れられ、名実ともに日本を代表するロックバンドの仲間入りを果たす。その後も時代の変化に伴い、さまざまなアプローチで革新的かつ大衆的な楽曲を発表。1992年7月のシングル「涙のキッス」が初のミリオンヒットを達成し、1999年発表の「TSUNAMI」は293万枚の売り上げを記録する。その後デビュー30周年を迎え、バンドは2009年から無期限活動休止期間に突入していたが、2013年6月に活動再開を発表。同年8月に54thシングル「ピースとハイライト」をリリースし、大規模な全国ツアーを開催した。2015年3月、前作「キラーストリート」以来9年半ぶりのオリジナルアルバム「葡萄」をリリース。4月からは全国10都市21公演のツアー「おいしい葡萄の旅」を実施する。